魔法
「とりあえず確保できた食糧はこれだけだ」
ミノタウロスは武器にまとわりついた蜘蛛の糸を払い除けながら言った。
大きなクモが二体横たわっていた。
「これも……食糧なの?」イプシロンは青ざめた。
「毒とかないの?」ブーンに問いかける。
「あー、こいつは毒あるやつでやんすね」ブーンは続ける。
「でも、キバの部分だけでやんすから、頭だけ取り除けば、あとは大丈夫でやんすよ」
「あの時噛まれてたら、私ヤバかったんじゃないの?」
「あぁ、こいつの毒消しは持ってるんで、何とかなるでやんすよ」
「もしかして、私が噛まれることを前提に考えていた?」
声を荒げるイプシロン。
「いやいやいや、それよりこの糸、何か使い道ないでやんすかねぇ」
すかさず話をそらすブーン。イプシロンの腕に付いていたクモの糸を一本取ってつぶやいた。
「これだけ粘着あったら、ロープ替わりには使えやしませんねぇ。丸まったらもう伸ばすことができやしやせん」
とりあえず三人はこの場所で休憩することとした。
「これが落とし穴なのね」
下を覗き見るイプシロンに「落ちるなよ」とミノッチから注意が入る。さっと体を引っ込めるイプシロン。
「もう壊れてるでやんすが、開閉部分は木でできているでやんすね。閉じたときは、他の床とわからないように彩色されているみたいでやんす。よく見ればわかるでやんすが、これだけ暗い中だと見分けるのが大変でやんすね。重さで開くでやんすかね?それとも、どこかに操作できるボタンでもあるか、でやんすね」
ブーンは落とし穴の仕組みに興味津々だ。
「どうやら重みで開いて、落ちたら閉じるような仕組みっぽいでやんすね。誰が作ったでやんすかね?」
この落とし穴は、自然の産物ではなく誰かが意図的に作ったものに違いない。迷宮自体もそうだ。
そしてモンスター。数々のモンスターがここで生態系を維持しているようには思えない。誰かが意図的にモンスターを飼育しているか、連れてきているか、何らかの関与があるはずだ。
食事を終えた頃、イプシロンはキョロキョロと辺りを見回した。やはりおなかを押さえている。
「この階は落とし穴があるんで、あまり一人で歩き回らない方がいいでやんすよ」
と言うや否や、ブーンの後ろの方で悲鳴が聞こえた。確かにイプシロンの声だったが、姿が見えない。
「お願い!助けて!」
ブーンの助言も虚しく、落とし穴に落ちていた。
だが、下まで落ちているわけではなく、腕の部分が割れた床にくっついて、宙吊りになった状態だ。
それを見たブーンは
「ああ、そういう使い方もあるでやんすね」
イプシロンの腕には、クモの糸の束が残っていた。それが落ちる瞬間、伸ばした腕が床にくっついてしまったのだ。
「そんなこと言ってないで、早く助けてよ」
覗き込むブーンとミノッチに懇願した。
排水溝から戻って来たイプシロンは、ミノッチの側に行き、照れ臭そうにお礼を伝えた。
「何度も助けてくれて、ありがとう」
軽く頭を下げたイプシロン。
「ちゃんと言ってなかったから、言っておくわ」
それに対して、ミノタウロスは
「こっちは名前をもらったからな」
その言葉に驚き、目を丸くしてミノタウロスを見るイプシロンと、いつの間にか近くに来ていたブーン。
「もしかして、ミノッチって名前、気に入ってるんでやんすか?」
ブーンが意外そうにミノタウロスに問いかける。ブーンと目が合ったが、即座にミノタウロスは目をそらした。
「それに、私たちは同じ目的地を目指す仲間だからな」
話を逸らされた感じだが、イプシロンに対して「助け合って当然、礼など不要」と伝えたかったように思えた。茶色の毛色の顔がほんのりと赤味がかったようにイプシロンには見えた。
(やだ、なんか、カワイイ)
休憩とは言っても、爆睡できるわけではない。いつモンスターが襲ってくるかわからないため、順に浅く眠る程度だ。
ミノッチは背中を壁にもたれかけ、目を閉じている。
ブーンは自分のザックから魔導書を取り出して開いていた。
「え?もしかして、魔法を使えたりするの?」
