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Person~パーソン~  作者: 騎乃レン
10/29

~第壱幕~ 玖.『シュウ』→秋←『アキ』

イラ立ちを抑え、ようやく冷静さを取り戻したシュウは、電気をつけ室内を確認した。トイレとバスルームがある。家具は、簡易ベッド・デスク・デスクライト・椅子・本棚・クローゼット、その六つのみである。小さな窓が一つ、ベッドのそばにあるが、そこには鉄格子がつけられていた。片隅の本棚に、いくつもの教科書と、ノートが数冊。デスクの上には夕食用の弁当と大きめの段ボール箱、筆記用具、没収されていた腕時計と携帯が置かれていた。どちらも、電池が抜かれたのだろう。動く気配がない。段ボール箱を見れば、送り主欄の祖父母の名に目がとまった。

「おじいさん……おばあさん……」

中には、男子用の衣服などが詰まっている。そして、その衣服に隠れるようにして、胸を押さえるためのサポーターと生理用品も入っていた。女である『アキ』にとっては必需品だ。受取人の名が『金子秋』と漢字で書かれていたため、検査をした軍の者は『アキ』という少女だと認識を。また、部屋へと運んだ者は『シュウ』と読み、何の疑問を持つことなく届けた。バレていない。その証拠に、シュウはいまだに軍から詰問を受けていない。

案外、上手くいくもんだな……。

そう思いながら、シュウはデスクで弁当を食べ始めた。

        *

食事を終え、置かれていた冊子を開く。最初の方のページには、SBSについて長々と書かれていた。その歴史、使命、心構え……などである。この任務に就く前に、いろいろとSBSの情報を調べていたシュウにとっては、すでに熟知していたものであり、読んでも特に意味がないと判断したため、ペラペラとページをとばす。次に、『SBS生の一日の流れ(タイムスケジュール)』が載っていた。


起床・・・・・・・・・五時三〇分

早朝トレーニング・・・六時~七時

朝食・・・・・・・・・七時三〇分~

一限目・・・・・・・・八時三〇分~十時

二限目・・・・・・・・十時十五分~十一時四五分

昼食・・・・・・・・・十二時~

三限目・・・・・・・・十三時~十四時三〇分

四限目・・・・・・・・十四時四五分~十六時十五分

夕食・・・・・・・・・十九時~二十時

消灯・・・・・・・・・二三時三〇分 』


その後も、一年生、二年生、三年生、それぞれの時間割や、授業内容、注意事項なども記されていた。シュウは、その全ての情報を頭の中へ取り込んでいく。最後のページや裏表紙には、この訓練所内の見取り図や、上空から見た地図も載っていた。この施設は、SBS寮・本館・軍人寮(一般軍人やSBS教官ら専用)の三棟と、武道場や射撃場などから成る。本館一階には、食堂と売店があって、生活必需品や文房具は、そこで買えるのだろう。

なるほど……だいたいは理解した。

シュウは冊子をデスクの上に置き、段ボール箱から適当に服を取り出すと、シャワーを浴びるため、バスルームへと向う。

        *

服を脱ぎ、胸を押さえつけていたサポーターもはずた。

「私は『金子秋(あき)』」

鏡を見ながら、つぶやく。成長途中とはいえ、この胸のふくらみと腰のくびれ、まるみを帯びた身体は、明らかに少女のものだった。

「私は、女性」

そう、自分に言い聞かせる。これは、本来の自分を失わないためである。一日のうち、少しの時間だけでも『自分』でいないと、本当に失ってしまうのだ。何日間も、『シュウ』で居続けると、本当に『シュウ』になってしまう。精神学的にも実証されていることだ。

「うん。大丈夫」

秋は息をゆっくり吐き出すと、落ち着いた様子でコックをひねり、シャワーを浴び始めた。

        *

ジリリリリ!!

シャワーを終えて、本棚から適当に選んだ教科書を読みふけっていると、先ほどとは違うベルの音が響いた。

『SBS生のみなさん、消灯時刻の五分前です。各自、部屋へ戻って下さい。時間になりますと、各部屋にはオートロックがかかり、翌朝の起床時刻の五時三〇分まで出入りができなくなります。室外の行動は許可がない場合、罰せられます』

抑揚のない、機械的な女性の声だった。その放送通り、五分後の消灯時刻になると、ガチャンとドアにロックがかかる。試しにドアノブをひねり、押したり引いたりしてみたが、全くもってびくともしない。

鉄格子の窓に、開かない扉……。

「まるで、囚人だな」

秋はドアを凝視し、無意識のうちに脱出方法を考え始めた。しかし、すぐに止めた。

「これは任務だ」

言葉をつむぐ。

「逃げることを考える必要はない」

ドアから離れ、ベッドに寝ころんだ。すぐに眠りにつく。しかし、何かあれば即座に目を覚まし、行動を起こすことができる。そのように、秋は戦地で学んでいた。祖父母には悪いが、秋にとって、この世界に『安心できる居場所』など存在しないのだ……『今』は。


●金子 時也●

秋の父。故人(三十代前半で死亡)。世界平和を目指して活躍するジャーナリストで、妻(海砂都)と共にPWの一員だった。京都市出身。身長179㎝。茶髪でボサボサ気味の髪型。愛煙家。眼鏡をかけている。外交的な性格、頑固、動物好き。料理は得意だが掃除だけは苦手気味。国立大学文学部思想学科卒業。

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