十七話 中ボスじゃなかった
誤字修正してないし、なんなら深夜テンションで書いた文章だし。
何書いたか覚えてるし覚えてない、投稿したら一応読み返します。
部屋の壁に座り込んで、霞む視界の中必死に酸素を補給する。
バクバクと聞こえる自分の鼓動はとても早い、そろそろ一生の鼓動の回数使い切って死ぬんじゃないかな、なんてふざけたことを考えたら途端に怖くなってもう一生激しい運動をしたくなくなってきた。
隣を見ると、初瀬さんも壁に手を当てて息を荒くしている。
「ぜぇ……ぜぇ……」
「もう、走り、たくない……」
「お前らそんなに疲れたのか?」
「……STRの差三桁を、舐めないで欲しい」
「ソコ、堂々宣言すること……? 舐め腐って余裕で俺についていけるってドヤ顔してたの浦谷と初瀬だよな?」
STR値四桁台のクソ野郎がいかにも余裕そうな表情をしているところがすごくすごく憎たらしい。だんだん頭の中で相手の悪口を思い浮かべるようになったあたり、俺も上月さんに慣れてきたのか。
んなことどうでもいいのであの素敵な主人公顔に三、四発拳を顔面にぶち込みたい。
けど疲労感でそんな気力もすぐに失せた。
立ち上がるのも億劫だ。
あれからどれほど経ったか。
時計がないのでわからないがまだ朝にはなってないと思う。
そんなにこの場所を探索してないし、せいぜい二時間くらいか。
俺たち三人は石造りの迷宮を駆け回って脱出の糸口を探し回っていた。
この場所を探し回るためにはもちろん移動する必要があり、移動するということは狂った妖精にエンカウントする危険を常に孕むということだ。
既に初めの遭遇を含めて十数回は遭遇している。
そろそろ顔見知りってことで見逃してくれないかな、なんて思いながら歩いてたらホラゲーみたく天井からぶら下がって現れた時は肝が冷えた。
それにしてもさすがは現実だ。VRのホラゲをやっていた時以上に怖かった。上月さんなんて腰が抜けて二人で必死に運んだもん。
俺みたいな美少女が「こ、腰が抜けて、動けません……運んで……くれませんか?」って上目遣いで頼んでくるならいいが男が腰が抜けて動けねぇとはなんとも誰も得しない。
肝が座ってねぇ野郎だなァと笑って置いていきたくなる……というかネットの友人なら余裕で笑って置いてった多分アイツらも笑って許してくれるさ次回があったら今度は俺が同じような目に遭わされるが。
その分、今の俺はもし腰が抜けても周囲が心配してくれるし需要があるので安心だ……美少女ボディのいい所である。
こういう時は幼女ボディバンザーイだ。
「悠羽、たまに一人で笑ってるの怖い」
「すげぇな、人間ってこんなに気味悪く笑えるのか」
外野がうるさいが、そういえば段々と息も整ってきていた。
「えーっと、ではこの部屋の探索を……」
「終わったぞ」
「……え」
「うん、悠羽がにへにへ笑ってる間に終わらせた」
「早く……ないですか?」
「だって何も無いんだぞ? そりゃ見回して終わらせるさ」
「つまり、今回もハズレ、と……本当にあるんですかねぇ過去に迷い込んだ人の遺品」
脱出の相談になった時、まず問題になったのが知識の浅さだ。
俺たち三人は……というより俺のクラスメイトみんな異世界からやってきている。そしてこの世界に来てなんとまだ十八日。
常識も不文律も知りやしない。
文化の中のタブーすらわかっていない。
そんな俺たちが狂った妖精なんてバケモノについて知りようもないし、この空間についても何も知らない。
つまり脱出のヒントになる情報が何一つないのである。
そこで過去に迷い込んだ人の遺品だ。
俺と上月さんが落ちてきたあの部屋にあった骸骨のように、未来を生きる俺たちのためになにか情報を残していてはくれないだろうかと考えたわけだ……初瀬さんが。
余談だが、俺と上月さんはあの狂った妖精をいかに討伐するかしか考えていなかった。
「やっぱ迷い込んだ人、少ねぇんじゃね?」
「それとも骨ごと食われた?」
「怖いこと言いますね」
「あの妖精の好みはヒトの骨で……みたいなアレか」
「悠羽は尾の骨まであるから、骨が多くて集中的に狙われそう」
やめてください初瀬さん、恐怖で死んでしまいます。
俺はヒトではないから大丈夫だという説を是非とも推していきたい。
やっぱ呪いじゃんこの姿。
ディスペルさせろよ。
「思ったんだけど……餓死より妖精にやられた可能性の方が高くないか? あんなの、初見じゃなくても回避失敗の可能性あるでしょ」
つまりみんな食われてるということか?
キボウ……ナイ?
