二話 強いか弱いかはっきりして欲しい
続くとは思わなかった二話目です。
思った以上に読んでくださる方がいて驚いてます。
誤字ってなければいいなぁ……。
現代日本の都会にしては珍しく、窓の外から聞こえる小鳥の囀りで目覚めた。
静かな朝だ。
まるで旅先の宿に泊まっている気分を感じさせられる。
妙にいつもとは違う質感の布団に違和感ともに瞳を開けた。
そりゃそうだ、ここは現代日本ではないのだから。
「くそー夢じゃなかった……」
昨日と変わらぬ少女の声が自分の声帯から発せられるのを感じる。
それはなにより、昨日が現実であり今日がその続きなのだという証明である。
ここが現代日本どころか地球ですらないことを思い出した俺は未だ俺のものとは思えない黒髪の少女の肉体を引きずるように慣れないベッドから這い出た。
俺は布団派だ。布団派としては布団が好ましい。ベットというものは落ちそうで怖くてたまらないのだ。
そうとはいっても、用意されたこの部屋にはベット二つしか備えられておらず、そもそも部屋は土足のかたちである。根っから日本の床に敷く布団の条件からかけ離れているのだ。
ちなみに靴は玄関のところに脱いで置いてきていたりする。というか、でかくて履いてると脱げるからあるもないもほとんど変わらないのだ。
それにしても、夢であることを願っていたとは……昨日まだ夢見心地だったクラスメイトを揶揄したが、これでは現実から目を背けて夢か映画セットと勘違いしていた阿呆はこちらではないか。
清々しい朝だというのにこうも自分というものを自覚するだけで気が滅入るものか。
「諦めも肝心かなぁ……行動を起こさないことには始まらないっていうし」
「……ん……う」
そう呟くと、俺の寝ていたベットの横、簡素な机ひとつ挟んだもう一つのベットから目覚めかけの呻きというべきか、それが聞こえてきて硬直した。
そうである。
俺、すなわち浦谷悠羽という人間は黒髪猫耳の美少女であるのだ。しかし俺という一人称の示すとおり男でもあり、両立するはずのない二つの性別は『この世界で神より渡されたギフトによって少女の姿に変えられた男』という一文で全てが解決してしまう。
そんな摩訶不思議生命体と同室で寝るモノ好きの彩奈さんは一体俺の何に興味があるというのか。
男というものは案外好意に敏感かつ鈍感だ。
優しくされるとこいつ実は俺の事好きなんじゃねと勘違いするし、秘めたる思いとやらには微塵も気づくことができない哀れな生命体である。
俺もその哀れな一員であるわけなのだが、初瀬さんからは好意はわかりやすく伝わってくるのだ。しかしその好意は、明らかに恋愛というものからかけ離れているということを察せてしまう別のベクトルの代物なのだ。
ガッカリシテナイヨ。
具体的にいうと世話を焼いてくる。
歯ブラシないからせめてうがいをしようだの、風呂に入るときは洗ってあげるだの、暗闇は怖くないか本当に一人で寝れるのかと、なにかと幼児扱いをしてくるのだ。
俺とクラスメイトは学校の教室から転移させられた地球人であるわけで、高校生として制服をまとっていたのだが、それを見越してか部屋にはある程度サイズのあう着替えが運ばれてきたりした。その中に寝巻きもあったのだが初瀬さんによって着替えさせられそうになった。なにをいっているのかイマイチわからないと思うが、ことは簡単だ。
昨晩、明日は早いだろうし早めに寝るかと思い寝巻きに着替えようとしたのだ。するとすかさず背後に回ってきた初瀬さんが、大丈夫? 一人でパジャマ着替えられる? と聞いてくるではないか。挙句の果てに一人で着替えて見せれば一人で着替えられて偉いねだの、早く寝ないとダメだよだのと……お前は幼児を相手にする母親か! そうツッコミかけた俺に非はないと思う。
これがバブみか……とリアルなママ属性に打ち震えているとトドメに俺が頼んでもないのに初瀬さんが綺麗な音色の子守唄を歌い出したのだ。
…………おかげで気づけばぐっすり眠っていました。
「まずいなこれ、順調に思考が幼児退行してきてるぞ」
このまま性格まで女の子となるのは避けたいものだ。
性転換物小説の主人公みたく、ヒーロー枠の人間に絆されて撫でられて顔を赤くして孕むなどといった事態を避けるべく、そうそうに回避の道を辿らなければならない。
とはいっても己の女の子の体のこともこの世界のことも何も知らない俺はひとまず何も考えずこの清々しい朝とやらの中、久々に体を動かしに行こうかと思う。
この宿舎内を軽く散歩してついでに地図を頭に叩き込もう。