イプシロンは笑みを浮かべながら問いかける。
「まぁ、簡単なものならちょっとだけ」
冗談で聞いたイプシロンだったが、予想外の回答に驚いた。
「え?ほんとに?」
イプシロンは信じられないようす。未だゴブリンが魔法を使うなんて聞いたことがない。ましてや自分でさえも使えないのに。
「魔法っていうのは、そんなに難しいものじゃなく、精霊に力を貸してもらうだけでやんすよ」
「じゃあ、私にも使えるの?」
「いや、まず精霊と仲良くならなければならないでやんすからね。性格が悪いと無理でやんす」
頭のたんこぶを押さえながら、ブーンは続ける。
「精霊にも種類がありやんして、木、水、土、火、風など、いろんな精霊がいるでやんす。他にも種類があるという噂もありやすけんど、まあそれは置いておいて」
さらに話を続けるブーン。
「例えば、火の精霊と仲良くなれば、ファイヤーボールなんかも出せるようになるでやんすよ。ただ、そういう魔法を使うときの代償もありやすけんど」
「代償ってなに?」イプシロンが問いかける。
「精気でやんす。生命力と言ってもいいかもしれやせん。魔法を使うかわりに、精霊に精気を少し分け与えるでやんす」
「それってなに?寿命が縮むってこと?」
「結果的にはそうなるでやんすね。体から精気が奪われると、体がやつれたり、力が入らなくなったり、血色が悪くなったりするでやんす。魔法使いって、やせ細った人ばかりでやんすよね?あれは魔法の使い過ぎで、精気をたくさん奪われたからでやんすよ」
「細くて体力がないから戦士になれず魔法使いを選んだんじゃなく、魔法を使ったから細くて体力がなくなったってことなの?へー、知らなかったわ」
「人にもよるでやんすがね、まぁ、そんなところでやんすよ」
「もしかして、たいまつに火を付けているのって、魔法を使っているの?」
「そうでやんす。火打ち石を無くしてしまって、別の石で何とか火をおこそうと何日も頑張っていたときに、火の精霊サラマンダが現れて仲良くなれたでやんすよ」
そう言いながら、ブーンはランタンを見せる。
「そのランタンどうしたの?」
「これは落ちていたでやんす。たいまつよりも使いやすそうでやんしたので、こっちにしようかと」
きっと逃げ出した冒険者パーティの持ち物だったのだろう。イプシロンはその辺は深く追求しないで話を元に戻した。
「もう大分精気を失っているの?」
「たいまつやランタンに火をつけるくらいであれば、わずかなもんでやんすから、たいした影響はでないでやんすよ。強力な攻撃魔法なんか使っちゃうと大変なことになるでやんすけど。そのための精霊への暗号の言葉も長くて複雑になるから、まだ使うこともできやせんけどね」
「暗号の言葉?」
「ああ、呪文って言った方がわかりやすいでやんすかね?どんな魔法を使うか、精霊に伝えないといけないでやんすけど、そのための言葉でやんすよ。それがこの魔導書に書かれてたりするでやんす」
「そうなんだ。じゃあ、勉強の邪魔しちゃ悪いわね」
そういうとイプシロンはブーンの側を離れ、ミノッチのところに歩み寄った。
「ねぇ……起きてる?」
そう言いながら、ミノッチの横に座り込む。
「ミノッチは、人間と牛のどっちが好きなの?」
「なんだそれは?何が聞きたい?」
ミノタウロスは眉間にシワをよせて聞き返す。
「人間の女性と、メス牛の、どちらに興味があるかってこと」
「喰うなら牛だな。人間は美味くない。だが、必要に迫られたら人間であっても食べるかもな」
「え?牛も食べるの?共喰いにならないの?っていうか、そういうことじゃなくって……まぁいいわ。ごめんなさい」
「え?諦めるでやんすか?」
とブーンが口を挟む。
「いつの間にここに居たの?魔法の勉強は?」
「こっちの話の方が面白そうでやんしたので」
ニヤニヤしながらブーンが応える。
「イプシロンはどうなんだ。人間の女性としての幸せな生き方もあるんじゃないのか?何故戦士になった?」
今度はミノッチがイプシロンに問いかけた。
