十六話 エントリーナンバー3番!
更新おくれまちた……3000文字ボツにしたから実質書き始めたの日曜からなんでしゅ……。
「王城には入れた……だけど、悠羽どこにいる?」
どうしても邪魔な兵士を背後から気絶させて、初瀬は窓から城に転がり込んだ。
案外楽に侵入できたなと息を吐いた。
今更だがここまで焦って探しに来なくとも、浦谷は朝方になれば勝手に帰ってくる。
それにすら気にせず、気づいても無視してここまで来てしまったのは何故かと初瀬は顎に手を当てる。
どこかおかしいおかしいと何度か自分の状態異常欄を確認してしまったほどだった。
初瀬の今考えられる要因とは非常に少ない。
落ち着いて候補を確かめてみると、一つだけ酷くしっくりとくるものがあった。
「……夢、大して覚えてもいない悪夢」
夢に関して強い嫉妬の感情という内容しか覚えのない初瀬は首を傾げた。だが、どうしてか思い起こそうとする度に浦谷の幼い少女の顔が思い浮かぶ。
どうしてか焦らせられる。
不思議でしょうがない、そしてそれはそれでしかないものだ。
そんな薄い感情がなぜかどこか根源的な所を刺激して、初瀬を突き動かすのだ。
「でも……ここまで来たからには、引き返すのもなんかアレ」
気分の問題で気絶させられた兵士にはお悔やみ申し上げる、そう言葉を残して王城探索を始めた。
といっても、案外簡単なものだ。
先程のように兵士を気絶させるのは最後の手段、侵入者の顔がバレることは絶対にあってはならないから気を使うし、何より後処理が面倒くさい。
しばらく見つからないように近くに隠す必要があるからだ。
どちらにせよ後で大騒ぎになるだろうなと思ったが、一人二人やったからにはもう三人も四人も変わりはしないと妙な図太さと空回りで先に進んだ。
兵士がいたら隠れてやり過ごす。
最悪、見つかったら眼前で小さな爆発を起こして逃げる予定だ。
だから顔がバレないように頭に被せた粗い布を揺らして浦谷が前に話した王城の簡易地図を思い出す。
「行くなら……図書室?」
目の前をゆっくりと通り過ぎていった二人組の見回りを荷物の影でやり過ごして呟いた。
地下にあると聞いている図書室の入口確かここに近い場所にあるはずだ。
地下図書館なんて場所に浦谷がいると考えると探すのが一苦労だろうなと考えた。
そもそも、浦谷の言葉自体“図書室”と“図書館”ので安定していなかったのだが城の中にある部屋なのだから図書室の方が表記的にはあっているだろう。
ただ広さを聞くとなんとも図書館の方が正しいのではないだろうかと思ってしまうデカさがあるらしい。
出入りを黒幕らしき人物から許可されたとかいう浦谷がいるのだから帰りは楽になるだろう。
さっさと見つけて、なによりも意味のないこの王城侵入を終わらせてしまおう。
……あの元気な猫耳娘を見ればきっと、初瀬の心に居座った燻るように陰気な不安を取り除けるはずだから。
きっと……きっと。
てこてこと前から足音が聞こえてくる。
考え事をしていたからか一瞬反応が曇ったものの、なんとか物陰に飛び込むことができた。
「……誰かいるんですか?」
何かを探すような若い女の子の声だ。
どうやら一手遅れて隠れる瞬間を目撃されたらしい。
間に合ったと思っていた反射は、どうやら自分の思い込みらしい。
バレているとわかってもどこか認められない自分がいることに初瀬は驚いた。
それにしても、今まで大人の兵士しか廻っていなかったというのに、ここに来てどうしてこのような子供の声がするのだろうか。
ふと疑問が湧いて、それが初瀬の知識欲をモヤモヤと湧いて刺激する。
声の主の前で小さな爆発を起こして驚かしその隙に出ていって気絶させるついでに顔を拝見させてもらうとするか。
そんな気軽な気持ちで初瀬は行動を起こしてしまう。
起こしてしまった。
起こしてしまった。
なるほど、なかなか奇妙な表現かもしれない。
この先の失態を先にばらしてしまうような物言いだ。
それ以外の意味などとっさには思い浮かばないだろう。
だが大丈夫、それ以外の意味を考えなくても問題は無いから。
先のことを言ってしまっているのだから!
