~第壱幕~ 拾伍.『金子シュウ』の実力
授業が開講されてから、一週間が経った。どの戦術の授業でも、金子シュウの実力は確かで目立っており、教官を負かすほどだった。生徒、教官、全ての者がシュウに注目していた。もちろん、西本・原田・脇田・田村も、である。彼らは問う。なぜ、そんなにも強いのか。シュウは繰り返し答える。幼いころから、いろいろな武術を習っているだけだ、と。しかし、そんな言葉では納得できなかった。
それにしたって、強すぎるだろ。
好奇心ゆえに、さらに真相を探ろうとする西本・脇田・田村だったが、原田によって止められた。
「金子は、もしかしたら言いたくないのかもしれない。アイツが言い出した時に、話を聞くべきだ」
*
彼ら以外の生徒にとっても、『金子シュウ』は注目の的だった。
「可奈ちゃんは何も知らないの?」
シュウと唯一同じ班の女子である小島は、他の女子から質問攻めにされていた。
「知らない。しゃべったことだって、まだ、あんまりないんだから」
確かに、あいさつを返されたことくらいしかない。『謎多き美少年』、そんな言葉が女子の間で作られた。シュウは女の子のような顔をしている、かと思えば、見た目と反して誰よりも強い。小島も、他の女子のようにシュウを改めて意識するようになった。謎だらけの『彼』に。
*
逆に、シュウを避けたり毛嫌いする生徒もいた。特に、二班の山口広人はシュウを嫌うどころか、むしろ憎んでいた。なぜ、憎むのか。それはシュウが自分より優秀で、目立っているからである。公立川瀬高校は府内でもトップクラスの進学校だ。そこへ入れるのは、中学でも勉強において最も『上』の者のみ。山口は、中学校でいつもトップの成績だった。先生や他の生徒からの評判も良く、誰からも頼られるような優等生だったと、自分でも認識している。
それなのに!!
今の状況は何だ!!
俺じゃない他の奴が、『金子シュウ』が一番で、注目を受けているなんて!!
山口は、それが許せなかった。シュウに、嫉妬していた。
*
教官たちは、『金子シュウ』の実力に舌を巻くばかりだった。週に一度開かれるSBS教官会議でも、『金子シュウ』の話がもち上がった。シュウの実力は良いどころではない、ずば抜けている。
「『普通』でないことは確かだ」
じゃあ、何者なんだ?
脳裏に『ある』単語が浮かんだ教官長の武田だったが、あえて何も言わなかった。
まだ、開始したばかりだ。
確信を持って、そうだと言いきれない。
武田は言った。
「慌てるな。今はまだ様子見といこう」
*
秋はうつ伏せにベッドで寝ころがっていた。消灯時刻を過ぎたばかりだ。
「私は、やっぱり異質だ」
小さくつぶやき、ここ最近を思い返す。好奇の目。恐怖の目。自分を見る生徒たちの目つきがそれへと変わっていくのを、秋は感じとっていた。自分は『普通』じゃないと、改めて思い知る。
「それなのに……」
ごろりと寝返りをうち、秋は今日の夕食後の談話室でのことを思い出した。
*
「金子って、すごいな」
田村が言い出した。
「教官たちの、あのまぬけ面。いい気味だぜ」
脇田も続けた。
なにが、すごいって?
シュウは思った。
俺は、ただ……人を殺す方法を知っているだけだ。
すごくなんかない。
すごくなんか……。
その思考を遮るようにして、西本が言う。
「金子、今度教えてくれよな」
殺し方をか……?
心の中で、彼に問う。しかし、予想外の言葉が返って来た。
「生き残るためにさ!!」
『生きる』……?
その言葉は、シュウの心の奥に響いた。
今までは、逆のことを考えていた。殺すためだけに、戦うのだと。
でも、もし。
この力で、彼らを救うことができるなら……。
「俺のこと、怖くないのか?」
彼らは、きょとん、というような顔をする。そんな彼らを代表して、原田が笑いながら言った。
「そんなワケないだろ、バーカ」
お前はお前。
俺たちの『仲間』だろ?
*
「仲間……言われるのは初めてだ」
仰向けになって、再びつぶやいてみた。
この力を、殺すためではなく、生きるために……。
彼らを、救うために……。
「私の任務は、勝つこと」
勝つことと殺すことがイコールでないなら……。
目を閉じて、大きく息を吸う。少し止めて、吐き出す。
私が特殊生だと、もうバレているかもしれないな。
だけど、別にどうだっていい。
ハンス支部長だって、そう言っていた。
「私が一人で戦えば、クラスメイトたちが戦うこともなくなる」
心に体に、傷を負ってしまう者もいない……。
●田村 耕助●
身長166㎝(入学時)。兄が一人と弟が一人いる。体型は脇田と似たり寄ったり。髪型は短め&天パ&明るい茶色(地毛)。脇田とは名コンビ。サッカークラブに小学生の頃から在籍中。よくはしゃいでカワイイ性格。脇田よりは少しだけ落ち着いていて、意外と細かい。血液型はA。