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Person~パーソン~  作者: 騎乃レン
13/29

~第壱幕~ 拾弐.『生き残る』ということ

「今日は木曜だから、明日は金曜日。時間割は、医学、体術、昼休みをはさんで、精神学、国語か……」

西本は配られた時間割表を見ながら、ブツブツとつぶやく。昼食を終えた三人は、今はSBS寮の二階にある談話室で休息をとっていた。自分の部屋にいる者もいるようだが、多くのSBS生がこの部屋でしゃべり合っていた。原田、西本、シュウの順に横に並んで三人はソファーに座っている。

「国語ってのが、気になるな。まるで『学校』じゃないか」

「普通の勉強もさせてくれるんだな~」

思うところがあり、原田は曇った表情をするも、対する西本はのんきな声を出すだけだった。プリントをのぞきながら、シュウもつぶやく。

「学年目標は、全てにおいて基本を身につけ慣れること」

基本がなってないと、戦うにも戦えないからな。

そして次に、時間割の精神学という授業に注目した。

一般人であった生徒たちにとって最も重要なのはきっと……この授業だ。

パニックを起こすことなく、冷静に対処する……『心』を強くし、保つことが戦場では必要不可欠である。ふと、人の近づく気配を感じたので、シュウは考えるのを止めて、そちらへと目を向けた。西本も原田も、それに反応して目線を上げる。二人の少年が、近づいてきた。そのうちの一人が言う。

「ここ、いいか?」

「もちろん」

西本はいつもの人懐っこい笑みで応えた。安心したように、二人の少年は三人と向き合うようにして置いてある、ソファーへと座った。

「あ」

原田が声を出す。

「確か、俺たち同じ一班だよな?」

「うん、そう。一班だよ」

「やっぱり、そうか」

西本は何の話か気になるようで、うずうずしている。

「なになに?」

そんな落ち着きのない西本に対し、原田はため息をついて言った。

「とりあえず、自己紹介でもすればいいんじゃないか?」

「そうだな」

西本は納得したようで、しゃべり始める。

「俺、西本一。三班」

「原田聡。一班」

「金子シュウ。三班」

そして、二人の少年も言う。

「脇田祥兵。五班」

「田村耕助。一班」

よろしく。

互いに笑う。

「脇田と田村は、もしかして同じ中学出身なのか?」

「中学どころか、小学校から一緒さ。なぁ、耕助」

「祥兵の言う通り。くされ縁ってやつ。やだやだ」

原田の問いに、彼らは身振り手振りをつけて楽しそうに答えた。

        *

その後も、いろいろとしゃべり合った。西本はスポーツ全般が得意で(原田に言わすと『運動バカ』らしい。)、兄と姉が一人ずつ。原田は実家が病院で、元陸上部だったので走ることが得意。脇田はヒップホップ系のダンンスが好きで、音楽も好き。田村は幼いころからサッカーをしていて、中学の部活ではフォワードをしていたらしい。シュウは、その様々な情報を頭へと取りこんでいく。

「金子はどうなんだ?」

田村が、にこやかに聞いてきた。違和感を与えないよう、差し障りなくシュウは答える。

「特に部活には入っていたことはない。でも、習い事みたいな感じで、いろいろな武術を学んできたから、特技は一応それだな。今は、祖父母と暮らしている」

「へぇ……すごいな」

脇田が感心したようにつぶやいた。

「武術か……。だからいつも、キリッとしてるんだな」

原田の言葉にシュウは反応する。

「キリッと……?」

「あぁ。なんか、雰囲気がな」

「わかる、わかる」

西本も言い出した。

「隙がないって感じだよな」

度胸もメチャクチャあるし。

きっと、今朝の食堂での出来事を思い出して言っているのだろう。

「逆にお前は緊張感なさすぎ。金子を見習え」

ビシッと原田から西本へツッコミが入り、笑いが生まれる。

「うるせーよ。俺は、やる時はやる男なんだからな。スイッチが入れば、何でもやりこなすぞ」

「すっげー、自信だな」

「頑張れよー」

笑顔があふれる和やかな雰囲気の中、シュウだけは上手く乗ることができなかった。あまり、こういう雰囲気に慣れていないからだ。気づいた原田が、困り気味のシュウに微笑む。まるで、大丈夫だとでもいうように。どう返すべきかわからなかったので、シュウはさらに戸惑ってしまったわけで。そんな二人を見て、西本が声をかけた。

「どうかしたのか?」

「いや、別に」

原田に上手くごまかされる西本。それを気にすることなく、誰かがまた声をあげ、再び五人での会話が始まった。

        *

「……明日から、ついに訓練が始まるな」

田村はソファーにもたれながら、静かにつぶやいた。他の四人もそれぞれ、真面目な表情になる。

「訓練て、何をするんだ?三年後の合戦で、俺は生き残れるのか?何より、この三年間を俺は耐え抜くことができるのかな?」

田村の声は震えていた。西本がそれに応える。

「できるかどうかじゃない。耐え抜かなくちゃいけないんだ」

強い意志がこもっていた。

「死んで、たまるかよ。俺は、絶対に生き残る。みんなも、だ。死なせたりなんか、しない」

「あぁ。絶対に、生き残るぞ」

原田も続いた。脇田も、弱気になっていた田村も、大きくうなずいた。しかし、シュウだけは暗い表情のままだった。

甘いよ、みんな。

肝心なことを、みんなは忘れている……。

心の中でつぶやく。

誰かを守るってことは、自分が生き残るってことは、代わりに誰かを殺すってことなんだぞ。

希望を持って、これから生き抜いていこうと決心をした四人に反し、自分だけが冷酷に考えてしまうことに、シュウは心が苦しくなった。


●第1学年の授業科目名●

体術、剣術、銃術、医学、精神学、数学、国語、理科(物理化学生物)の8科目。各科目の詳細説明は以降の後書きにて(✿◡‿◡)

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