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エピソード085 王都で自由行動です──シャロ編5


 向かった先は、鍛冶・加工店。

 2年前、ソフィアと一緒に隕石メテオライトを手に入れたお店だ。


「らっしゃい……おっ? 嬢ちゃん、どっかで見たことあるな」

「以前このお店でいくつか石を購入したんです。あ、ほら。店主さんがこれくれたんですよ」


 私はいつも持ち歩いているメテオライトを取り出して見せた。


「あぁ! 思い出したぜ。おっぱいのデケェ姉ちゃんと一緒にいた変な嬢ちゃんか」

「変、は余計です!」


 私に変な要素なんてないよ! 鉱石を探しに来た普通の女の子だよ。


「2年くらい前か。随分べっぴんさんになったじゃねぇか。おっぱいの方は成長してねぇようだが」

「む、胸だって成長してますよ! ……ちょっとだけ」


 この店主は胸の大きさでしか客を覚えてないのか。いや逆か。鍛冶屋に女性客なんてほとんどこないだろうから胸で覚えてるのか……ってそんな下らない事推論しなくて良いんだよ私!


「ハッハッハ! そうかそうか。それは将来が楽しみだな。……で? 何か用事があったんじゃねぇか?」

「そ、そうでした。私、金鉱石を探してるんです」

「金鉱石? 結局石じゃねぇか。嬢ちゃんも物好きだねぇ。ちょいと待ってろ」


 店主は一旦席を離れて店の奥へ消えていった。

 どうやら品自体はあるみたいだ。あとは純度がどの程度かの問題だけど……。


「ほらよ。これでどうだ?」


 戻ってきた店主が見せてくれた石を鑑定スキルで確認してみるとかなり純度が高い。良い品を出してくれたようだ。


「すごく純度の高い金鉱石ですね! お店で使う予定だったんじゃないですか?」

「なに。少し前まで竜種の野郎が王都に居座ってて客が来なくて余ってたんだ。問題ねぇよ」

「へぇ。それは大変でしたね」


 ここもベルのお母さんことヒューベルデの影響があったみたいだ。


「なんでも美しい銀髪の女性冒険者が追っ払ってくれたらしいんだよな。おっと、嬢ちゃんもそう言えば銀髪だな」

「へ、へぇ。そんな偶然もあるものなんですね……。ところでこの金鉱石いくらですか?」


 私の噂に移りそうだったので即座に話を逸していく。こういう場合はバレても何も良いことはない。


「……まぁ良いか。この量だと銀貨8枚だが、嬢ちゃんなら銀貨7枚で良いぜ?」

「それは嬉しいですけど、小金貨1枚で支払います。その代わり情報を付けて貰えないですか?」


 私はカウンターに小金貨を1枚置いた。情報料としても多いチップだけど、メテオライトを譲ってもらった感謝の気持ちも込めておいた。

 店主は目を白黒させながら、出された小金貨を眺める。


「随分太っ腹だな。良いぜ。俺に答えられる事なら何でも答えてやる」


「では遠慮なく。魔法耐性の防具って金属プレートに金が使われますよね。実用性を考えてどれくらいの質や量が必要ですか?」

「防ぐ魔法にもよるが、初級魔法程度ならせいぜい……嬢ちゃんの髪飾り程度の量があれば充分だ。ただし混ぜものはダメだ。純金でないとすぐに劣化して使い物にならなくなっちまうな」


 ということは金鉱石のままでは対魔法としての効果は見込めないってことか。まぁ、そこは腹案はあるからあまり心配してない。


「ちなみに金貨はどうなんですか? それで防具作ったら強そうだなぁって」

「……それは成金すぎて趣味が悪いな。真面目に答えるなら小金貨には混ぜものがされているからダメだ。それ以外ならまぁ、多少は耐えられるだろうぜ」


 金貨でも代用は出来そうだ。あとで試してみよう。


「最後に、ダメ元でお聞きしますが、金属に魔法刻印を彫れる人とかって紹介してもらえたりしますか?」


「いいぜ。やってやるよ」


「ですよね。流石にそれは……えっ?」

「知ってて聞いたんじゃないのか?」


 店主は呆れたように私の顔を見やった。


「王都で鉱物加工をしてる店ってのは魔法刻印も請け負っている。俺の店もそうだな。俺の妹が彫金師をしている。客の依頼は入って無いはずだから確認してやるよ。それで、どんな刻印だ?」

「『操作コントロール』の魔法です。刻印した物体を操作するっていう……」


 私はいつも付けている金色の隼の髪飾りをカウンターに差し出した。


「コイツは……うへぇ。まさかとは思ったが純金かよ。嬢ちゃんは支払いも良いし、意外と裕福な家柄なのか?」


 えっ? あの髪飾りって純金だったの!? 私メッキだと思ってたから普段使いしてたよ。

 ソフィア、私の為にお金かけ過ぎだよ……。


「いえ、そんな事は……。その髪飾りも戴き物ですし」

「ま、詮索はしねぇけどよ。『操作』の刻印は初級魔法程度の難度だから可能だとは思う。だが、純金はちと面倒だぜ……」


 店主は渡された髪飾りをくまなく調べ始めた。


「純金だと刻印って彫りにくかったりするんですか?」

「いや、彫ること自体はそこまで難しくねぇよ。金は硬度自体はそれほどでもないからな。だが、魔力を通すのが難しいぞ。なんてったって秘宝とまで言われるオリハルコンやアダマンタイトほどでは無いとは言え、対魔法防御用の素材として使用されるものだ。よほど相性が良くないと魔力が弾かれるらしい」


