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エピソード063 私達、戦力強化の方法を模索します2


 私達の戦力強化のための作戦会議はまだまだ続く。


「じゃあ次はローラの番かな」

「そうしよっか」


「ねぇ、ベルはー? ベルはまだなのー?」

「うんうん。じゃあ私とローラの後に考えよっか」

「はーい!」


 ベルは早く自分の順番がくるのをキラキラと期待した目をしながら待っている。この新技考える会ってそんなに期待されるような事だっけ? まぁ、ベルが楽しそうだから全然構わないけど。


 それに比べてローラは黙々と刻印札や弓、矢筒を取り出して準備している。ある意味ローラはいつもどおりだね。


「ローラは刻印札で火力アップ、って感じ?」

「もちろんそうだけど、それだけだと芸がないし、他にも戦力強化の方法は幾つか考えてた」


 大きな胸を張って自信満々に答えるローラ。

 そ、そっか。そんな見せつけなくても……。というか、芸がないって……。別に戦闘方法は隠し芸じゃない……の、では……


 私 → 空中から色んな農耕具を取り出す。高精度な石投げ。水芸。その他

 シャロ → メラメラと燃える剣。その他。

 ベル → そらをとぶ。夏でもひんやり空間。氷で造形(爪、槍)。その他。


 ……と思ったけど、考えようによっては隠し芸、とも言える、かも?


「と、とりあえず、他の方法って例えばどんなの?」

「純粋な狙撃精度と飛距離を伸ばす方法。それがこれ」


 ローラが私に見せたのは弓だ。しかし、ローラが普段使用している弓とは形状が違う。

 普段は木を削り出したシンプルな弓を使用しているのに、取り出したそれは様々なオプションがゴテゴテとくっついている。

 なんか、前世でアーチェリー部が使ってた競技用の弓に似ているなぁ。


「今まで貯めたお金を注ぎ込んで特注で新しい弓を作ってみた。素材は風精霊樹の枝を使って軽量性と剛性、弾性を確保。それにコーティング剤を塗布して強度を――アイアンサイトを取り付けることで――射撃時の手ブレを補正するためにスタビライザーを取り付けて――」


「ストップストップ! 私は弓の事なんて詳しくないから、そんなに説明されてもわからないって!」


 ローラの目がギラギラと光っている。実はマニアックな武器解説大好きさんですかっ!?

 でも、長々と説明されても普段から弓を使用する、例えば私の身近ならポチならともかく、私じゃちっともその凄さを理解できない。


「……むぅ、ここからが良い所なのに。じゃあ、とにかく今までより凄い弓を作った。これにより正確に敵の急所を狙えるようになった。一撃必殺」


 ローラは若干むくれた表情になりつつも、弓初心者の私のために簡潔にまとめてくれた。

 今まででも数十メートルは離れた魔物の眉間を矢で射ち抜いてたりしてたのに、それ以上に精度が上がるのか。


「敵の射程範囲外から正確に射抜いて戦力を削ぐ。それが弓使いの理想だから」


 まさに狙撃手スナイパーの思考だ。この世界に前世相当の銃器があったらローラは確実に化けそう。

 ……まぁ、そんなの作れる技術、私にはないですけどね。いや、マスケット銃ならギリギリ……ううん。簡単に争いに使われそうな技術を無責任に持ち込むのは止めておこう。


「実は他にもあったりする?」

「あるよ。刻印による武器の火力の向上」


「それって矢に取り付けるって言ってた刻印札と同じじゃない?」

「基本コンセプトは同じ。でも、弓の射出部、つまり矢をつがえる場所に直接加工を施して、射出時に刻印魔法を展開することで2重掛けも理論上可能。普通の矢でも、弱いけど擬似的に魔法を扱ってるのと同様の効果が期待出来る。ついでにコスト削減」


 そういってローラが矢を番える部分を指し示すと、たしかに複雑な刻印と小さな窪みが幾つか空いている。


「刻印を起動するための魔石は検討中。ついでに刻印札を使わず、矢に直接刻印するタイプのものも試作してみた。これは面倒すぎて数を作る気にはなれないけど」


 そう言ってローラが矢筒から取り出したのは、他の矢と間違えないように黒色に塗りつぶされた矢だ。

 ローラに聞くと、初級の広範囲魔法を刻印しているらしく、射出して数秒後に炸裂するようになっているらしい。


 話を聞いていると、既にローラ自体は魔法が使えないはずなのに、武器によって擬似的に魔法を扱える段階にまでなっていた。一種の魔法武器みたいなものだよね。

 実際の属性魔法よりも効果は弱いらしいけど、私がわざわざ銃の知識を流入させなくてもよっぽど危険な武器な気がする。


「すでに結構実現してるんだね。ならわざわざ新技とか考えなくても大丈夫なんじゃないの?」

「うーん。それでもルッシーみたいな禁呪っぽい必殺技みたいなの欲しい」


 禁呪? そんな危ない響きの魔法、私持ってたっけ? ってまさか……


「【メテオ・ストライク】の事? あれは別に禁呪ってわけじゃなくて、威力が高すぎるが故のお蔵入りなんだけど」

「人はそれを禁呪と呼ぶ」


 ローラが面白がってよく茶化してくる、私のお蔵入り魔法、というかすでに死蔵魔法と化した【メテオ・ストライク】。地面を抉る程のそれに匹敵するのは、純粋な属性魔法を使わないなら、それこそ超大口径の大砲でも用意しないと難しいと思う。