「私は、兄が四人いるんだけど、その中で育ったから、私も男みたいになっちゃって。気づいたら兄達と同じ戦士になってたわ。女だからってナメられたくないから、必死で剣術を学んだわ。でも、世間の目は冷たかった……。
女が剣を持つなんて、遊んでるだけだって思われてしまうの。当時、確かに戦士のコスプレをして脚光を浴びているアイドル的な子も城下町にいたのよね。そういう子達と一緒にされてしまうの。一緒にされたくなくて、ひたすらに訓練したわ。でもダメ。だったら、実力を見せつけるしかないじゃない。そんなときに、ミノタウロスの迷宮の話を聞いたの。ミノタウロスの首を持ち帰れば、きっと認めてもらえる、そう思った」
イプシロンは続けた。
「でも、さすがに一人で迷宮に入るぼど無謀なことはしたくないから、一緒に行くパーティを作らなきゃならないでしょ。女戦士って、需要がないのよね。戦士なら力のある男がいいし、余計な人数を増やすのもリスクがあるから。汚いだの臭いだの文句を言う女もいるしね」
それはイプシロンもでしょ、とツッコミを入れたくなったが、とりあえず顔を見合わせてやめたミノッチとブーン。
さらにイプシロンは続ける。
「あーあ、ホントに、あんな事しなきゃ良かった!」
いきなり声を荒げるイプシロン。
「どうしたでやんすか?」と聞くブーン。
「言いたくないことだってあるのよ!」
「これは失礼しやした」
何故怒られたのか、腑に落ちないブーン。とりあえず謝っておいた。
「とあるパーティに出会ったの。それが運の尽き」
結局話すの?それじゃ怒られ損、と泪ぐむブーンはミノッチに目をやる。ミノッチは、まあまあと言わんばかりに二回頷いた。
「そのパーティ、女性も居たから安心してたの。でも、パーティに加わる条件を出してきたの。それが……」
喉から絞り出すように、声を震わせながら続けた。
「女を捨てろ、ってことだったの。自分を女だと思ってなかったから、なぁ~んだ、そんなこと?って思ったわ。でも、自分が思ってたのとは全然違ってた。いきなり、裸になれって。女を捨てたならできるはずだって。パーティ内の女性にも相談したら、自分もそうしたって。そうするのがこのパーティの掟だって。あとから知ったんだけど、この女もグルだったみたい。もうここから先は18才未満お断りの話になるんで詳しくは言えないけど。もう性欲のはけ口としての道具でしかなかったわ……。女としての幸せやプライドを捨てろってことだったのよね。必死で耐えたわ。泣いたら、女になってしまう、そうなったらパーティに入れてもらえない、それだけだった」
そこまで話して、深いため息をついた。
「どう?軽蔑した?あんまりこんな話はしたくなかったんだけど……」
「つらかったんだな」
その言葉を聞いたイプシロンは、なぜかあふれ出てくる涙を止めることができなかった。
「泣きたいときは泣けばいい。血と汗と涙は流せば流すほど強くなるもんだ」
「血は流しすぎると死んじゃうでやんすがね」
「そりゃそうか、はっはっはっ」
大きな笑い声が迷宮の中に響き渡る。きっとどこかで誰かがビクついているだろう。
何気ない会話が、イプシロンにとってはとても心が落ち着くものだった。
「もう、女としての幸せは求めないでやんすか?」
この期に及んで、軽く心をえぐってきた。
「さぁねぇ、こんな女でも幸せというものが手に入るのなら、求めてみてもいいかな、とは思えてきたわ」
腕を上げて伸びをしながら言った。何か吹っ切れたような感じもするし、無理をしているようにも見える。人間ってのはよくわからないな、とブーンは思った。
「でも、少なくとも私より強くなきゃダメね。そして優しい人。こんな自分を受け入れてくれる心の大きな人、がいいかな?」
と言ったあと、
「人って言い方したけど、人間にこだわるつもりはないけどね」
と付け足した。エルフと人間の混血であるハーフエルフがいるように、特に人間同士でなければならないということもない。
一般的なゴブリンも人間の女性を襲って身籠らせる事もあるらしい。それは愛ではなく本能のままということだが。