やってしまったと未来の初瀬は一瞬であろうと後悔するのだから!
いるとは思えないが相手が少女の一般兵なんていう稀有な存在ならなんの後悔もしないだろう。
無論、侍女でも、その他王城で働くどういう人間であったとしても!
だが後悔した。
何故だ、なぜなのだ!
だって……それは…………悪夢へ一歩踏み出す要因だったのだから。
「ひっ」
ポンッと小さな爆発が声の主の前で発生する。
なんの前触れもないものだから、突然眼前で発生した小さな突風に思わず目を瞑った誰か。
怯んだであろうその瞬間に飛び出した初瀬はそれ見た。ボロ布のような服とは反対に、透き通るように綺麗な金の髪を持った少女の姿を。
王城に似つかわしいのやらそうでないのやらごちゃ混ぜになる感情が、だがこの少女は高貴な身分にあったのだろうと漠然とした結論を出す。
「……っ」
思わず、首に伸ばそうとした腕がピタと停止する。どうしてそんな少女がこんな格好で出歩いている……しかも王城を、となぜか高貴な者であるという前提で思考を運ぶ初瀬は自分のおかしさには気づかない。
言い表すならば狂人の発想というべきか洞察力というべきか、点と点を飛躍させた線で繋ぐような気づきを確信と断じて盲信するネジがひとつハズレた状態。
何が初瀬をこうもおかしくさせたのか、夢か娘か夜か国か世か……もしくはその全てか。近頃の初瀬は自分の置かれた状況の真実に気づいてからというものの精神をすり減らしていた。そこに来て不安を呼ぶ悪夢に身近な者が夜に消えたときた。諸々の発破をかけられた初瀬は都合のいい出来事を自分の目的にでっち上げてそれにすがっているに過ぎないのだ。
それにしては、幾分か不可解なことはあるが。
さて、止まったような空気の中、怯んだ青い瞳と首に見えたネックレスの紐を見てそれ見た事かと後付けするように自分の確信へ正当性を継ぎ足して意味の無い満足感に浸った初瀬は。
◇
「…………」
ぼんやりと石造りの天井を眺めた。
おかしい、現実味がない。
なにも、ない。
悪夢を見た。
ああ見た、確かに見たとも、見ているとも。
悪夢を見たと思ったら娘が消えていて探したらまたわけのわからない暗く肌寒いところで仰向けになって目を覚ます、これを悪夢と呼ばずしてなんと呼べば良いのだ。
何もわからないからこその恐怖を困惑が上回った瞬間を体験した。
初瀬はそう思った。
ゴロンと転がって石畳の床に手を付き起き上がる。
「どういう、ことなの?」
初瀬が思い出せるのは金の髪の少女の青い瞳を見たその時まで。
その後気絶するでもなく、なんでもなく、気づけば今になっていた。
時間は連続している? はっ、冗談を。悪夢から覚めないのだから時間は停止しているに決まっている。
そう叫べるほどの状況に初瀬はあった。
「何が起きているの?」
わからない、何もわからない。
情報が足りなかったなんて次元を遥かに超えている。
正体不明の悪夢を自分は見続けている。もはやそう解釈する他ないとまで初瀬は考えた。
あたりは廊下だ。
果てしなく続く石造りの建物の廊下。
少なくとも、無意識に火を灯した初瀬の視界には廊下の端は見えていない。
そこでぼんやりとした意識が段々と鮮明になり、歩けることを思い出したように初瀬はてこてこと動き出した。
本当に意識が鮮明になったのか、それは初瀬のたぬきに化かされたような困惑顔から真か否かわかるというもの。
何も理解出来ていないことの恐怖をはっきり自覚できていないからこそ無防備に前に進めるのだ。
「あれ、服……夢の中は持ち越せるのかな?」
服が王城に侵入した時の外行きの服だったと気づいた。
よっぽど服が変わらないことが不思議だったらしくぺたぺたと服を触りながら歩いて廊下を進んでいると、右の壁に扉が見えてきた。
扉だ、出口かもしれない。
そんな単純な発想でノブに手をかけようとしたその時、背後からキィキィキィと古い材木が軋むような音が聞こえた。
「…………ぁ」
ここは石造りの空間なはずだ。
木製のものなど現在は眼前の扉しかないはずなのだ。
夢というのはよく変わるものだ、意識があっても変更されるのだろうか。ではそれなら背後は学校の階段の旧校舎的な木製の建物になっているのか。
そんな想像と好奇心が初瀬を後ろに向かせてしまった。
だが、後ろを振り向いてあったのは木造の建物でも、軋むようなものでもなかった。
そこに居たのは青白くすごく不健康な肌をした女性だ。
瞳の下には隈があり、唇は荒れ果てている。
よく見れば美しくも見える緑の髪もだいぶ傷んでいた。
なるほど、退廃的な美しさを色濃くまとっているといえるのかもしれない。
とにかく、白い衣をまとったその人物は明らかに異質だ。
悪夢の中に出てくる登場人物が、まともなわけがない!
