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エピソード042 私達、ベルのファッションショーです

ベルの服を買いに行くお話です。

ベルはどんな服装でも似合うと思います。惜しむらくは服飾に関する私の語彙力不足ですな。

 

 波乱万丈の護衛クエストを終わらせてスタージュの街に戻った次の日。宿で疲れを癒やしていた私達をローラが叩き起こした。


「何よ、今日くらいもう少し寝かせてくれてもいいじゃない!」

「ローラ、ベルまだ眠いの」

「ふへへ、もう逃げられないよぉー」


 訂正、私は起きてませんでした。


「ルッシー、起きて」


 ローラは私の掛布を捲って侵入。私の弱い所を重点的にくすぐってきた。


「あ、あひゃひゃ! ロ、ローラ止めて、んくぅ、そこはダメ! 分かった起きる、起きるからぁー!」


 私は寝床から飛び起きてローラから距離を取った。

 朝っぱらからなんて所くすぐってくれてんですか!


「皆が起きたということで提案がある」


 ローラが主導で提案してくるなんて珍しい。私達は顔を見合わせて、とりあえずシャロに話を促すよう任せた。


「ふーん。で、提案って何よ?」



「服を買いに行こう」



「「……はぁ?」」


 ローラは急にどうしたんだろう?

 服なら冒険者活動用として購入したものがいくつかあるし、別に今の所困ってない。それはシャロも同じだったようで私と同じように首を傾げている。


「もちろん目的はあるよ。今回から仲間に加わったベルたんとの交流を深めるため。そして……ベルたんは服を持ってない」

「ふくってこの布きれだよね? ベル、みんなに言われたからちゃんと着てるよ?」

「そんな扇情的な服装で冒険者登録のためにギルドに行ったら、速攻で拉致される」


 そう言われて、私は改めてベルの服装を確認してみた。

 たしかにもともとベルは氷竜なので服を着ていなかったし、竜角が斬られた事で弱体化したために人型になったが、途中で買い物もできなかったため、ボロい布切れ一枚羽織っているだけだ。


 元がボロ布であったためにスリットが複数あって、その隙間からベルの素肌が丸見えになっている。

 さらに、ベルの小さく折りたたんだ(実際に飛翔する時はもっと大きくなるらしい)竜翼や尻尾を外に出すために色々と破いてしまったので、果たしてこれを服と呼んで良いのだろうか、と悩むくらいにはボロボロだ。


 幼い見た目だが可愛らしいベルが、こんな服を着てヤンキーの巣窟である冒険者ギルドに行ったら……。


「「……確かにちょっと不味いかも」」

「おいしくないの?」


 ベルはよく分かっていないらしく、可愛く小首を傾げている。

 うん。良いんだ分からなくて。ベルはそのまま健やかに成長して欲しい。


「ということで今日は服を買いに行こうと思う」

「「異議なし!」」

「よくわからないけど、わかったの!」


 元々今日はオフにする予定だったので、私達は早速外出の準備をして服屋に向かった。


 -----◆-----◇-----◆-----


「歩こうー」「あるこー」

「私は元気だよー!」「げんきー」


 私達の前をギリギリの歌を仲良く歌いながら、手を繋いで歩いているのはアーシアとベルだ。

 最初はアーシアを呼び出すつもりはなかったんだけど、話を聞いていたのかいつの間にか『聖環』から抜け出して宿の入口で待ち伏せをしていた。


 こうして見ると、ベルはともかくアーシアも幼女にしか見えないんだよね。なんならベルのほうが少し身長的には大きかったりする。

 ベルは竜種的には幼女で間違いないらしいけど、その見た目でたぶん私達の中で一番強いんだよね。弱体化してるとはいえ竜種なんだし。ギャップ萌えってやつかな? ……ちょっと違うか。


