エピソード077 王都への帰還、そして下衆との再開
私達がベルママに連れ去られてから半日余りたった。濃厚過ぎて時が経つのを忘れていたが、来た頃は陽も昇りきっていなかったのに、今では沈みかけている。
「ねぇ、そろそろ王都に戻らないとマズくない? 下手すると大事になるわよ」
「えー、もういっちゃうの? ママのしょくじとってもおいしいのにぃー」
シャロの提案にベルがふくれっ面で反論した。不安だった角を失ったことによる皆の反応が良かった事に安堵したのか、久々の帰郷をもう少し堪能したいみたい。
「それは気になる。竜種の食事なんて、滅多に食べられない」
「私も気になるわ! お腹減ったし」
ベルの言葉に触発されて、食い意地が張っているローラとアーシアも便乗してきた。
「はいはい、2人はそうだよね……。で、シャロ。そんなに急いで王都に戻る必要ある? せっかく久々のベルの家族団らんの機会なんだから、一日くらい泊まっていっても良いんじゃない?」
ノリよくジュルリと涎を拭っているローラは放っておいて、私はシャロに急ぐ理由を尋ねた。
「王都での出来事を思い出してみなさい? あたし達は国王陛下に竜種の様子を見に行って欲しいと頼まれた。その見届人として王国騎士団のケーニッヒ様がその場に一緒にいた。で、あたし達はその目の前でベルのお母さんに拉致された……そうよね?」
「うん」
まだよく理解していない表情をする私に、シャロはため息をついて結論を述べた。
「きっと今頃、慌ててケーニッヒ様が国王陛下に報告してるわ。で、あたし達がいつまで経っても帰ってこない、ってことになれば、下手すればベルのお母様は人族の敵と認定されて討伐隊がここまで乗り込んでくるわよ?」
「「あー……たしかに」」
「ママはてきじゃないの! それはこまるの!」
「でしょ?」
ようやっと事態を飲み込めた私達は、今置かれている状況がヒューベルデにとって、ひいてはここに住まう竜種達にとって都合が悪い事であることを理解した。
『別にニンゲンが攻めてこようが、返り討ちにしてくれるわ!』
「それがダメなんですって! 一応私達もそのニンゲン側なんですから。私はイヤですよ? ベルのお母さんを討伐しに来るのも、討伐しに来た人達と戦うのも」
『うぬぬ……』
そこから必死に説得して、私達はヒューベルデに王都まで送り返してもらう事になった。行きとは違い、私とシャロ、ローラもヒューベルデの背中に乗せてもらい、茜色の空に飛び立つ。
ちなみにアーシアは【聖環・地】の中に戻しておいた。空を飛んでいる時にうっかり滑落、とか有り得そうだからだ。
『私、そんなドジじゃないわよ!』と随分喚いていたが、お詫びに王都で美味しいものを食べさせるから、という一言でおとなしく従ってくれた。……アーシアがチョロくて助かるよ。
「うーん! やっぱり空を飛ぶのは気持ちいいなぁ!」
「ママ―! もっとはやくー!」
私とベルはご機嫌だ。
そう言えば、私が初めてこの世界の空を堪能したのも、夕暮れ時だった。
ソフィアの箒に乗せてもらったときよりも速く、風が強く私の髪をはためかせる。
まるで鳥になったみたいだ。やっぱり私は空を飛ぶのが好きなんだなぁ、と実感する。
「も、もうちょっとゆっくり! お、落ちるぅ!!」
「うぷ……気持ち悪い。酔った……まだ手で運んでくれた方がマシだった」
一方でシャロとローラには不評のようだ。特にローラはヒューベルデが羽ばたく際の上下の揺れにヤラれて顔色が悪い。
お願いだからこんな所で吐かないでね……空中で放り出されるよ?