何を言いたいのだ、と続けるように上月さんを促す。
「てことはさ、廊下に落ちてるんじゃね?」
「……つまり、暗視を持った俺も見つけられなかった廊下の遺体を探し出すということですか?」
「遺体は妖精が食べてるかもしれないだろ? 落し物だよ、あいつの突進に砕かれなかった荷物の一部……暗視って言ってもはっきり見えるわけじゃないんだろ。しかも浦谷、お前には警戒のために音に注目してもらってる……本の断片のひとつふたつ、メモの一枚や二枚見逃してても不思議じゃないだろ」
「じゃあ、今から通った道引き返すんですか? しかも音にも視界にも注意しながら」
「まあ、そうなるよな。お前の負担が多すぎる」
「悠羽の音のお陰で何度か助かった」
「問題いっぱいだし夢はないなこりゃ」
希望をください。
いっそ誰かが狂った妖精に張り付いて、囮として逃げ続けてくれればその間安心して漁れるのに。
囮をするポテンシャルがある人間なんていやしないが。
さすがに、十数日で突如増幅した自分の体の力を扱う方に慣れたうえで命がかかったぶっつけ本番の勝負に出ろとはライト層の人間に言えない。ライト層とヘビー層……フルダイブVRが存在する現代、異世界ものの色々な要素にスピードにライトと廃人で表現して説明して理解されるイイ世の中である。
ウチのクラン……というかゲーム友達がいたのなら遠慮なく言ってやるしジャンケンで生に……囮を決めるものだがあいにく彼らはこの世界に居ないんだよな……。
何だこの表現、この世に居ないって死んでるみたいで笑える。もし生きてるウチに会えたら煽ってやろ。
「で、どうするの?」
「どうするんだろうね」
どうしようもないね。
わぁいもう俺にだけ貢献度で経験値ボーナス付かねぇかなぁ!
とりあえず今から通る道だけでも、光が届きにくくて俺の目でも見にくい場所をしっかり確かめる運びとなった。
やること多すぎ、過労死するでコレ。
と、冗談はさておき意識を向けると意外と物が落ちていた。
意識を向けてない時は全く見つからなかったのに不思議なものだ。
ここ、そういう空間だったりするのだろうか。
まあここそのものがホラゲの異界みたいな雰囲気あるからな。魔法がある世界で意識を向けないと気づけないものがいっぱいあるとしても不思議に思わないぞ。
フルダイブVRでもそういうのあったし、慣れっこである。
廊下の隅に落ちていた布をまくりながらそんなことを考えていた。
ちなみにまくった先にあったのは髪の毛の塊だった。
コワ。
怖い、下手に骨があるより怖い。
考えても見ろ、暗所を覗き込んだら髪の毛の塊だぞ。
毟ってカツラ作れば羅生門だ。
持ち主はどこへ行った。
狂った妖精に食われたか、轢かれたか、餓死寸前でつまずいて普通に死んだ後に回収されたか。
まあ、なんでもいい。
「廊下にまれに物が落ちてる……当たりですね」
「あんなこと言ったけど、落ちてなかったらどうしようかと思ってたとこだったんだよね」
よかったよかった、そう安心しているようですがしっかりこちらを見てください上月さん。
遺品です。
あなたが落ちててよかったと思ってるものの持ち主はほぼ確実に死んでますよ。
ほらこっち見てください、ビビって目をそらすな。
キッと上月さんを睨んでみたが、そもそもこちらを見ていないので気づいてくれるはずもなかった。
「えと、これから、宝探し始まり?」
「いえ…………鬼ごっこです」
キィキィと声が聞こえ始めたのでとりあえず避難するところから始まった。
◇
「あ゛っあっだぁああああ!」
「あった!?」
「ずかん、図鑑らしき専門書っぽい何か! ところどころ破れてますけど付箋が貼られたページは無事です!」
うおおおお!
と発情期の猫より煩い雄叫びをあげた俺は全身で喜びを表した。
あれから一時間も経ってない。
廊下見てたらチラホラと手帳が落ちているものだから読んでくとだいたい日記である。絶望に染ってく日記シリーズが揃いそうななか、ついに専門書らしきものを見つけてやった!
勝った、フルコンプリート!
きっと評価はSランクだ!