 調べ終えた店主は、髪飾りを取り出した宝石用の空箱に丁寧に収めると、それを私に渡した。


「とりあえず、妹に聞いてみるか」


 店主は店の扉の鍵を掛けて戻ってくる。


「妹はあまりその、人見知りでな。いつも店の地下に引き籠もっている。本来なら数日待ってもらうんだが……」

「ちょっと急を要するので、可能であれば今日中にお願いできればなぁって思ってるんですけど」


 魔法刻印というのがどれくらい時間がかかるものなのかよく分からないけど、無茶なお願いをしているのは理解している。

 必要ならば追加の料金を払う旨を説明すると、店主はゆっくりと首を振った。


「刻印の料金は俺じゃなく妹が決めてるんだ。詳細は妹から聞いてくれ」


 そう言って店主は店の奥へと歩いていった。付いてこいと言われたので私も店主の後ろを速歩きでついていく。


 数多の鉱石が置かれた棚の間をすり抜けて、地下室への階段を降りてゆく。

 地下というだけあって少しジメジメしている。カビっぽい臭いが鼻をつく。


「こんな所に毎日居て、妹さんは身体を壊さないんですか?」

「この地下室を作ったのは他でもない妹だからな」


 話し終えるとすぐに地下室の扉が見えた。扉には『マーヤの部屋 ノックしてね』と書かれた板が貼ってある。


「妹さんのお名前、マーヤさんっていうんですね」

「ああそうだ。……言っておくがあまり驚くんじゃないぞ? アイツは繊細だから機嫌を損ねると仕事をしないからな」


 意味深な言葉を発した店主は、マーヤの部屋の扉をノックする。すぐに中から『はい……』と小さな声が聞こえた。


「俺だ。お前に客を連れてきた。入るぞ」

『え……? お、お客さんも一緒に居るんですか……? ちょ、ちょっとまっ……』


 マーヤの言葉を最後まで聞かず、店主は扉を開けた。

 4畳半程度の石畳の狭い部屋。そこにいたのはソフィアが好んで着ている魔女のような黒いローブを頭からすっぽりとかぶった、同い年くらいの女の子だった。おそらくこの子がマーヤだろう。


「あぁ……部屋を片付けようとしたのに……」


 マーヤの言うとおり、部屋のあちこちには彫金用の工具や、よく分からないビニール袋のようなものが散乱している。


「脱皮の時期だったか。それは悪かったな」


 フードに隠れて分かりにくいが、どうやらマーヤは膨れ面をしているらしい。

 それにしても脱皮とは……? 言葉のつながりが分からず困り顔の私に、店主は疑問を解消してくれた。


「マーヤは亜人なんだ。蛇と人族のな。おいマーヤ。お客さんに顔くらいちゃんと見せろ。いくら恥ずかしいとは言え、お客に対する礼はちゃんとしろといつも言ってるだろうが」

「そ、それはお兄ちゃ……兄さんが急にお客さんを連れてきたからで、別に私は接客とか出来ないし……」


 モジモジと渋るマーヤの態度にしびれを切らしたのか、店主はマーヤに近づきバサッとフードを取っ払った。


「あっ……」


 フードの下から現れたのは、一見すると普通の女の子だった。

 黒髪のおさげに黄色の瞳。少し違うのは瞳と皮膚だ。

 蛇の亜人というらしく、爬虫類のように瞳が縦に割れている。皮膚の上に鱗がちゃんとあるのか、薄っすらと緑がかって見える。


 何というか、ベルが中途半端に竜種化したような姿だ。

 うん……別に驚くような事は無いかな。がっつり蛇の姿、とかだったらちょっとはびっくりしたかもしれないけど、これなら竜種の方がよほど蛇っぽい。

 そんなこと言ったら彼らは絶対激怒するだろうから言わないけど。


「どうも初めまして。私はルシアって言います。いきなりお部屋に押しかける形になってしまってごめんなさい。店主さん……あなたのお兄さんの紹介でお仕事をお任せ出来るかもって聞いてつい、ね」

「あ、え、えっと……。マーヤです。お、驚かないの……? 私の、姿に」


 マーヤは上目遣いで私を見てくる。

 私はその言葉に首を傾げて回答した。


「驚いた方が良かった?」

「!? ……う、ううん。でも、私の姿って、その、爬虫類っぽいし……」

「アハハ、なにそれ。蛇の亜人なんだから当たり前じゃない? でさ、仕事の依頼の件なんだけど──」


 マーヤは普通に話を進めようとしている私のマイペースっぷりに目を白黒させている。


「え、え、えっ……?」


 彼女にとって私の対応は慣れないものなのか、店主に視線で助けを求めるマーヤ。その様子を見て小さくニヤッと笑った店主は、私の肩をバシンッと一度叩くと私を残して部屋を出ていってしまった。


「えぇ……?」


 狭い部屋に取り残された私とマーヤ。一瞬気まずい沈黙が降りる。


「……で、話を戻すけど、出来れば今日の夕方までに刻印魔法を彫って欲しいんだけど、お願いできないかな。料金はしっかり払うから!」


「……えぇ……?」


 時間がなくて焦る私と、自分の姿に驚く素振りもなくガンガン来る私に戸惑うマーヤ。

 4畳半の狭い部屋の主が現状を受け入れるのに、少しの時間が必要だった。


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