エピソード061 私、王都に呼び出しです。またですか……
「お前達、王都から出向命令が来ている。すぐに向かってくれ」
穀倉地帯に位置するグラネロ村での厳しいクエストを終え、スタージュの街に帰ってきた日から7日後。
『フォー・リーフ』としては珍しく長めの休暇を取った私達は、心も身体もリフレッシュさせた状態でギルドに向かった矢先だった。
建物に入った途端、受付の女性に引っ掴まれ、あれよあれよという間に、先日訪れた執務室に放り込まれた。そしてロンドの口から告げられる突然の王都への出向命令。
またですか。私これで2度目だよ。
私は心の中でそっとため息をついた。
「あたし達が呼び出される……のは大方見当がつくわね」
「先日のクエスト? ならアクス達も呼ばれなくちゃおかしいんじゃない?」
シャロは納得気、逆にローラは首を傾げた。
「あのクエストに参加した冒険者全員に出向命令が出ている。アレックスはお前達よりも先に王都へ向かったが……他の者達と連絡がつかんのだ」
「えっ? 『竜種滅殺』はまだしも『黄金果実』まで?」
私は去り際のシュルツの様子を思い出して、少々不安になった。
まさかとは思うが、義手の女に敵討ちにでも向かったのだろうか。
「うむ。正直、お前達もしばらくギルドに顔を出さんかったから心配していた。ギルドの上級パーティにそう何組もいなくなられてはこちらとしても困るからな」
「ベルたちもその『じょーきゅう』なの?」
「ベル、流石にあたし達はそこまでじゃ――「そうだ」――って、えぇっ?!」
シャロはあっさり認めたロンドの言葉に驚きの余りあんぐりと口を開いたまま固まり、ベルとローラが左右からちょんちょんと指して遊んでいる。
え、私? ビックリしたけど別にそこまで意外じゃないかなぁ。先日のクエストは異常なほど大変だったからね。上級パーティに引っ張ってもらってランクアップした感じかな。
「――あぁ、なるほど。お前達、まだ掲示板を見ていないのか。先日のクエストでお前達の冒険者ランクが更新されているぞ。シャロットとローラ、ベルザードはAランクに昇格だ」
「うっそぉ!」「驚きだね」「ベルえらい? ねぇねぇルシア、ベルえらくなった?」
「すごいっ! みんなおめでとう!」
シャロはまだ信じられないといった様子で自分の頬を引っ張り、ローラは普段通りにしているが得意げに少し胸を張っている。元気いっぱいに駆け寄ってきたベルは……ただただ可愛いから撫でておいた。
「あれ? でもルッシーは?」
「……はっ!? それもそうね。あたし達のパーティで最も活躍したのは間違いなくルシアのはずよ!」
「ルシアはえらくなってないの? ベルのえらいのあげよっか?」
3人に押し出されるようにロンドの前に立たされた私は、視線を彷徨わせた。別に私はランクを上げたいわけじゃないから……皆が昇格してくれただけで嬉しいのに。
ルシアを目の前にしたロンドは、もったいぶって咳ばらいをした後、普段は鷹を思わせるような鋭い眼つきを緩めて言葉を続けた。
「あぁ、ルシアはな……Sランクに昇格だ」
「へぇ、Sランクかぁ……えっ、Sランク?」
「「ルシア(ルッシー)がSランクッッ!?」」
「ルシア、ベルよりえらい? よくがんばりました!」
シャロとローラは取り乱して私に両方から抱き着き、それを見てベルも私の正面に回り込んで勢いよく抱き着いた。
ぐほっ!? ベルの頭が鳩尾にクリティカルヒットで……。
「すごいわルシア! ベル、偉いなんてもんじゃないわよっ?! 冒険者としての最高ランクなのよ? ギルドの歴史に名前が残るくらいの偉業よ!!」
「そ、そんな大げさな……」
テンションの上がったシャロは、私の頬にキスをせんかの勢いで迫ってくる。
ちょ、ちょ、ちょっと! 近い! 近いってシャロ!
「俺が先のクエストに向かう際、アレックスにお前達『フォー・リーフ』の昇格試験を頼んでおいた。今回のお前達の昇格はあいつからの報告結果を踏まえたものだ」
随分とアレックスは私達に高い評価を付けてくれたようだ。ロンドから詳しく話を聞くと、あのクエストは『フォー・リーフ』の冒険者ランクの昇格試験を兼ねていたらしい。
Aランク以上の冒険者ランクへの昇格や上級パーティに昇格が検討される冒険者は、今回と同様に難易度の高いクエストを、ギルドマスターの推薦という形でAランク以上の冒険者と合同で受けるらしい。
そして、本来ならばあのクエストで出現する魔物の群れを如何にパーティで対処できるかをアレックスが直接確認して評価する、というものだったという。
尤も、想定外の事態で試験なんて言ってる余裕はなく、皆で全力で対処する羽目になってしまったが。
「国からの依頼を昇格試験の代わりにするなんて無茶苦茶よ……」
「国からの依頼だろうが、一市民からの依頼だろうが、クエストはクエストだ。事前の情報では昇格試験としてはギリギリ許容範囲だろう、とアレックスと充分話し合ったぞ」
ロンドの話を聞いて、呆れ顔のシャロ。
それでも私はSランク冒険者という肩書に不安しかない。
「でも、やっぱり私がSランクなんて身分不相応に思えるんですけど……。同じSランクになるアレックスと比べても劣るところしかないというか……」
「何を馬鹿な。人族の限界を大きく超えた鉄壁のDEF、多種多様な武具、魔法の知識とその組み合わせによる千変万化の戦闘能力。
たしかにステータスとして偏りはあるが、そんなもの、冒険者として何のデメリットになる? ようは力の使い様だ。
本来比べるものでは決してないが、仮にアレックスと比較してもお前は充分Sランクを名乗る資格があると俺は思っている。何より――」
一度言葉を区切ったロンドは、私達4人を見渡してこう言葉を続けた。
「――俺がアレックスにお前達『フォー・リーフ』の昇格試験の打診をしたからな」
「え、ギルドマスター自らが私たちを推薦してくれたんですかっ!?」
私達はロンドの突然の告白に驚いた。
「ギルド職員からはかなりの報告が上がっていたからな。まぁ他にも理由はあったんだが……。俺の見込み通り、アレックスもお前達を高く評価した」
「――『フォー・リーフ』よ。今後冒険者ギルドの上級パーティとして、そしてSランクを有するパーティとしての更なる活躍を期待している」
「「「「はいっ!!」」」」
私たちの返事にロンドは満足そうに頷いた後「では、早く王都へ向かうように」と言い残し、すぐ仕事に戻り、私達は執務室を後にした。
本当は今日中にでも王都に向かった方が良かったのだけれど、めでたい日にはしっかりと祝うのが、冒険者としての流儀。
私達は、ギルドの建物を出た後、日がどっぷりと沈むまでご馳走や、普段は呑まないお酒を呑んで楽しく過ごしたのだった。
ちなみに、翌日、前世と合わせても初めて呑んだお酒の余韻はあまりにも辛く、DEFの高さなんて何の意味をなさないことに気づいた私は、もう二度と呑まないと心に誓った。
そして完全に陽が高くなった頃、「まだ出発してなかったのか!」と偶然出会ったロンドに怒られつつも、私たちは王都に向けて出発したのだった。
お疲れ様でした。
いつも貴重なお時間を頂いて読んでもらい、とても感謝です。
楽しんでもらえるよう、そして何より、私自身が楽しんで書いていきますね。




