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エピソード056 四面楚歌の戦い――まぐれの共鳴魔法


「さあ、踏ん張れよお前ら。"It's show time!!"」


 アレックスの号令を合図に、私達は散り散りに自分の持ち場に向かった。最も厄介な暴走種は上級冒険者が対応してくれるらしい。私達『フォー・リーフ』は、後方からワラワラと群がってくる魔物退治が担当だ。


「最も強い敵を選ぶなんて、流石ギルド最強の男」

「ベルもさいきょうになりたいの! あと、アレックスはさいごなんて言ってたの?」

「よく聞き取れなかったのじゃ」


「こらっ! まだ危機から脱したわけじゃないんだからお喋りしないの!」

「「「はーい(なのじゃ)」」」


 ローラ、ベル、ソフィアが後方に走りながらもお喋りしているのを見かねて、シャロが叱咤する。ソフィアは例外としていつもの光景に少しホッとする一方、ベルとソフィアの言っていた事が気になった。


 ――さいごなんて言ってたの?

 ――よく聞き取れなかったのじゃ。


 『イッツショータイム』、つまり幕開け。前世で英語が苦手科目だった私でも分かる簡単なフレーズ。この世界ではアルファベットが通じたはずだよね?


 ベルは知識が未熟なところがあるから仕方ないとしても、英単語が多い魔法を研究してるソフィアが『聞き取れない』なんて言うだろうか。


 いや、そもそも『意味が分からない』、ではなく『聞き取れない』というのは言語として認識出来てないってこと? でも、私は理解できてる。


 じゃあ、私と皆の違いって――


「こらぁ、ルシア! 戦闘中にぼんやりしないの!! あんた稀にそういう事あるわね!」

「ふぇっ?! ご、ごめん!」


 知らずうちに思考に囚われていたらしく、頭を振って思考を切り替えた。

 そうだ、今は戦闘中なんだ。とりあえず、魔物をたくさん倒して、出来る限りアレックス達に他の魔物を近づけないようにしないと。


「さっきの広範囲魔法、いけるわね?」

「大丈夫! でも、今日はこれで打ち止めだから一掃できるタイミングで撃ちたい、かな」


 【ヴォダ・デスサイス】は優れた広範囲魔法だけど、最大効果範囲が私を起点として半径100mくらい。

 しかも、距離に応じて威力が減退するから、範囲ギリギリの個体には効果が低かったりする。


「ふむ、では魔物をある程度集める必要がありそうじゃな。よし、それは任せるのじゃ」


 ソフィアには腹案が有るらしく、さっそくお得意の『多重詠唱マルチプル・アリア』を唱え始めた。


「じゃあ、あたし達は先に魔物を牽制しながら、ルシアとソフィア様が取りこぼした、あるいはさらに追加で召喚される魔物に対処するわ」

「ここが正念場。矢は遠慮なく使う」

「ベルもかんばっちゃうよー! 水タルごともらってきたからつよいの出しちゃうの!」


 ローラは馬車に積み込んでいた予備用の矢まで引っ張り出して、さっきから休む暇なく射続けている。雨のように降り注ぐ矢を受けて魔物達が怯み、近づいてくる奴は少ない。


 ローラは油袋を付けた矢も混ぜていたらしく、シャロが【ファイアー・ボール】を放つと引火して所々火の手が上がっている。


 無理やり突破してきた魔物は、ベルの近接戦の餌食だ。

 【アイスド・クロウ】を展開し、徒手と尻尾を使った格闘術で、襲い掛かろうとしたウォーウルフやジャネロ達を瞬殺していた。


 物理攻撃の効きにくいトード系の魔物には【アイスド・ランス】で対処している。

 【アイスド・ランス】は射出する他に手で持って槍のように扱う事も出来るので、ベルの周辺は魔石の山になってきた。