まともじゃない人物が次は何をしてくる。
背後にいつの間にか立つだけじゃ飽き足らず襲ってくるに決まっている。
わからない……どんな方法で、手段で、力で襲いに来るのかわからない。
何もわからない。
そうして硬直してる間にも、ことは進む。
あ゛ぁ゛と鈍い呻き声をあげた女性は。
「かはっ……ひっ……はぁはぁ」
その瞬間、恐怖で硬直が解けた初瀬は部屋に滑り込んでいた。
魔力を日常的に感じていた初瀬は『魔力知覚』も魔力視もなしに女性が内包する莫大な魔力に気づいてしまった。
そしてそれが一斉に胎動したのにも。
気の遠くなるように高く離れた格をもつ化け物なのだと理解してしまった。
「なにっ……あれ、魔力の塊? 魔力で体ができているの……?」
気が動転したように閉めたドアの前でつぶやく初瀬は最後まで、近づく影に気づかなかった。
◆
逃げ込んだ先の部屋に突然初瀬さんがやってきた件。
外からカタカタって音がしたから何事かと上月さんと身構えてたらすごい勢いで扉が開いて初瀬さんが入ってくるのだもの。
バッタァンと勢いよく閉められた扉の音は凄くうるさかった。
どういうコトなの?
初瀬さんなんでココにいるの??
なんでって上月さんを見たら知らねぇよといった視線で返された。
デスヨネ。
疑問は尽きないが、焦点があわず息も掠れて突っかかった様子の初瀬さんの心が疲弊していることはとりあえずわかった。
狂った妖精さんに出会ってしまったのだろうか。
俺ですら感じたあの莫大な魔力だ、普段から魔力を使っている初瀬さんにはあの気の狂うような魔力を隅々まで理解出来たに違いない。
上月さんと向き合ってどうすると目で会話する。
するとどうすればいいのかわからないと首を傾げて肩をすくめるジェスチャーをされてしまった。
お前こそどうなのだって視線で返してきたので俺は首を振った。
俺は自分を落ち着けられても他人にその方法を適応できない。
落ち着かせる方法がわからないというよりは、ああも慌てた人間を暴れさせずに安静にする方法がない。
落ち着ける前に暴れられそう、それがただの人ならいいが魔法が得意な初瀬さん相手だ。
率直に言って燃やされそう。
いやーん俺の髪がチリチリになっちゃうー、で済まない大事に至りそうでしかたない。
火傷の痕が顔に残る美少女とか需要減るぞ……いや別に需要は求めてないが。
欠損趣味の人……? それは……ちょっと……に、人間って色んな趣味があっていいよね、うん。
しかし放っておくのもなんだ。
結局は心が疲弊した初瀬さんをどうにか治さなきゃならないのだから諦めて一度驚いてもらうことにした。
動いてることに気づかれないように初瀬さんの前に移動する。
といっても、こんな動転してる人に気づかれず近寄るなどわけない。
外で聞こえた狂った妖精の鳴き声、十中八九アレを目撃してこうなってしまったのだから恐怖であれ以外を考えられるとは考えられない。
俺たちは狂った妖精が部屋に入ってくることはないとわかっていても初瀬さんがそれを知っているとは限らない。
数秒先には入口から離れて部屋の隅でガタガタと怯え出すだろう。
だから今、俺が打つのだ。
柏手を。
──パァンッ!
