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エピソード005 私、聖環の儀式を受けます1

思ったより長くなっちゃったので分割です。残りは翌日に上げますね。

 

 パンドラム王国歴283年、夏。

 太陽が最も長く輝く日、パンドラム王国では子供たちにとって最も重要な行事が執り行われる。


聖環せいかんの儀式、ですかー?」


 私は首を傾げる。聞いたことがない行事だ。


「ええ。聖環の儀式って言うのはね、5歳になった年に1度だけ参加することが許されるの」


 母の話は子供のルシアに説明するために要約しまくってて逆に分かり辛かったが、まとめると聖環の儀式は近くの教会によって執り行われ、大きく2つの役割を持つらしい。


 1つ目は人としての一つの節目としての役割だ。

 パンドラム王国だけでなく、この世界の医療水準はチグハグで、日本の現代医学でも治せないような状態でも治せてしまう側面もあれば、一方で、乳幼児の死亡率が非常に高い。

 子供の(正確には平民の、を付けた方が良いかもしれない)半分以上は、病や飢え、魔物の被害などの様々な理由で5歳になる前に死んでしまうそうだ。

 なので、聖環の儀式は無事5歳を乗り越えた子供たちの生を祝う重要な儀式、というわけだ。


 2つ目は子供の潜在能力を調べる側面があるらしい。

 これは母も曖昧な情報しか持っていなかったので詳細は不明だが、曰く、何らかの特殊な能力や魔法の素質があると、儀式の最中に何かが起こるらしい。

 詳細がわからないのは、村の人たちは今まで魔法の素質を持った子が産まれたことがなかったため、その反応はいまいちわからないのだという。


「え? でも、ママもパパも魔法を使ってるよ?」


 私は家事の間、母が空中から水を出したり、父が火種を出しているのを見たことが何度もある。なので、この世界では魔法を扱えるのがごく普通だと思っていた。


「そうね。ママもパパも、村の人の多くが魔法を使えるわ。でも、それは『生活魔法』っていう魔力さえ持っておけば誰でも扱える魔法なの」


「??」


 私はこてりと首をかしげた。前世では魔法なんて存在しなかったので何が違うのかさっぱりわからない。


「えーとね、ママが言った魔法の素質っていうのはもっと特別な魔法のことよ。例えば治療魔法や、属性魔法とも呼ばれる強力な魔法がそうね。それらは特別な才能がないと扱えない魔法なの」

「へぇー」


 なるほど。どちらかというと私が魔法に対するイメージが、その特別な才能がないと扱えない類のものなのか。で、その才能を持つ人達はかなり少ないと。

 そういえば過去に母が「治療魔法は簡単には受けられない」って言ってた気がするけど、そのためだったのか。


 私も何か特別な魔法の才能を持っていないかな。せっかく異世界に転生したのだからすごい魔法の1つや2つは取得してみたい。

 実はいろいろと修行とか運用方法とか妄想してたりするんだよね。


 -----◆-----◇-----◆-----


 聖環の儀式の当日、ルシアはうちができる精いっぱいのおめかしをしてもらい、母と父に向かい合った。


「ルシア、気を付けて行ってきなさい」

「え……ママは一緒に行かないの?」

「えぇ……。ごめんなさい。聖環の儀式はしきたりによって子供だけしか参加できないの。ママも一緒に行けたらどれだけいいかと思うんだけど」


 クレアは何かを思い出したように一瞬顔を歪ませると、申し訳なさそうにルシアに告げた。


「う、ううん! 大丈夫なの! ママが居なくても私1人でもちゃんと行けるよ! それにミーちゃんとポチも一緒にいるし!」


「ルシア、パパがこっそりついていって……」

「あなた?」

「……やることはできないが、今日はちゃんと家にいるからな。帰ってきたらお祝いをしよう!」

「ええ、ルシアの好きなものをたくさん用意して待ってるからね」


「やった! ママ、パパ、行ってきます!」


 ルシアは笑顔でそう言うと、ミケとポチの待っている場所に駆けて行った。


「……大きくなったわね」

「ああ。俺とお前の大事な……自慢の娘だ」


 元気に駆けていく娘の後ろ姿をじっと見つめながら嬉し涙を流すクレアを、そっとゴードンが抱き寄せた。


 -----◆-----◇-----◆-----


 教会までの道中、一応ミケとポチにも聖環の儀式について話題を振ってみた。


「あぁ、詳しいことは俺の親父も教えてくれなかったんだけど、タマに詰め寄ったら、儀式を受けるとなんか強くなれるんだってよ」


 タマ曰く、儀式を受けた後には明らかに力が強くなったり動きやすくなり、『技』が使えるようになったらしい。

 なるほど。タマは私達よりも2歳年上なんだから聖環の儀式を受けているんだった。

 ポチの癖に賢い。


 それにしても……儀式を受けると強くなる?それも潜在能力を調べる一環なのかな。


「えっと、なんか優れた戦士なら武具が手に入るって聞いたことあるニャ。市場には売ってないようなすごいのが多くて、ある商人が武具欲しさに持ち主を借金漬けにして押収しようとしたんだけど、すぐに持ち主の元に帰っちゃったらしいニャ」


