表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Person~パーソン~  作者: 騎乃レン
14/29

~第壱幕~ 拾参.早朝トレーニング

その夜も、また、あの忌まわしい放送音が鳴った。五人が談話室から、ちょうど各部屋へ戻って来た時である。

ピンポンパンポーン♪

『こんばんは、向井です』

昨日とはちがい、シュウは冷静さを保っていたので、静かに耳を傾ける。

『再度言いますが、明日から正式に訓練が始まります。もちろん、早朝トレーニングもです。開始時刻までに、グラウンドの朝礼台の前へ、屋外での訓練服……つまり戦闘服を着用の上で来て下さい。向かって右から、一班、二班、……と、縦に列を作って並んでおくこと。時間厳守は、軍においても基本中の基本です。必ず、守って下さい。以上です』

        *

翌朝、シュウは五時四十五分までに朝礼台の前へやって来ていた。早朝トレーニングは六時からだ。しかし、だからといってその時間に集合というワケではない。時刻になればすぐさま開始なのだ。それまでに各々準備を整えておく必要がある。それに、もし教官たちが時間前にやって来ているのに、自分たちの方が遅かったら?……まちがいなく、その生徒は何かしらのペナルティーをくらうだろう。軍とは、そういうものなのだ。それを、シュウは痛いほど知っている。

        *

少しずつだが、生徒が朝礼台の前に集まり出す。シュウは戦闘服をまとう彼らを見て、つくづく思った。似合わないな、と。

いや、似合わない方がいいのか……。

でも、いずれ似合っていくんだろうな。

『普通』の一般人ではなく、SBS生になってしまったのだから……。

「ここ、三班?」

思考していると、一人の少年が近づき、シュウにたずねた。背が高く、優しそうな雰囲気だ。それこそ、戦闘服が全く似合わない、『今』は。

「そうだよ」

「そっか。ありがとう。俺も三班、小林瑛良あきら。よろしく」

眩しいほど爽やかに笑う。

「金子シュウ」

と、応えた時だった。

「痛い!痛いって!放せよ、聡!!」

「うるさい、この馬鹿!早く歩け!!」

そんな声が聞こえてきた。シュウは、ため息をつく。

またか……。

案の定、西本と原田だった。西本は原田に腕をつかまれ、引きずられるようにして、こちらへとやって来た。他の生徒たちと同じように、小林も少し驚きながら彼らを見ている。二人はシュウのもとへ来る。

はぁ……。

シュウは思わず、再びため息をつく。そんなシュウに、西本は元気にあいさつをした。

「あ!おはよう、金子!」

「のん気にあいさつしてる場合か!アホ!」

西本に、いつものごとく原田がツッコミを入れる。そして、彼もまたため息をつきながら、シュウに説明した。

「こいつ、相変わらず緊張感ないんだぜ?心配になったから、五時三十分すぎに部屋を訪ねたんだ。そうしたらさ、こいつ、まだベッドで寝ぼけていやがった!」

ギロリ、と原田が西本をにらむ。それに対抗するように、西本も言う。

「だから、六時に行けばいいんだろ?間に合うって、ギリギリ」

「それまでに教官たちが来てたらどうするんだよ!ただじゃ済まされないぞ!!」

そして、言い合いを始める二人。

……原田の奴は、よくわかっているんだな。

シュウも、のん気にそんなことを考えてしまっていたが、グラウンドに立っている時計台をちらりと見ると、二人を止めにかかる。

「おい、もうよせよ。時間がヤバい」

二人も時計台を見る。

「なんだ、まだ五分もあるじゃん」

「お前、まだ事の重大さをわかってないだろ」

最後に西本の頭をこづくと、原田は一班の列へと並びに行った。

「聡のやつ……」

「今回は、お前が悪い」

西本はすねた。

「金子も聡の味方かよ」

「そういうワケじゃない。けど、とりあえず並べ」

「はぁい」

しぶしぶ、という様子で列に並びに行く。来た順で、一番前がシュウ、次に小林、名前がまだわからない女子、男子、最後尾に西本だ。そして六時のサイレンとともに、武田と下山を除いた全ての教官たちが現れ、トレーニングは始まった。

        *

全員が時間までには集合していた。それを見て、朝礼台に立っている向井は満足そうに言う。

「うん、うん。全員そろっていますね。みなさん、優秀だなぁ」

相変わらず、イラ立つ話し方だ。

「おはようございます。では、早朝トレーニングを始めましょう。まずは、ラジオ体操から」

その言葉を聞くと、朝礼台の右隣に立っていた浅田がCDデッキのスイッチを入れた。

♪~♪~

曲が流れ出す。

ラジオ体操?

まるで、学校の体育じゃないか。

生徒たちは戸惑うが、教官たちの鋭い視線を感じ、それに従うようにして体操を始めた。それが終わると、次はストレッチをして体の筋肉をよりほぐす。そして、二〇〇メートルトラックを延々と走る。受験をしていたため、運動不足だった者も多いだろう。いきなりの走り込みに苦しそうにする生徒たち。それでも、教官たちから叱咤を受け、走り続ける。

「だらだら走るんじゃない!!」

「おい!しっかり走れ!!」

慣れているシュウにとっては大したことはないが、終了の合図が出た頃には、ほとんどの者が肩で息をし、ヒューヒューと音を立てて座り込んでいた。少し離れた所にいる西本と原田を、ちらりと見る。さすが、とでも言おうか。元陸上部の原田は落ち着いた様子でクールダウンをしていたし、西本もまだまだ走れそうな表情をしていた。『運動バカ』と原田が西本のことを言っていたが、本当だったようだ。

        *

サイレンが再び鳴った。七時だ。向井の解散の一言とともに、教官たちは本館へと入って行く。生徒たちもならって、SBS寮へと帰り始めた。

「早朝トレーニングって、案外楽だったな」

シュウの近くにより、西本が言った。一緒に来た原田も、シュウと同じくため息をつく。

「たぶん、初日だから、軽めだったんだよ。ありがたいことにな」

シュウの言葉に、原田も続く。

「おそらく、な。少しは頭を使えよ、この能天気バカ」

「バカって言うなよ!!」

また言い合いを始めた二人を見ると、シュウは今度は大きなため息をつき、寮へと一人歩み進んで行った。





●時間割り(1年生)●

月曜:①銃術②医学③国語④体術/火曜:①精神学②体術③医学④銃術/水曜:①理科②剣術③精神学④体術/木曜:①剣術②数学③医学④銃術/金曜:①医学②体術③精神学④国語/土曜:①数学②銃術③理科④剣術/日曜:休み

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