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エピソード079 王都で自由行動です──Route Selection

さて、ベルにまつわるお話が一旦一区切りが付き、次は王都編です。


「ねぇ、ちょっと皆にお願いがあるんだけど」


 宿で朝食を摂っていると、突然シャロが真面目な顔でそう切り出してきた。


「んぐ?」

「えっ?」

「もぐむしゃ……むぐ?」

「もぐもぐもぐっ!」


 口の周りをソースでベトベトにしているアーシア。

 それを拭う私。

 口の中にパンパンに料理を詰め込んだローラ。

 同じく口をパンパンに腫らしながらも咀嚼を止めないベル。


 皆が手を止めて同時にシャロを見やった。

 

「どうしたの、シャロ?」

「むぐもぐ?」


 ハムスターみたいに頬を膨らませたままローラが首を傾げる様子を見て、真面目な顔をしていたシャロがガクッと肩を落とした。


「はぁ……。ちょっと気が抜けるからいったん口の中を空にしてくれる? ……悪いけどベルは一回手を手めてくれるかしら」

「(もぐもぐもぐ……ゴクンっ)分かったの!」


 お水を飲んで一息ついた私達を確認したシャロは、コホンと軽く咳ばらいをした後、話を再開した。


「その、お願いっていうのがね……明日からの活動の事なんだけど──」


 そこでシャロは悩むように少しだけ口を噤み、普段腰に吊っている剣の場所をひと撫でし、意を決したように言葉を続けた。



「──明日から3日間、『フォー・リーフ』としての活動をせず、単独で行動させて欲しいのよ」



「ふぅん──……えっ!? じゃあ3日間お休みってこと?」

「へぇ、珍しいね。王都に来る前に長期休暇を取ったばかりなのに」


 シャロの言葉に私とローラは首を傾げた。普段は不必要な休みを嫌うシャロがそんなことを言い出すなんて。

 私はてっきり『せっかく王都まで来たんだから、ここでしか受けられないクエストを受けまくるわよ!』とか言い出すと思ってた。


「やったのー! おかいものにいけるのー!」


 対してベルは休みに積極的に賛成のようだ。道中でも王都で服を見に行きたいとずっと言っていたので随分と嬉しそうにしている。


「私は毎日がお休みみたいなものだから、別にどっちでもいいわ!」


 そしてアーシア。仮にも神様なんだから、自宅警備員みたいな台詞をやめなさい。……うん。確かに普段はいつも私の【聖環・地】の中に引き籠っているから、嘘じゃないんだけどね?


「別に皆はクエストを受けていても良いわよ。あたしはちょっと……行く所があるから3日間は一緒にいられないってだけで」



「シャロが一緒じゃないと私はクエストには行かない」

「私もローラと一緒だよ。シャロが欠けた『フォー・リーフ』なんて『フォー・リーフ』じゃないからね」



 シャロの申し出に、ローラと私はすぐさま否と答え、続くようにベルもうんうんと頷いている。

 仲間想いの私達に、シャロは思わず目が潤んで────



「あんた達…………ただ仕事せずにぐーたらしたいだけじゃないの?」



 ────なかった。


「「ギクゥッ!」」

「あんた達の考えなんてお見通しなのよっ!!」


 そこからしばらくの間シャロのお説教が続いた。冒険者とはかくあるべし、というシャロからの有り難い御高説を聞くフリをして、私とローラはバレないようにチラリと視線を交わして苦笑した。


 シャロの気が済むまで説教を甘んじて受けた後、私は代替案を出してみた。


「それじゃあ、自由行動ってことにしない? 道中でも各々戦力アップしたいって話をした事だし、この際に色々試してみる時間にするって事でどう?

