六話 檻の中の子猫ちゃんだよ
文字数が少ない!!!
ごとごとと車輪が石を踏み馬車が揺れる。
ある程度は整備された街道沿いに走っている癖に妙にのんびりとしたペースなのはどういう理由があるのか。
そんな馬車からすすり泣きと絶叫が聞こえた。
「ぐす……ひっぐ……暇ぁぁあああです!!」
「うるせぇ! もう少し真っ当に怯えたりできねぇのか!!」
すすり泣きと絶叫の主、俺こと浦谷悠羽は売りに出される子牛の気分を味わっているのだ。
実際、どっかに売り飛ばされるみたいだしね!
アーロン・ゼイトリンもまさか子牛が人間に置換されたバージョンが現実で起こっているとは思うまい。
牛っぽく「もー」って鳴いとこうかな。でも俺ネコじゃないか……じゃあ「にゃー」って鳴いとこう。
さて、水内さんと宿屋を探していた俺が路地から伸びた腕に攫われて四日経ちました。
その間俺は何をしていたでしょう。
そう、人攫いを煽っていたのです!
俺をさらった人攫いどもは何やら俺を狙って攫うようにと仕事を受けた下請け盗賊の部下らしく、こんなに可愛らしく愛らしいネコミミよーじょに手を出せないと来た。
ああ、もちろん。さらわれたその日、その事実に気づくまでは怯えたとも。
だけどさぁ……こいつら目の前にいる美幼女に手を出せないんだぜ。燻ったムラムラをあと最低数日間は人間で発散できないんだ。そこを思いっきり煽るのが楽しいのなんのとにやにやが止まらないわけである。
俺を傷物にした瞬間物理的に首が飛ぶことが最高の幸せなほどの罰が下るらしい。それくらい上の組織からいくつか仲介の組織を経て依頼が届いたのだとか。
あれかな、生きたまま魔法実験されたりガラスケースに脳を保存されて痛覚刺激送られ続けたりするのかな?
とにかく、それを知った瞬間からキュピーンと閃いちまったんだ。
煽り散らすしかねぇってな。
「ふははははっ! 水内さんにぶっかけられた『水魔法』で全身蚯蚓脹れになった人攫いAさん?? 可愛そうでちゅねー! ぷぎゃー! にゃー!」
「知るかよ……お前の仲間が呪いとかいうごく稀な技術持ちだったのが悪いんだ。
お仲間なんだろ、なんか知らねぇのかよ解呪方法とか……」
「……呪い……? なにそれ知らん、こわいにゃ……」
こわ……。
あの人、全身蚯蚓脹れになる呪いとか使えるの?
怖い怖い怖い……『水魔法』の水になんの物質混ぜたんだよ。
初めて知ったコトに俺は心底怯えていた。
ホント、水内さんがそんなことできるとか知らん……。
「……それにしてもオマエ、俺達がお前を犯せなくても鞭打ちにすることはできるって忘れてねぇか?」
「それ一昨日も同じこと言ってましたよねにゃー」
「一昨日鞭打ちしたな」
「どうでした? にゃー」
「どうでした? じゃねぇよお前がその被害者だ」
そうなのだ。
俺も俺で鞭でぶっ叩かれて蹴られて殴られてボロボロである。
まぁ?
ゲームの中っていうロールプレイで誤魔化せばそれってただの肉体が出す危険信号にすぎないので?
「どうしてそんなに調子に乗れるんだ……お前ギャン泣きしてただろ。後、いい加減その取ってつけたような語尾やめてくれ」
危険信号でも痛いものは痛いので普通に大泣きしました。
叩かれた場所がまだ痛いです。
幼女をこんなになるまで叩くとかなんて酷い奴らなんだ。許せんな。
「幼児虐待反対ですー!」
「盗賊にそれを言うか?」
「盗賊っていう名前を自称した社会に何も貢献しない無職の集団ですよね。
ニートの傷の舐めあいっこですか?」
「足の腱切るだけじゃ足らなかったか?」
「ふ……俺は止まらないんですぜ」
というわけでなんと今の俺は歩けないのだ。
初日はね……一辺が1mくらいの立方体のクソ小さい檻に入れられてただけだったんだけどね。
今じゃその中でいくつも傷を作りつつ服がボロボロで両手足縛られて牢屋に首輪と縄で繋がれた挙句に足のアキレス腱も切れてるんだ。
たったの四日でこうなった。
どうしてこうなったんだろうね。
「お前が煽り散らすからだろ」
「煽られるネタを豊富に持ってたのがいけないんですよね」
「は? 今度は四肢切断がいいか?」
「ぷーっ! それはできない癖にー。それしたらお上から俺より酷い目に合わせられるのがわかってて怖くてできないざこざこ盗賊さんなんですよねー?」
たのしい。
めちゃくちゃたのしい。
この世界に来てから一番生を実感している……そんな気がするのだ。
嗚呼……体に生命力が満ちていく気がする……。
満ち足りた俺は牢屋代わりの柵でできた箱の前面に体重をかけてばたりと倒し横にばたりと倒しと繰り返して馬車内の行きたい場所に移動した。
「うっわ、なんだその気持ち悪い動き。適応早すぎて気持ち悪い……」
「腹減ったから早くメシにしましょう?」
「そして物品要求してきやがった……」
「おら、猫飼うなら責任もって面倒みやがれですよ」
「プライドは……?」
矜持をドブに捨てたみたいな職業やってる盗賊より俺のプライドが下なわけないのでいくら捨てても問題はないのだ。むしろ俺がプライドを捨てるほどにこいつらのプライドの価値は下がっていく。素晴らしい世界のシステムだね。
そんなこともわからないからこいつらは盗賊なのである。
