十八話 弾幕ゲーは基本苦手なんだってあれほど
日曜に更新できるとかぬかしたやついるらしいですね。おや、今日は月曜……(カレンダーを見ながら)
そして今回の厨二病度は高めと思っている。
「これ、この特徴を与えたら天使になるってやつ……あの妖精を天使にしたら、助けて貰えないかな」
と初瀬さんのご意見で我ら三人は天使にする方法を模索して駆け回っていた。
妖精さんを天使に変身させる……ああなんとメルヘンチックなものか!
だが現実は非情である。
件の妖精さんは狂ってて、悪魔にもなれて、般若の形相で突進してくる。
ホラーだ。
なにがメルヘンチックだ童話のような可愛らしいお話だ三味線とともに語られる怪談話の間違いだろう。
とにかく、今度は今度で天使の特徴を与える方法と天使の特徴探しに没頭中である。
と言ってもこんなにピンポイントな答え見つかる気がしないので、というか見つかるような幸運出し切ってしまった気がするので床に座ってうんうんと唸っているのである。
「神話の中に、天使の模様の絵……なかった?」
「ありませんよーぜーんぶ文字です。ラノベじゃないので挿絵なんてありませんね」
「じゃあ、描写で説明したようなのは?」
「ないですよ。それこそ有り得ません、昔々あるところにおじいさんとおばあさんが……で始まる童話に桃の柄の細かい描写があっても興醒めでしょう?
あっても紋章の名前だけ、おそらくこの世界では知っているのが常識なんでしょう……『玉落ちる久遠の印』って単語が書かれてるだけなんですから」
「じゃあ、地球の天使で思いつくものは?」
「十字架……?」
「桃……?」
「颯希、桃は仏教」
「そうか……」
なんて会話をダラダラと続けたくなる平和な時間である。
実際はダラダラ続けるほど平和から遠ざかって行くのだが、具体的には空腹的な意味で。
「じゃあ狂った妖精にお絵描きとか! それっぽい模様を直接書き込んであげればきっと!」
「……どうやって書くの?」
「いっそ、なんか持たせてみます? ……天使を描いた紙とか」
「そんな簡単なことなら苦労しねぇだろ……」
どうなのとヤンキー座り中の上月さんが初瀬さんを見た。
いいな、俺もスカートとか気にせず胡座とかしたいよ。初瀬さんが止めるんだもん……こうなったら俺のヘイトを上月さんに向けて嫌がらせするしかなかろうよ。
ギフトガチャで大当たりした分際で……俺みたいに女の子になればよかったんだよくそー今からでも俺の女体化に感染機能追加されねぇかな……。
ムムム……と上月さんを睨んだら、怖気づいたのか一歩下がった。
「どうして……特徴を与える話に飛び火したのか、わからないけど。持たせても多分意味ない……杭を打ち込むくらいじゃないと」
「魔法をぶち込む的な感じか?」
「そう、そんな感じ。……どうしてかは難しい理由はあるけど、説明が長くなる」
「じゃあ、簡潔に言うと?」
「ケイオススピリットは、魔法に近い」
「……えー、もう少し詳しく言うと?」
「あの本の説明にあった、普通の妖精の生まれ方……正体不明のナニカと魔力で生まれる……魔法を分解すると意味するモノの塊、ナニカが何かを意味するモノなら……そこに魔力を流して起動された天然の魔法。
単純な、原初の細胞で出来た生き物みたいな……そこに思考があるかはわからないけど」
「うーんますますわからん、浦谷は?」
「ほとんどわかりません」
もはや初瀬さんの魔法の常識と俺たちの常識は相当かけ離れてきているらしい、つまり意味するモノとか何とか言われても頭ごっちゃごちゃでわからん。
ラノベ風な解釈をしてもいいがあってるかもわからんから余計なことは考えず新しい要素を覚えるに身を任せる。こうだろうという思い込みは後の学習の妨げになるからね。
「うん、気になるなら後で教える。今は誰もが天使を連想できる模様とか印とか探して……魔法陣に書き加える。それをアレに撃つ、そうすれば多分特徴を与えられる」