ドアに張り付いた初瀬さんの前で手を叩く。
クラップってね。
眼前で響いた破裂音にビクッと全身を震わせた初瀬さんが恐る恐る部屋を見渡した。
驚いた時に反射的に魔法を使われなくてよかった。逆に使うほどの思考が残っていないということでもあるが。
良かった、まず焦点は定まったようだ。
「……どう、して?」
一度部屋を見た初瀬さんはようやく気づいたといった表情で俺たちを凝視する。
こうするとなんともう初瀬さんは俺たちに釘付け、驚愕で狂った妖精のことなど一時的に吹き飛んで夢中で見つめられると照れちゃうね。とりあえず混乱と狂気は和らいだだろう。
これを安定したと呼んでいいのかわからないけど。
少なくとも呼吸を一度止めてくれた。不規則で過呼吸になりそうなアレよりはよっぽどマシだろう。
「はい、深呼吸ー」
「……あ、あぁ……うん」
俺の呼び掛けに、疑問に思いながらも息を大きくすった初瀬さんはゆっくり吐いた。
「はーい冷静になりましたか? 俺が誰だかわかります?」
「悠羽」
「正解です」
未だ困惑しているが、とりあえず一時的な狂乱は抜け出しただろう。たぶん。
俺は一歩下がってちょいちょいと手招きする。
するとドアから離れた初瀬さんがゆっくりとこっちまで歩いてきた。
「……すごいな、あの状態からこうも治るのか」
「魔法なんて得体の知れないものが関与したものじゃなければ、ですけどね」
いえい、とブイサインをして上月さんに答える。
俺もこう簡単にことが運ぶとは思ってなかった。
成功しなかったり、俺たちの存在に気づいた時にさらなる驚愕で襲いかかられる程度覚悟していた。
なので内心驚いていたりする。
「だって悠羽も颯希も傷つけたくない」
「初瀬さん、ホントはギフト『読心』なんじゃないですか……?」
「……違うよ?」
納得いかないが、初瀬さんがこうすぐに喋れるようになったと素直に喜ぼう。もう少しポケーっとしてるかと思ってた。
「もしかしたらPOWってああいう状態から正常な状態への治りやすさでもあるのかもしれませんね。ほら、初瀬さんって魔法職だからPOW上げてますし」
「かもしれないなぁ……さて、また訳の分からない要素が増えたわけだ。初瀬は……まだ落ち着いてからがいいか、俺と浦谷がどうしてここにいるのかからまず教えよう」
「俺の言いたいこと先回りされました……」
しょぼんとした俺と、まだ病み上がりの初瀬さんをおいて上月さんは俺たちがここに来た経緯を話し始めた。
クソ、俺が話すことによって部屋から抜け出したことをどうにか誤魔化そうとする計画がおじゃんになってしまった。おのれ上月さん、よくも。
そんな俺の熱烈な視線にも気づかず上月さんはあらかた知る限りを話し終えてしまった。
聞いてるうちに段々と現状の理解が進んできたのか初瀬さんからはじっとりとした視線が向けられる。
俺はさっと逸らした。
「……それにしても……あれが、妖精?」
「疑う気持ちもわかる?」
「狂っただけで妖精がああなるって不思議ですよね」
すると初瀬さんは首を振る。
「……アレを人間って呼んでなくて安心した。あれが妖精なんだって、納得しただけ」
「そりゃ……まあ、あんな化け物を人間であるって呼びたくないですし信じたくないでしょうよ」
「そうじゃない、あれは魔力の塊……細胞でできてるのかすらわからない」
「えーっと……? つまり、物語でよくある魔力生命体的なアレだと?」
「魔力だけだとあんなに複雑な生物にならないと思う……だから何かが混ざってるか、外部から弄られてる……と思う」
「考察段階に踏み込むほど情報がなくて結局よくわからないってことだな」
「うん」
「じゃあ考えても無駄だ。狂った妖精をどうこうするってなら、魔力の塊って情報からどうするか決めなきゃならねぇ」
で、どう思うよ。と上月さんが俺に意見を求めてくる。