「今これ以上ないくらいバカにされた気がしたんだが」
「でも事実ですから」
「事実ってなに? お前の脳内でどんな醜い事実が列挙されてるの??」
「どうあっても俺が至高だっていう証明と公理ですよ」
「傲慢っ!!」
「……? ざこ盗賊さんの自己紹介ですか?」
「やめろその本気でわけがわからないって顔」
そういわれてもわからないものは分からないのだ。
ざこざこ盗賊さんが突然自己紹介をした意味がわからない、そんなのみんなわかりきってるんだからわざわざ言わなくてもいいのに。なんて丁寧で親切なんだ。
「そんな親切で丁寧な見張りのざこ盗賊さんにお願いがあるんですけど」
「どんな思考跳躍したらその切り出し方になるんだ?」
「今すぐ傷を全部治して服を寄越して食料を全部寄越して逃がしてくれません? そしたら特別に他の盗賊さんあわせて全員俺が介錯してあげますよ。喜び咽び泣いてくださいな親切なざこざこ盗賊さん」
「何言ってんだこいつ」
「……逃がしてくれないんですか? うっわ、器が矮小ですね。それだから貴方の息子も小さいんですよ不親切ざこざこ盗賊さん」
「……は??」
ざこ盗賊さんから血管が切れるようなブチッて音が聞こえた気がした。
がんって牢を蹴られた。衝撃が直に伝わってきて痛い。
けど雑な煽りで怒ってくれる沸点がとても低いざこ盗賊さんが怒ってくれた証拠である。
今日もノルマ達成だ! やったね。
「ぴゅー」
ノルマ達成した俺は大喜びだ。
ドッタンバッタンと牢屋を内側からサイコロみたいに転がして左右に移動する。
何をしているのかって? 喜びの表現である。
俺の華麗な舞だ。見たからにはお捻り寄越せよざこ盗賊さん。
「ちっくしょう! なんでお頭はこんな依頼を受けちまったんだ!? クソクソクソ!!」
馬車の床をバンバンと叩く盗賊さん。
うるせぇぞと盗賊仲間さんからの苦情が外から聞こえる。
どうやらこのざこ盗賊さんは名誉ある俺の見張りをじゃんけんで負け取ったらしくこの馬車の前で馬の手綱を握ったり馬車の外で歩いて護衛したりしている盗賊さんたちはこのざこ盗賊さんが遭っている被害とやらを知っているらしい。
ちなみにこのざこ盗賊さん、今日だけでその負けたら名誉ある俺の見張りになる漢気ジャンケンに3回は負けている。いや、勝っているとも言えるだろう。
素晴らしい豪運だ。
褒めて遣わす。
「クソ…………ハハハッ、そうだ。そうだったなクソ生娘! 接触するお楽しみが出来ねぇだけで見せるセクハラはできるじゃねぇか!!」
「……いや、ギフトを手に入れて幼女になっただけの男に、んな気持ち悪いもん見せて楽しいんですか?」
「…………楽しくない。お前の穴を使うなら面白いだろうけど、見せるだけなのはなんか虚しい気持ちになってくる気がする」
「うん、だからやめましょう快楽猿さん? お互い妙な心の傷が残るだけですよ」
「……そうだな。だけどその快楽猿って言葉は忘れねぇからな」
よし。
口でするなら傷物にならないって事実に気づかせずに済んだぞ。そんな気持ちの悪いことしてやるかってんだ。
俺ってば頭いい子……なんてすごいのでしょう。100点満点に花丸あげちゃおう。
ちなみに初日に起きたばっかの時「ひっ……やめろ何する気だ。俺は男だぞ、男なんだぞ!?」ってTSっ子ロールプレイをしたのだがあれはすっごく楽しかった。実際TSっ子だからね。リアリティがあってとっても楽しめた。
この姿にしたヤツは許さないけどそれはそれとして演技で楽しみたいものは楽しみたのだ。
しかし本当にネタが尽きてきた。
暇だと騒いだのもホントに暇だからなのだ。
煽りに鋭さもなくなってきた。ただの鈍い刃である。痛そう。
暇というのは猫を殺すことが出来る。そして俺は猫獣人だ。コレはまずい、いつのまにやら命の危機に瀕していたとは。
暇つぶしとあとどれほど暇な時間が続くのかという2つの意味を同時に込めて俺は聞いてみることにした。
「なー……まだお前たちの目的地につかないんですかー?」
「お前を載せてからバカほど魔物に会うから予定の倍時間がかかってるんだよ。お前呪われてるんじゃねぇのか?」
「そうらしいですね」
「なんでらしいなんだよハッキリしろ」
ハッキリしろと言われても、俺もいまいちよくわかってないからどうしようもないのだ。
それとも片手に包帯を巻いて「呪われた右手が渦くぜ」……なんてやった方がいいだろうか。
「それにしても目的地はドコなんですか? 馬車で四日も走ってりゃ相当近づいてるんでしょう?」
「……なんでそれを言わなきゃなんねぇんだ……まあ言えば少しは大人しくなるか。なるよな?」
「なるんじゃないですかね」
「なれよ」
「保証はしかねますので……」
盛大にため息をついたざこざこ盗賊さんが頭を抱える。
そしてしょうがねぇなぁと気だるそうに項垂れた後に、嫌そうな口を開いた。
「隣国、ウツジョブにある俺達のアジトだ。お前が捕まった村はこの大陸の西の最果てにあるから実質一国を通り過ぎて別の国に行くくらいの時間はかかるぞ」
言葉の鋭さが足りなくて満足いかないし、なんか音読した時の口触りも悪い気がする。
そして切り方も雑。