リフレッシュだリフレッシュ。
頭を一回クリアにするため朝の散歩へ出かけるのだ。
そんな調子で用意されていた動きやすそうなジーンズの短パンと白い半袖に着替えた俺はまだ眠ったままの初瀬さんに行ってきますと小さく伝え、少し高いところにあるドアノブを捻って部屋の外へ出た。
着替える時、白地でリボンのついた少女用下着を見ないようにしたのは自分の尊厳を守るためである。人間には恥というものが存在してだな。
…………全く関係はないのだが。今度、初瀬さんに「生きててえらい、空気吸えて偉い」と言って貰えないだろうか。似合うと思うんだよね。
◇
えっちらおっちらとデカい靴を履いて宿舎を回っていると、俺と案外同じような考えの人間もいるのか、それとも早起きしすぎて暇だったのか、熊宮さんともう一人の少年が立ち話しているのを見かけた。
少年の名前は上月颯希といい、ギフトは『勇者の器』だったと思う。
平凡そうな顔立ちといい、これは主人公枠ですね。
おかげで俺が名前とギフトを覚えたともいう。
これからあまたのヒロインを落とす天然タラシへと変貌するだろう彼の最初の犠牲者に熊宮さんはなってしまうのか。
まあ、俺には関係ない話ではあるし、ボッチキャラがたまたま遭遇したからといって自ら話しかけるかといわれれば否であろう。そもそも関わりはほぼないのだ。
熊宮さんには昨日の質問の答えを返したいが、しっぽありの重心に慣れている理由など、フルダイブVRゲームで人外もよく使っていたというそれだけのものであるしあとからでも問題はないだろう。……ミミズになって土を掘り進んだ時はすごく楽しかった。
俺は足音を消してそろりとその場を立ち去ることにした。
食堂を覗くと、三人ほどが好きな席に着いて談笑していた。
インパクトのある名前のギフト持ちではなかったのか、顔はぼんやり覚えているが名前もギフトも知らない人達だ。クラスメイトに対して本当にそれでいいのかと思うが、他人と関わりが少なかった人間などそんなものである。
むしろギフトをきっかけに数人名前を覚えられただけでもすごいことなのだ。
つまり俺はすごいということだ。
俺の自尊感情がイキイキしだした。
自然と頬が緩んだ、満面の笑みである。
ウキウキして今ならなんでも出来そうな気がするので今日も一日頑張れそうだ。
手始めに他者とコミュニケーションをとってみようと思う。
すごい俺はそれくらい容易くできてしまうのだ!
そうだ!
ボッチではあるがコミュニケーション能力は平均だということを見せつけてやれ!
「おっはようございまーす……っ!」
俺は自信満々に食堂の扉を大きく開いて挨拶した。
「悠羽ちゃん! おはよー」
「おはよう、早いねー」
「おはよー……あっそうだ!」
愛らしい顔をドヤ顔に染め上げて食堂に入るとお返事が微笑ましいものを見る笑みとともに返ってきた。
なんだなんだその顔は、まるで可愛い子を愛でるような顔ではないか。
確かに俺は可愛いが、だけどやめろーその顔を向けるなー!
と、内心思いながらも表面は羞恥心で顔が赤く染っていくのを感じる。冷静を保とうとして真顔のまま顔が染まりきった。
「ねぇねぇ、昨日さ、髪の毛弄っていいって言ったの……覚えてる?」
「あ、おぼっ……はい、覚えてます、よ?」
「いい? 髪型変えてみていいかな!?」
「いっいいですけど……」
途端に自信をなくしてボッチ言葉に早変わりした俺を後目に、少女たちはやったー! と喜ぶばかり。
「あーちゃんくーちゃん! なんの髪型が似合うかな!」
「ツインテールとかいいんじゃない? ネコミミにあいそう!」
「む……それはいただけないな。あたいは悠羽ちゃんに似合うのはポニテだとおもうぞ……」
「どれも良さそうだねぇ……」
「ツインテの方がいいと思うんだけどなぁ」
「そこまでいうならあたいの案と来米の案の両方試して決めようじゃないか」
「どうせなら思いつくの全部試そうよ!」
「おぉ! 賛成!」
「意義ないよ」
「じゃーあ……悠羽ちゃん!」
「ひょえっ!? な、なんでしょうか!」
まさに三人よれば姦しく話している様子をぼんやり眺めて頭を冷やしていると突然お声がかかった。
「今から私たちの思いつくの全部試すから、覚悟してね!」
なにかの処刑宣告だろうか。
「なーに、時間はたっぷりあるさ! さぁ今日は始まったばかりだぜエブリバディ、いつか着せ替え大会もやろうナ!」
そう付け足した名を知らないクラスメイトはニッコリと笑ってウィンクした。キラッと閉じた片目から星が落ちるのを幻視する。キャラ崩壊してますよ?