ただ、オイラは勘弁してほしいと思ったブーンだった。
休憩を終え、迷宮の探索を再開した。
床の落とし穴に気を付けながら、他のモンスターを見つけては倒し、出口を探す。
と言っても、モンスターを倒すのはほぼ、いや、全てミノッチ。ブーンとイプシロンは歩きながら、魔法についての話に盛り上がっていた。
「雷の魔法って知ってるでやんすか?あれは、水蒸気の水の粒同士がぶつかり合って雷の小さい力が作られるんでやんす。静電気っていうらしいでやんすけどね。その静電気の力をたくさん溜めて、一気に放出するのが雷。その力を自由にコントロールするのが雷魔法ってわけでやんす」
「へぇー、詳しいのね。じゃあ、水の精霊の力が必要ってことなのね」
「水だけじゃなく、風の力も必要なんでやんすよ。風によって水の粒をコントロールしなきゃならないんで」
「水と風かぁ。たいへんそうね。ブーンは使えるの?」
「水の精霊、ウィンディーネとは仲良くなれたでやんすが、風の精霊とは縁がなくて……。でも、火でも気流が作れるでやんすから、もしかしたら風じゃなくて火を使っても雷魔法ができるんじゃないかって研究してるでやんすよ」
「難しいことはよくわからないけど、頑張ってるのね」
こいつ、人間のくせに、自分よりもバカなのか……そう思ったブーンだったが、できるだけ顔に出さないように気を配った。
魔法の話で盛り上がっていた訳ではなく、ブーンが魔法についての知識を披露したかっただけだったようだ。
そんな時、何か焦げたような匂いとともに、黒い煙が通路に充満してきた。
「え?何?火事?」
「誰かが火を使ったんでやんすね」
「え?魔法?冒険者がいるってこと?」
「そこまではわかりやせんが、誰かはいるでやんすね。っていうか、頭を低くして、この黒い煙は吸わないようにしてくやんし。基本、迷宮内は酸素が薄いんで、不完全燃焼を起こすんでやんす。その煙を大量に吸い込むと意識を失って、最悪死んじまうでやんすよ」
「ねえ、どっちに向かえばいいの?煙が流れてくる方向?それとも逆に流れていく方向?」
「煙の起点に向かえば、きっと人はいるでやんすね。人に会いたいならそっちでやんす。で、煙が出ていく方向には、きっと空気の流れ上……」
と言いながら、黒い煙の進む方向を目で追って、
「あんな感じで、上の階とつながっているところがあるでやんすよ」
見ると、黒い煙はさっき通ってきた曲がり角の手前で上へと吸い込まれて行くのがわかった。
ブーンとイプシロンは顔を見合わせる。
おしゃべりしていたせいで、通路の上の確認がおろそかになっていたことに気づいた。
「ちゃんと見ててよ」
「えー?お互い様でやんすよ」
ミノッチを呼ぼうと振り返ると、片膝をついて苦しそうにうなだれているミノタウロスが目に入った。
「身長が高い分、大量に煙をすってしまったでやんすか?」
駆け寄る二人。
「しばらく安静にしておいた方がいいでやんすね」
その場で横たわらせる。
「ちょっと、何てことしてくれてんのよ!ひとこと言ってくるわ!」
イプシロンは足早に煙の元へと向かう。
「ちょっと!こんなところで焚火しないでよ!どれだけ大変なことになるか、わかってるの!」
大声を出しながら歩いていると、遠くから声が聞こえた。
「おい、誰かいるのか?」
「女の声じゃねぇ?」
煙の向こう側から声がする。何人かいるようだ。
「誰かいるのか、じゃないわよ。大変なことになってるのよ」
「君も食べるかい?お肉、うまいよ」
肉!焼いた肉!何日も食べていない。そうこの迷宮に入ってからは一度も。
「待ってて、そっちに持っていくよ」
しばらくして、煙の中から槍に刺さった肉の塊が現れた。いい具合に焼き色がついている。イプシロンの涎も湧き出る。
そしてベージュのローブを身にまとった青年が姿を現したかと思った瞬間、まさにイプシロンが肉に手を伸ばした瞬間、目の前から消えた。青年も、肉も。
下をみると、落とし穴があった。イプシロンの一歩先だ。
