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是非とも解呪したい祝福がある  作者: 銀鱈ちゃん
チュートリアル 息吹なる血潮は結晶へ
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十四話 暑い夏の風物詩は……怖い話だ!!

本当は続きも書く予定でした。

 妙に目が冴えて寝付けない夜だ。

 未来への不安と緊張、そして期待と歓喜が混ぜ合わさった混沌の感情に心が呑まれている。

 睡魔という悪魔がいるのなら今すぐにでも枕元に立ってくれと願いたくなる。明日は早く起きたくて、いつもより早く床に就いたというのに寝れないのでは意味がない。


「初瀬さんは……寝てるか……」


 ちらっと横のベットを覗くと目を瞑ってすうすうと静かに息をする同居人の姿。

 きっと他の部屋でもみんな寝てしまったのだろう。

 だからといって、俺が寝れるワケではないが。


 ──人呼んで、遠足の前の興奮で寝れない現象。


 こういう時はなんだったか、羊の数を数えるのだったか。

 だが別に俺は女王の国出身ではないから沢山の羊という光景も浮かばずイマイチ実感も湧かなくて、無理に考えようとすると頭を使って疲れてしまう。


 むしろドラゴンブレスを下がって避けてダッシュで接敵して殴ってまた来るドラゴンブレスを避けてまたダッシュで殴って、みたいなヒットアンドアウェイの単調作業を思い浮かべる方が眠くなるというもの。

 これのデメリットは過去の火力不足と徒労になった時間にイラついてくることである。……もう少しレベル上げておけば良かった。


 寝れないという事実にイライラを覚えてきた俺は、俺の心にどうすれば寝れるのか聞いてみた。


 返答が返ってきた。


 知るか、である。


 見事なまでの自問自答をキメて悲しくなってきた。


 寝るためには何がいいだろうか。

 ジョギングして疲労する……のは興奮して目覚めてしまうから逆効果か。

 催眠BGM……などこの世界にはありません。唯一それに近い初瀬さんの子守唄は初瀬さんが寝てしまったので不可能です。


 親などはこうして目を瞑ってるだけでも休まるだなんだ、と言うものだが入ってくる情報が少ない分こうして熟考してるから肝心な脳が休まらなくて大して意味がないとその度に思ったものだ。


 本当に眠れなくて困った時って本当に数時間寝れないから困る。

 明日は昨日隊長さんが突然言い出した野外の宿泊訓練だというのに寝れないではないか。

 それもこれも全て、天幕の設置から緊急用の行動などを今日に詰めて教えやがった隊長さんのせいである。


 数日に分けて教えてくれればこうも明日を意識することもなかっただろうに。


 人を疫病神とか呼びやがったあの黒幕くんが俺を寝かさずに、本番寝不足で事故死させるための罠じゃなかろうな。クラスメイトの過半数が洗脳されていたというなら初瀬さんが覚めたことにも気づいているだろうし。

 十中八九罠だよな、罠なんだよな、そういうことにしちゃうぞ? 

 まさかあいつが俺たちに楽しい思いをしてもらおうって計画を組むはずがなかろうし。


「くそっ寝れねぇ」


 いい加減焦れったくなってきた俺はガバッと起き上がるとベットから降りた。

 ロングスカートのワンピースの寝巻きの肩の紐が落ちかけたので直すと机に置かれた紙と鍵を取る。


 そしてそのまま部屋を出た。




 ◇




 月夜に染まった訓練場は不気味な静寂の一言に尽きる。


 ただ人間の根源的な恐怖を刺激する薄暗い世界に、訓練用のカカシがいくらか立っているのは心臓に悪く背筋が震える。


 少し脅えながらも、そろりそろりとこっそり訓練場に顔を出した俺はしっかりと誰もいないことを確認した。


「左右敵影無し、ってな」


 にゃはは、とふざけながら訓練場にある低い壁やカカシなどを使って遊んでいると肩にぽんっと手が乗った。


「ひぃっ!?」


 後方に敵、ナンデ!? 