俺は異世界は異世界でも地獄に転移してしまったのかもしれない。
◇
少なくともいえることは、こっちに来てからの戸惑いもショックも幼女扱いも何もかも須らくしてこの肉体、ひいては忌々しいギフトのせいである。
人によっては幸と喜ぶかもしれないが俺にとっては不幸なのでめいっぱい嘆かせてもらおう。
フルダイブVRで生物種族年齢問わずアバターを使ってきた人間がなにをいうのかと言われそうだが、俺はあくまで美少女になってもログアウトしてVR機械を外せば元の肉体に戻れるという状況だからこそ使っていたわけであり、恒久的に美少女やスライム娘などの人外や老人などになりたかったワケではない。
というかそうなってしまったら、いかにして姉を支えていけばいいのかという話だ。
俺の姉さん、生活力皆無なんだぜ?
両親が他界して二人になってからというものの希に料理を作ろうとしては失敗するもので、俺が作るより俺に手間がかかるというダメ人間っぷりだ。
掃除したら部屋が散らかるし、皿洗いすれば一、二枚割れることは必定であるし……普段は居間のソファーでだらけてて、たまに俺にものを頼んで……待て、段々と不安になってきた。
あの姉は俺が居なくなって生存することができるのだろうか。確か親しい大学の友人はいたはずだ、あの姉の友人が生活を手伝っていてくれると嬉しいが。
あークソ、変な男に騙されないだろうか、この世界にやってきてわずか二日で心配になってきたぞ。
これは例の魔王とやらを倒して願いを叶えて貰うしかないのか。
早急に済まさなければならない案件ができてしまった。
早急といっても難易度が全く分からない。少なくとも国が対処出来ないことなのだ、一年内にクリアできるようなものじゃないだろう。
とにかくいつか帰ることだけを考えるか。
姉が最低限の幸せを得て生きられているのを確認することができればいいか。
一気にハードルが低下したな。しかもだいぶネガティブな理由で。まあ幸せな人生を送れていることを願おう。
そもそも第一目標は元の体を取り戻すことだと決めているが、戻るものなのだろうか。
肉体を作り替えられたと考えると、新しく名前をつけて保存したファイルを選択されているのか、元々の肉体に今の肉体を上書き保存されているのか。
上書きなら、俺という人間の肉体情報のアーカイブが残っていない限り少なくとも俺の思いつく限りでは復元など不可能である。俺は元の自分の肉体についてこと細かく記憶しているわけでもないし、写真もそこまで残ってないだろう。VR機器に俺の肉体データがあるかもしれないが……そうするとやはり地球の我が家に帰る必要が出てきて、必然的にこの姿で姉に会うことになって……。
この体のまま姉さんにどんな顔して会いに行けばいいのか。やはり会いに行く前に元の肉体を取り返さねばならない。
すると第一目標の元の体を取り戻すことを達成しなければならなくて……。
…………上書き保存型ではなくて、別の場所に俺の肉体が保存されていることを願おう。
無限ループって怖いよね。
そうじっくり思案しながら朝食を食べている。
なぜこうも深く考え込んでいるかというと、理由は横から注がれる刺すような視線にある。
できればこの視線を意識の外に追いやりたいのだ。
……あっこのパン美味しい。モチモチだ。
この視線に晒されるほどに罪悪感が増してくるが、実際悪いのは俺なのでなんの文句も言えない。
これがぐうの音も出ないというやつか。
……おーこのトマトスープみたいなやつ甘酸っぱいな。実はスイーツだったりしない?
