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Person~パーソン~  作者: 騎乃レン
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~第壱幕~ 拾漆.最高の『殺人兵器』(後編)

「十五分後、武道場に来てくれ。訓練服に着替えておいで。その方が動きやすいだろ?僕もそうするから」

そして、鈴坂は去って行った。それとともに、シュウもSBS寮へと向かう。西本たちも急いで後をついてきた。

「なぁ。大丈夫なのかよ?」

脇田が心配そうに聞く。

「うん。まぁ」

シュウは落ち着いた様子で応えた。

「向こうは軍人(プロ)だぜ?そりゃ、金子は強いけど。でも……」

すっげー自信満々に誘ってきたし、という田村のもごもごという声も聞こえる。

「大丈夫だ」

彼らの声に応える。

「大丈夫だから」

四人の瞳を見つめながらそう言うと、シュウは自室へと入って行った。

        *

時間通り、五人は武道場へやって来た。広い場内には、一般の軍人らが自主トレーニングをしていて、声や音が響き渡っていた。

「やぁ。来てくれてありがとう、シュウくん」

後ろから鈴坂が現れ、しゃべり出す。

「言っておくけど、助太刀は許さないから」

シュウ以外の四人を、ちらりと見る。

「させません」

「なら、良かった」

シュウの答えに満足したようだった。

「何で戦う?……と言っても、ここには体術や剣術とかに使う基本的な武器しか置いていないんだけどね」

「何でもかまいませんよ」

「そうか、わかった」

鈴坂は壁にかかっていた木刀を二本取ると、一本をシュウに投げ渡す。

「一応、木刀を渡したけど体術でも剣術でも何でも良いよ。『何でもあり』が、ここの当たり前だからね。ルールはなし。どちらかが戦闘不能になるか、『まいった』と言えば試合終了。いいかな?」

「はい」

スラスラと二人の会話が進む中、西本ら四人は話に全く頭がついていかなかった。シュウのことが心配でたまらないのだ。気づけば、すでにシュウと鈴坂が木刀をかまえて向き合っている。空気が、凍ったように張りつめる。他の軍人たちも、何事だと二人の周りを囲い始めた。

「準備はいいかい?」

「いつでも」

場内は静かになっていた。

「じゃあ……行くよ!!」

ダッ。

先に、いきおいよく駆けだしたのは鈴坂だった。シュウは心を冷静に保ったまま、その攻撃を受け流す。頭に回し蹴りを入れられそうになるが、それも一歩後ろに跳び退き、避けた。

「やるねぇ……」

鈴坂は楽しくてたまらない、という表情(かお)をする。

「でも」

なおも紙一重で攻撃を避けるシュウに対し、鈴坂は言う。

「逃げてばかりじゃ、僕を倒せないよ」

        *

「あの、戦っているのって『天才』鈴坂だよな?」

一人の軍人がしゃべり出した。

『天才』……?

西本たちは、その声に耳を傾けた。

「あぁ、そうだ。だが……」

「相手のガキは何者だ?」

軍人たちはざわついている。

「おい」

ある軍人が、原田に声をかけてきた。

「アイツは、お前たちの仲間か?」

「は、はい」

シュウを見守りながら、応える。

「……ということは、SBSか」

入隊してたいして経っていないってのに、あの鈴坂とまともに戦っているなんて……。

「あのガキ、尋常じゃないな」

「ああ、信じられねえ」

「あの」

今度は原田が逆に、その軍人に問いかける。

「『天才』って……あの人、そんなにすごい人なんですか?」

「あぁ。元SBS生で、昔も今もその力量は並はずれている」

その答えに、四人はさらにシュウが心配になった。全員が二人を見つめている。攻撃を受けてばかりのシュウは、押され気味のように見えていた。だが、実際に戦っている鈴坂はちがう。

この子……思った以上にしぶといな。

攻撃を器用に受け流されたり、タイミングを合わされて避けられたりだった。思うように当たらない。木刀も、拳も、蹴りも……全て。それに加え、シュウからの攻撃はほとんどない。ここまでくると、さすがに鈴坂もイラついてきた。

何を、考えている?

シュウの瞳をうかがっても、思考を読み取れない。

攻撃もしないで……!

イライラは増幅していく。

なめるなよ、ガキ!!

彼は力いっぱい木刀を振りかぶった。そこをシュウは見逃さない。

ドッ!!

鈴坂の鳩尾に一発、木刀の柄で強く突きが入る。

「ぐっ……そォォォ!!!!」

なんとか耐えて振り回された彼の攻撃はとても雑だった。自らの木刀をいつの間にか手放し終えていたシュウが、ひらりと軽やかにそれを避け、伸ばされていた鈴坂の腕をつかむ。

え……?

鈴坂は浮遊感を感じていた。

僕が、負ける……の……?

ダンッ!!

激しい音を立てて、彼の体は畳に打ち付けられる。

「なん、で……?」

静かな武道場内に、鈴坂の声のみが響く。ゆっくりとシュウは彼に歩み寄り、しゃがんで問いかけた。

「まだ、やりますか?」

        *

「くそっ!!!!」

鈴坂は座り込み、何度も拳を畳へとたたき込む。あの後すぐに向井が現れ、場内にいた全員に解散命令を出した。今、ここにいるのは鈴坂と向井のみだ。激情に包まれている鈴坂に気を遣うことなく、向井はたずねる。

「強かったかい?」

鈴坂はギロリとにらみ返した。相手が上官であるため、下手な言葉遣いは許されない。荒れる心を押さえつけ、なんとか答える。

「あのガキの実力は本物ですよ。……手加減されてました。遊ばれていたのは僕の方だったんです」

「ふむふむ」

陽気な声で向井はうなずいた。

かの有名な『天才』鈴坂くんに、ここまで言わせるほどとは……。

『決定』だねぇ。

向井は、うれしさに思わずニヤけてしまう。

「金子くんは特殊生、そして……我々にとって最高の『殺人兵器』だ。合戦が待ちきれないなぁ」



●授業科目(戦術)の内容説明●

剣術・体術・銃術は、まずは基本の型を学び身につけ(基本を知らないと戦いようがないから)、いずれは各々自己流で戦えるようにしていく。1年生の時は、基本的に木刀やハンドガンなどしか武器は扱わない。鎖や爆薬などあらゆる武器を使っていくのは2年生から。医学では、人体の構造を学びつつ、応急処置など治療方法を実技で、攻撃すべき急所を座学で主に学んでいく。

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