 後ろにいるだろう誰かから後ずさるように跳ねると見えた顔は見知ったものだった。


「……後ろにあったキュウリを見た猫みたいに跳ねたね」


「こここ上月さんですか! ……いつの間に、どうしてここに!? 驚かさないでくださいよ!」


「浦谷こそ驚かさないでくれよ。眠れなくて廊下歩いてたら足音が聞こえたもんだからびっくりしたんだぞ?」


 窓から入口外を見てたらお前が出てくしと言った上月さんはジト目になって聞いてきた。


「なあ浦谷、お前いつもここであんな遊びやってんの?」


「み゛ゃっ……してませんよ!? ……ただ、今日はちょっと、寝れなかったし本題の前にノリで遊ぼうかな……って」


 この世界に来てからというものの俺の奇行もとい遊び心がもれなく思わぬ誰かに目撃されているのだが、これが低幸運(LUC)の弊害だろうか。こんなところで発揮するから命が助かってるのか、それともお前の不運ごときこんなところでしか発動する価値ねぇよという世界の意思なのか。


 まあなんにせよ、幸運は上げるべきだと思った。


 そんな珍妙な反省はさておき、上月さんに見られてしまったのだがどうするべきか。

 帰るか、特殊部隊ごっこを続行するか。

 そんなことをボソボソと呟くと、上月さんが若干引いた。


「そ、そんなに今の遊びをしたいんだ……」


「……楽しいですよ?」


「いやぁ、俺は遠慮しておくかな」


「そうですか」


「で……本題とやらは、やらないの?」


「俺、本題について言いましたっけ?」


「今さっき、自分から話したの覚えてないのか。ほら、本題の前にノリでうんぬんかんぬんってな」


 やだっ俺ったら情報防衛能力が皆無! 

 滝みたいにボロボロボロボロって吐き出して、もしや俺は既に情報的に丸裸なの!? 

 冗談抜きで失敗に気づいていなかった俺は、戦闘技術の前に磨くべき必須事項があるのではと天を仰いだ。


 そして、あれもこれも全て黒幕くんのせいにした。

 これでヨシ、俺の心の平穏は守られた。


「あー本題っていうのはですねぇ」


「まるでなかったかのように話し出すのな」


「…………ちょっとした趣味の一部でして」


「スルー決め込んだな」


「諸事情で一人でしかここで出来ないんですよね、誰かいたらその時点で失敗する可能性があるから夜で周りに物が少ない外でするんです」


 夜に広場で一人でナニをする趣味、なかなかどうして字面だけ見ると怪しくなるのか。


 もちろんアレなことをする訳ではなく。

 簡単に言えば、初瀬さん曰く王城側から流れるなにかに魔力が流されて停滞しない。俺はその理由が気になるのでこれをひたすら調べるだけである。

 実行する手順は訓練場の中心に楽な体制で座る。次に『魔力知覚』をオンにする。あとはひたすら周囲の魔力の流れを感じ取る。

 以上である。

 どうして流れる原因を魔力だと思ったのかというと、それは神話にあった記述にある。


 ──原初の星の力は極西に現れた。


 ──神々が火の矛をもって星の皮を破ると、そこからは星の力が吹き出し。


 ──地の神はここは以後、魔力が吹き出し続けるのだと言われた。


 などなどと、さてこの国デア王国をコクマウ大陸地図で見るとどこにいるでしょうか。

 正解は西の端! 

 そしてこの大陸の別称は最西の地なんだ。

 わぁいつまりこの国が極西だネ! 


