表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Person~パーソン~  作者: 騎乃レン
17/29

~第壱幕~ 拾陸.最高の『殺人兵器』(前編)

入隊式から三カ月が経ち、初めての夏がやって来た。毎日さまざまな訓練を受け、生徒たちは着実に戦闘能力を高めていっている。まだ、体も成長過程な彼らの吸収力はすさまじく、それは全てのことにおいて言えることである。

全員、頑張っているようだね。

向井は教官室の自分のデスクにて、生徒たちのデータファイルをペラペラとめくっている。

『脱落者』が出ないといいんだけど。

『脱落者』は、通常存在しない。SBS生になった者は、卒業するまで辞めることは許されない。脱走者はたまにいるが、入隊時に体に浸みこませた化学物質によるGPS機能で、確実に捕まえることができる。そして、罰則を与えたうえで再び訓練に戻させるのだ。『脱落者』、それが意味するのはつまり……戦闘能力を失った者のことである。手や足がなくなった者、極論を言えば命を落とした者たちのみ『脱落者』となる。命をかけた戦いから『解放』される、唯一の方法。

『解放』か……。

向井は、ある生徒のページを見つめる。

「君は一生、『解放』されないんだろうね」

ページの一番上には、その生徒の名前が記されていた。『金子秋(カネコ・シュウ)』と……。

        *

教官会議では毎回、シュウの話題があがることが当然となっていた。実力が異常すぎるためだ。初めの一カ月は様子見として、教官たちは目を光らせてシュウを観察していた。その結果、彼らは口ぐちに言う。

「彼は『普通』ではない。何かしらの訓練を受けた経験がある」

会議にて、その意見を静かに聞いていた武田は、重い口を開けた。

「君たちは、トロワの『特殊生』というモノを知っているかね?」

特殊生……?

部屋中がざわつくが、武田が再び話し出すと静かになった。

「トロワの『特殊生』とは、このSBSと似たようなモノらしい。異なるのはその対象年齢が小児期からであることと、さらに厳しい訓練を受けて育成される、ということだそうだ」

重い空気が、部屋を埋め尽くす。

「以前……」

武田は続けた。

「以前、その『特殊生』がこのSBSに紛れ込んだことがあった、と聞いたことがある。どうやら、トロワ政府の命令により参加するようだが、その意図はわからん」

「つまり、金子シュウはその『特殊生』であると?」

「否定はできんな」

浅田の問いに、答える武田。

「トロワのスパイですか?」

「いや、そうとは限りませんよ」

次に答えたのは、向井だった。

「私が把握している限り、金子シュウはスパイ行動を一切しておりません」

その言葉に武田はうなずく。

「害がない限りは、金子シュウを自由にさせておけ」

武田は立ち上がり、下山とともに部屋の扉へと向かった。

「いいのですか?」

他の教官たちも立ち上がる。フッ、と笑い武田は言った。

「いいではないか。『特殊生』だぞ?最高の『殺人兵器』だ」

        *

「『殺人兵器』かぁ……」

そう、つぶやいた時だった。向井の両肩に後ろから、ポンと手を置く者がいた。

「向井さん、なに物騒なことを言っているんですか?」

後輩にあたる、一般軍人の鈴坂(たける)だった。

「いや、まぁね」

言葉をにごす向井に対し、鈴坂はマイペースのまま話し始める。

「今回のSBS生はどうなんです?豊作ですか?それとも、はずれ?」

「はは。まだ三カ月だ。何もわからないよ」

しかし、そう言ったものの向井は言葉を改めた。

「いや、……一人は、最高の人材だね」

「へぇ」

鈴坂の目の色が変わった。

「僕、今とても退屈なんですよ。周りの奴らは弱っちすぎて、訓練にもなりませんし。飽きたなぁって。たまには、スリルってのを味わいたいです」

そんな鈴坂に向井は思わず微笑む。

そういえば、彼も『天才』だったなぁ。

鈴坂は元SBS生で、西ニホンではトップクラスの成績だった。そんな彼は卒業してもそのまま軍に残り、軍人として働いている。戦いが好きでたまらない、いわば狂人だ。戦いにおいて、貪欲すぎるほどの。

「そんなに、スリルを味わいたいかい?」

「もちろん」

「実はね……」

向井は『金子秋(カネコ・シュウ)』のページを見せながら、鈴坂に話し出した。

        *

シュウはいつも通り、西本たち四人と一緒に夕食をとり、食べ終わったところで箸を置いた。その時だった。後方に、気配を感じるのだ。振り向くと、二〇歳くらいの背の高い青年が一人、すぐそばまで近づいて来る。そして、シュウの後ろに立ち止まった。

「お見事。よく、気配がわかったね」

一応、気配は消していたつもりだったんだけど。

青年は笑う。シュウも西本たちも、警戒しながら彼を見つめた。

「君が、金子シュウくんかい?」

「……そうですが」

青年はさらに笑う。

「僕は鈴坂健。ねぇ、僕と遊ぼうよ」

「……?」

シュウは理解できず、何も返すことができない。それでも、彼は気にすることなく言葉を続けた。

「手合わせをしよう。夕食後だと、キツイかな?僕はいつでも大丈夫だけど。どうだい?」

そして、シュウに耳打ちする。

「『トロワの特殊生さん』の実力が知りたいんだ」

すぐそばにある彼の顔を見れば、無邪気な笑顔を浮かべている。

この人、俺のことを知っているんだ。

教官たちから聞いたのか?

俺を試すため……?

「ね、ダメかな?」

この人の力がどれほどのモノかはわからないけど。

でも、試したいなら試せばいい。

鈴坂にシュウは強く言い返した。

「わかりました。今から、やりましょう」

立ち上がろうとするシュウの腕を、ガッと右隣の西本が掴む。

「おいっ。どうしたんだよ」

いつもとちがう雰囲気になったシュウに戸惑う西本。

「行かない方がベストだと思うぞ」

その隣の原田もシュウを見つめて言った。

ふぅ。

シュウはため息をつくと、ピリリとした空気から普段の空気へと変えて言う。

「大丈夫だ、ありがとう。でも……行くよ」

そんな言葉を聞いたら、西本たちも引き留めを諦めるしかなかった。それを見て、鈴坂が言葉をかける。

「別に、お友達も一緒に来てくれてもかまわないよ。邪魔さえしなければね」

「なら、行きます!もちろんです!」

すぐさま立ち上がった彼らの姿に、シュウは思わず顔をゆるめるのだった。


●授業科目(学芸)の内容説明●

数学は数Ⅰ数Aの内容をする。国語は現国・古文のみ(読解問題中心)。理科は基礎物理・基礎化学・基礎生物のみ。これら3教科とも高校学習範囲を扱うが、応用問題より基本問題を中心的にしていく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