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エピソード066 私達、変わった集団とすれ違います


 王様との謁見を終えた後、私達はケーニッヒに連れられて、王都に訪れている竜種ドラゴンを見に行くことになった。

 ケーニッヒ曰く、竜種は普段から王都の北にある広場に陣取っているらしい。


「おかしいですな。いつもなら昼時には、奴めが王都中に啼き声を轟かせているのですが……」


 ケーニッヒは王城を出てから、陽の高さを確認して首を傾げている。

 なんで荒れてるのを期待してるんだろう。静かなのは良い事だと思いますよ……?


 一方、ベルは明らかに緊張していた。いや怯えている、と言っても良いかもしれない。玉座の間を出てからずっと、ベレー帽を深く被り、私の手を握ってソワソワと必要以上に周囲を気にしている。


 当初、ベルが『角の切断面を隠す』、そのためだけに被っていた帽子は、最近ではファッション目的にすり替わっていた。

 ベルが毎日楽しげに帽子を選ぶ様子を見て、私は大事な角を折ってしまった当時の罪悪感が薄らいだ気がしていた。


 にも関わらず、今のベルは、約半年前のベルに戻ってしまったかのようだ。その姿に私はズキリと胸が痛くなり、繋いだベルの手を少しだけ強く握った。


 ベルは私の顔をハッとしたような表情で見やり、少しバツが悪そうに笑った。


「ベル、そんなに警戒しなくても大丈夫じゃないの?」

「久々のママに甘えても神様は許してくれると思う」


 シャロとローラもベルを気遣うように声を掛け、「うん……ありがと」と、傍に居た私だけがその小さな呟きを聞き取れた。


 それにしても……と私は歩きながら周囲の様子を伺う。外を出歩いている市民は少ない。

 まぁ、今は直接的な被害は出てないようだけど、ベルの母親とはいえ、竜種は竜種。一般的には『魔物』に区分されるほど、種的に本来気性の荒い生物だ。

 ……人型のベルを見慣れてるからそう言われると私としては非常に違和感があるのだけど。


 そんな竜種が、よりにもよって王都内に居座ってしまった。それは皆出てこないのが普通だよね。たまにすれ違うのは、鎧に身を包んだ兵士か、横断幕を掲げた奇妙な小集団くらいだ。


 横断幕には『魔物にも人権を! 王都の守り神、竜種に仇なすものに神罰を!』と書かれている。……何だあれ?


「ケーニッヒさん。アレって何ですか?」

「あぁ、……アレですか。『魔物を保護する会』の連中ですな。書かれている通り、魔物に人権――正しくは魔物権と言うべきでしょうが――、を主張し、『魔物を殺すな。我々が魔物達に搾取されるのは自然の摂理だ、諦めろ』と毎日吠え立てる変人集団です。

魔物の脅威と戦う我々騎士団や冒険者の皆さんからすると滑稽にしか映らんでしょう」


 なんとも……礼節を弁えるケーニッヒにしては珍しく毒づいた言葉だ。ケーニッヒの気持ちは痛い程にわかるが。

 蹂躙され、大切な誰かを殺されるかもしれない。そんな理性もない魔物が自分の生活圏内で暴れまわる恐怖を、彼らは体感したことはないのだろうか。

 

 ……なかったんだろうなぁ。ああいう事を言ってる人達は。

 ――人は知らない事に恐怖することは出来ないものだから。


 ベルの母親が王都に直接的な被害を及ぼしていない分、勝手に神格化しちゃうほどの人達なんだから……。とはいえ、間接的には相当被害受けてるはずなんだけどね。


 私達はなるべく関わらないよう、彼らの横を足早に抜けていった。私はベルを出来る限り自分の身体で隠しながら。……ベルが竜種だとあの人達にバレると絶対面倒な事にしかならないよ。


 そもそも私達は冒険者。彼らからすると魔物を狩る敵でしかないからね。


 何人かの視線を感じたが、何とか事なく彼らから遠ざかる事に成功した。彼らの姿が見えなくなると、私達はそっと息を吐き出した。良かった、目をつけられなくて。


 もしかして、玉座の間で王様が言っていた『竜種以外にも問題がある』というのは、彼らのことか。


 聞くところによると、騎士団は竜種のいる広場周辺を陣取る『魔物を保護する会』の人達で近寄れず、同じく妙にやる気を溢れさせていたらしい、私の中で『ゲス』の称号を冠する勇者グレンでさえも、彼らの鬼気迫る姿にドン引いたらしい。


 私の頭には、竜種を対処しようと動く騎士団に、デモ行進をする彼らの姿がありありと思い浮かぶ。……うわぁ。


「……騎士団も大変ね」

「「だね」」


「――わかって頂けたようで、なによりです。……本当に」


 シャロが同情のこもった言葉をかけ、私とローラもそれに即同意した。ケーニッヒの言葉には哀愁が漂っているような気がした。



「――ニンゲンって、よく分からない生きものなの」



 ポツリと呟いたベルの言葉は、何気に人族を適切に評した言葉かもしれなかった。


お疲れ様でした。

いつも貴重なお時間を頂いて読んでもらい、とても嬉しいです。

楽しんでもらえるよう、そして何より、私自身が楽しんで書いていきますね。

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