 さて極西こと、神話曰く魔力の吹き出す地なここであるが、この魔力がどういう意味で魔力といったのかに問題がある。

 星の力が魔力であるパターンと、星の力を魔の力であると比喩表現したのか。

 それが知りたくて、この奇行を実行するに至ったのだ。


 ただ問題がある。

 その、魔力が吹き出すのが本当なら、なぜ『魔力知覚』で知覚できないのかということだ。もしステータスの設定的にこの仮称星の魔力を知覚できないようにされてるなら詰みなのだ。

 だからそうではなく吹き出す魔力がすごく少ないとか知覚しにくく設定してあるとかそういう期待をして実験に望むわけだ。


 ちなみに周囲に魔力を含む生物や物があると観測が狂う可能性もあるのでダメなのだ。

 だから上月さんの存在はにんともかんとも、どうすれば帰ってくれるだろうかと考えるわけである。


「へー……一人ですること。そういえば、確かに驚くくらいここには人がいないな」


「……え?」


「いやだから……ココ、さっきから夜間の見張りがひとりも来ないだろ」


 俺はもう一度この訓練場という空間を見回して、本当に人っ子一人いないことを再確認する。

 なにかおかしいことはあるだろうか。


「な? ここに来るまでは不寝番の人を数人隠れてやり過ごしたのに、ここに来てからしばらく経つのに誰一人来やしない」


「……本当ですね」


 いわれてみればそうだ。

 夜だからこそ兵士やら何やらが、しっかり見回ってるのは今まで俺が深夜に徘徊しててよくわかっている。

 しかしこの訓練場には誰一人いない、固定の見張りも巡回してくる見張りも。

 少し長い間遊んでいたというのにだ。


 そう思うと、途端に悪寒が走った。

 深く考えるほどに、不思議とここが不気味で狂気的な空間に思えてくる。

 そういうものは、嘘と考えても本能が否定してくるものだ。

 理性ちゃんなんて本気を出した本能ちゃんには勝てずに淡い抵抗をするだけなのである。擬人化した理性ちゃんと本能ちゃんのイチャラブ百合漫画……何考えてんだ俺。


 そういえば、地球にいた頃、古い墓地で肝試しをしたら青い火が飛んでたな。あの時は相当に古い墓場だから土葬でリンが自然発火しただけだろうって無理やり納得した記憶が蘇る。


 そんなことを考えるとさらに芋づる式に苦い経験が浮かんできた。


 中学の修学旅行の時に窓の外に一瞬見た落ち武者のような幻覚のこと。修学旅行先の旅館が昔の合戦の跡地だったとか怖い話をされてから幻覚の出現ペースが上がったなアレ。

 火事で一家全員焼死した家の跡から奇跡的に無傷で見つかったとかいう市松人形のこと。それ見たその日から数週間ずっと市松人形の長い髪に襲われる夢を見たトラウマはもう思い出したくなかったのに。

 夕方の人気のない道を歩いてたら電灯の下で上を見てなにかボソボソと喋り続けていた奇妙なほど首が細長い女の人のこと。何気にあれが一番不気味だったな。


 恐怖を醸す空間は、過去の恐怖を呼び起こすからだめだ。

 面白いほどに、忘れていた忘れたかった心を守るために思い出せる記憶から弾かれていたヤツらが浮かんでくる。


 改めてみると、科学技術が発達した世界でこうも心霊体験のようなことに何度も遭遇する人間は俺くらいではないだろうか。

 呪われてない? 大丈夫? 


「不気味ですね…………突然黙ってどうしたんですか?」


「………………わぁっ!」


「ひぃっ! ……なななんですか、なにかナニカが居たんですか!?」


「ぷはっ、はははは……! いないいない、ほら……相当怯えてたから驚かしたらどうなるのかなって」


「ちょうどここ訓練場でしたね。どうです一試合、フルボッコにしてあげますよ?」


 暗に怒ってるぞアピールをした俺は拳を構えて虚空にジャブをしっしっと繰り出す。

 どうやら普段の模擬戦だけでは負けたりないようだ。せっかくだからミリ単位も活かせてないお飾りのDEXを俺が使いもんになるくらいまでしごいてやるよ。それまでにいくつタンコブ作るかは知らねぇけどな。


 顔の前でグッと握った手をもう片方の手で押すと、パキパキと指が鳴った。


「そこまで怒る……?」


「そりゃそうですよ、あの瞬間どれほど俺が腹をくくったと思ったんですか! 今まで間接的アピだった悪霊どもが今度こそホラゲよろしく呪詛吐いて来るかと身構えたんですよ!?」


