~第壱幕~ 拾弐.『生き残る』ということ
「今日は木曜だから、明日は金曜日。時間割は、医学、体術、昼休みをはさんで、精神学、国語か……」
西本は配られた時間割表を見ながら、ブツブツとつぶやく。昼食を終えた三人は、今はSBS寮の二階にある談話室で休息をとっていた。自分の部屋にいる者もいるようだが、多くのSBS生がこの部屋でしゃべり合っていた。原田、西本、シュウの順に横に並んで三人はソファーに座っている。
「国語ってのが、気になるな。まるで『学校』じゃないか」
「普通の勉強もさせてくれるんだな~」
思うところがあり、原田は曇った表情をするも、対する西本はのんきな声を出すだけだった。プリントをのぞきながら、シュウもつぶやく。
「学年目標は、全てにおいて基本を身につけ慣れること」
基本がなってないと、戦うにも戦えないからな。
そして次に、時間割の精神学という授業に注目した。
一般人であった生徒たちにとって最も重要なのはきっと……この授業だ。
パニックを起こすことなく、冷静に対処する……『心』を強くし、保つことが戦場では必要不可欠である。ふと、人の近づく気配を感じたので、シュウは考えるのを止めて、そちらへと目を向けた。西本も原田も、それに反応して目線を上げる。二人の少年が、近づいてきた。そのうちの一人が言う。
「ここ、いいか?」
「もちろん」
西本はいつもの人懐っこい笑みで応えた。安心したように、二人の少年は三人と向き合うようにして置いてある、ソファーへと座った。
「あ」
原田が声を出す。
「確か、俺たち同じ一班だよな?」
「うん、そう。一班だよ」
「やっぱり、そうか」
西本は何の話か気になるようで、うずうずしている。
「なになに?」
そんな落ち着きのない西本に対し、原田はため息をついて言った。
「とりあえず、自己紹介でもすればいいんじゃないか?」
「そうだな」
西本は納得したようで、しゃべり始める。
「俺、西本一。三班」
「原田聡。一班」
「金子シュウ。三班」
そして、二人の少年も言う。
「脇田祥兵。五班」
「田村耕助。一班」
よろしく。
互いに笑う。
「脇田と田村は、もしかして同じ中学出身なのか?」
「中学どころか、小学校から一緒さ。なぁ、耕助」
「祥兵の言う通り。くされ縁ってやつ。やだやだ」
原田の問いに、彼らは身振り手振りをつけて楽しそうに答えた。
*
その後も、いろいろとしゃべり合った。西本はスポーツ全般が得意で(原田に言わすと『運動バカ』らしい。)、兄と姉が一人ずつ。原田は実家が病院で、元陸上部だったので走ることが得意。脇田はヒップホップ系のダンンスが好きで、音楽も好き。田村は幼いころからサッカーをしていて、中学の部活ではフォワードをしていたらしい。シュウは、その様々な情報を頭へと取りこんでいく。
「金子はどうなんだ?」
田村が、にこやかに聞いてきた。違和感を与えないよう、差し障りなくシュウは答える。
「特に部活には入っていたことはない。でも、習い事みたいな感じで、いろいろな武術を学んできたから、特技は一応それだな。今は、祖父母と暮らしている」
「へぇ……すごいな」
脇田が感心したようにつぶやいた。
「武術か……。だからいつも、キリッとしてるんだな」
原田の言葉にシュウは反応する。
「キリッと……?」
「あぁ。なんか、雰囲気がな」
「わかる、わかる」
西本も言い出した。
「隙がないって感じだよな」
度胸もメチャクチャあるし。
きっと、今朝の食堂での出来事を思い出して言っているのだろう。
「逆にお前は緊張感なさすぎ。金子を見習え」
ビシッと原田から西本へツッコミが入り、笑いが生まれる。
「うるせーよ。俺は、やる時はやる男なんだからな。スイッチが入れば、何でもやりこなすぞ」
「すっげー、自信だな」
「頑張れよー」
笑顔があふれる和やかな雰囲気の中、シュウだけは上手く乗ることができなかった。あまり、こういう雰囲気に慣れていないからだ。気づいた原田が、困り気味のシュウに微笑む。まるで、大丈夫だとでもいうように。どう返すべきかわからなかったので、シュウはさらに戸惑ってしまったわけで。そんな二人を見て、西本が声をかけた。
「どうかしたのか?」
「いや、別に」
原田に上手くごまかされる西本。それを気にすることなく、誰かがまた声をあげ、再び五人での会話が始まった。
*
「……明日から、ついに訓練が始まるな」
田村はソファーにもたれながら、静かにつぶやいた。他の四人もそれぞれ、真面目な表情になる。
「訓練て、何をするんだ?三年後の合戦で、俺は生き残れるのか?何より、この三年間を俺は耐え抜くことができるのかな?」
田村の声は震えていた。西本がそれに応える。
「できるかどうかじゃない。耐え抜かなくちゃいけないんだ」
強い意志がこもっていた。
「死んで、たまるかよ。俺は、絶対に生き残る。みんなも、だ。死なせたりなんか、しない」
「あぁ。絶対に、生き残るぞ」
原田も続いた。脇田も、弱気になっていた田村も、大きくうなずいた。しかし、シュウだけは暗い表情のままだった。
甘いよ、みんな。
肝心なことを、みんなは忘れている……。
心の中でつぶやく。
誰かを守るってことは、自分が生き残るってことは、代わりに誰かを殺すってことなんだぞ。
希望を持って、これから生き抜いていこうと決心をした四人に反し、自分だけが冷酷に考えてしまうことに、シュウは心が苦しくなった。
●第1学年の授業科目名●
体術、剣術、銃術、医学、精神学、数学、国語、理科(物理化学生物)の8科目。各科目の詳細説明は以降の後書きにて(✿◡‿◡)