発端は俺が食堂にいた三人組に捕まったことにある。
長時間髪型を弄られ遊ばれていた俺は疲労感から、朝食まで食堂で待機してしまうかと思ってしまった。
その時点ですっかりと部屋に置いてきた初瀬さんのことを忘れていたのだ。
あとはご想像の通りだ。察していただけただろう。
初瀬さん曰く、目覚めるとすでに居なくなっていた俺に気づいて急いで着替えて探しに回ったそうだ。
一人で外に出て攫われやしないかと不安に駆られて探し回ったのかもしれない、これはただの推測だが。
全廊下、便所、出入口、ホール、風呂と探して最後に来たのが食堂に来たのだとか。そこでようやく見つけたのがツインテールで耳に赤いリボンをつけた俺であった。
食堂の両開きの戸の片側を開けた音でそっちを見た俺は出入口で俺を凝視して固まる初瀬さんを見つけてしまった。
当然、俺も静止したさ。
ピタと二人の間でポーズボタンが押されるように全てが停止した。
そしてその先に起こる全てを悟った。
こればかりは初瀬さんのママ属性がどうとかそういう次元のお話ではない。すっかり忘れて食堂の机に突っ伏していた俺が悪いわけである。
「悠羽」
「すいません」
「……責めてないよ」
「完全に拗ねてるじゃないですか」
「うん、拗ねてる。でも拗ねてる理由を悠羽は解ってない」
「……一度部屋に戻らなかったことですよね」
「違う」
「じゃあ……なんなんですか」
むぅ……と言いずらそうにした初瀬さんはずいっと俺に寄って、耳に巻くようにつけられた赤いリボンをツンツンとつついて言った。
「悠羽の髪を梳かしたかった」
「……ふぇ近っ、え?」
「悠羽は人気者だから、初めに一人で髪を弄るのは無理だと思ったからせめて朝イチ髪を梳かしたかったのに……まさか髪を梳かすどころか数人で髪をいじる羨ましい……すごく楽しそうなトコに参加出来なかったなんて……不覚」
「え、えぇ……」
「楽しみを取られた……けどそれで拗ねてたらどっちが子供かわからない。結果、私自身でどう落ち着くべきか悩んでた。けどいいや、悠羽が可愛かったから」
似合ってるよ悠羽、そう言って俺の頭を撫でた初瀬さんは少し笑って席を立って歩いていった。
方向的に一旦部屋に戻ろうとしているのだろう。
実は、今後の説明とやらは朝ご飯の最中に燕尾服の老人が訪れて終わっていたりするからな、次の予定の時間まで部屋でだらけててなんの問題もないのだ。
ポケーっと自白を聞いていた俺は正気に戻ると同時に初瀬さんの天然ムーブに慄いている。
最後の撫でて微笑みかけるイケメンムーブはなんだと言うのだ。
やはり彼女も主人公枠……っ!
勇者の器とかいう主人公枠予定とは違い、すでに主人公の要素を得ているというのか。
嗚呼恐ろしや恐ろしや、地球でもすでに幾人の少女を叶わぬ恋に落としているのではなかろうか。
罪深い人である。
しかし俺もそうこうしているうちに飯を食べ終えてしまった。
朝ご飯のあとは少ししてから戦うための訓練のようなものをやるとか聞いたからな。
部屋に戻って一回休むのもいいだろう。
そう思った俺は初瀬さんに続いて食堂を抜けることにした。
それにしても、朝ご飯の最中の今後のご説明とやらのタイミングは上手かった。
元の世界に返してくれとかそういう意見を出しずらい強制的に呼び込まれた翌日、もてなしを受けながらときた。
一つや二つは「元の世界に帰してくれ」みたいな声が聞こえると思ったが、喋ろうと思った人間はいても口に出すことが出来なかったのだろう。そういう声は一つも出てくることはなかった。
俺も「家に帰して」みたいなことをたとえ無理でもストレス発散として言いたい立場であったが、なかなかその丁度いい割り込みのタイミングとやらを掴めなかったのだ。
いやはや恐ろしいものである。杞憂かもしれない国王側への疑いはただ膨らむばかりでちっとも小さくなりやしない。
……さて、そろそろ部屋に着く。
帰ったら初瀬さんに髪をとかして動きやすい髪型に結って貰えるか頼もうではないか。
喜んでもえるといいのだが。
◇
「う……うーむ……」
