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エピソード057 四面楚歌の戦い――幻の女


 私達『フォー・リーフ』は、ギルドマスターのロンドからの指令でパンドラム王国の西部に位置する穀倉地帯、グラネロ村に現れた魔物の討伐に向かった。


 魔物の規模や暴走種の強さが予測出来ず、冒険者ギルドでも上位の冒険者パーティ、『黄金果実』、『竜種滅殺ドラゴン・スレイヤーズ』、そしてギルド最強の冒険者アレックスを含めた最強の布陣で村に向かった。


 しかし、村に到着するや否や魔物の大群に襲われ、さらに何処かに潜んだ召喚魔法を扱う者のせいで、倒した傍から魔物が復活してしまう。


 挟撃を回避し戦力を増加するため、現地に駐留する騎士団と合流しようと、私達は王国騎士団ケーニッヒの誘導のもと、魔物を退けつつギリギリの撤退戦に挑んだ。


 残念ながら騎士団は暴走種オーガに既に全滅されており、その上、私達は暴走種と魔物の大群に囲まれ、四面楚歌の戦闘を強いられた。


 各パーティのリーダーであるシュルツ、クロム、アレックス、そして私達『フォー・リーフ』の活躍により、何とか窮地を脱することに成功したが、いまだ黒幕の正体は謎のままであった。


-----◆-----◇-----◆-----


「まだ魔物は湧いてるのか?」


 アレックスは魔物の大群を対処していた私に尋ねた。ちなみにシャロ達はまだ魔物の残党処理に追われているので、MPが切れて半分役立たずになっていた私が対応している。


「ううん。魔物の出現自体はもう止んでるみたい。今は残党処理を私の仲間や他の人達が担当してくれてるよ」


 暴走種が倒されるまではずっと湧き続けていたようだけど――まぁ、湧いたそばから私とソフィアが偶然生み出した暴風雨のような魔法に巻き込まれていたが――、それ以降は目に見えて魔物の数が減っていた。


「という事は、召喚魔法を使う黒幕はこの場を離れたという事か……。俺達側の被害はどうだ?」


「『フォー・リーフ』は何事もなく。師匠とアーシア、ケーニッヒさんとアッシュも無事だよ」

「――『ドラゴン・スレイヤーズ』も俺を含めて5人、全員損害なし」

「僕の『黄金果実』も傷一つ付けなかったさ。麗しき3()()のレディ達とルシア嬢のおかげだね」


 シュルツの言葉に先程までの自分の痴態に鳥肌が立ちそうになったが、少し気になる点があったので我慢して尋ねた。


「え? シュルツのパーティの女冒険者の人数は4()()じゃなかった?」



「……? いや、僕達『黄金果実』は()()()()()4()()のパーティだけど」



 シュルツが真面目な顔で答えたその言葉に私はゾクリとした。私は急いで彼女達を振り返って確認してみる。1…2…3……3人しかいない。1人足りない。

 

 おかしい。

 

 だって先程まで確かにそこには4人の女冒険者が居たはず。

 それにシュルツは、初めて私達と顔合わせをした時、仲間は()()()()()()5()()だと明言していた。


 私は女冒険者達にも同じ事を聞いてみた。すると、『黄金果実』が4名で構成されていることに彼女達の誰もが疑問を持っていなかった。


 私は慌ててアレックスとクロムの方を見やった。私の記憶が間違っていなかったのは、彼らの顔つきを見たら一目瞭然だった。


「おいお前達、冗談を言うな。俺は『黄金果実』が5人で活動していたのを知ってるぞ?」

「――アレックスに同意する」



「僕が女性の事で冗談を言うことはない!」



 憤慨するシュルツの声に、残党狩りを終えた皆が戻ってきた。


「何の騒ぎよ?」

「あ、シャロ。『黄金果実』の女冒険者って何人か覚えてる?」


「え……? 4人でしょ?」


 シャロが何を当たり前な事を、と怪訝な顔をしながら答えた。



「そ、そんな……。ぼ、僕は嘘なんてついてないッ……!!」



 皆と記憶に齟齬があることに狼狽するシュルツ達。私は皆に『黄金果実』についての説明を行った。


 話を聞き終えたソフィアは、シュルツに近づいて手をかざし、何かを読み解くかのように目をつぶった。同じ事を残りの3人の女冒険者にも行う。私達はその様子を固唾を呑んで見守っていた。


