二十話 強引な繋ぎ、あるいは強行にして凶行
一章のプロットがガバすぎて辛い。
なんでこれで行けると思ったのかと過去の私をボコボコにしたく存じ上げます。
「おや浦谷……どうしたんだそんな死者の行軍みたいな歩き方をして……いつにも増して猫背だし、まるで死んだ魚のような目をしてるな」
「寝不足ですよ……」
「……違うな。それは寝不足だけじゃない、夜通し体に多大な負荷がかかる運動した……そんな“疲れ”だろ」
「的確ですね。そこまでわかるなら熊宮さん……俺、話すのも億劫なんで……出来れば……」
「いや、それはすまないな……ただそれほど疲れることって、夜に何をしていたんだ?」
現在お外でお泊まりするための目的地、街ハズレのあのデカい森へ行軍中である。
あの石造りの迷宮から抜け出して数時間経過した。風呂は入れて良かったが一睡もできていない。というかあの風呂二十四時間沸いてるのが不思議でならない。
宿泊行事前に徹夜はまずいですよとあの天使殿に抗議をしたくてたまらない。
なにより『ショートスリーパー』というスキルの効果が寝なくても済むスキルではなく、短時間の睡眠で済むスキルだったことが一番辛い、信頼と信用をおいてたスキルが意外と使えなかったことが辛い。
結果睡眠を行えなかった俺はスキルの効果が全く発動していないつまり眠い。
しかもこの眠気の対価はないも同然……俺たちはあの天使を倒してボーナスゼロ、だって倒してねぇもん。殺さずケイオススピリットを天使に変化させただけだから経験値も入りゃしないさ。するべくして成長したスキルのプラス分なんてこの疲労感に比べたら見劣りするものばかり。
天使になったんだから崩壊する前になんかいいものを寄越せオラァ迷惑料だ! と叫んでも許されよう。
ただの宿泊行事でこの疲労までならまだ良かったんだけどな。
ため息をついた俺は、朝食直後のことを思い出した。
◇
「悠羽……現状の再確認。わかってると思うけど、泳がされてる」
朝食を終えて眠気が増した部屋の中、朝だというのにどこか沈んだ空気が蔓延している。
互いのベットに腰掛けた俺と初瀬さんはどちらも眠そうな顔で向き合って、いつもと数段遅いテンポの会話が始まった。
「俺の意識は泳ぐほどの気力は残ってないですけどね……初瀬さんたちとは違って幼児の体は徹夜という状態を耐える力をも……残って…………ま……………………うわぁあ! 危ない、寝るところでした」
「……お城の人に言って休ませてもらおう?」
「それなら城の外で野宿する方が幾分かマシですよ……少なくとも人がいないってだけでいきなり洗脳された人が襲いかかってくる心配はないんですから」
「じゃあ、せめて私が背負って……」
「……それは……ありがたいですけど初瀬さんも疲れてますし……無論、上月さんも。倒れられたら、こまります」
冷静な判断ができていたなら、外は魔物が襲ってくる可能性が常にあるのだからどっちも落ち着くはずもないのだがそれに俺と初瀬さんどちらも気づかない。
どこか薄々とおかしいなと思っても、明白な答えには至らなかった。
「話を、戻す」
「どうぞ」
「私たちは、洗脳の黒幕に泳がされている」
「ええ、でしょうね……洗脳も解けているのに普段通りに過ごせていることが特に」
「私たちは……どうして殺されてない」
ここまで得られた情報もなく、そもそもお話のように弱点があって解決できるように作られたシナリオという訳ではないというのを強く実感させられるほど降りてくるヒントもない。
俺は城に入って探るだけ探って得られたのは姫の存在くらい。あと重要そうなものは何一つない。
初瀬さんもクラスメイトが聞いた噂や、付け焼き刃の魔力的な観点から探っているらしいが、得られたのはこの国は地脈の出口があるとかいう情報と空気中に満ちた魔力が城に近づけば濃いということ……可能性があるとすれば第一王女の崩御の話しくらい。
これで全貌がわかる人がいたら、それこそ狂人と呼ばれるべき異様な発想をした人間だろう。
だから自分たちの置かれた状況の中でわかることから少しづつ相談して予想していくしかないのだ。
「なぜ消されないのか……殺しても洗脳でそれに気づかないようにしてしまえばいい話ですもんね」
「じゃあ、私たちが……少なくとも悠羽が、殺されない理由」
「えーと、前に初瀬さんが情報交換の時に言ってましたね……ありえるのは、場所、時間、生きていることに意味がある……とか、でしたっけ」
「じゃあこの中で……生きていることに意味がある……その可能性が、薄い理由は?」
「野外訓練という死ぬ可能性があることをすることとか……」
「他もあるかもしれない……けど、一番納得出来るには……それ?」
「じゃ、ないですかね」
予測と推測そんなのよりは……ハズレかも当たりかも掴めないこれはもはや妄想に近い。
だけどしないよりはマシではないか、そうして互いの考えを話し合う。
「じゃあ、時間、時期……今殺すのはまずい場合」
「わかりようもないのでパス、ですね?」
さらに、時間の可能性は考えどもなにも思いつかないけどありえるという一番面倒な立ち位置。
どうにかならないものか。