 それにしてもベルの槍捌きってどこかで見たことあるな、と思ってたけど分かったよ。タマの短槍術と似てるんだ。

 あの時のベルの意識はほとんど残ってないらしいけど、たぶん厄介だと感じてたんだろうなぁ。



「よし、出来たのじゃ! ルシア、用意は良いかの?」

「任せて下さい、師匠!」



 私は前に出て、魔物が集まってくるのを待つ。

 結構攻撃されてるけど、私のDEFを抜ける魔物はそうそういないから成されるがままだ。



「『多重詠唱マルチプル・アリア』、【エアロ・アトラクタ・フィールド】」



 以前の氷竜戦と時とは違い、今回の『多重詠唱』は効果範囲を拡大するために使用したようで、すぐに魔法は完成した。


 この魔法は、ケータイの中継基地を建てる時にその効果を見ているのでよく知っている。攻撃魔法ではなく、渦を描いて周囲の物を引き寄せる設置型の風属性魔法だ。


 魔物がドンドンと私を中心に集まってきて、一種のおしくらまんじゅう、あるいは前世でニュースで見ただけでイメージでしかないけど、満員電車のようになっている。


 ……ああ、もう! 大鎌を振るスペースくらいはちょうだいよ!



「もう! 暑い! 臭い! 鬱陶しい! 離れて、【ヴォダ・デスサイス】!!」



 私は無理やり身体を捩ってスペースを作ることで複合魔法を完成させた。

 しかし、妙な体勢で無理やり大鎌を振るったので、間違って設置している風魔法まで巻き込んで刈ってしまった。



「あちゃぁ……」



「何やっとるんじゃルシア!……んん?」




『マスタールシアと共鳴率の高い者の魔法を自動検知しました。複合オリジナル魔法【ヴォダ・デスサイス】は、複合オリジナル魔法【エアロ・アトラクタ・フィールド】と共鳴し、共鳴オリジナル魔法【ストーム・アトラクタ・デスサイス】に変化しました』




 唐突な【聖環・地】の言葉が私の耳に届いたが、私は目が点になり、それどころではなかった。

 視界の隅には、同じく呆けた面でマグレで産出された共鳴魔法を凝視していた。


 そこには、暴風雨のように渦巻き、魔物を吸い込みながら発生した水刃を撒き散らす、魔物にとってははた迷惑な設置型魔法が完成していた。


 倒す度に魔物が湧き出るが、それすらもドンドンと吸い込み切り刻んでいる。ちゃんと【農耕祭具殿・大鎌】の特殊スキル効果も残っていて、水刃が人に触れてもダメージはない。


「こんな無茶苦茶な魔法の使い方、聞いたことが……うむ? デジャヴかの。数年前にルシアに同じような事を言ったような気が……」


「……まぁ、後処理をするあたし達は楽でいいけど」

「ほとんどがあの竜巻の餌食になってるね。ルシア、恐ろしい子」

「スゴイの! のこりはベルにバーンとぉ、おまかせなの!」


 皆、言いたい放題だね!


 でも、流石に魔法の規模は元の複合魔法よりは縮小しているらしく、魔法の影響外で湧く魔物も少しばかり残っていた。

 ベルはあの暴風雨のような大規模魔法を見てやる気を刺激されたらしく、早速魔物を狩りに飛んでいった。

 ……あ、そうか。ベルは一人なら飛べるんだった。



「これが、私と師匠の共鳴魔法、……凄い……ってあれ、目眩が……」



 どうやらMPを使いすぎたようだ。皆の前で、私はぐるぐる回る世界を最後に意識を失った。


-----◆-----◇-----◆-----


「う、ううん……あれ?」


 私は目を覚ますと、馬車の荷台に寝かされていた。


「ルシアちゃん起きた? もう、あまり心配掛けないで欲しいわ」

「アーシア、ごめんね。でも今回のは想定外だよ……」


 耳をそばだてると、まだ外からは戦闘音が聞こえてくる。気絶してからそう長い時間が経ったわけではなさそうだ。


 私も皆の手伝いをしにいかないと!


