エピソード041 私達、意気揚々と帰路につく
これにて護衛クエストは終了になります。いやぁ、色々間に挟みましたが長かったですね笑
※ちょっと試験的に字下げなどを試してみましたがどうですかね?ご意見頂けたら幸いです。
私達『フォー・リーフ』は氷竜のベルザード、通称ベルを仲間に引き入れ、4名で冒険者チームを結成する事になった。
とりあえず、ベルが再度暴れる心配がないことに確信を得た私達全員は、依頼人であるニンショウ達に護衛クエストと緊急クエストの完了を知らせるため、一度レーベン村へ戻ることにした。
緊急クエストはシャロが勝手に言っただけで、別に正式な依頼ってわけじゃないけどね。それにしても大変なクエストだったなぁ。
厳密には護衛クエストよりもその後に起こったベルとの戦闘が大変さの大きなウェイトを占めているけど。
「はい、到着。ここがレーベン村だよ。今からニンショウって人と会うからね。ベルは要らない事を喋らないように。分かった?」
「いらないことってどんなこと?」
何に興味を刺激されたのかわからないが、村に入った途端顔をキョロキョロと忙しなくさせていたベルは、私に言われた事の意味が分からなかったのか、こてりと首を傾げた。
「えっと自分が氷竜だって事とか」
「え、言うわよ? 依頼主なんだし、この村の住人に安全になった事を説明してもらうためにもね」
シャロに即否定された。
たしかに。
よく考えたら今のベルは竜の姿では無いとは言え、尻尾や翼など名残はしっかり残っている。それに今まで護衛クエストで散々顔を合わせていたんだ。ベルが増えてたらすぐに怪しまれるよね。
「じゃ、じゃあ、ベルが操られていた事や黒曜石のこととか?」
「確かに詳細は話さなくても良いかもしれんが、暴走した原因として明かさんと話が繋がらんじゃろ」
う、うう。たしかに。
他に要らない事ってなんだろ……。
「ベルが可愛い事とか……」
「それは見ればわかるし、むしろベルたんの可愛さはアピールすべき」
「か、わいい、ベルが? ホント? ねぇ、ホント?」
「うん。それはホント」
「やったー!」
苦し紛れに言った私の台詞は、ただベルを喜ばせただけだった。
うん、もう良いや。可愛いは正義だよね。
結論、特に隠す事はありませんでした。
私達は真っ直ぐにニンショウ達が待つ場所へ向かい、湖で起こった出来事を包み隠さず報告したのだった。
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「な、なるほど。分かりました。ベルさんを見た限り、私もこれ以上害を及ぼすとは思えませんから。これで全てのクエストの完了を宣言します。皆様、本当にありがとうございました」
「この村が無事だったのは皆さんのおかげです。ニンショウの妻として、そしてこの村の一員となる者として私からもお礼を言わせてください。ありがとうございました。村の者への説明は私達に任せてくださいね」
報告を終えた私達はニンショウとアグネスに感謝で頭を下げられた。ベルもそれを真似て頭を下げている。翼が小刻みにピクピク揺れ動いている。
何だこの可愛い生物。
「これが今回の報酬です。お収めください」
私はニンショウから渡された随分重量のある袋に驚く。急いで中身を確認すると、元々の報酬である小金貨が6枚と――金貨が50枚程入っていた。しかも、これが一人分だ。同じように袋の中身を見たシャロとローラも目を剥いている。
「ちょ、ちょっとニンショウさん! 随分金額が……」
「『緊急クエスト』の分も追加しています。手持ちを余り持っておりませんでしたので、暴走した竜種から私の村を救ってくれた冒険者に渡す金額としては少なすぎて商人の端くれとして恥ずかしい限りです」
そう言ってニンショウは何故か項垂れている。本当に申し訳無さそうなのが伝わってくる。
「え、いやいやそれは……」
「正式なクエストなら竜種退治なぞ一人あたり金貨100枚は下らないのじゃ。ニンショウの面子の為にも遠慮なく貰っておくのじゃ」
ソフィアがそう言うなら遠慮するのも悪い。私達はありがたく報酬を貰い、村の皆に見送られながらホクホク顔でスタージュの街への帰路につくのだった。
ソフィアは私達が村を出る前に、ベルが狂わされた石を調べる、とのことでそのまま自分の家に帰っていった。流石私の師匠だ。自分の興味のあることには周りが見えなくなるらしい。
今になって思いついたが、あれが自然界に存在する石ならば私の鑑定スキルで正体がわかったんじゃないだろうか。
箒に乗って飛んでいくソフィアの後ろ姿を見ながらふとそう思ったが、まぁ、ソフィアのことだから自力でその正体に辿り着くだろう。
なんでも簡単に分かっちゃったら、面白くないもんね。
また、村を出る時にタマがニンショウに呼び止められて何か渡されていたようだけど、なんだったのだろうか。
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3日かけて私達はボルカ村に到着した。まだ日が高いので今回は村で一泊せず、このまますぐに出発する予定だ。
数日間ずっと一緒だったタマともここでお別れだ。
「タマ。今回は一緒についてきてくれて本当に助かったよ。ありがと」
「ル、ルシアの力になれて良かったよ。そ、それで、これ……」
タマは懐から緻密な模様が施された腕輪を取り出し、私に渡してきた。よく見ると水が流れる様子を表現しているらしい。私好みで随分とセンスがいい。
「どうしたの、これ」
「あ、あげるよ。ニンショウさんに貰ったんだ。ぼ、僕も仕事があるからルシアにずっと付いていく事はできない。で、でも、その腕輪を僕の代わりにルシアと連れて行ってくれないかな」
タマは少しどもりながらも、私から少しも視線を外そうとしない。
「あ、ありがとう。大切にするね」
私はタマからの贈り物に何故か少し緊張を覚えながらも、それを受け取った。右腕に装着してみると私の髪留めと共鳴するかようにキラリと光った。
どう? 似合う?
私はそうとでも言うかのように、タマに右手をかざしてニヤリと笑った。
タマはその私の姿に頷き、満面の笑みを浮かべていた。
私はそのまま村に背を向け、仲間の元に戻った。ローラはニヤニヤと、シャロは少し淋しげに笑い、ベルは興味深そうに私の腕輪を見つめている。
「行こう! 次の冒険へ!」
私はまだ村には帰れない。村の皆のために、もっと沢山稼がなきゃ!
私達は意気揚々とスタージュの街へ向かって歩き出した。
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「タマチや、帰ってきておったのか」
村長のグランパは僕の姿を認めて話しかけてきた。
「はい。数日間村を離れていてすみませんでした」
「別にいいわい。それでルシアはどうだったかい?」
「元気にやってましたよ。冒険者の仲間もいい子達ばかりでした」
ルシアに素敵な冒険者仲間……友人ができて本当によかった。
「そうか。それは何よりじゃ。それにしても……ルシアには悪いことをしたの。村の税金分の金貨10枚などいくら冒険者と言えど、1年では簡単には稼げないのは分かっとるんじゃが」
「え……?」
僕の声は風に溶けて流れていった。
自分が稼ぐべき金額を理解していないルシアは、今日も頑張って冒険者業に励むのだった。
お疲れ様でした。
いつも貴重なお時間を頂いて読んでもらい、とても感謝です。
楽しんでもらえるよう、そして何より、私自身が楽しんで書いていきますね。