そう思ったのもつかの間、さっき拾った落し物の剣が収まる鞘を見てはっと思い出した。
「まだ……脱出の作業あるじゃないですか」
「なんなら、ソレにヒントがあるとは限らない」
「あ゛ぁ……」
思わず崩れ落ちた俺は死んだ瞳で近くの安全圏、すなわち部屋の中に入り込むことを提案した。
「初瀬さん……読んでください。俺、しばらく五感をシャットアウトしたいです……」
「うん……うん、疲れたね。頑張ったね、休んでいいよ」
「わぁい!」
「初瀬、初瀬……俺も休んでいい?」
「颯希は体力一番ある。仕事も少ない……けど休んでいいよ」
「ダメって言われるパターンかと思ったんだけど……どうして?」
「唯一の戦力だから」
ぐっと拳を胸の前で握り、暗にこれからも働くんだからつかの間の休息を楽しめと言われた気分になった上月さんは泣いた。と思ったが泣いた振りしてただけだ。
でも、しっかり両手両膝をついて落ち込んでるロールプレイ。素人なりに表現してる点はしっかり評価したい。
うーん五点。十点満点ね。優しめの評価です。
「小さい頃の……優しかった初瀬は……どこ……」
「小さい頃の、私を守るって張り切ってた、颯希は……どこー?」
いいね初瀬さん良い返しだ。
その調子でもっと楽しい返しを覚えようね。
それはともかく幼なじみらしいこの二人、定期的に見せつけてくるというべきかなんというか、傍から見たら長年連れ添った伴侶感が出てるものだから面白い。
唾吐きたくなるようなイチャイチャではなく互いの気持ちに気づいてない両思い感があって焦れってえなと第三者がキューピットになりたくなる仲良しアピールなお自覚なしなものだから、それを見た俺は自然と指がサムズアップしていた。
あれかな、小さい頃一緒にお風呂入った仲とかそういうやつかな。
で、どちらかが昔一緒に風呂に入ったんだからいいじゃんと大して気にしたようすもなく……げふんげふん。
邪な妄想は純粋な二人を前にはやめておきましょうね。
そういえば、もし初瀬さんが母親なら上月さんが父親枠に……ならねぇな、この性格で父親はねぇな。
ともかく、だいぶ仲はよろしいご様子。
さすがにこの二人の関係がココで死に別れは悲しすぎるので二人とも何としても脱出して欲しい所存であります。
それはそれとして初瀬さんが壁に寄りかかって本を読み進めてくれている。
付箋が貼ってあるところは無事そうと言ったって付箋がひとつとは限らないので確認するページ数は多い、とにかく精査する他ないのである。
あの調子だと、しばらく時間がかかりそうな───。
「終わった」
全然かからなかった。
うそん。
「早っ、早くないです……か?」
思わず驚いて大きな声が出たが、上月さんなんて驚いて目をぱちぱちさせることしかできてないからどっこいどっこいである。
「“ケイオススピリット……別名:狂った妖精”……これだよね」
「おう……思った以上に狂った妖精って名前が世に浸透してたのか……」
「正式名称はケイオススピリットなんですね……で、一応聞きますが初瀬さん。その本に英語でケイオススピリットと書かれてたわけではないですよね」
「もちろん」
「じゃあ、そのままパガノ語から日本語に訳して混沌の精霊で良くないですか?」
あれかな、カッコイイからとかそういう厨二心が疼いてしまったのかな。
「……鑑定。実際に見ようとした時はノイズだらけで見えなかった。けど、名前を知ってから記憶を思い出すと何故か名前があった」
「……それは……なんとも、不思議な感じですね」
「うん、不思議……続き読む?」
「ああ、頼む」
「お願いします」
そうして初瀬さんがあのケイオススピリットについてを読み上げていく。
それにしても、こうも簡単に見つかるとは運が良かったのかもしれない。
「“この妖精は、地脈の多く流れる場所に出現しやすい。未だ不明のナニカと多大な魔力を元に誕生する通常の妖精とは違い、ペイトンの天使創造で予測された魔力量を遥に上回ると思われる莫大な魔力がある場所で誕生する妖精なため天使か悪魔の類の生物であるという説もある。
しかし過去に目撃例のあるケイオススピリットには神話上の天使や悪魔の類似点は微塵も見つからない。
学会では大きく分けると、人を襲うため悪魔である派、天使と悪魔どちらでもない力を持ちすぎた妖精である派、天使と悪魔のなりそこない派がある。
筆者は、天使と悪魔のなりそこない派、以後なりそこない派の天使的悪魔的特徴をケイオススピリットに与えると天使もしくは悪魔に変わるのではないだろうかという考えに注目し”………………ごめん、ここから、破れてる」
「お、思いっきり重要そうなところが、全部わかったな」
「で、です……ね」
さっきまで喧嘩売ろうとぶった斬るシュミレーションしてたやつがまさか天使やら悪魔やらそれに準ずる存在かもしれないとか恐怖がぶり返してきてチビりそう。
運がいいってなんだよ。
ここまで色々知れて良かったね!
でもハードモードだってより強く自覚できてしまったよわぁい!
レベル一桁キャラに襲いかかる裏ボスじゃん。
負けイベ発生よ、ふざけんな。
俺たち名目上か何か知らんが魔王を倒してくれって呼ばれたけど、今俺たちの前に立ちはだかってるのそれ以上っぽいバケモノなんですけど。
どうしろと……どうしろと!?
そろそろ初瀬さんがメインヒロインでは無いことにお気づきだろうか。
……ええ、この人ただの母親枠です。




