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エピソード048 あの日の告白をもう一度

第1章エピソード小話、『私とミケ・ポチ・タマ』を合わせて読むと、さらに面白いかも。

 

 私は屋台で貰ったミニ提灯を片手に、秘密基地まで続く暗い夜道を一人で歩いていた。理由は勿論、タマに呼び出されたからだ。


 私は道中タマが何を伝えたくてわざわざ秘密基地に呼ぶのか、その事を必死に考えていた。


 ――なんだか昔タマに呼び出された時と似たような状況だなぁ。


 あの時は確か、タマにミケの事が好きなんだとカミングアウトされて、それに私が助言したんだよね。

 まったくタマの一途さもここに極まれり、って感じだ。

 私がミケの好きそうな男性像を適当に……ごほん。適切に助言したら本当にそうなっちゃうなんて。


 私は氷竜戦の時のタマの雄姿を思い出した。

 

 苦境に立たされても最後まで前衛で戦っていたシャロを護ろうとしたあの姿を。

 

 美しい光の軌跡を描きながら、地道に鍛え上げた技で格上の竜種と渡り合うあの姿を。

 

 普段の気弱さを微塵も見せない、戦闘中の雄々しいあの姿を。

 

 あんな姿を見せられたら、普段とのギャップも相まって、どんな娘だってイチコロなのでは……。


 ――何考えてるんだろう、私。


 私は頭をプルプルと頭を振って思考をリセットさせ、でもあの時の姿をミケが見ていたら絶対惚れてただろうになぁと残念に思った。



 ――ん? あの時の事はミケは知らないけど、現場にいた私は知ってる……5年前のあの事について改めて話……あ! ピンときたよ!



 つまりアレだね。

 今日こそミケに告白したい! けど、先に自分のカッコ良かった所をこっそりミケに伝えておいて欲しい、って事ね!


 なるほどなるほど。

 確かにそれは衆目がある村の中では相談しにくいよね。

 

 まったく、妙な所で気が小さいんだから。ちゃんと土産話の中で自然に語ってあげるから、大船に乗った心持でいるが良いよ、フフン!


 別にタマからまだ何も言われていないがすっかりその気になった私は、どうやって劇的に話を盛り上げるか、今度はその事について頭を悩ませるのだった。


 -----◆-----◇-----◆-----


「タマ―?、来たよー」

「あ、あぁ、ちょっと待って。……よし、出来た」


 タマは秘密基地の入り口で薪を焚べているところだった。

 橙色の炎が小さく灯り、周囲を仄かに照らし出している。


 まぁ、月明かりで暗闇とは言えないまでも、こんな暗い中で話をするのも怖いからね。……オバケとか出そうだし。

 私は流れで一瞬先日の廃屋敷の事を思い出しそうになって、慌てて頭の外に追い出した。


「で、粗方予想は出来てるけど、話って何かな?」

「……ちょっと先にルシアの予想を聞かせて欲しい、かな」

「答え合わせってわけね! 良いよ」


 私は道中に呼び出された事に対する推理を、タマの前で披露した。

 ちゃんとミケへのアピールをする段取りまで想定済みだ。


 タマは私の話を聞くと頭を抱え、小さく「先に聞いておいて良かった……」と呟いた。


「その推理は全くの見当違いだよ」

「なんやて!?」


 私は折角いろいろ考えていた案が全て無意味だったことに驚きすぎて、何故か下手くそな関西弁になってしまった。

 くぅ……これが東の高校生探偵に出し抜かれた西の高校生探偵の気持ちか。


「じゃあ何の用なの? この場所で5年前の話って言われたからてっきり」

「う、ううん。その話で合ってるよ」

「へ……?」


 ど、どういう事?

 だってあの日は、タマが好きな子がいるって話をして、私はミケの事を――あれ?


 あの時、タマは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……?



『それでね。その好きな子っていうのが……』



『それは女の子だったら皆そうなのかな?』



『ちなみにもし強くなるならどういう感じがいいのかな?』



『そっか。カッコいい、か……』



 ――言ってない。タマは、一言も。


 私は、ドクリドクリとやけに自分の鼓動がうるさく耳に響いている事に気づいた。



「僕が5年前、本当に伝えたかった事。あの日の告白をもう一度――ルシア、君に伝えたい」



 タマがしっかりと私の目を見据える。


 そこには普段の気弱な姿なんて何処にもなくて。

 