「わかった。言ってる意味はわからないが、とにかく必死なのは伝わった。ごめんね?」


「もし、次したら……まあいいか。とにかく本当に怖かったんですよ?」


「ほんとごめんな? ……それにしてもどうするのか? 本題だか用事だかはしないのか?」


「帰ります」


「帰るの? 俺が帰れば一人になって条件が達成出来るいい機会なのに……」


「ダメです。人の衰えた恐怖への直感がビンビンに反応しているこういう時は、本当に危ないんです……ホントですよ?」


 こういうホラー系の時じゃなくてもそうだ。例えばゲーム内でこっちに進むのはイヤだと心が訴えていたら行ってみるとスリリングで楽しい戦闘が出来る敵モブやPKがいたりするものだ。

 なんにせよ、ここから今すぐ離れるべきだ。

 これは間違いない、これは()()()を引く時の感覚だ。

 出てくるのがただの蛇ならいいが、人喰いの蟒蛇がこんばんはしてきても俺は驚かないぞ。

 ボスモンスターが出てくるならまだいいが、なんかよくわからないお化けにワンピース姿で逃げるとかすごく嫌だ。せめて外着を着させろ誰だよ寝巻きで外出たやつ。


「じゃあ、帰るか……あれ?」


「そうですね。何も起きないうちに……うん?」


「なあ浦谷、あのカカシ……こんなに近くにあったっけ?」


「俺の記憶では……十メートルくらい離れた場所にあったような気がしますね」


「ふむ……これをどう思う?」


「…………暗くて遠近感覚狂ってたとしか」


「その納得の仕方でいいの?」


「そう納得しないと、俺たちは今から近寄ってくるカカシに追い回される羽目になりますよ? ……まあ、手遅れみたいですが」


 物であるはずなのに、生きてるような錯覚を覚えさせられるカカシたち。

 ヤツらがいつの間にか俺たちの周りを円になって包囲していた。


「まずくない? 全然気づけてなかったんだけどだいぶまずくない?」


「そのSTRで俺抱えて、足の筋力に任せて飛び越えたりは……」


「まだそれほど力の扱いに慣れてないのは知ってるだろ?」


「……まずくないですか?」


「それさっき俺が言ったよな」


 こいつらはどう出てくるのか、上月さんと俺は身構えて出方を窺っていると笑い声が聞こえてきた。


 ケタケタ、ケタケタケタケタと。


 初め、誰の声かはわからなかったが、すぐにハッキリとわかった。

 カカシたちだ。


 ケラケラケタケタなにがおかしいのか、俺たちを滑稽そうに笑う声が訓練場に響く。

 次第に大きくなっていく声に、外の誰かが気づかないものかと思うけれど、あまりにデカい音量でしかしカカシの円の外はなにも起こっていない様子で、ああそういうものなんだなとそうそうに諦めた。


 嘲笑の大合唱、声量を上げて空気を振動させる低音の笑い声。

 警戒する俺たちの何が面白いのか、嘲りは低い音でどこまでもバカにするような感情が込められている。


 空気を震わせ俺たちの肌まで振動を感じ取っているのではないかという錯覚は、しかしすぐに錯覚ではなかったと思い知らされた。


「……っ!」


 揺れている、本当に振動しているのだ。

 それも揺れは俺たちではなくその足元、地面が彼らの笑い声で激しく揺れている。


 立つことも出来ずに、体制が崩れようとしたその瞬間。


 地面が壊れた。


「これ、落ちっ……!?」


 あるはずの足場が消えた俺たちの行き場は自由落下。

 崩れていくカカシたちの円の内側、いつの間に空いていたのかわからない大穴に抵抗することなく、地面だった岩と共に投げ出された。

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[一言] まさかの心霊体験、多めだった主人公。 今回のものも、そうなのだろうか…? 次回、落ちた先にはなにが…!
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