「……魔法陣に書き加えられるのか?」
「うん、これなら多分、悠羽もすぐわかると思うし、颯希もすぐ理解出来ると思う」
「いやー、そうじゃなくってさ。アニメとかであるじゃん、魔法陣に文字が書いてある部分。詳しくはわからないけど天使をハッと思い浮かべるものを探してるなら、誰でも天使を思い浮かべる文章を書き込めばいいんじゃ───」
「それだっ!」
滅多に大声を出さない初瀬さんの喜びの叫びが部屋に響いた。
「悠羽! 悠羽! 神話の天使が出てくる文章! 出来れば何章何節含めて教えて!」
ナイスなアイデアを思いついた科学者ってこんな感じに興奮するんだろうな……と、初瀬さんが薄茶色の前髪を払って迫ってきた。
「え、ええ……わかりました……。これで問題解決……ですか?」
「まだ天使に魔法を打ち込む方法が残ってるだろ……だって初瀬、初めにあいつに魔法は効かなさそうって言ってたよな」
「うん! だけど大丈夫、そこは解決してる」
「……? どうするんだ?」
おっと、これは初耳だ。
俺の可愛らしい猫耳を初瀬さんに傾けて興味を示してるぞーとアピールをした。
上月さんも顔を前のめりにして聞く気あるぞーアピールしている。
どんどん脱出に近づいてきて興奮してきているのもあるかもしれないが、それ以上に研究や考察に思考がトリップした初瀬さんの扱い方を俺以上によく把握しているのだろう。話を逸らさせず促して行き過ぎたら止める、そのための構えにも見えてくる。
さすが幼なじみだ、初瀬さんの制御方法をわかっている。その調子で今度俺に母親気分で風呂に乱入して体を洗ってお世話してくるのを辞めさせる方法を教えてくれないだろうか。
「これ、この石を使う」
そういって初瀬さんが指を指したのは火がついたランタン。
そういえば、このランタンはなんか石によって灯っていたなと思い出す。
「こっちの持ち手……は純度が低い……中の石が好ましい」
「純度?」
「この石は魔力でできてる。見た限りは、そう……持ち手のこの石は不純物が多いけど、燃えてるのはほぼ完全な魔力の塊」
「ファンタジーでいう魔石とか魔力結晶とかそんな感じの……ですか?」
「そんな感じ、これになら魔法を組み込みやすそう」
「でもそれ、内包する魔力が多くて全然魔力が入り込まないですよ……?」
「私なら、大丈夫!」
ふふんと謎の自信に胸を張った初瀬さん。
そんなこんなで最後のひと仕事が始まった。
◇
「会いたいと焦がれるほど会えないもんなんだな」
「なんかの歌の一節ですか?」
「今の状況だよ」
「で、会ったらあったでそれは唐突で心構えができていないんだ」
「そういうこというと、ほんとに突然出てくる……出てきて欲しいけど」
ランタンの一部を素材にするおかげで安定した光源がなくなってしまったので、俺が指先に付けた火だけで廊下を渡るはめになっている。
雰囲気が出て怖いのか、上月さんが俺と初瀬さんに挟まれた位置でゆっくり歩いてるのが面白い。男としてどうなのだといいたいが、この石造りの迷宮に来たばかりの時を考えると初瀬さんが来て緩んで頼ってる感がある。
……やっぱり男としてどうなんだ。初瀬さんは女の子ぞ、守ってやるくらいの気概を見せてやれよ。
こうやって上月さんが初瀬さんに懐いてるから、初瀬さんの異常な世話焼きな性格が形成されたのではなかろうかと邪推してしまう。
「なあ浦谷、怖くねぇの?」
「じゃあ先頭に出てくださいよ、そこらの遺品から剣は拾ってるでしょう? じゃあ護身はバッチリですよね?」
「……いや、あの、なんか暗くね?」
「いつも……怖気付くの、早い」
「すいませんした」
初瀬さんにソイツ俺と二人きりの時は比較的平気な顔してましたよって言ってやりたい。この二人の状態って初瀬さんの世話焼きが先か、上月さんが頼るのが先か、どっちが原因で形成された関係なんだろ。