「うん、次。場所……城、街、国……異世界人の召喚が、どれくらい他の国に伝わっているかは……わからない。けど、一人くらいもみ消せても、ありえなくはない……だから政治的理由以外」
「宗教的な理由ですかね?」
「あと魔法もありえる。悠羽がお姫様から聞いた話、その黒幕1は異世界人……魔法というのは、人が思う意味が、大事っぽい」
「……つまり、俺が死んで場を穢れさせたくない? 兵とか死に安い人間を抱えているのに?」
これまた予測を並べただけの決定的なものがない。
向こうが洗脳以外のアクションを起こしてこない以上、こちらが起こすべきかもしれないが、限りなくゼロなため何に何を起こせばいいのかすらわからないまま。
だけどこの会話はそれで終わるものではなかったらしい。
初瀬さんの話はその先が本命だった。
「どれも違うかもしれない、けど重要なのは……街から出るということ。これは……場所の条件に、当てはまるかも、しれない」
なるほど、そうか。
ずいっと顔を近づけてきた初瀬さんは言いたいのはこういうことか。
「長期の王都からの外出、そのタイミングでなにか仕掛けられるかもしれない……と?」
「もちろん、街から出るのは初めてじゃない。そして、街から出た時は……必ず、命の危険があった。
だから、気をつけて」
今回の件で初めて妄想ではなくまともに予想が立てられたというわけだ。
今まで妄想しか吐けてなかった挙句、自分の命の危険に自分で思い至らなかったことが悔しくてたまらないが同時にありがたい。
「肝に銘じます」
俺の顔をじっと見ていた初瀬さんは一体どんな表情を見てしまったのか。
「悠羽、悠羽は子供」
いきなりそんな話を始めた。
「……中身が高校生なことくらいわかってますよね」
「うん、でも体は子供。なら、そう……脳も」
「……」
「いきなり子供になったら……どうなるのかなんて、私はわからない。けど、やっぱりまだ、その体を万全に使えてないのかもしれない。だから気にしないで」
「……はい」
◇
活動する班はいつも通り、そういえば香道さんとか赤井さんとかのとこはどんな班なんだろうなとかぼんやりと思った。
途中で各班に別れるらしいし、それまでに聞きに行ってみるのもいいかなとも思ったが眠くてだるくてすぐに辞めた。
なんか全てが面倒である。
いっそこのまま寝落ちしたい。きっと今なら歩きながら眠れる。とはいっても眠ったあとの行動を事前に決めてそれを実行できるほど人間やめちゃないので無理だが。
ケモ耳としっぽが生えた以外人間やめた覚えはないけどね。
これから苦難が待ち受けてるとわかって勇んで往くのは難しいものではないか。
徹夜明けの深夜テンション継続中ならドンと来いと笑えたかもしれないが、絶賛疲労と負傷したという要素もついてる。
お前攻撃にあたってないだろうと聞かれるかもしれないが、打撲や擦り傷、腕の骨の負担である。
攻撃を避けるときにどうしても壁に体を打ち付けないといけない時や床を殴りつけた時にどうしても打ち付けて痛むし擦れて肌が切れるし、体にあわない剣を酷使すると振った腕の骨の方が痛む。
VIT値の重要さが身にしみたね。
打撲と腕が痛むことに関しては初瀬さんの『治癒魔法』でもどうしようもないので痛むままである。いや、初瀬さん曰く“まだ”どうしようもないだったかな。全て治せるようにするって意気込んでたっけか、でも腕の傷みは損傷ではないから違うアプローチが必要ではないだろうか……初瀬さんならすでにそれに思い至ってるかもな。あの人の知識ってどこまで広く深いんだろ、もし足りないものがあるなら地球で学ぶことも必要かもしれないし……地球に戻る方法、姉以外のためにも必要かもしれないな。
まあ目先の問題から解決しないとだけどね。
目先の問題といえば汗だらけでしかもボロボロになった寝巻きが最大の問題なのかもしれない。
あれがなくなったら夜寝る服が……。
この世界にきてまだ雨が降った日がないからか、朝起きて洗濯に出したら乾いてたからな……あっお城の人に言ったら支給してくれるかも。目先の問題ひとつ解決じゃん。
よっしゃなんかこの調子で解決させてけばどうにかなる気がしてきた。
今ならなんでもできるっていう奇妙な全能感に包まれていく。
「にゃははー」
「なあ……初瀬、アレ大丈夫なのかな」
「だい……大丈夫じゃ、ない!」
おや遠くから熊宮さんと話してた初瀬さんが走り寄ってくるのが見える。
必死な顔をしてるけど……どうしたのかな。
「ゆう、悠羽……? 目、回して、ど、どどどどうしたの!?」
「ネジがハズレたんだね。しばらくハイテンションが続いたあとぶっ倒れるよ」
「今ならどんなバケモンでも倒せる気がするですー」
「悠羽、悠羽ぁ!?」
◇
気づいた時には初瀬さんの背に背負われていた、それだけは言っておこう。
もう恥ずかしくて死にそうでたまらんのだ。
羞恥心ってすごいよな、だって時に人を自殺志願者にするんだもん。
それはそれとして現在狸寝入り続行中であるという情報を付け足しておこう。
初瀬さんの背中に揺られているこの状況は案外……こう、なんだ。美少女におんぶされているってこの状況男子の憧れだろ。
なぁ。
そうだろう?