 専用武具というやつだろうか。っていうか、その商人は最悪だし他の商人も子供にそんな話を教えないでほしい。


「5年前の聖環の儀式では、近くの町で強力な武具を手に入れた子がいたらしいニャ。その子は王都のなんとかっていうスゴい騎士団にスカウトされたらしいニャー」

「すげえじゃん!俺も勇者の剣とかもらえたりしねえかな!」

「ほーほー」


 一体、聖環の儀式はいくつの役割があるんだろう。うーん、わからない。


 -----◆-----◇-----◆-----


 道中、特に魔物に出会うこともなく、無事教会に到着した。平和って素晴らしい。


 普段街道には魔物除けの結界はないけれど、今日だけは特別に簡易的な結界が張られている。

 それでも、魔物が出て襲われた例が過去にあったらしい。それを運が悪かった……という言葉で片付けてしまっていいものかどうか。


「只今より、聖環の儀式を執り行う。今から1人ずつ名前を呼ぶので、呼ばれたら祭壇の前まで来なさい。そこで個人の適性検査を行い、指輪を渡す。渡された指輪は必ずその場で装着するように。指輪に関する詳しい話は皆に渡した後にする」

「よろしいかね? では名前を呼ばれたら前に出てきなさい。……1番、アレン」

「は、はい!」


 儀式に参加している子供は20人くらいだろうか。

 部屋にいる大人は先ほど話をしていた神父……司祭……?――ああ、前世では宗教なんか興味なかったから詳しくはわからないけど、なんとなく司祭――と助祭が1人、壁にもたれ掛かって気怠そうにしている騎士が1人、部屋の隅で儀式の様子を興味深く眺めているローブを着た怪しげな人(背格好からたぶん女性)の4人。


 なんだ、結構大人いるじゃないか。父と母も来ればよかったのに……そういう問題じゃないか。


 名前順で並べられたので、私は結構後ろの方に並んでいる。そのため祭壇の様子は人垣で良く見えない。ちなみにミケは真ん中らへん。ポチは私の隣だ。


 まぁ、別に気になったりしてないけどね、まったくね!


 …………


「次。16番、オードリー」

「はい!」


 ポチの隣の子が名前を呼ばれ、前に出ていく。


 長い。


 1人当たり5分くらいかかっている。最初はドキドキしながら待っていた私も、5番目くらいからそのドキドキも霧散し、今は呼ばれる名前をポケーっと聞き流すのに徹していた。


 儀式の途中で少しざわめいたりすることもあるが、基本的には名前を呼ばれた子が前に出て行って数分したら元の場所に戻っていく、これの繰り返しだ。流石に飽きる。

 途中、大きいどよめきがあったので何事かとぴょんぴょん飛び跳ねて確認したらその当事者はミケだった。

 何か特別なことでも起こったのかな。後で聞いてみよっと。


「(それにしても……指輪か)」


 すでに列に戻っている子供達を見ると、皆一様に同じような指輪を嵌めている。


「(そういえばママとパパも似たような指輪を着けてる。お洒落なのかと思ってたけど、聖環、リング……なるほどね)」


 おそらく特殊な、魔道具的な指輪なのだろう。武具を手に入れた場合はどうなるのかな。指輪が変形とかするのかな。何それちょっとカッコいい。


「次。18番、ルシア」

「ふふぁい!」


 余計なことを考えていたら急に呼ばれて噛んでしまった。おかしい、私の前にはポチが……、とポチが祭壇の前から帰ってくるところだった。いつの間にか聞き逃していたらしい。


 周囲からクスクスと笑い声が聞こえて思わず顔が真っ赤になった。

 ポチはあきれた顔で口パクで「バーカ」って言ってる。ポチの癖に生意気だ……後で泣かす。


 ぶっちゃけもう前に出たくない。絶対目立つ。しかも悪い方の意味で。

 でも出ていかないと式が進まない。


 私はジレンマに苛まれながらも一刻も早く自分の番が終わるよう、少し駆け足で祭壇まで向かうのだった。


お疲れ様でした。

楽しんでもらえたらなら幸いです。

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