……もちろん、自由行動だから買い物に充ててもいいよ」


 買い物行けないのかぁ、みたいな悲しい目でベルがこちらを見ていたので、最後に付け加えておいた。

 途端に機嫌が良くなって足をブラブラさせているベル。私、ちょっと甘やかしすぎかなぁ。


「ふんっ!──まぁ、あんた達がそれで良いって言うならそれで……。その代わり、自由行動の期間が終わったらクエストを受けまくるわよ! せっかくの王都なんだからね!」

「「「はーい!」」」


 今後の行動指針が決まったところで、ちょんちょんと横から指で突かれた。その指の主はアーシアであり、満足そうにお腹をさすっている。



「ルシアちゃん。もう食べ終わったからそろそろ指輪に戻っていいかしら?」

「「「「……あ゛っ!?」」」」



 アーシアのその言葉で、ようやく私達は食事中だったことを思い出した。せっかくの料理は既に冷たくなっており、私達は泣く泣く冷や飯を食べる事になったのだった。


-----◆-----◇-----◆-----


「ルシア、ちょっといいかしら?」


 部屋に戻り、明日から何しようかなぁとベッドでボンヤリ考え事をしていた私は、突然シャロに声をかけられた。

 ローラはベルと一緒に朝風呂──もう時間的には昼風呂かな? まぁ、どっちでもいいけど──に行ってるので、今この部屋には私とシャロの2人しかいない。


「特に何もしてないからいいよー。どうしたの?」


 シャロはすぐには話を切り出さず、私のベッドに腰掛け、トレードマークのツインテールの片房を弄びながら、何かを悩むようにモジモジとしている。

 意図せぬ沈黙に手持ち無沙汰になった私は、とりあえず身体を伸ばし、ツインテールのもう片房をサワサワと触ってみた。わぁ、昨晩トリートメントで整えたからか、髪がサラサラで気持ちいい。


「……いやっ、何してんのよっ!?」

「え、えーと、バランスを取るために……?」


 特に理由はなかったので、適当なことを言うことしかできない。私の返答にあーっ!と髪をクシャクシャと掻いたシャロは、伸ばしていた私の手を両手で掴んでこう切り出した。



「あー、もう! 躊躇したあたしが馬鹿だったわ!……ルシア、明日から私と付き合ってくれないかしら!」



 ――私は今、何故かシャロに告白されました。

 ……え、どうしてそうなるのっ!? 私、ホントにモテ期到来しちゃったのっ?!

 

「えぇ……? えっと、その気持ちはとても嬉しいんだけど、今すぐ答える事は出来なくて、あの……シャロとはもうちょっとこう、仲間というか、友人として健全なお付き合いをしていきたいなぁって」


 しどろもどろに返事をする私を、訝しそうに見つめるシャロ。その目には私が思わず『お友達宣言』をしてしまったことによる、失意の影は見当たらない。

 それどころか、私の返事の意味が分かっていないらしく、シャロは視線を逸らして自分の発言を振り返るような仕草を見せて──



「はぁ? …………なっ!? ち、ちっっがうわよ!! 告白とかじゃなくて、明日からのあたしの用事に付き合って欲しいって事! ……っていうか、なんであたしがルシアに告白しないといけないのよっ!!」



 ──私が捉えた意味を理解したのか顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。……これは照れてるとかじゃなくて本気で怒ってるな。

 このままだとまた説教モードに突入してしまうので、私は頼み事をされる強みで無理やり話を引き戻した。


「ああ、なるほどね。でも下で聞いた時は単独行動がしたい、って言ってた気がするけど、私がついていっていいの?」

「ぐっ?!……う、うーん。理由は今は言えないけど、それが良いかなぁって。……とは言っても、あんたも急に言われて答えられないと思うし、明日の朝に答えを聞くわ。ちょっと考えておいて」

「んー……。よく分からないけど、分かった。考えとくよ」


 私の返事に軽く頷いたシャロは、何かを小さく呟きながら部屋を出ていった。

 むぅ。シャロが理由を言えないって、一体何事だろうか。まさかあのシャロが犯罪まがいの事に手を出してたりはしないだろうし……でも、きっと厄介な案件なんだろうなぁ。


 異世界に転生してから培ってきた勘がそう囁く。ベッドの上をコロコロと転がりながら考えを巡らしていると、少ししてローラがお風呂から上がってきた。

 

