エピソード004 私、すくすくと成長します
現在のルシアの素を出したらこんな感じです。
ただ、この先ずっとこれだと話が頭に入らないので(おい)、次話からもう少し大人びた地の文になります。
この世界が異世界であることに気づいてしまったあの日から2年。
パンドラム王国の南西に位置するボルカという人口50名ほどの小さな村に、銀髪碧眼のかわいらしい幼女が両親と3人で暮らしている。
私、ルシアは異世界でもすくすく健やかに成長しています。
最初は生活水準、性差、精神的と肉体的な年齢の差など様々なギャップに心折れそうになりましたが、今ではほとんど慣れてしまいました。
やはり精神は肉体の影響を受けるものなのでしょうか。
「ルシアー、お洗濯手伝ってくれるかしらー」
「はーい! ママのお手伝いするー!」
私の母はクレアと言います。
私とお揃いの銀髪碧眼のあらあらうふふなおっとりママです。とても美人で、髪をモフモフするのが私の密かな楽しみです。
私が5歳になると、母は積極的に私を家事の手伝いを頼むようになりました。洗濯も掃除も料理も、日本の生活に比べたら格段にハードモードです。
それでも母とおしゃべりしながらする家事は楽しくて、母が家事の準備をしだすとお手伝いを頼んでもらえるように母の周りをうろうろするようになりました。
「クレア、今から畑に行ってくる。ルシア、ママのお手伝いちゃんとしてるんだぞ」
「はいあなた。気を付けてくださいね」
「はーい! いってらっしゃいパパー!」
私の父はゴードンと言います。
強面で体格は筋骨隆々、武器を持たせたら兵士です、と言っても疑われなさそうな見た目です。確かに畑仕事は重労働で体が鍛えられますが、それだけでこんなにマッチョになるでしょうか。
初見ではヤバい人だと勘違いされそうな父ですが、話してみるととても気さくな人で、母と私にはとても甘々です。
畑仕事は男の仕事、とされているらしくなかなか手伝わせてもらえませんでしたが、ゴネにゴネて最近は週に2日程度は畑の手伝いをさせてもらえるようになりました。
変な子だな、と父は苦笑していましたが、畑仕事は私の数少ない特技です。将来的には私も畑仕事をするつもりなので、今からどんな地質なのかとか栽培されている作物などを勉強しておかなければいけません。前世の記憶が上手く活かせたらいいのですが。
「えーい! よいしょー!」
畑の手伝いは今のところ草毟りや水やりくらいです。出来ることからコツコツと、というわけで私は全体重をかけて草を引っこ抜いていきます。
草が抜けるたびにお尻から倒れるので畑の手伝いの日はたいてい泥だらけになります。
「ゴードンとこのルシアちゃんは小さいのに働きもので偉いねぇ」
「まったく。うちの子に欲しいくらいだ」
「ルシアは俺の自慢の娘だからな。誰にもやらんぞ!」
私が畑に手伝いに行く日は、村の住民が沢山構ってくれます。嬉しいのですが、村人の冗談に毎回父が真面目に反応するので困ったものです。
「いやいや、ルシアちゃんの意見を聞かないとなぁ。ルシアちゃん、息子の嫁にくるかい?」
「お、おい! ルシア……」
にやにやと父のことを見やりながら、男性が私に問いかけます。
私はその返答に内心困りました。
私は女です。でも、前世の記憶があり、ややこしいですが自分が男であるという自覚もあります。将来男性と結婚しないといけないのかなぁ、と考えると少し憂鬱になります。
まぁ、将来のことはもう少し大きくなってから考えるとして、とりあえず答えに困ったので、前世の父が「もしお前が娘だったら言ってほしかった」という世迷言を思い出し、こう答えました。
「ダメ! 私はパパのお嫁さんになるのー!」
「ぐはぁああ!!」
効果抜群だったようで、父は胸を押さえて倒れこんでしまいました。でも、表情はとても幸せそうです。
世界が違っても、娘に対する父の反応というのは変わらないことが良くわかりました。
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村には、私の他に成人していない子供が3人います。男の子と女の子が私と同じく5歳、もう一人の男の子は7歳です。
ちなみに、この世界では15歳で成人を迎え、村で仕事したり町に出稼ぎに出たりします。
小さい村の子供仲間なので、家のお手伝いが無い時はいつも一緒です。異世界にはある意味異世界ならではの定番の遊びがあります。
おままごと? 違います。
戦隊ごっこ? ちょっと惜しい。
正解は……。
「「「「出た! スライムだ(ニャ)!!」」」」
冒険者ごっこです。