それはそれとして、軽口を叩いて歩いてお気楽にお散歩しているのはいいが、全然お目当てのバケモノが来ない。
これが物欲センサーの亜種か。
「うーん……全然来ませんね」
「昼寝中とか?」
「お昼まで、あと十時間以上はある」
「……夜中寝とか?」
「それそのまま、寝てるって言えばいい」
「じゃあ……俺、一度孤立してみましょうか? 一人になればやってくるかもしれませんし」
「ホラーは一人になったやつから消えてくって知ってるか?」
「つまり向こうから接触してくれるってことじゃないですか。大丈夫、出会ったらすぐ逃げてここに来ますよ」
「……悠羽、それ、フラグ」
そんなこといったって、出てきてくれなかったら一向に脱出の機会は訪れないのだからやるしかなかろう。
火を灯せて物理系の戦闘能力あるの俺だけなんだし。
という訳で目の前の二つに割れた分かれ道の左に俺一人で行くことになった。
説得に時間がかかってしまった。
分岐点で初瀬さんと上月さんの心配そうな視線がこちらに刺さるが大丈夫だろう。
なんか探検気分でワクワクして今ならなんでも勝てそうな気がする。
五分くらいしてからこっちを追ってくるというので遠慮なく先に進める。
確か地図ではこの先に分岐路はなかったはずだ、迷う心配はないと思う……突然道が変形しない限りは、でも今までそんなことなかったしな今更あるとは思えない。
ケイオススピリットに会ったらそくUターンで初瀬さんたちの元へ行く。
突進は部屋に入って回避してモンスタートレインするだけの単純な遊びだ!
単純であっても簡単なわけではないけどね。
簡単だったらどれほどいいか、というかこんな難易度作戦をどうして俺は考案したんだ。
どうして考案したんだ……?
だって直接命に関わるってわかってるじゃないか。
別にあれを倒せるほど力があるわけでもなく、楽観視し続けて保険のひとつも用意していなかった。
最近の俺の行動と何も変わらないって思ってたけど、本当にここまで命に関わるのかもそれ以上なのかもわからない存在を相手にしたのは初めてだぞ。
ならば、ホラゲーの登場人物らしく少しでも怯えるべきだろう。
日本風ホラーは日常から狂気的な非日常に迷い込まされる、しかし俺の状況は一度非日常に入り込んだ後だった。
そこの違いで警戒を怠ったのか?
そうだとしても、あのココで初瀬さんに会った時に見た、初瀬さんの怯えが正しいんじゃないのか。
親しい人が来てから緊張が解けたのか少し怖がりが露呈し始めた上月さんの反応が正しいんじゃないのか。
じゃあ、俺は?
心配されても最後まで楽観視していた俺は?
……いやーな予感がしてきた。
ゾンビゲーで「あんな恐ろしいヤツらがいるところに再び行けるかっ!」とか叫んで逃げた先の保健室を安全な部屋だと思い込んでいるキャラのような。あっこいつ死ぬなっていう立ち位置にいるんじゃないのか?
……今からでも引き返すべきではないだろうか。
全部投げ捨てて初瀬さん達に合流しに行くべきではないのか。
色々考えてる間にだいぶ時間が経った気もする。
火を消してスキルの暗視効果を頼りに歩いて、結構歩いた気がしなくもない。
俺の恐怖が、一人でいるからこその妄想か……それとも生物として正常に防衛するための本能か。
この疑いと迷いをすぐにでも断ち切って潔く引き返すのが最適解だ。
ここまで疑いだしたら真実であれそうでなかったとしてもどちらにせよ行動に影響が────。
ガンッと眼前に振り下ろされる人の腕。
感じた恐怖と危険は果たして何がもとに生まれたものか。
反射的に後ろに下がった俺は眼前に聳えるバケモノを見た。
「狙い通りやってきやがったのか……俺が火に入った虫だったのか……どっちだろうなぁ」
「キィ……キィ……」
「ははっ獲物を見る目じゃん」
つまりなによりに謎の結論を出すより問題ができた!
そう、俺ってば、ただの足でまといのモブムーブをしてたってことをなぁ!
