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エピソード069 私達、竜種に裁かれます


『里の者達よ聞け! 今より我、『氷真竜』ヒューベルデが、我らが信仰――火の大精霊『ボルカニア』様の名において裁判を執り行う! 咎人は――このニンゲン共だっ!!』


 ベルの母親――名をヒューベルデというらしい――が宣言され、裁判が始まった。


『里の皆に、順に説明しよう。事の発端は、我の娘であるベルザードが突然里から姿を消した事から始まる――』


 ヒューベルデがギャラリーの竜種の皆に滔々と説明を続ける間、私はこの場にいないベルの姿を探していた。

 おそらく私達が今後何を言おうと立場が良くなる事は無いだろう。何故なら、この場は竜種の竜種による竜種のための裁判であるからだ。

 人族――彼らの言う所によるニンゲン――である私達がいきなり発言しても火に油を注ぐだけだ。


 であるならば、まだ発言力に可能性があるのはベルだ。ここで生まれ育ち、この場が設けられるきっかけとなったベルの口からすべてを語ってもらうのが良いだろう。


 たしか、ベルはヒューベルデの背に乗ってここまで来たはずだから――と、ギャラリーに熱弁を振るっているヒューベルデの背中にチラリと見ると、確かにベルはそこに居た。

 私の視線に気づいたのかグッとサムズ・アップしている。……なにか考えがある、というのだろうか。


『――であるわけで、我がベルザードと再会したときには、ベルザードは我ら竜の誇りである角を折られていたのだ。それを行ったのが小奴らニンゲンだ。小奴らにベルザードに行った責任を追求するべきである、と我は考える』


『『『『グルァァアア!!』』』』

『『『異議なし!』』』

『いや、しかし……。幼生とはいえ、我ら竜の一族であるベルザードが、やすやすと角を折られた事にこそ非があるのでは?』

『うるせぇ黙ってろジジイ! 何も悪くないベルザードにそんな非道い事をするなんて! だからニンゲンとは相容れぬのだ!』

『ベルちゃんは? ベルちゃんは帰って来てるの?』


 どうやら説明が終わったらしい。周囲の竜種らは喧喧囂囂けんけんごうごうに野次を飛ばしており、その矛先のほとんどは私達に向いている。


 ヒューベルデがその様子に見て満足そうに私達に向き直り、何かを言おうと口を開きかけた。


 その時――



「ちょっとまつの!」



 突然ベルがヒューベルデの背から飛び立ち、私とヒューベルデとの間に割り込むように降り立った。まるで皆から私達を庇うかのように両手を広げ、フッー!と息を荒げて、自分の母親と同郷の竜種達を威嚇している。


『『『『グルァァアアッ!?!?』』』』

『俺だぁー! ベルザード! 俺のつがいになってくれぇー!!』

『あ、ベルちゃんだー! ちっちゃくなったベルちゃん可愛いー!』

『何故お前がニンゲン如きを庇うのだベルザードよ! 貴様ァ……角を折られ、竜の誇りも忘れたかッ!!?』


 一部場違いな声も聞こえるが、多くの竜種がベルの行動に驚き、そして怒りを覚えたようだ。そんな周囲の様子を気にも留めず、ベルはヒューベルデに向かって、王都では伝えることが出来なかった自分の想いをはっきりと口にした。


「ママ! ルシアはわるくないの! シャロもローラも……みんなわるくないの! だから……ベルのだいじなナカマをわるく言うのは止めてほしいのッ!!」


『ほぅ……。庇うか、ニンゲンを。しかし、お前が小奴らに角を折られた事は事実であろう?』


 ベルの言葉にスッと目を細めたヒューベルデは、まるで何かを見定めるかのように鋭い視線でベルを射抜く。身も凍りそうな眼力に一瞬ビクリとベルの身体が震えたが、それでも今度は、王都のように私に助けを求めるような事はしなかった。


「ベルのつのがおれたのは、ベルがダメダメだったせいなの! むしろ、ルシアたちはベルのことを思って、つのをおったの! だから……ママはルシアたちではなく、ベルをおこるべきなのッ!!」


