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純白の男

 バンが戻って来たのはそれから直ぐだった。


「ティリス様! 入ってもよろしいでしょうか?」

「どうぞ」


 侯爵と一緒に10代後半ほどの男が部屋に入ってきた。


 そこには純白の髪をした男がいた。


 私は少しだけ見惚れてしまった。まるで純白の魔女のような、汚れ一つない白い髪の毛。この国で見たことの無いような顔立ち。肌は少しだけ黄色。顔は薄めで女性のようにも見える。顔はかなり整っている方だろう。


 私がそんなことを考えていると侯爵が挨拶をして来た。


「ティリス様。こちらがクオンです。現在王城で異国の文化を教えているものです」

「バン様。わざわざありがとうございます」


 男は私を少し見つめると、自己紹介をすることにした。


「俺はクオンです。奴隷としてですがこの城に住まわせて頂いております。お目にかかれて光栄です。よろしくお願い致します」

「私はティリス・セイドリーテです。第三王女ですが王位継承権はないのでそんなに畏まらなくても大丈夫ですよ」


 私が微笑むと、クオンは頬を僅かに染めた。


「はい、わかりました!ティリス様とお呼び致しますね」

「では私もクオン様とお呼び致します」


 自己紹介をすると、お互いに何故か見つめ合う。


「仲良くなれたようでよかったです。ではこれで私は失礼いたしますね」


 そう言って侯爵は部屋から出て行こうとする。しかしクオンは少し困った声で侯爵に声をかける。どうやら何も伝えられずにここに連れてこられたのだろう。侯爵はそんなお方だ。


「侯爵! 俺はどうればよいのでしょうか?」

「これから暇なのでしょう? お互い王城で気軽に話せる人がいないのですから、私からのお節介ですよ」

 

 クオンは困惑して私を見る。年上に見えるのにおどおどしていて、なんだか可愛らしかった。


 クオンは「よし」と言うと私に話しかけてくる。


「侯爵行ってしまいましたね、どうしましょう?」

「そうですね、では話でもしましょうか」

「はい! 是非しましょう」


 クオンが嬉しそうに返事をした。それを見て私も嬉しくなった。

 同時に、みんなは私と話したがらないのに、私と話しが出来ることを嬉しいと思うなんて変わっているなと思った。


「じゃあ……そういえば、クオン様は異国の方なのですか?」


 王国では見たことの無い見た目をしていたので、クオンは異国の出身だろう、と思った。


「はい、そうですよ! 俺は異国というより異世界から来たんです」


 だが、私に予想を超えて、クオンは異世界から来たのだと言う。


「そうなのですか! ぜひ話を聞きたいです」


 私は人の話を聞くのが大好きだったから、クオンの話にとても興味があった。それに異世界なんて、夢が広がる話だ。


「よろこんで」


 クオンは微笑んだ。


 その後、クオンのことをいろいろ聞いた。地球という世界から来たことや、地球では魔法が無く科学が発展していること、気付いたら奴隷にされていたこと、クオンも王宮では奴隷で白髪ということで肩身の狭い生活をしているということなど、たくさん話しをした。


 クオンは話し上手で、私はすっかり話に夢中になっていた。


 気づけば私は自身の話もしていた。辛かった経験や普通になりたいとか、私も王宮では差別されているとか、初対面の人に弱音をたくさん吐いてしまった。

 クオンはそんな私の弱音を聞いて、いろいろ意見を言ってくれた。特に私の心に残った言葉がある。


「別に普通じゃ無くて良いのですよ。それがティリス様の魅力の一つでもあるのですから……それに普通がダメなら、俺はどうなるんですか? 俺は多分、この世界で人魚以上に珍しい異世界人で、しかも白髪で、奴隷で、見た目もこの国では珍しい。俺の存在自体、普通じゃ無いですよ。そんな俺をティリス様は差別しますか?」


 クオンの問いに私は「いいえ」と答える。


「でしょ? 別に普通じゃ無くても良いのです。普通じゃ無いからと言って差別をする人間こそ、普通じゃないと俺は思いますよ」


 純白の魔女も言っていた、亜人を差別する人間こそ、怪物なのだと……つまり、普通じゃないことは悪くないと。


「では、私の事をどう思いますか?」


 別の意味で捉えているようでクオンは顔を赤くして、下を向く。


「可愛いと思いますよ……」


 クオンが小さく呟く。


 それを聞いて私も顔を赤くする。貴族の男たちに言われるのと全然違う。心臓がドクドクして胸が張り裂けそうだった。


 そんなこんなでいろいろ話しているとあっという間に日が落ちていた。素敵な一日だった。


「では今日は遅いので、これで失礼します」

「楽しかったです。また来て話を聞かせてください」

「俺も楽しかったです。また来ますね」


 そう言ってクオンは私の部屋を出て行った。


 クオンが出て行ってからも、ずっとクオンの事が頭から離れない。


(はぁ、胸が痛い。なんでずっとクオンの事を考えてしまうのだろうか……これが恋?)


 どうやら私はクオンのことを好きになってしまったようだ。


 我ながらちょろいが仕方ないだろう。

 男子で私に言い寄る男はゴミしかいないし、私の外見をだけを見て、心を見ていない。それに私をどこか下に見ている。

 それと違って、クオンはかっこいいし、話し上手だし、私の事を否定しない。そして純白の魔女と同じで汚れ一つない白い髪の毛をしている。


(また会いたい。早く来てくれないかな……次はいつ会えるんだろう)


そんな事を考えながら、私とクオンのはじめての一日は終わった。


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