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エピソード058 アーシア、農耕神の本領を発揮します


 グラネロ村に戻った私達は、村の状況を調査する班と、穀物栽培していた畑の状態を調査する班に分かれることにした。

 話し合いの結果、クロムやシュルツ達が村の調査、アレックスや私達が畑の調査をすることになった。


 文字通り畑違いだけど、一応私も農家の端くれだからね。状態を見ればどれくらいの被害で、復旧にどれだけ時間がかかりそうか、くらいは、皆よりも詳しく検討できるはずだ。


-----◆-----◇-----◆-----

 

 畑に到着しその光景を途端、私は、腸が煮えくり返るかのような怒りと、胸を締め付けられるような痛みが、涙と変わって頬を伝った。


「……これは、ひどい」


 私と同じようにその光景を見たローラが思わず漏れ出るようにポツリと呟いた。この土地はパンドラム王国の最大の穀倉地として知られており、事実、私達の前には広大な穀物畑が展開されていた。


 大麦や小麦、胡麻、大豆など、穀物を中心に数々の作物を育てる為に丁寧に区分けがされている。一部では米も栽培していたのか、水田も見られた。


 この村の農民の皆が、手塩にかけて大切に育ててきたであろうその土地が、今ではただの荒れ果てた場所となっていた。


 見ただけでも魔物に踏み荒らされ、掘り起こされて畑がボコボコになっている。これを均すだけでどれだけの時間と労力がかかるのか。


 畑の土も確認すると、毒を発する魔物が居たのだろうか、毒が染み込んで土から生気が抜けている。土の中の生物が死滅している証拠だ。さらに土中の魔素もほとんど枯渇している。土は総入れ替えするしかないだろう。


 これを元通り戻すのに、いったい何年、いや何十年かかるのか、魔物達は……義手の女は理解しているのか。

 私は先人の努力を踏みにじられた気持ちになり、ぽたりぽたりと悔し涙が溢れて止まらなかった。


「ルシア……」


 ローラがそっと私を抱き寄せた。私はしばらくその好意に甘え、泣いた。


-----◆-----◇-----◆-----


「……良いのか?」

「うん。泣いてばかりいられないから」


 私はひとしきり泣いてから調査に復帰した。アレックスが気遣って声をかけてくれたが、私だって冒険者としてここに来てるんだから、役立たずではいられない。


 ローラとベルは、残存する魔物が居ないかを調べに離れた場所まで探索範囲を拡大していた。ただ戦闘音が聞こえないので、どうやらこの周辺に魔物はもう居ないらしい。


 シャロやソフィアは険しい顔をしながら周囲を捜索し、痕跡から魔物の種類や出現位置、規模などを調べていた。


「どうやらここを荒らしたのは敵の召喚魔法で召喚した魔物ではなさそうね」

「そうなの?」


 私はてっきりこれもアイツがやったんだと思っていた。


「シャロットの言う通りじゃな。随分と遠くまで足跡が残っておるのじゃ。おそらく暴走種に追われて大移動した魔物に荒らされたんじゃろう。

……まぁ、その暴走種を生み出しておるのがあやつの可能性もあるので、何とも言えんがの」


 私達は複雑な気持ちで辺りを見渡した。すると、いまだ枯れた作物を摘んだり、土を少し掘って匂いを嗅いだりと畑の様子を細かく調べていたアーシアが、私の所に駆け寄って耳打ちをしてきた。


「ルシアちゃん、私の力を使えばこの畑を復活させられるっぽいけど、やってもいいかな?」

「えっ!? そんなこと出来るの?」

「忘れられてるみたいだけど、私、下っ端だけどこれでも農耕神なのよ? 神気も少し戻ってきてるし、ここは元々実りの力が強かったみたいだから、なんとかなるわ! でも……」


 そう言葉を途切れさせると、アーシアはアレックスの方を見やった。

 ああ、アレックスにはアーシアの事は何も話してないもんね。もし土地の実りの復活とか大々的に行ったら、アレックスに必ず報告されることになるだろう。


 私は少しの間考えて、アレックスの元に近寄り、話しかけた。


「アレックス。ちょっと良いかな」

「おう、なんだ? アーシアとの密談は終わったのか?」

「げっ!? 何でそれを……」


 既に感づかれてる……ですと。なんて察しのいい人だ。

 アレックスはハァとため息をつくと、胡乱げに私を睨みつけた。


「そりゃ急にアーシアがお前に走り寄ってコソコソと耳打ちし、俺の方をチラチラ見てきたら、なんかあると思うのは当然だろ。あの幼女が只者でないのはなんとなく分かってるからな」