「そう言えばあたし達がこうやって買い物に行くことなんてあんまりないわね」

「基本的にクエスト用の買い出しの時は分担してるからねー」

「オフは大体宿でぐーたらしてることが多い」


 客観的に自分達の普段の行動を思い出してみると、私の脳裏には一つの答えが浮かんだ。


 ……私達、女の子っぽくないなぁ。


 こう、元男性としてのイメージでは、女の子はいつも友達と集まってワイワイやってる気がする。


 勿論、皆が皆そうではないし、私達に関しては普段冒険者として一緒に行動してるんだから、せめて休みの日には……みたいな気持ちが浮かんできてもおかしくはないと思う。

 でも、それでも……。


「今度からもう少しオフの日は皆で遊びに行ってみてもいいかな」

「そうね」「賛成」


 二人も似たような事を考えていたのだろうか。私の提案に2人共すぐに賛同してくれた。その息のあった会話に、誰からともなく私達は笑い合った。


「あー! 私達を放っておいて3人で何か楽しんでる!」

「ずるいー! ベルもなかまに入れて!」


 前を歩いていた2人が私達が笑っているのを目ざとく感知し、輪に入ろうと突進してきた。それが何とも可愛らしくてさらに私達は笑いあった。


 -----◆-----◇-----◆-----


 私達はスタージュの街にある大きめの服屋の前で立ち止まった。



「さて、それでは今日はベルたんの服を選ぶわけなんだけど。ここは一つ勝負形式にしてみない?」



「誰が一番ベルに似合う服装を選べるか、みたいな?」

「そうそう」

「別にいいけど、誰が審査するのよ?」


 たしかに、皆が選ぶ側に回ったら審査する人がいなくなってしまう。

 流石に周囲の人に頼むわけにはいかないし。


「じゃあ神様である私がバッチリキッチリ評価してあげるわ!」

「ベルもやるー!」


 アーシアがよく分からない基準で審査員に立候補し、ついでにベルも審査側に回るようだ。まぁ、ベルが着るための服だから自分で判断するのは当たり前だよね。


「じゃあ、選ぶ時間は次の鐘の鳴るまで。開始」


 今からだとおおよそ30分くらいか。私は先に飛び出したシャロとローラに続いて店内へと足を運んだ。店内には思ったよりも沢山の服があり、色んな選択肢が取れそう。


「とは言っても、私はあまり服とか興味なかったからなぁ。しかも女の子の服なんか選んだこと無いからどうしようか……」


 私は頭を抱えながら、ベルが最も似合いそうな服装を探し出したのだった。




「はい。というわけで唐突だけど、『第1回! チキチキ、ベルちゃんファッションショー』が始まったよ!司会兼審査員は私、アーシアが務めるよ! では早速、エントリーナンバー1番、シャロちゃんのコーディネートです。どうぞ!」


 カーテンがシャッ!と開かれると、そこには一言で表すと中世のお姫様のようなコーデをしたベルがちょっと頬を朱に染めて立っていた。


「「「おおっ! 可愛い!!」」」

「フフン、そうでしょ?」


 シャロはドヤ顔を決めているが、そういう顔をするのも仕方がない。

 

 前世ではクラシックゴスロリファッションとでもいうべきだろうか。

 ベルの青緑色の髪と瞳に合わせた白と青を基調としたロングドレスにはフリルがふんだんに使われており、ベルの可愛さを一層引き立てつつ、少し大人びた雰囲気も醸し出している。

