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エピソード076 私を見守るもの


『ああ……。仮にあの決闘でルシアが負けていたとしても、時間はかかるだろうがお前は我らに受け入れられただろう。何故なら……ルシアが火の大精霊の祝福を受けた者、だからだ』


 …………はい?


「火の大精霊って、ボルカニア様の、祝福?」

「ふぇっ!? ルシアすごいのっ!」

「ルッシー、いつの間にそんなすごい祝福受けてたの?」


「えっ? …………んんー?」


 ボルカニア様の祝福?

 ……ちょっと盛り上がってるとこ悪いけど、そんなの受けた覚えがない。



『それは聞き捨てならないわねっ!』



 心当たりを必死に考えている最中、突然頭の中で大声が鳴り響いた。

 こんな事をするのは1人しか居ない。


「アーシア、うるさいよ……」


 もちろん抗議など聞く耳を持たないアーシアは、『とうっ!』と一言だけ言い残し、私の目の前で顕現した。

 いつもよりも光のエフェクト増し増しで登場するあたり、ボルカニカ様と張り合って、神々しさとか表現したかったのだろうか。……どうせ話したらすぐボロが出るのに。


「うるさくなんか無いよっ! それよりルシアちゃん、さっきのベルちゃんのお母さんが言った事、どういう事? また変な神様とか精霊とかに唾つけられたの?」


 アーシアは私に駆け寄ると身体中をペタペタと拭うように触り、その手をパンパンと払った。

 いや、そんな埃じゃないんだから。


「ダメよ? そんな気軽に体を許したりしちゃ。100歩譲って、私が来るより先に目を付けてたジオニカって精霊の干渉は大目に見るけど、新しくはダメよダメダメっ! それでなくてもルシアちゃんは可愛いんだから、自分を大事にしないと!」


 いや、言い方。

 まるで私が安売りしてるように勘違いされちゃうでしょ。ちゃんと貞操感は弁えてる……ってそうじゃないよっ!

 

『なんだ? このチビは』


 急に現れたアーシアを訝しそうに見やるヒューベルデ。


「チビじゃないわよっ!! 私はアーシア! ルシアちゃんと守護する者にして、この世界とは違う別の世界の神様よ!!」


『神……だと?』


 アーシアはどうだとばかりに胸を張り、ヒューベルデはアーシアを纏う何かを探るように目を細めた。その場に奇妙な沈黙が下り、それがたっぷり30秒ほど続いた。

 

 沈黙に耐え切れず、アーシアがチラチラと私に視線を寄越し始めたので、助け舟を出そうと私が口を開きかけたその時、ヒューベルデが先に沈黙を破った。


『……ふむ。虚言ではないな。確かに、微かではあるが神気を感じる』


 その言葉に、アーシアは喜んでいるのか怒っているのかどっちつかずの変な表情になっていた。その自然な変顔に笑いを堪えていると、ふと、先程聞いた『ジオニカ』って単語で思い出した事がある。


 確か少し前に誰かから『アーシアと地の大精霊ジオニカ様の寵愛を受けてる』って言われた気が……、あっ。



『――神々とジオニカの寵愛を受ける少女よ。そなたの未来に幸多からんことを』



 私はボルカニア祭のキャンプファイアーの前でどこからか聞こえた謎の声を思い出した。

 ……アレって祝福って言っていいの? ただ茶化してるだけだとばかり……。


「まぁ、思い返してみれば多少は心当たりがあるような、無いような……。でも、なんでボルカニア様の祝福を受けている者だと名誉なんです? ボルカニア様曰く、私はジオニカ様の寵愛を受けてる、らしいんですけど」


『此処に住む我らには、あの御方に大恩があるのだ。遠き昔、滅びかけた我が一族を救ってもらった、な。その御自らが祝福なさった者を迎え入れる事、まさに名誉でなくしてなんと呼ぼうか』


 そう言うとヒューベルデは翼を交差させ、祈るように私に頭を垂れた。ベルもそれを真似して祈りを捧げている。

 突然の事に慌てて面を上げてもらうとしたが、ヒューベルデが私を通して──私にそんな価値があるか甚だ疑問ではあるが──ボルカニア様に祈りを捧げているのがなんとなく伝わってきて、気の済むまで私達は静かに待つことにした。