「おい、何してるんだ。こんなとこで出会いなんて求めてんじゃねぇよ」
太い男の声が近づいてきた。
イプシロンはショックで声が出ない。
鎧を身に着けた大柄の男が姿を現したかと思ったら、すぐに消えた。
「あなたたち!こんなところで焚火なんてするんじゃないわよ!」
落とし穴から下に向かって、涎と涙を堪えながら、力いっぱい怒鳴った。開いていた床は徐々に閉じて元に戻った。よく見ないと落とし穴だとは気づかない。
くるりと踵を返し、仲間のところに戻るイプシロン。
運よく落とし穴に落ちずにすんだイプシロンだったが、目の前の肉が消えたことのショックが大きかった。
程よい焼き加減で、肉汁が滴り落ちていた、あの肉の塊。生肉では味わうことができないあの香ばしい匂い。
あの時手を伸ばして、槍から引き抜いていれば……。イプシロンの目には涙が溜まっていた。
「どうでやんした?」
ブーンはミノッチの傍で布切れを振り回して、煙を吹き飛ばすように仰いでいた。
何も言うことができないイプシロンに対し、
「もしかしたら、風の精霊とも仲良くなれるかもしれないでやんす」
と言ったが、イプシロンの耳には届いていないようだった。
イプシロンは黙ったまま、横たわっているミノッチの胸板に顔をうずめた。
通路の煙も収まったころ、ミノッチも回復した様子だったので、上の階を目指すことにした一行。
先ほど煙が抜けていった場所は覚えている。
見上げても、暗くてよくわからないが、小さい隙間でもあるのだろう。
前回同様、ミノッチがロープを括り付けたバトルアックスを上に放り投げて、先に上に上り、ロープをつかんだ二人を上に引き上げた。
あたりを見回すと、T字路の交差点だった。進める道が三つある。
そのうちのひとつの道の先は、薄暗い中だが、通路が途中までしかないことがわかった。その突き当りの壁には扉らしきもの見えた。
これまで迷宮を歩き回ってきたが、扉を見たのは初めてだ。
扉の向こうには何があるのか。
しばらくの間、三人とも視線はその扉にくぎ付けになっていた。
あれが出口の扉なのか。
もしくは階段があるのか。
はたまた、とてつもないモンスターが待ち構えているのか。
ブーンとイプシロンは期待と不安でいっぱいだ。
「どうした?行くんだろ?」
ミノッチには不安の欠片も無いらしい。扉がある方を指して、二人を促す。
ゆっくりと扉の方に近づく。もちろん、途中にトラップがあるかどうか、警戒しながら、というのもあるが、扉の先に何があるのか、吉と出るか凶と出るか、いろんな思いが頭の中をグルグルと竜巻のように回っている。
そーっと取手に手をかけて「では、あけるでやんす……」と言い終わらないうちにドガッっと扉を蹴破るミノッチ。
「えー!?」と真ん丸な目でミノッチを見るブーンとイプシロン。まぁ、ミノッチらしいといえばミノッチらしいか、と諦めたように顔を見合わせる二人。
それはともかく、次の瞬間には開いた扉の向こうへと真剣な顔で向き直る。何が待ち構えているのかわからないのだ。
見ると、扉の向こう側も真っ暗だ。通路ではなく部屋、というか大きな空間が広がっている。
恐る恐る、一歩踏み出す。
三人が扉の内側に入った瞬間、足元の床が消えた。
「あいたたた。みんな大丈夫?」
闇の中だったがイプシロンはすぐに二人の姿を確認できた。ブーンが持っていたランタンは何かの拍子で消えていた。
ブーンは消えたランタンを握ったまま横たわっている。まだ息はある。その向こうで、ミノッチが左肩を抑えて苦しんでいた。
すぐに駆け寄るイプシロン。打ち所が悪かったようだ。
「回復するまでしばらくここで休憩しましょうか」
患部をそっとなでながら言った。
落ちたところも広い空間だったが、ひとまず襲い掛かってくるようなモンスターも見当たらない。休憩するならここしかない、と考えた。
「誰かが襲ってきても、あなたが回復するまで、私が戦うわ」
ご拝読ありがとうございます。
文章力が乏しくて読みにくい点もあるかと思いますが、温かい目で見てやってください。