 銀色のティアラもワンポイントになっており、さらに切断された角を上手く隠している。


 売り物を裁断するわけにはいかないから尻尾と羽を窮屈そうに畳んでいるが、出したとしてもしっかり似合うと思う。


「これは1番手からかなりレベルの高いコーデだね! ベルちゃんの可愛さを引き立てつつ、しっかり他の魅力も引き出しているのは高評価だよ!」

「ちょっと苦しいけどこれカワイイと思う! シャロすごいの!」

「フフフン♪ そうでしょうとも!」


 シャロも上機嫌だ。これだけ褒められて嬉しくないわけないよね。


「さて、これは一番手からかなりの強敵だけど、2番手のローラちゃんは自信の程はどうかな?」

「たしかに強敵。でも、私はベルたんの元気さを強調した組み合わせ。自信はあるよ」

「なるほど。それは期待だね! では、ベルちゃん、次のコーデお願いします!」

「はーい!」


 カーテンが開くと、たしかにさっきのお姫様コーデとはまったく雰囲気の違うベルが立っていた。

 前世ではなんと言っただろうか。ダンサーっぽいストリート系コーデだ。


 ダメージの入ったパンツに少し大き目のサイズのパーカーもどきを羽織っている。インナーには個性的な派手デザインに『FU○K YOU!!』的な事が書かれている。

 所々にシルバーが盛り付けられ、イメージではDJとかやってそう。


 というかよくこんな服装、この世界にあったなぁ、とまずそっちに驚いてしまった。

 これもあのゲス勇者、もといグレンが輸入したのだろうか。でも、ちょっと好みが違いそうな気もするけど。これ買うやつ居るんだろうか。強いて言えば……ヒャッハー3人衆とか?


「そうだった……。ローラの服の趣味はちょっと変わってるんだったわ……」

「いやちょっとっていうか。たしかにベルの元気な部分は強調されてるけど……」


「よーよー! なんだか楽しくなってきたよー! それと動きやすいのはイイの!」


 ローラはベルの言にウンウンと強く頷いている。意外とベルの評価は高めのようだ。


「あー……、世界の壁をもぶち破るような素敵なコーデだったね! では次行ってみよう!」


 あ、アーシアが華麗にスルーした。


「次はルシアちゃんの番だけど、自信はどうかな?」

「あんまりない、かな? でも絶対可愛いと思う!」

「特殊な服装とかにしないでね……? では、ベルちゃんお願いします!」


 3度カーテンが開かれた。そこに立っていたベルの姿にシャロとローラの目が点になった。アーシアはなんとなく理解できたのか苦笑いをしている。



「なんで……メイド服?」



 そう、私が選んだのはメイド服。しかもコスプレで見かけるような(私は実物は見たことないけど)ミニでフリフリなやつではなく、いわゆるオールドファッションなメイド服だ。

 実用性と清楚さを兼ね備えた完璧な服装(だと私は思っている)が、ベルをより高次元の存在へと引き上げる……はず。


 この服装を選んだ理由、それは……。



「メイド服が好きだから! あとドラゴンといえばメイド服でしょ!」

「「いや、それはおかしい」」



 なんでぇ?! 前世のアニメや漫画ではドラゴンがメイドってのは結構よくあるシチュエーションだったような気がするんだけど。


 それに可愛いからなんでも良いんだよ!


「また長いふくかと思ったけど、これうごきやすいの! はだもあまり見えないし、このあたまのフリフリのやつがかわいくてすきなの!」


 ほら、ベルも気に入ってるよ。


「えー……では、結果発表に移るわ! 審査委員の私が選んだのは……シャロちゃんのお姫様コーデ!」

「当然よ!」


 というか、ほぼ一択だったよね。自分で言うのもなんだけど。


「じゃあ、ベルちゃんが一番気に入ったのはどれだった?」

「えーっとねー、ぜんぶ!」


 ベルはとりあえず今日着た服装は全部気に入ったようだ。という事は、私とローラが一票で、シャロが2票だからシャロの優勝か。


「「シャロ、おめでとー」」

「ちょっと納得いかないけど……勝ったわ!」


 ということで、ローラの思いつきで始まった『第1回! チキチキ、ベルちゃんファッションショー』は幕を閉じたのだった。結構楽しい時間だったなぁ。


 ちなみにベルには今日着た服を皆でお金を持ち寄って全部買ってあげた。ベルが嬉しそうにしてたので、私はそれで充分だ。


 これ以降、ベルはオシャレに興味を持ったらしく、オフになる度に色んな服や小物を見に行こうと誘ってきたので、必然的にオフにパーティ皆で行動することが増えたのだった。


お疲れ様でした。

いつも貴重なお時間を頂いて読んでもらい、とても感謝です。

楽しんでもらえるよう、そして何より、私自身が楽しんで書いていきますね。

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