後ろの髪を高いところで括ってポニーテールの俺は、俺らに剣や魔法を教えるらしい人達の中の隊長? リーダー? まあとにかく一番のまとめ役の教官的な人に頭を抱えられていた。
行う訓練というものはステータスの能力値で才能を鑑みて、例えば魔力が多くPOWとINTが高いもしくは魔法系ギフトを持つ人は魔法職、STRとVITやDEXが高い人間は剣士や斧使い盾使いなどとわけて訓練されるらしい。
初期ステータスというものは意外とその生物の根幹に関わるもののようで、初期ステータスのSTRが10だった人間が成長してSTR:20になるのより、初期ステータスのSTRが15だった人間が成長してSTR:20になる方が力が強かったりするとも聞いた。
逆もまた然り、初期ステータスが低ければそれほど同値になってもほかより弱いことになる。
さて、ここで俺の能力値と平均能力値を比較してみよう。
『名前:浦谷 悠羽
種族名:獣人,ケット・シー
レベル:1
年齢:10(16)
各ステータス値─
HP:68
MP:135
STR:10
AGI:12
POW:20
DEX:15
VIT:4
INT:10
LUC:8』
『種族名:人間(平均)
各ステータス値─
HP:60
MP:90
STR:10
AGI:10
POW:10
DEX:10
VIT:10
INT:10
LUC:10』
基本的に生物が初期ステータスというものが平均で生まれるらしい。
数値が多かったり少なかったりする人間はそれほど稀で一つ多かったとしてもすごいことではあるのだ。
まあ、ケット・シーという種族はもともとSTR、AGI、DEXが高く、VITが低い種族だそうだ。ケット・シーの平均はわからないが俺が複数才能を持っているとは考えられないのでこの三つは平均に大分近いかそれ以下何ではないだろうか。調べる機会があれば調べてみたいと思う。
俺の才能と言うべき点は精神力であり、欠点が幸運らしい。LUCが低いのに身に覚えは嫌という程あるが、POWが高いのに身に覚えはない。
では、俺の適正の職について考えてみよう。
MPが既に三桁に達していてPOWが平均の倍? なるほど驚異的な数値だ、魔法職向けかもしれない。
しかし、AGIが12でDEXが15でPOWは前記の通りときた、あとはSTRを仕上げれば剣士にしてもいいのだ。
さて、問題が浮上した。
なにもどちらにも向いているからどっちにするか困ってるとかそういうポジティブな問題ではない。
むしろその反対だ。
どちらにも向いていなかったのだ。
例えば魔法職、魔法というものはまだあまり深く解明されていないらしく、しかし通説によるとLUCも意外と根幹で関わってくるらしい。
勝手な予想だが魔法の成功率をステータスという不思議法則で算出する際の成功率なのではないだろうかと思っている。
ちなみにLUCは8だ。平均以下である。
先述の通り初期ステータスが深く関わってくる中で、一つ違うだけでも大きな差であるはずなのに平均よりマイナス2もされてしまった俺は魔法職としては致命的なものとなる可能性もある。
剣にしたってそうだ。
俺のVITは4。幼女だからではなくそもそもこの体は防御性というものがないのかもしれない。
そしてSTRは10と平均だが、ここで幼女補正が付与される。簡単に説明すると、10は10でも幼女の場合の平均値なわけだ。大人やクラスメイトの10とは大きく違い、片手剣を両手剣として扱うほかなくなるほどに俺はよわよわである。
だから教官さんは悩んでいた。
俺はこのままでは成功率が微妙に低い代わりに高い魔力で大量に魔法を使うことで弾幕を張る魔法砲台になるか、掠ったら即終了のオワタ式幼女が片手剣を両手で掲げて戦場を駆け回ることになる。
というか、重いもの持ったら高いAGIも意味をなさないから駆け回ることも出来ないかもしれない。STRをあげればいいが、そのための能力値を上げるポイント取得方法は限られており、手っ取り早いのが俺自身のレベルアップでそのためには敵を倒すのが早いらしい。で、敵を倒すためには攻撃手段が必要で……。
むむ、これは器用貧乏キャラの予感!