木の枝や石を剣や魔法に見立て、魔物を倒す真似をして遊ぶのです。その主な魔物役となるのが、スライムです。
スライムは人的には無害な魔物らしいです。攻撃手段はなく、動きも遅い。むしろ、廃棄物や腐敗物を主食としているようで、疫病の蔓延を防いでくれる益魔物です。
でも、あまり増えすぎると育った作物も食べてしまうので定期的に間引きが推奨されます。
「やい! スライム野郎!」
「ぼ、僕たちボルカ村幼兵団が……」
「相手になってやるニャ!」
「いざ尋常に勝負なのです!!」
ぷるるんっ
私たちの声掛けに反応したのか、スライムは体を少し震わせて、こちらに向いたような気がします。
「隊列を組むニャ!」
一番後ろで戦闘指揮の真似事をしているのは猫人族のミケだ。通称ミーちゃん。
ここは亜人が普通にいる世界でした。
ミーちゃんは子供たちの中では一番頭が賢く、たまに近くを通る商隊からいろいろな知識を得ているらしい。
私たちのリーダー的存在です。
「おっしゃあ! 一番乗りぃ!」
ミーちゃんの指揮に従わず、真っ先にかけ出して言ったのは犬人族のポチだ。通称ポチ。
ポチの父親は猟師で魔物を狩る術をいろいろと教えてもらっている最中らしく、魔物との戦闘は私達の中では一番慣れている……はずです。
でも、ポチは基本馬鹿なのです。だいたい猪突猛進です。犬人族なのに馬や鹿や猪なのはこれ如何に。
「あの、はぁ……」
憂鬱そうに駆け出していったポチを見つめる引っ込み思案の人族の子がタマチだ。通称タマ。
私たちより2歳も年上で、実はかなり強いのにその性格のせいでいつも損をしています。チームのフォローが上手く、ミケとポチの喧嘩をいつも仲裁する役回りです。苦労人です。
「馬鹿ポチ! 勝手に突っ込むなって何回言ったらわかるのですか! えい!」
私はスライムに小石を投げて注意をひきつけます。
そうしないと、ポチがアレされちゃうからです。まぁポチだからいいですけど、そのままくっついて来ようとするのはマジ勘弁です。
「へへん! 俺は最強だからな。こっちだスライム!」
「あ! 馬鹿! せっかくヘイトそらしたのに!」
ポチが木の枝を振りかぶって攻撃しようとすると、スライムがペッと水玉を吐き出し、それがポチに直撃しました。
「「「あっ」」」
「グエ!?臭え!」
スライムは自分の危機を察知すると体の一部を吐き出して相手にぶつけます。害はありません。でもすごく臭いのです。
ちなみに冒険者ごっこの場合はこれに当たると死亡扱いです。
「ううー臭せえよー。助けてー」
「うわっ! こっちくんニャ! ポチ死亡! 動いたらダメニャ!」
「拭かせてくれよー」
ベトベトになった体でフラフラとこっちに近づいてくるポチ。なんかあれです。動きが前世の映画で見たゾンビそっくりです。
「近寄ったら連続石投げするですよ!? 抱きつくならタマにするのです!」
「えぇ?! い、いやだよ……。ほら、水場で流そうよぉ」
「タマぁ、俺たち友達だよなぁ」
ペタッ
「うぇええー、う、うんそうだね……友達だね、うぅ」
結局タマはポチの餌食となり、一緒にベトベトになりました。
感染(?)するとかポチマジゾンビ。小学生ならポチ菌あっちいけとか絶対言ってる。
「ポチ菌のことはともかくまたスライムに逃げられてしまったニャ」
「(あ、やっぱ言うんだ)だね。次はリベンジなのです!」
ボルカ村幼兵団の戦績は5戦2勝3敗。負け越しです。だいたいポチが悪い。
「それにしても……、なんでスライムは村に出現するのかな?」
「うーん、スライムは一説では魔物ではなく『じじょーさよう』なのかも、って商人の人たちが言ってたニャ」
「わ、わからないけど、本当は魔物じゃないっていうのは可能性あるかも……。魔よけの結界が効かないからなぁ」
離れたところからタマも話に加わります。タマは悪くないんだけど、それ以上近づいたらやっぱり小石をお見舞いするのですよ?
この世界の(前世の世界にはいなかったが)スライムは奇妙な生態系をしています。突然フッと現れるのです。どこにでも。
村の周りには魔物除けの結界が張られているらしいのですが、スライムだけは全く影響を受けないようです。不思議です。
「なぁ、難しい話してないでさっさと水場行こうぜぇー。鼻が曲がりそうだ」
たしかに今考えてもわかることではありませんでした。私とミケと(少し離れて)タマは肩をすくめて水場に直行したのでした。
最後に付け加えると、ポチとタマは丁度服を洗濯していた住民達の横で水浴びをしてしまい、こっぴどく叱られたのでした。
お疲れ様でした。
楽しんでもらえたらなら幸いです。