 しかもすでにアーシアはアレックスにロックオンされていたらしい。これは隠しても仕方がないと観念し、私はアーシアが自分の守護神で、一応神様だったりすることを打ち明けた。


 流石に神様の下りは冗談だろと笑い飛ばすかと思っていたが、意外にもアレックスは納得の表情を浮かべていた。


「なるほどな。どおりで似た感じがするわけだ……アーシアは別の世界の"Goddess"なんだな」

「え? う、うん。そうだけど、なんでそんなことまであなたが分かるの? それに似た感じとか別の世界って……もしかして神様に会ったことあるの?」


「あぁ? ……あー、いや、あれだ。神様なんて創造神オルフェノスしかいないはずなのに、それ以外の神様だ、なんて言われたから、きっとココとは違う別の世界とかがあんのかな、とか思っただけだ。別に深い意味はねぇよ」


 少し早口でそう告げるアレックスを少し訝しく思いながらも、疑う理由もないのでとりあえず納得することにした。


「俺のことなんてどうでもいい。それより、あの幼女がこの惨状を何とか出来るってことか?」



「うん。だから、お願いがあるの。アーシアの能力の事、黙っててくれないかな。お願いします」



 私はアレックスに頭を下げた。アレックスは少し息を呑んだような音を出し、言葉を続けた。


「……なんでだ? そんなすげえ能力を隠すのは、この国の為にはならんと思うが」


「分かってる。でも、アーシアが神様として他の人に好き勝手扱われるのは嫌だから……ううん、違うね。もっと個人的な理由。私がアーシアと一緒にのんびりと楽しく暮らしたいから、かな」


 アレックスは私を値踏みするように見つめてきた。私は誠意を示すため、視線をそらさず真っ直ぐにアレックスの目を見続けた。


「……ま、いいさ。今まで見てきた限り、アーシアは戦闘には向かないようだからな。ただし、農業大国のこの国が傾くような事があれば、俺は迷わずギルマスに報告するぞ。俺だってこの国は気に入ってるからな」


「ありがとう、アレックス」


 私は安堵のため息をついて、自然と感謝を示すようにアレックスに微笑んだ。


「……それと貸し1つだからな」

「分かったよ。アレックスが困った事があったら――そんな事起きないような気もするけど――私があなたを助けるから」

「……ふん。その言葉、せいぜい忘れるなよ?」


 そう言ってアレックスは他に追求しようとはしてこなかった。私はそれに満足し、アーシアにお願いして畑を元の姿に戻してもらうことにした。

 アーシアが任しとけ、と言わんばかりにトンと胸を叩いたのが可愛らしくも頼りがいのあるお姉さんのようだった。


 探索を終えた皆が戻ってくると、アーシアは畑の前に立ち、そこらへんで拾ったであろう木の枝を振り回し、何かを唱え始めた。



農業はたつくりのわざいたつしまはげみし諸人もろびとらよ 豊穣神ほうじょうのかみにおいて 大地おおつちはぐ常世とこよさかえよ れにして 五穀豊穣ごこくほうじょうなり』



 よく分からないけど難しい祝詞のようなものを呟くと、アーシアが枝を地面に突き刺した。すると、木の枝が成木まで成長したかと思うと、土地から生気が噴き出し、植物の芽が一気に芽吹いた。



「よし! これでとりあえずは荒らされる前までくらいには土地も快復したかな」



 皆がぽかんとした表情で固まっている所に満面の笑みで帰ってくるアーシア。私はいち早く復帰し、アーシアに抱きついた。


「ありがとうアーシア! これでここを育てた農民の皆も安心するよ!!」

「えっへん! これで私が頼りになるって分かったでしょ?」

「うん! アーシア大好き! やっぱり私の神様だね!」


 いまだ目の前で起こった出来事についていけず固まり続けている皆を放って、私とアーシアは大いに笑い合った。


お疲れ様でした。

いつも貴重なお時間を頂いて読んでもらい、とても感謝です。

楽しんでもらえるよう、そして何より、私自身が楽しんで書いていきますね。

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[一言] 「……なんでだ? そんなすげえ能力を隠すのは、この国の為にはならんと思うが」 「……それと貸し1つだからな」  アレックスの印象、とてつもなく悪いです。  そのアレックスに感謝する主人公も…
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