そう考えると、実は行きの時はちゃんと手のクッションで揺れを減じてくれてたみたい。言動の過激さの割にとてもいい竜種だなぁ。
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黄昏となり、周囲が暗く成り始めた頃、私達は王都の空にたどり着いた。
『見えてきたぞ。どこで下ろせば良いのだ?』
「今日いた広場に降りれませんか?」
出来れば王都の人達、というか王国騎士団の人達には、私達を連れ去った竜種がちゃんと無事に連れ帰ってきた、という事をアピールしておきたい。
『うーむ。そうしたいのは山々だが……ニンゲンが集まっておるぞ。この暗さで無理矢理降りようとすると踏み潰しかねん』
頑張って目を凝らしてみるが、私にはまだ遠いし暗いしで広場の様子が分からない。竜種酔いで撃沈しかけのローラを無理やり起こして様子を見てもらった。
「うぷっ……た、たしかに騎士団の人達が集まってる。火を焚いて……集会……? ヴォエ……あ、アレックスと前にルッシーから聞いた黒髪の……う゛っ……勇者っぽいのがいる。あ、無理、吐きそう……」
もう所々でローラがえづくものだから、内容がぜんぜん頭に入ってこない。とりあえず、アレックスがいるってことだけは分かった。あと、ゲス勇者も。
厄介なことにならないと良いなぁ……。
「む、無理させてごめんね。これ酔い止めだから飲んで。遅効性だからすぐには効かないと思うけどマシにはなるから……」
「うん……ありがとルッシー。もう愛が溢れ出しそう」
「口閉じて、絶対溢れ出さないようにしてね」
「この面倒な時に気が抜けるわね……。ベル、先に地上に降りて皆に広場から離れるように伝えてくれない?」
「わかったのー! ママ、行ってくるの!」
『うむ。達者でやるのだベルザードよ。いつでも皆と帰ってきて良いのだからな』
「うん!」
ベルは挨拶を終えると、ヒューベルデから飛び降り、翼を広げて広場の真ん中に降り立ったようだ。
それから少し時間が経ち、周囲が完全に暗くなった頃、ようやく広場の中心から人が撤退し、篝火が照らされた。
火がこちらに向けてブンブンと振られているので、もう下りても良い合図だろう。私はヒューベルデにお願いして、篝火で囲まれた場所に着陸してもらった。
ズンッという地響きが起き、周囲から「おぉっ…」というどよめきが聞こえたが、それを無視して私達はヒューベルデの背から降りて、少し離れた。
『では我は住処に帰ろう。ルシア、シャロット、ローレライ。我が娘をよろしく頼むぞ』
そう言い残すと、ヒューベルデはバサリと翼を広げ、夜空に飛び立っていった。あれだけ濃い時間だったのに、別れはアッサリしたものだ。
まぁ、いざとなればいつでも会いに行ける。その時は、ベルにもっと詳しく里を案内してもらおうかな。
影が見えなくなるまで見送ると、そのタイミングで私達のもとにケーニッヒが近づいてきた。
「おお、ルシア嬢。ご無事だったか! ベルザード嬢だけが飛んできたので何事かと思いましたぞ!」
「ええ、ご心配おかけしました。ベルもご苦労さま」
私はベルの頭を撫でながら、ケーニッヒから広場に人が集まっていた理由を聞いた。どうやらシャロの予想通り、私達の救出に向かうために兵を招集していたらしい。
「あたしが言い出したんだけど、そんな大事になってたなんて……。別にあたし達なんてただの冒険者なのに……」
「おいおい。お前達はこの国出身の冒険者ギルド上位パーティだぜ? そりゃ一大事にもなるってもんだ。おかげで俺まで駆り出されたんだぜ?」
振り返ると、アレックスがトレードマークの斧槍を担いでこちらに近づいてきた。
「アレックス、来てたんだ」
「ひでぇな。俺は例のクエストの報酬額の話し合い、っていうつまらん事の為にお前らより先に王都に来てたんだぜ?
にも関わらず、お前達だけこんな面白そうな事に巻き込まれやがって。ちょっとはその運、俺にも分けてくれよ」
私は普通にのんびりと過ごしたいだけなんだから、こんな厄介事に巻き込まれるだけの悪運、そっくりそのままのし付けて譲渡したいんだけど。
「……おい、銀髪の。ルシアだったよなぁ?」
皆で無事だった事に一安心して談笑している所に、水を差す人物が1人。イライラと爪を噛み、トントントンと神経質につま先を鳴らしている。
黒髪にこの国では珍しい、別世界の極東島国を想起させる顔立ち。
パンドラム王国に所属する火の勇者、グレンが私の事を睨みつけていた。
お疲れ様でした。
いつも貴重なお時間を頂いて読んでもらい、とても嬉しいです。
楽しんでもらえるよう、そして何より、私自身が楽しんで書いていきますね。