「……能力値が高いのか低いのかわからねぇ……扱いずら……いっそ支援職にでも……いや、味方にいい効果を与える魔法はもっとダメだ、直接幸運が関係してくる……どうすれば……」
「た、隊長……えーっと斥候役とかどうですかね。ほら、彼らも魔法を使うでしょう?」
「そ、それだ! ……ってダメだ。万が一逃走時に魔法を失敗するような可能性も」
「そこを鍛えるのが俺たちじゃないですか!」
一生懸命考えてくれてるのすごくありがたい。
素直にありがたいのでお手伝いしたいがあいにく俺は素人なので下手に口を出せないのだ。
少し話しは変わるが、上月さんは剣士、熊宮さんは拳術、初瀬さんは魔法使いに向いているらしい。
もう既に各々の分野の教官の場所にまとまって訓練を始めている。
上月さんとかは、俺は見覚えのないクラスメイトと和気藹々と訓練してる。そもそも、俺はクラスメイトの顔なんてほぼ覚えちゃいないのだから知らない人がいるのも当然である。
初瀬さんは本を渡されて魔法系のスキルを手に入れるところからとかさっき聞こえてきた。
熊宮さんは……あーあー。『武の愛し子』というギフトが恐ろしいのか本人の素の実力が恐ろしいのか……。奇妙な種類の達人などが多いフルダイブVRという仮想空間でもなかなか見ない洗練された拳を現実空間でカカシに繰り出し吹き飛ばすのが見えた。教官はドン引きしている。アレ、教官が教えることあるのかな……。
と、そうこうよそ見している間に教官の相談も佳境に入ってきたようだ。
「いっそ職という発想を取り払って沢山のことを学ばせるか?」
「器用貧乏のオールラウンダーにするには異世界人という立場はもったいなさすぎる気もします」
「そうだよなぁ……いやーあのな? 今これを言い出すのもあれなんだがな?」
「どうしたんですか? 渋るのは隊長の悪い癖ですよ」
「容赦ない言葉は君の悪い癖だぞ。……あのな、ユーハ嬢ちゃんにもっとも向いてる職が実はあってな。…………俺たちの推奨しない方面なんだが」
「……? そんなものありましたっけ?」
「すばしっこい、忍耐強く器用……思い当たる節は?」
「……あー、なるほど」
「俺の職決まったんですか?」
「いや、その……な? すまねぇな、決まったわけじゃなくて向いてるってだけなんだが」
「……? 教官さん達、つまり騎士が推奨しない、もしくは教えられない職業で、なおかつ器用貧乏ですか……」
「まぁ……そうなんだが」
ふむ、教えてくれないのなら予測してあててみよう。
彼らが推奨しないというところがなかなかに難しい。
騎士とはつまり国を守る仕事だ。色々こなすのは確かに無理かもしれないが……いや、逆にできるのか? 陣営張ったりサバイバルしたり……詳しくないからわからねぇ。
国を守る仕事だろ? そいつらが推奨しないっていったらもう魔王とか攻め込む側しかねぇじゃねえか、国民に被害を与える感じの……やつら……あー。
「……盗賊ですか」
「気づいちまったか……」
「ユーハ嬢ちゃんには申し訳ねぇが、盗賊の才能はあるみたいだよ……」
ファンタジーものではよく出てくる職であるから勝手に頭で除外していた。
そりゃそうだ。国に被害を与える盗賊の技を国を守る人間がどうして教えられようか。教えるだけの技能があっても立場上教えられないだろう。
でも盗賊という職は、俺がゲームでよく使っていたものに近かったりする。世紀末ロールから要人暗殺まで、フルダイブVRという実際に体を動かす環境下で色々遊んだ俺は向いているといえば向いているのかもしれない……やったロールの中で世紀末モヒカンロールが最も楽しかったことを考えるとある意味向いてないかも? ……考えないことにした。
……それに、幼女の体ゆえにやることがいっぱいある。なら慣れている分野の方が少しは落ち着いてできるだろう。
「まあ、でも遊撃職って考えれば、ナイフの技術と魔法を少し覚えていれば……」
「……そう、だなぁ。ひとまずは、ほら、あそこの短剣使いのヤツいるだろ、ナイフも使えたはずだ。俺が説明してやるから習いに行こうか」
「え、ええ……わかりましたー」
「いやー……すまねぇなぁ」
「ああ、いえ。こちらこそお手を煩わせてしまい申し訳ありません……」
そう言って俺は小走りで隊長さんと共に短剣使いの教官さんの元へ向かっていった。ちなみにその場にいた隊長さんの補佐らしき人は放置である。
……よく考えれば、彼らはもしかしたら新人の教育係なのかもしれない。
騎士というのに得物がばらばらで揃っていないとは考えずらい、いくつか部隊があってそこで揃えているのだろう。
そうしたら、この国に騎士団というものはいくつあるのか。
気になるには気になるがそれはまた今度。
フルダイブVR特有のアシストを参考にした短刀術ではなくきちんと流派として存在するものを学ぼうではないか。
芽生えたやる気とともに俺は「頑張るぞ」と意気込んだ。
ステータスはSTR(筋力)、AGI(俊敏性)、POW(精神力)、DEX(器用性)、VIT(防御力)、INT(知力)、LUC(幸運)となっています。
初めは俊敏性をDEXにしようとしていたのですが、器用と俊敏性は分けた方がいいかなと思った結果このとおりになりました。