いやいやいやと、俺は手を突き出して制止した。
「まだ初瀬さんのお話を聞いてないですよ」
「そういえば……そうだったな」
「じゃあ、次は私の番…………初めは悪い夢を見てはね起きたら悠羽がいなくなってた」
じとりと初瀬さんが俺を見てくる。
「……その節は誠に申し訳なく思っておりまして」
制止するんじゃなかった。
俺は土下座しながらそう思った。
「で、急に心配になって……悠羽が居そうな王城に巡回兵を気絶させながら侵入した……犠牲者は、六人くらい?」
「おおっと話が早くも急展開に! ……って上月さん、なんで俺の方をジト目で見るんですか」
「慣れてる……初瀬の奇行には一緒にゲームやってる時に入れ込んでるキャラがピンチな場面とか損益かなぐり捨てて凶行に走るようなやつだから慣れてる……だけどな、いなかったら王城に侵入してるって思われてるお前って……」
両者からの視線を一身に受けて萎縮する。
おかしい、俺の肩身はなんでこんなに狭いんだ。
「そしたら……金髪の女の子が現れて気づいたらココにいた」
「……どういう?」
おめめをぱちくりとさせて首を傾げた俺は上月さんも天井を見上げて言葉の意味を理解しようとしていた。
「金髪の女の子が現れて気づいたら?」
「そう」
「……この言葉に隠された秘密の意味とかは」
「ない……強いて言うなら、女の子の服はボロ布」
「なるほど……どういう?」
俺たちより意味のわからない理由で石造りの迷宮にエントリーさせられていた人が目の前にいた。
俺たちの方がよっぽどホラーっぽさがあって理解ができる。
しかし、初瀬さんはなんだ?
金髪のボロ布少女を見たらここに来たというのだ。
これ以上理解できない事柄がこの世に存在するか?
「見ただけでここに移動って……王城でその子を見たらここに来るなら今頃行方不明者だらけだぞ?」
「……たしかに」
「ここに来る前のこと、もう少しよく思い出せませんか?」
「…………うーん。ごめん、なにも、思い出せる限界」
顎に手を当てて悩んだ初瀬さんの努力も虚しく終わった。
ダメか、入口を出口に利用できないかと思ったけど手がかりはなし。俺たちがここに来た状況との共通点も非常に薄い。
「……よし! もう入口のことは考えないことにしましょう! ホラーと同じ、理論がない出来事を考えるだけ無駄! 出口のことだけ考えましょう!!」
パンパンと手を叩いて空気と流れを変える。
「例えば、例えばですよ! まずあの狂った妖精を倒せば出られるか、なんですけど!」
「出られるかも」
「おお、初瀬さん! どうしてそう思うんですか?」
「狂った妖精の魔力の胎動……脈動? あの気持ち悪い動きがこの空間に伝わってた。多分、さっき見せてもらった簡易地図の範囲全て……ここに影響を与えてるのは狂った妖精、じゃあ倒せば何か状況が変わるかもしれない」
いい情報だぞ吉報だ!
手段が増えるのはいいぞ、希望ができて士気が上がる。
鼓舞するのも楽になる!
「なるほど! ……ふむ、そうですね……上月さん、あなたのSTRで狂った妖精を殴ればあのバケモノも倒れるんじゃないでしょうか!」
「あーあのな、浦谷……ものを殴ると痛いだろ?」
「……? ええ、そうですね」
「俺のSTRで殴るともっと痛い、それどころかもげる、腕が。……で、対策のVITはまだ少しも育ってない」
「あっ……あー! ……じゃっじゃあ初瀬さんは魔法でどうにかできないでしょうか?」
「格が違う……試さないとわからない、けど効く気がしない……」
オウ、シット!
なんてこった。
魔法の天才の初瀬さんにこうまで言わせるとはあの妖精ナニモンだ?
あまりの嘆きで英語が出てきたぞ。
突然始まった『ドキドキホラー迷宮ポロリもあるよ』の先は長そうだ……。
Q.そういえばこのエセホラー展開is何?
A.ほら、いま夏じゃん?