泣きそう。
どうしよう。
「どうしようもないよねぇ! ……ぎゃぁ──ッ!! こわっ掠った、服ちょっと破れたって。ちょっ、おま、正々堂々一騎打ちならせめて“やぁやぁ我こそは”って名乗りあげてくれ!」
その間に俺が不意打ちするから。そんな心の叫びと共に食らったら死ぬと脳が訴えかけてくる腕の横薙ぎを躱した。
必殺の一撃は、しかし大技ではなかったらしい。
通常攻撃みたいに腕をブンブン振り回して、立てた爪でこちらを引き裂こうとしてきやがる。
出会い頭の初手突進だった今までと行動パターンが違うのが気になるが、こちらのがまだ対処をしやすいので素直に感謝しておこう。
うーん、それにしても格が違うね。
事前にそこらの遺品から拾い上げていた剣を鞘から抜いて、ようやく俺は受け流すという手段を得た。
剣を抜いてやっと受け流すである。反撃などできようはずもございません。
相手の懐に飛び込んだら手足バラバラの骸になる未来しか見えやしない。
STRが、筋力が足りないんじゃ!
ガリガリと寿命が削れるような錯覚に呑まれながら避けて躱して受け流して、ケイオススピリットの攻撃の直撃を防ぎながら後退していく。
一振で石の壁を割る怪物だ。少しでも掠ればそこから肉が抉れて……そこから先は考えたくもない。
だが、ここまでの轟音だ。後方の初瀬さん達も気づいてこっちへ来てくれるだろう。
来て、くれるよね? 無茶で阿呆な行動をする俺に愛想を尽かして二人で脱出ルートを探しているとかそんなことはないよね? そんなことがなかったとしても、目の前の怪物がもし防音の結界とかそういう感じのやつを用意していたら?
……初瀬さん達に合流できることを願って後退するペースをあげよう。
「つぁーっ! クッソ、だから一対一は苦手なんだ!」
『魔力知覚』で全て感じ取るのも億劫なほどの莫大な魔力が渦巻いて、ケイオススピリットの腕に収束する。
すると腕の周囲が歪んで見えて、歪みは片翼の翼を形どった。
魔力そのものが空間を歪めたなんて考えたくないから、もっと単純に魔力の力場が翼を作ってそこを通った光がなんやかんやで歪んで目にそういう風に映ったと考えておこう。こっちの方が説明がつきそうだしね。
楽観視しないと絶望的な力の差に心が砕けそう、さっきまで楽観視に違和感を覚えたのに今度は自らそうすることになるとは些か奇妙に思う。
さて、翼を作っただけなんてことは考えられない。
次に考えられる翼の攻撃転用はなんだ。
「風を起す、転じて魔力の翼で魔力を放つとかか、なっ! ……ひゅう、あったりぃ!」
正解だったとしても空間が歪んで見えるほどの力の奔流とか聞いてないけどね! ……うーん理不尽!!
狭い廊下で安全地帯も少ない、ならどうするか。
「かんったんっ!!」
戦闘開始から後退していた理由は二つ。
一つは言うに及ばず、初瀬さん達に合流するため。
もうひとつはケイオススピリットに対する対処法だ。ここに来てからアレにであってずっとやってきた方法。
「部屋に……入るぅ!」
運良く、ケイオススピリットの攻撃の余波で扉が壊れていたお陰でドアノブを回す手間が省けた。
背後を力の暴力が通り抜けたのを感じ取りながら、振り返って部屋を出る。
するとすぐそこに必死の腕が。
「それは、読めてまっ、す!」
前方に飛び込むように避けて、地面を殴って進行方向を空に浮いた蹴伸びからケイオススピリットの逆側へ転がるきりもみ回転に変える。
回転の勢いがついた俺の体は地を転がってケイオススピリットから離れた場所で文字通り跳ね起きる。
寝転んだ状態から回転しながらいきなり立ち上がるのって、武器を持った状態だと意外と訓練が必要なんだぜ。
要するに、石畳を転がるの結構痛い。石畳を殴ったのも結構痛い。ジンジンする。
「この調子で下がるしかないか、なっ!」
おっと。
俺としたことが、いつものコトを忘れるところだった。
地面を全力で蹴って弾かれて、空中で剣を鞘に納めた。
カチンッと聞こえた音を合図に無理やり笑う。
これだけの動作。
俺の数多ある自己暗示に近いロールプレイの合図のひとつ。
安定したパフォーマンスを行うための、心を高揚させて興奮されるための儀式。
戦闘の興奮を自ら発生させるためのロールプレイ。
思えばこの世界に来てからこれをやる機会はあまりなかった。ゴブリンの時は今のによく似たことをやった覚えがなくもない。
「あとはクラスで一番を決めた斬り合いの時とか、上月さんとの訓練とか……初瀬さんから逃げる時とか? ……ひははっ、でもここまで明確にテンションを上げたのはひっさしぶりだな!」
悪役の面被ったようなテンションになってるけど、しょうがないじゃない!