 お湯で火照った身体を涼めるために前を大きくはだけさせたその姿はとっても刺激的で目に毒だ。

 でかい。──何がとは言わないけど、ズルい。


「ん? どーしたのルッシー、そんな顔して」


 いつの間にかローラを凝視していたらしい。正しくいうとローラの一部を若干恨みったらしい視線で凝視していたらしい。


「べ、別に羨ましいとか思ってないからねっ!」

「う、うん。聞いてないけど……。あ、そうだルッシー。明日とか暇?」

「へっ?」


 いきなりローラがシャロと同じような事を言いだしたので、思わず間抜けな声を出してしまった。


「えっと、なんでかな?」

「前に言ったように、武器を一新したいんだよね。で、ルッシーは王都のお店とか一通り回ったんでしょ? ちょっと付き合ってもらいたい」


「……案内としてだよね?」

「……それ以外ある?」


 ですよね。

 でも、さっきシャロに明日から用事に付き合って欲しい、って言われたところだしなぁ。


「まぁ、暇だったらでいいよ。考えといて」

「わ、分かった。考えとく」


 さらに考えておくことが増えてしまった。

 とりあえず答えを出すのは先延ばしにして、気持ちをリセットするため、私もお風呂に入りに浴室に向かった。

 扉を開けると濃い湯気の先でベルが気持ちよさそうに湯船に浸かっているのが見えた。


「ベルはすっかりお風呂にハマったね」

「あ、ルシア! ベル、おふろきもちよくて大スキなの!」


 ベルは昨日から完全にお風呂にハマったらしく、しきりにお風呂に入ろうと誘ってくる。実は1人で朝風呂も満喫していた事を、お手洗いで起きた私は知っている。


 氷竜っていわゆる氷属性だから熱いのは苦手そうなのになぁ。

 ……ベルは普段から冷気を発してるから、冷え性だったり? ……いやいや、そんな耐冷能力の無い氷竜なんて滑稽が過ぎる。

 ということはあれか。冬にお風呂に浸かるときの、あの何とも言えない心地良さを常に感じるのだろうか。なにそれ、ちょっと羨ましい。


「ねぇねぇルシア。おやすみのあいだにベルといっしょにおかいものいこ?」

「……ベルもかぁ」

「?」


 思わず漏れた私の呟きに、小首をかしげるベル。


「あ、ううん。こっちの話。買い物って事は服屋に行く感じかな?」



「そうなの! ルシアと『らぶらぶでーと』なの!」

「ブフォ!? そ、そんな言葉誰から習ったの!?」



「ローラ」



 ……あの野郎、いや女郎め。私の知らない所で無垢なベルに色々仕込みよってからに。

 でもとりあえず、ローラとシャロの用事の方が優先度が高そう──



「ベル、ルシアとおでかけするのスキなの! ルシアがいそがしくないときでいいからー、ね? おねがいなのー」



 ──なんだけど、ベルが可愛くて断りづらい。


「……が、頑張って時間作ってみるよ」

「やったなの! たのしみにしてるの! じゃあルシアのあいてるときにこえかけてほしいの! じゃあね!」


 そういうと、ベルはお風呂を上がっていった。

 私はとりあえず身体を軽く洗い、湯船に浸かると、顔を上げ、ほぅと吐息を零した。


「どうしよう……なんか恋愛ゲームやってる気分になってきちゃった」

「大変ね―」


 いつの間にか隣でお湯にプカプカ浮かんでいるアーシアの事はひとまず放置して、明日から誰に付いていくべきなのか、私は今日一日悩み抜くことになるのだった。


お疲れ様でした。

多忙のため、そしてついにストックが切れそうなので、今後は週2~3の投稿を目指す、という形にしたいと思います。

まとまった自由な時間が欲しいですねぇ……(切実)

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