 1つ試してみたいアイデアはあるけど……これ、本当に話して大丈夫だろうか。さっき私が心配した他世界の知識の流入になっちゃうわけだけど……。

 まぁ、別に超火力になるわけでもないし、ほとんど現時点のローラの魔改造弓でも似たような事は出来そうだし……うーむ。


「流石に【メテオ・ストライク】程の火力にはならないけど……弓としてはちょっと面白そうなアイデアがあったりはする、かな」

「なになに?」



「えっとね……まずは弓の射出部に高電圧をかけられるようなレール機構と導電性の高い金属矢を用意して――」



 私がイメージしたのは前世でも長い間ロマン兵器と呼ばれていた電磁加速砲レールガンだ。弓で似たような機構を作るなら、さしずめ電磁加速弓レールボウってところだろうか。


 原理自体は単純で、高校物理の範疇で実現は出来る。もちろん、実用化レベルにするには遥かに多いステップが必要にはなるけど。

 

「――なにそれ! 面白い! ちょっと『電気』って部分がイマイチ理解できないけど、そんな事が本当に出来るなら作ってみたい! ちょっと適した素材とかないか考えてみる」


 そう言ってローラは1人ぶつぶつと思考の海に潜っていった。

 ……この件に関しては私もちゃんと関与しておこう。ヤバそうなら適当なこと言って弱体化させるなりの手段を考えておかなくちゃ……。

 

 とりあえず私は考え込んでしまったローラの事は放っておいて、待たせていたベルに近寄った。


「じゃあ、次はベルの番ね」

「わーい!」


 うーん。喜んでくれてるベルには悪いけど、ベルに新技とか本当に必要なんだろうか。 

 私はベルが出来ることを思い浮かべてみた。


 純粋に高いステータスで圧倒し、氷魔法で近距離も中距離も対応できて、ベル本人だけという制約はあるが空からの攻撃も可能。ついでに回復魔法も使えてサポートまでこなせる。


 うん。今のままで完成されてると言っても過言じゃない。


 強いて弱点を挙げるなら、水魔法の亜種である氷魔法は熱に弱いから、使う場所や気温に制限がある、ってことくらいかな。その弱点も工夫によってなんとでもなる。


 うん。必要なし。

 

 私の中で既に結論が出てしまった。とは言え、最後まで待ってくれてた手前、あしらう訳にもいかないので、一応ベルの希望は聞いてみることにした。


「ベルはちなみにどういう新技が使いとかあるの?」

「うーんと……すっごいやつ! 」


 ザ・アバウト!

 アバウトすぎて何をどうすれば良いのか皆目見当がつかない。


「すっごいやつかぁ……うーん」

「バーンッ!とすごいやつ、大技なの!」


 ……困った。全く思い浮かばない。

 ベル、そんなにワクワクした顔で私を見つめないで欲しい。とってもプレッシャーがかかる。

 私は必死に考えた末、苦肉の策を持ち出した。


「……ベルの新技、って事になるか分からないけど、今度私と共鳴魔法の練習してみよっか? ほら、私と師匠がやってたような大きな渦を巻いてた魔法。もしかしたらどんでもなくすごい大技になるかもしれない、よ?」


 私は冷や汗をたらりと流し、恐る恐るベルの様子を見やった。どうだろう? これが今の私に出来る精一杯だよ!

 見るとベルが俯き、肩を震わせている。


 ……まずい。


「あ、あのね、ベル? 確かにベル1人では出来ないかもしれないけど、完成したらベル1人の新技ってことにしていいから、ね? 私と師匠で作ったようなすっごい魔法が今ならベルの独り占め! なんならついでにもう1つオマケでベルの好きな物が付いてくる! ねぇ、お願いベル泣かないで――」



「すっっっっごいの! ルシアとベルの『きょーめい』まほう! カッコよさそう! 今からたのしみなの! バー―ンッ!と大技なの作ろうね、ルシア♪」



「ふぇ? ……あ、うん! そうだね! 頑張ろうね、ベル」

「うん!」


 ベルはご機嫌そうに翼をパタパタと震わせ、尻尾をフリフリとリズム良く振っている。

 私はホッと安堵の息を漏らし、空を仰いだ。どうやら私は正解を引いたようだ。


 私も新技を考えようかと思ってたけど、とりあえず今日はいいや。また、時間がある時にゆっくり考えよう。


 思案に耽るシャロやローラ、楽しみすぎてパタパタ羽ばたきちょっと宙に浮き始めているベルを順に見て、私は心の中でそう呟いたのだった。


お疲れ様でした。

いつも貴重なお時間を頂いて読んでもらい、とても感謝です。

楽しんでもらえるよう、そして何より、私自身が楽しんで書いていきますね。

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