風呂に一緒に入ったりしてるだろって……バカが、自分の意思で長く密着してられるのはこういう時くらいだろそうじゃないと恥ずかしくて頼めないし引かれたら怖いし……ね?
そんなことを延々と考えながら薄目を開けて周囲を見ると熊宮さんがにやりと笑った。
……起きてるの、気づかれてないか。
いやまさか、そんな馬鹿な。ゲームのNPCすら騙したことがある睡眠中のロールプレイを全力続行中だぞ。
気づかれるわけ……そう、きっと熊宮さんは初瀬さんを見ているだけで。
……あ。
ダメだこれ、熊宮さんの視線完全に俺の方向いてるわ。
口元抑えてニヤケ顔を隠そうとしてるわ。
そんな一面もあったんですね、でも気づいてないフリをしておいて欲しかったなー!
いや待てよ。
このままからかわれる可能性が残るままより、もう一度本気で熟睡してしまえばなかったことになって万事解決なのではないだろうかいやそうだそうに決まってるなんてったって睡眠直後の俺のミラクルに冴えた天才的な頭が導き出した答えだもんなそうだよなそうすればからかわれる可能性もなくなってしかも美少女と密着したままというふたつの状態を満たせる最高の手段ではないか、流石俺、俺氏最強すごい褒めて!
俺はドヤ顔をした。
ふふんと鼻息を吐いた。
「悠羽、寝ててもいいんだよ?」
初瀬さんにバレた。
……バレ、た?
なぜ、何故だ。
俺のロールプレイも計画も完璧だったはずなのになぜバレた。
鼻息か?
ドヤ顔か?
あれが致命的なミスだったのか?
ポーズ、ポーズメニューを寄越せ!
この場面のリトライを要求する!
だが非情にもここは現実でありゲームなどではございませーん。
かぁっと顔が熱くなるのを感じた。
鏡を見たら赤く染ったネコミミ幼女のお顔が拝見できるかもしれん。
できなくてもいいわ。
「いっいいい、いつから、わたくしめが起きているのをご存知になられましてぇ!?」
「……んー……幸が、ニヤニヤし始めた……頃?」
おそらく最初から、だと。
おかしい、俺の演技は完璧かつ最高ではなかったのか。
昨晩『物真似“行動”』なるスキルを手に入れてもうレベルをひとつ上げるほどにはパーフェクトだというのに!
「浦谷……起きてるなら降りような? な?」
どこか俺を想い人から降ろしたくてたまらない未来の英雄殿の必死な声が聞こえる。
だが知らん。
んなことどうでも良くなるほどに俺は恥ずかしいのだ。
つまり、狸寝入りがバレてて。
しっかりぎゅっと手を回してたことも意思あってのことだとバレてて。
えと、あとは、えーと……。
「あぅ……」
ぼんっと感情がオーバーヒートした……そうとしかいいようのない感覚に襲われる。
爆発して発散されたような意識に切り替わり妙に冷静になってきた。
俺って普段こんな変態行為するような人間じゃあなくないか。
むしろ紳士である。
すごくまともな人間であると自負している。
それこそ英国紳士が紅茶を吹き出して真の紳士と称えるほどには紳士であると自覚している。
そうったらそうに決まっている。
そうじゃないわけがないのだ、たぶん、きっと。
そんなことを考えていると熊宮さんがこちらに話しかけてきた。
今なら全てのことに寛容でいられる自信がある。
どんな事でもドンと来いだ。
「なんかアホなこと考えてますって顔してるとこ悪いんだけどさ」
「ええ、紳士な俺の顔をアホだというのは許しましょう。いかがなさいましたか?」
「いや……うんまあいいや。
何があったかはわからないけど、とりあえず現状の共有だけでもしようか。
そうだね簡潔に言おう……遭難した」
遭難……そうなん……そうなん。
「なっ何があったんですか!?!?」
俺の寝てる間に事態がアホほど進んでる!?