「──それにしても、ベルのお母様はよく分かるわね、ルシアがボルカニア様の祝福を受けてるって。ベルやアーシアも実は分かったりするのかしら?」


 シャロがベルとアーシアに尋ねると、2人とも同じように首を傾げた。


「ううん。ベルには分からなかったの」

「私も! そもそも私、霊感とかほとんどないんだよね、神様なのに。あっはっは!」


 いや、『あっはっは』って。

 というか、霊感がないから分からないって言われたら、神様や精霊がオバケみたいじゃん。止めてよもう……。 


「属性精霊の祝福や加護を受けると魔法が発現しやすいって聞いた事がある。……でもルッシーはボルカニア様が司る火の属性魔法は使えないはず、だったよね?」

「え、あぁうん。指輪さんにも、『火属性の適正は無い』って言われてるからね」


 いつも【聖環・地】が私に伝える魔法の適性は地・水・風の3種類のみで火は含まれていない。尤も、適性があっても魔法は簡単に覚えられるものじゃないけど。


『我々はニンゲンとは異なり、埒外の力の感知に長けた器官を持っておるからな。ルシアから漂ってくるのだ、様々な気配がな』


 うっ! その言い方だとやっぱりオバケ的な何かに取り憑かれている感じがするから、出来れば遠慮願いたいですっ!!


『それに、ボルカニア様の祝福は何も魔法適性のみに作用するのではない。おそらくルシアは攻撃(STR)が高いのではないか? ボルカニア様は火と攻撃と情熱を司る大精霊であるからな』


「まぁ、DEFの次には……」


 たしかに、アーシアという加護がなければ私のステータスで最も高いのはSTRだ。随分とSTRが伸びやすいとは思っていたけど、ボルカニア様の祝福だったのか。


 ────んんっ?

 ということは、私が賜った祝福はボルカニア祭の時ではなく、もっと昔から、ということ?

 …………『ボルカ村』と『火の大精霊ボルカニア』、かぁ。やっぱり、深い関係があるのかも。


「ねぇ。ずっと気になってたんだけど、私も質問していい? ベルたんママ」

『べ、ベルたんママ……。まぁ良い。なんだ?』



「ベルたんママって話し方が男っぽいんだけど、実は雄だったりする?」

「「ブフォッ!?」」


 

 真面目な顔してローラが何を聞くかと思えば、何の脈絡もないぶっ飛んだ質問だった。

 これは流石に失礼すぎる。私達はローラの口をふさごうと立ち上がったが、先にヒューベルデの一言の方が早く────



『雄だが、何か?』

「「ブフォッ!?!?」」



 今度こそ本気で吹き出した。

 ちょ、ちょっと待って。ベルママ、ママなのに雄なの? ふ、複雑な家庭環境、的な……?

 あっ、でもつい先程『竜は雌雄同体』って聞いたし、あり得るの、か……?

 怖くて聞けないよ……。はぁ、ココに来てから驚きの連続で、もう色々と疲れてきた。


 驚きすぎてぐったりしている私とシャロに構わず、ローラは質問を続ける。

 もうやめて、私の精神力は0だってば……。


「じゃあもう一個。ベルたんってまだ子供の竜種って聞いたんだけど、もうルッシーと交尾出来たりするの?」


 ド直球かっ!

 もうちょっと質問方法考えてよ!

 今度からローラじゃなくて『エローラ』って呼ぶぞこのやろう!


 ビクビクしながらヒューベルデの反応を伺う私を見て、彼女(彼?)は大きなため息をついてこういった。


『……言っておくが、ルシアとベルザードとの番の話は()()()冗談だ。ベルザードの今の状況を里の者に受け入れさせるための、言わば方便だ。まだ幼生の子には早い』



「えぇーーッッ!? そんなぁ……」



 ベルが私にしがみつきながら尻尾を激しく逆立てて猛抗議をしている。一方は、声には出さなかったが心の中でホッと息を吐いた。

 なんだかんだ言ってベルが心配だったからあんな小芝居まで打ったのね。そうかそうか……良かったぁ。


 でもちゃんとベルにはフォローを入れておかないとね。

 

「仕方ないよベル。私も残念だけどベルはまだ幼生竜なんだから。もし大きくなって、それでも私の事を好きでいてくれたら、その時は喜んで受け入れるから、ね?」


「むぅー……わかった。ベルがルシアのこと好きなのは変わらないからね!」

「うん、ありがとね。私もベルのこと大好きだよ~」


 私はふくれっ面のベルを抱き寄せて、その頬にそっとキスをした。親愛の証だ。これくらいならリップサービスで許されるだろう。


 そんな様子を呆れたような様子で見ているシャロと、どこか目つきの怪しいヒューベルデ。そして────



「(……ルッシーはベルたんママが『()()()』って言ってたのを絶対聞き逃してるよね。さて、将来が楽しみだ)」



 ────すべてを悟ったようなローラの視線が印象的だった。

 

お疲れ様でした。

いつも貴重なお時間を頂いて読んでもらい、とても嬉しいです。

楽しんでもらえるよう、そして何より、私自身が楽しんで書いていきますね。

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[一言] 竜は複数相手でもいいらしいので問題ないな
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