ゴブリンの時のあの煽りとか、『ドキ! 魔法ナシのトーナメント!! ポロリもあるよ』の準決勝最後の悪役ロールとか、普段では言わないようなことを言っちゃうのが異様なテンションの時ってもんだろう。
誰でも経験はあるはずだ、例えば……そう、深夜テンションでネットに普段は控えるような恥ずかしい内容を打ち込むみたいな。性癖大発表会だぜいえーいとかしたくならない? ならないの? ならないのか……。
でもほら、こうでもないと効率がいいとはいえ戦闘中ゴブリンの前で仰向けになろうとか思わないでしょ?
まぁ、こうなったところで何があるってそうそう利点なんてありはしないんですけどね!
「強いていうなら、恐怖心が、薄れるっ!」
さっきより俺の体スレスレを攻撃が通り抜けていくのはケイオススピリットが学習して洗練されたのではなく、俺の怯えが無くなったからだ!
そうだと思いたい、思い込もう!
たぶん、そう!
だから今なら、さっきの翼の広範囲攻撃の小さい隙間にも体をねじ込ませられる。
出来ると思ったら出来る。できなきゃ、死ぬ!
だって目の前には同じ攻撃来てるし近くに扉ねぇしぃ!?
「ああ、あぁああ!!」
爆音へ突進して、剣で裂いたような隙間を潜ってすり抜ける。
クソほど密度が高い弾幕ゲーを気合いで避けるのと同じ原理じゃあ!
VRゲーに弾幕ゲーってやっぱ実装したヤツら頭おかしいし、難易度異常だし、そこらの攻撃躱すより難しいし、だけど今この瞬間役に立ってるんだから不思議な因果だよな!
でも今回の弾幕は透明度90%のほぼ見えない弾幕でーす! しかもどちらかというと弾幕よりはイライラ棒の方が正しい、しかも強制スクロールかつステージが常に変動するやつな! これなんて鬼畜ゲー?
「っしゃぁ、一発クリアだ! ざまあみやがれこんな攻撃痛くも痒くもないわだって当たったら死っ──ぁぁああああっ!? 余韻に、浸らせろぉ!!」
この妖精両腕に翼を纏って連打してきやがった。
溜めのモーションは?
大技後の隙は?
んなもん存在しねぇとばかりに大技連打は反則だぞ反則!
「少しは、レギュレーション守りやがれ! ゲームバランスを崩すな! お前は魔法少女の変身中に攻撃する外道かよ!!」
ばーか! と叫んで、微妙に涙目になりながらも迫り来る力の塊を避けて、避けて、避けて……まず、今転びそうになった。これがヒヤリハットってやつかな。
六回ほど必死の攻撃を避けた先は、攻撃が止んでいた。
「おやぁ、まさか大技連打で疲れちゃいましたぁ?」
ねぇねぇと頬をつつくようなノリで、攻撃を止めたケイオススピリットへ斬り掛かろうと───ッ。
「ぐぁっ!?」
足に打撃。
ガンッと力強く殴られて、駆け出した体制の俺は重心を預けた足を叩かれたお陰で抵抗の余地なく横から転ぶ。
えっぐい攻撃だな、いきなりのクールタイムを思わせて油断させてから視界外の一撃かよ。
そんな知能あったのか、それとも獣の狩の本能か?
どっちでもいい、問題は俺の首目掛けて振り下ろされた腕なんだけど。
まあ、それも今、解決されたな。
ギィン、と頭上で音が鳴る。
俺へと振り下ろされるケイオススピリットの腕が、力強い刃で押し止められていた。
「よう、来てくれると思ってたぜ……じゃないや、来てくれると思ってましたよ」
「……それ、素?」
「さあ、どうでしょう?」
如何なる手段かあの一撃を受けきった鉄の剣を両手で持つその人物、上月さんに感謝の意を込めてケモミミ美少女のめいっぱいの笑顔を向けてやった。
今回で終わらせようとしたのに終わらなかったやつぅ!!