 焚き火で照らされたその顔は、あの時の雄々しくカッコ良かった姿がダブって。



 心臓の高鳴りで胸が痛い。



 唇が震え、目が熱くて涙が出そうだ。



 私は、ちゃんと呼吸が出来ているだろうか。



 急に震えだす自分の手を、咄嗟に掴んで胸元に引き寄せる。

 右手に付けた腕輪のひんやりとした感触を感じ、その時、すべてが私の中で1つに繋がった。




「好きです、ルシア。この世界の誰よりも。僕は君を一生護る矛になりたい」




「あ――」




 タマの告白がすんなりと私の心に響いた。

 しかし、それに反して私の頭はショート寸前だ。


 だって私は元々男で。


 男性との結婚なんて元々考えられなくて。


 だから――タマの告白にこんな感情を揺さぶられるなんておかしくて。



『――ルシアちゃんも前世の価値観がこの世界で過ごすうちに更新された感覚はない?』



 先日のアーシアの言葉が脳裏に蘇る。


「はぁ、……やっと言えた」


「わ、私……」

「うん。大丈夫。何も今すぐ答えを出さなくてもいいよ」

「え……?」


「僕も来年で15歳、成人するんだ。僕らみたいな平民は、成人する頃には家庭を持つのが普通でしょ?

だから、ははっ、父さんが『結婚相手が居ないなら俺が見合いさせてやる』って煩くてさ。今年がルシアに想いを伝える最後のチャンスだったんだ」


 タマはその時の光景を思い出したのか、頭を掻きながら苦々しげに笑った。


「答えはルシアが成人するまでに聞かせてくれたら良いよ。それまで僕はルシアに見合う男になれるように自分を磨くからさ。それでも駄目なら、僕は潔く身を引くよ」

「う、うん。……ごめんね、ちょっと混乱しちゃって。で、でもタマはそれでホントに良いの?」

「僕が何年ルシアに勘違いされながら片思いしてたと思ってるの? あと数年くらい、訳ないよ」


 タマは笑って私の頭を軽く撫でた。その感触は存外心地良く、思わず身を委ねたいと思いつつも、私は慌てて顔を俯かせた。



 ――まずい、私、絶対顔赤いよ。アッチッチですよ。



 何とか深呼吸して鼓動を鎮めようとするけど、まったく収まってくれる気配がない。

 そのままの体勢でしばしの刻が流れると、タマは「戻ろうか」と呟き、私の頭から手を退けて焚き火を消しに向かった。


「あっ……」


 ぐぅっ!? もうちょっと、とか一瞬でも思った自分が恥ずかしい!

 これではただのチョロインじゃないですか!


 ヤケクソ気味に煌々と瞬く炎を睨みつけると、パチリッと爆ぜて誰かに笑われたような気がした。


 -----◆-----◇-----◆-----


 帰り道、私達は5年前とは違って一緒に帰った。


 まだ動揺が治っていないのか、行きでは全く問題にならなかった路傍の石に何度も蹴躓けつまずきそうになり、その度にタマが助けてくれる。


 もぉー! そういうの良いから!

 いつまで立っても平常に戻れないでしょ! タマのばかぁ!!


 自分でもなんという言い草だと思う。


 村に着くとちょうどキャンプファイアーを囲む頃合いだったようだ。村の中心にいつものメンバーが集まっていた。


 タマはそこで私と別れてポチとシアの隣にドサリと座り、私は『フォー・リーフ』とミケが集まっていた場所に腰を下ろした。


「ルシアおそい! もうメラメラはじまってるよ!」

「ルシアちゃん、ちょっと顔赤いわよ?」

「……ほぉ?」

「「……」」


 皆がジロジロ見てくるので、私は知らんぷりして明かりの消えたミニ提灯をワッサワッサと意味もなく弄んだ後、火に焚べに向かった。


 キャンプファイアーの傍には、聞き伝えられる火の大精霊ボルカニカの姿を象った御神体が添えられている。

 私が提灯を火に投げ入れると、御神体から面白がるような気配を感じた。


『今年はなかなかの見物だったね、神々とジオニカの寵愛を受ける少女よ。そなたの未来に幸多からんことを』


 慌てて私が御神体を見ると、火の照らし加減だろうか。

 御神体がニンヤリと笑っているかのように見えた。


 私はモヤモヤとしつつも、その気持ちを吹き飛ばすかのように皆と大いに語り合い、『ボルカニカ祭』は日が昇るまでつつがなく続くのだった。


今回のお話は割とお気に入りです。

ちょっと私の意図してなかった方向に進みがちですが、小説の登場人物に振り回されるのも醍醐味ですね笑


お疲れ様でした。

いつも貴重なお時間を頂いて読んでもらい、とても嬉しいです。


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