「うむ……。どうやら記憶の改竄が行われたような魔法痕跡を感じるのじゃ。誰ぞ気つけ薬は持っておらぬか?」


「あ、師匠! 私が持ってます。とっておきですよ!」


 私はゴソゴソと腰に吊っている小袋を漁り、特製『劇薬目覚まし玉』を取り出そうとした。しかし、取り出す前にシャロに小袋ごと無理やりひったくられてしまった。


「それ嗅がせたら気絶しちゃうでしょ!」

「えー、でもすぐに復活するから。効果絶大だよ?」

「そのまま『気絶・復活』のループになるでしょ! 却下!」

「ええー」


 私はショボンと項垂れた。折角使える機会だと思ったのに。


「私が持ってるのを使おう。これは店頭で買ったやつだから」


 ローラが代わりの気付(きつ)け薬をソフィアに渡すと、ソフィアはそれに水属性の魔法をかけた上でシュルツに嗅がせた。


「どうじゃ? 何か思い出した事は無いかの?」



「……ベトレア。ベトレアは何処だ? 僕らは何故、自分の仲間を3人だと思い込んでいた……?」



 シュルツは先程以上に動揺している。ソフィアがベトレアの容姿を話させると、その特徴から私が覚えている女性に合致していた。


 アーシアだけは首を傾げていたが。


「――その容姿の女なら、少し前に道を外れて離れて行ったのを見た。今から追いつくのは難しいだろう」

「そ、そんな!? ベレトアが……まさかそんな事を」


 クロムが難しい顔でそう呟き、シュルツは今までずっと仲間だと思っていた者が今回の黒幕だったことに衝撃を受けていた。


「なんと! その者が我ら騎士団を壊滅させた犯人というのですか!?」

「許せねぇ……皆をあんな……くっ!」


 同じ騎士団に所属するケーニッヒとアッシュが、この惨状を生み出したベレトアという女のことを憤慨していた。



「ねぇ、皆。ちょっといい?」



 冒険者仲間に敵がいた。そんな暗い状況に皆の雰囲気も落ちている中、水を差すようにアーシアが手を挙げて発言した。


「どうしたのアーシア。今は皆あんまり余裕がないから、おバカな事言いだしたらチョップするからね?」

「ルシアちゃんの中での私のイメージってどんなのよ……。ってそうじゃなくて! さっき、シュルツくんがベトレアって女の人の顔の特徴を話してたよね? で、皆はその特徴に納得したよね?」


 アーシアが確認の意味も込めて尋ねると、その場にいる全員が首肯した。それを確認したアーシアは次にとんでもない事を言い出した。



「でも……彼女、()()()()()()()()()()のに、――()()()()()()()()()()()()()?」



「へっ……? ど、どういう事なのアーシア?」


 私は、アーシアが何を言い出したのか全く意味が分からなかった。


「え、だって。そのベトレアっていう女の人は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の事だよね?」


 アーシアの言ってる事が理解出来ないので皆が首をかしげる中、ソフィアだけがハッと何らかの可能性に思い至ったようだ。


「何か思いつきましたか、師匠?」

「……今回の召喚魔法は少なくとも闇属性魔法が使われているのじゃ。そして、同じく闇属性魔法には『幻惑』という人の姿形を変える魔法が存在するのじゃ」


「つ、つまり、その義手の女とやらが真の黒幕だと……?」

「そういうことなのじゃ」


 もし、アーシアの言ってる事が正しいとしたら、その義手の女というのは最初から私達を嵌める気だったということだ。

 それに義手の女が、昔からベトレアという女冒険者に化けていたとは考えにくい。という事は、本物のベトレアさんはもう……。


「――とりあえず。その義手の女とやらを追いかけるのは先程も言ったとおり不可能だ。これ以上魔物が増える事が無いなら、被害を確認して一度ギルドに報告に戻るのが最善だ」


 クロムがシンッと静まり返った場を切り替えるように言葉を発した。


「……そうですな。アーシア嬢、情報提供に感謝しますぞ。皆さんは村や穀物の様子を確認してきてもらえるか。

アッシュ、騎士団分隊が駐留していた場所に連れて行け。状況を私も確認しなくては」


 ケーニッヒの提案に否定する理由もなかったので、私達は一旦ケーニッヒとアッシュと別れ、この度の魔物襲撃による被害を調べるため、グラネロ村に引き返したのだった。


お疲れ様でした。

いつも貴重なお時間を頂いて読んでもらい、とても感謝です。

楽しんでもらえるよう、そして何より、私自身が楽しんで書いていきますね。


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