 ベルはヒューベルデから視線を逸らさない。そして、ヒューベルデも立ち塞がる娘の姿をじっと見つめ続けた。

 『一体どういうことだ……?』という周囲の竜種達のざわめきが大きくなり始めた頃、はぁっと大きなため息をついたヒューベルデは、ようやく視線をベルから外し、傍に立っていた私に問いかけた。


『……小娘。いや、名を聞いたな。たしか――』

「ルシアです。ベルのお母様。あと、後ろにいるのがシャロットとローレライ。ベルとは種族が違いますが、私達3人ともベルの冒険者仲間であり――友達です」


 ベルのおかげでやっとまともに話を聞いて貰えそうな雰囲気を感じた私は、此処ぞとばかりに自己紹介をねじ込んだ。

 先程まで場の雰囲気に呑まれていたシャロとローラも、慌ててペコリと頭を下げる。


『ふんっ。聞かれた事にのみ回答すれば良い。……で、ルシアよ。汝に問う。我が娘は汝らを庇う様な言動をしているが、どういう事か。嘘偽りなく答えよ』


 やっとまともに事情を説明できそうだ。

 私は、私達に背を向けているベルの手を引いて、『すべて話して大丈夫?』と耳元で小さく確認を取った。

 これから伝える話はベルの汚点であり、彼女がずっと気にしていたことだ。せめて竜種の皆にはマイルドに隠して伝えた方が……という迷いにも似た感情は、ベルの目を見てそのすべてが霧散した。


 ――余計な気遣いはベルを侮辱することになる。

 そう直感した私は、ベルの想いを無駄にしないためにも、全てを話す事にした。


 私は氷竜形態のベルと戦う事になった経緯、その結果ベルの角を折ることになったこと。ベルを狂わせていた黒い石を取り除いた事を私が説明し、いくつかの補足をシャロが行ってくれた。


『ふむ……。汝らが我が娘の為に手を尽力した事に関しては礼を言おう』

「じゃ、じゃあ!」


 話している途中から私達を見るヒューベルデの雰囲気がどんどん柔らかくなっている事に気づいていた。もしかしたら和解できるかもしれない、そんなことを考えたこともありました。


『しかし、だ……』


 その期待は次の一言で儚くも散る事になる。



『我々にとって角は特別なものだ。どんな理由があろうと角を折った相手に対して、何の責任も取らせず無罪放免とはいかぬのだ』



 ヒューベルデがそう宣うと、周囲で様子を伺っていた他の竜種達が、次々と私達を取り囲む輪を狭めてきた。


「ママ! そんなのあんまりなの!」


 ベルは縋るようにヒューベルデに懇願するが、聞く耳を保たないようだ。

 一気に空気の重くなった状態で、私は心の奥底では『ベルの角を折ったのは、私じゃなくてソフィア師匠なんだけどぉおおお!』と叫びたい気持ちで一杯だったが、それが今の状況を改善するとは言い難い。


 私達は互いに背を向け、少しでも迫る竜種達と戦えるよう、すぐさま武器を抜き出し戦闘状態に入る。ベルも悲壮な表情で覚悟を決め、魔法で氷の爪を造り出して同郷の竜種達に向けて構えた。私達と共に戦うつもりらしい。

 私も手元に【農耕祭具殿・鍬】を取り出すが、はたして農耕具一本でこの数の竜種に何が出来ると言うのだろう。

 

「責任……とは、ベルのお母様は、私に一体何をしろと言うのでしょうか?」


 ベルの故郷で戦闘は避けたい……というか、こんな数の竜種と戦って勝てるわけない。最後のあがきとばかりに、私はヒューベルデに問いかける。


『ふぅむ、では……』


 私の問いかけに、一瞬ギラッとヒューベルデの目が光った気がする。

 あ……。これ、なんか、嫌な予感が……。




『我が娘を傷物とした責任として、ルシアよ……我が娘をつがいとし、子を成せ』




「「「……はぁっ?!」」」

「なんでそうなるのぉぉおおー!?!?」



お疲れ様でした。

いつも貴重なお時間を頂いて読んでもらい、とても嬉しいです。

楽しんでもらえるよう、そして何より、私自身が楽しんで書いていきますね。

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