 立ち上がって馬車の外に出ようとする私を、アーシアが慌てて押さえつけようとした。


「待ってルシアちゃん! 今ルシアちゃんのMPはほぼ0の状態よ? それでどうやって戦うの?」

「大丈夫だって。私、アーシアのおかげで魔法使わなくてもDEFはカッチカチだし、武器もちゃんとあるから。ちょっとでも皆のお手伝いしないとね」


 私はアーシアの頭を優しく撫でて、馬車を降りた。

 馬車の近くには『黄金果実』の女冒険者が4人集まっており、オークと戦うシュルツに声援を送っていた。


 シュルツと戦っているオークは、私が以前戦ったことがあるやつよりも体格が二周りは大きく、目は血走って全身から赤黒い気配を漂わせている。



「さあ、これから僕も本気を出そう。……僕の愛する大切なハニー達よ、僕に力を貸しておくれ。君達を護るための力を」

「「「 『共有シェア』!! 」」」


 シュルツの申し出に彼女達が答え、『共有』スキルによるステータスの一時的な共有が行われたようだ。

 シュルツのスキルの凄いところは、単純な共有ではなく、共有した数が多ければ多いほど加算されることだ。


「あんっ……! シュルツ様ぁ! 」

「身体がジンジンしてぇ……、素敵」

「……」

「くふぅう……、愛しておりますわ、んん! シュルツ様ぁ」


 ちなみにスキル的には彼女達もステータス共有で強くなるはずなのだが、デメリットとして『スキル保持者以外は謎の陶酔状態になる』らしく、実際に彼女達は顔を赤らめ、艶やかな吐息を漏らして蹲り、動くことが出来ないようだ。


 能力的は凄いはずなんだけど、このクソみたいなデメリットのせいで台無しなんだよねぇ。もしシュルツがスキル効果解除しなかったら、彼女達はどうするつもりなんだろう?


 彼女達をこころなし冷ややかな目で見ていた私は、とりあえずシュルツに視線を戻すことにした。

 冒険者4人分のステータスを共有してるのでさぞや余裕だろうと思ったが、意外にもシュルツは苦戦しているようだ。


 ――この人達、まさか凄くステータス低かったりする?!


 私は、シュルツが魔物を倒している後ろで彼女達がきゃーきゃーと声援を送っている姿が容易に想像でき、『黄金果実』の実態を垣間見たような気がしてため息をつきたくなった。


 そんなシュルツが危機に陥るのはそう遠い話ではなかった。


 「クッ?! 避けられな――」


 魔物がシュルツの攻撃を妨害したせいで敵の姿を見失ったらしく、オークの振るっている丸太が直撃する寸前だった。


 これは助けないとやられちゃう……よね。でも、私のSPDじゃ間に合わないし、1つ助ける手はあるけど、これを使うのはなぁ。

 一瞬彼女達の痴態を流し見たが、人命には代えられないと無理やり割り切り、シュルツに向かって叫んだ。


「……ええいっ、もうヤケクソだよ! シュルツ、私のステータスを受け取って!『共有』……ふひゃあ!?」


 ナニコレッ!? 身体がポカポカして心地良い。なんかジンジンと疼くし、ちょっと今まで掻いた事無い汗垂れてきたよ!?


 私が言い表し様のない陶酔感に抗っていると、よく聞こえなかったが敵を倒したシュルツが、私の事を『マイハニー』とか言ってるのだけは分かった。


 私は全身の力を振り絞って立ち上がり、快楽で砕けそうになる膝を叱咤して、近づいてきたシュルツの右頬に渾身の左ストレートをかました。


「良いから早くスキル解除しなさいって言ってんでしょうがぁっ! おりゃあ!!」


「……はぁ、この大変な時に何やってんだよ」


 おそらくオーガを倒してきたのであろうアレックスが、その光景を見てそっとため息を零していたのが印象的だった。


お疲れ様でした。

いつも貴重なお時間を頂いて読んでもらい、とても感謝です。

楽しんでもらえるよう、そして何より、私自身が楽しんで書いていきますね。


※体調を崩してましたが更新再開です。ご心配おかけしました!

※出来る限り毎日投稿を続けますが、8-9月は私のリアルが異常に忙しい!

ストックが切れそうになったら2日に1回などに更新ペースを減らすかもしれません。その時には早い段階でお知らせしますね。

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