エピソード040 真四葉、結成です
メンバー加入。これで真『フォー・リーフ』の完成です!
氷竜を皆が全力を振り絞って撃破した。
その爪痕は深く、前衛で戦ったシャロとタマはボロボロ、ソフィアは魔法の過度な行使で気絶。
ローラは貴重な魔法矢をほとんど射尽くし、私も慣れない拘束魔法を使って少し頭がフラフラする。
「おかえり、ルッシー。氷竜はどうだった?」
「うーん……大丈夫、かな。一応」
「一応って何よ?」
フルマラソンを走りきった人のように項垂れていたシャロが、歯切れの悪い私を訝しんだのか問い詰めてきた。
だって、氷竜は倒したけど女の子で、胸に生えた禍々しい石を円匙で抉り取りました、って報告しにくいじゃん。
「じゃあシャロが確認して?」
「確認して、って何処を?」
「ここを」
とりあえず私は、自分の背中におぶっている子を後ろ手で差した。
「……誰よ、その子」
「さっきの氷竜。……たぶん」
「「「えぇっ!?」」」
私の台詞に急に騒然となったシャロ、ローラ、タマの3人。
そうだよね。そういう反応になるよね。
その驚きに私も混ざっていい? 私も思わず背負ってきたけど納得できてる訳じゃないんだから。
「りゅ、竜種って人間だったんだ……」
「そんな訳ないじゃない!」
混乱しているローラに一喝するシャロ。
タマは元氷竜のギリギリな服装に顔を赤らめていた。
私も竜種の生態についてはよく知らないんだよね。ここにミケがいてくれたら説明してくれそうなんだけど。
あいにく説明役になれそうなソフィアはしばらく目を覚ましそうにないし。
「指輪さん、わかる?」
私はいざという時の知恵袋、【聖環・地】に質問を投げかけてみた。
アーシアを呼び出して聞く案はそもそも頭に浮かばない。
「なんでぇ!?」とか頭の中で聞こえるがとりあえず無視。もう少し状況が整理出来たらいくらでも呼び出してあげるから待っててね。
『私が言えるのは、とりあえず皆を安全な場所に移動させるのが最善かと思います、マスタールシア』
……たしかに。
私は【聖環・地】の正論にぐうの音も出なかった。
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私達はとりあえず戦闘の痕跡が酷い湖の周辺から見晴らしのいい場所に移動した。
すぐに村に戻らなかったのは私の背中にいる子が目覚めて暴れ出さないか心配だったからだ。
ちなみにソフィアはタマに担いでもらった。
私も女の姿になってから理解したけど、こういう時の男の子ってやっぱり凄いね。大人のソフィアを軽々と――色々意識してしまうようで顔は赤いが――担いでしまうんだから。
「どっちが起きるのが早いかな?」
「出来れば状況を理解できそうなソフィア様に先に起きて欲しい所ね」
シャロはソフィアを心配そうに見やり、ローラは服の切れ端を水で濡らし、ソフィアの顔にヒタヒタと滴らせている。
それは良い手だと私も思うけど、もう少し絞ってあげて欲しい。
滴る水滴の量が多すぎて新手の拷問みたいになってるよ?
「ぶはっ! 溺れるのじゃ!?」
ほら、溺れる夢を見てたみたい。
「師匠! 気が付きましたか? 大丈夫ですか?」
「お……? うむ、少々魔法を一気に使いすぎて意識が飛んだようじゃな。迷惑かけたのじゃ」
ソフィアは私達に気まずそうに頭を垂れた。
いやいや、ソフィアのおかげで氷竜の竜角を切断できたのに謝られてもこちらが困る。
それは皆同感のようで同じように首を横に振っていた。
「いえ、師匠のおかげで氷竜を倒せたのですから。それよりもこの子のこと何か分かりませんか? 氷竜が倒れていた所にいたんですけど」
起きて早々質問をして申し訳ない気持ちでいっぱいだけど、この子の扱いを何とかしないと村に氷竜討伐の知らせを報告しに行くことが出来ない。
「ふむ?……あぁ、角が折れて人型になったのじゃな。暴走していた原因は何とかしたのかの?」
さも当たり前のように納得するソフィア。
そのあまりにもあっさりとしたソフィアの反応に驚く私達。
え、本当に竜種って人間なの? でも、この子が『ニンゲンメ!』的な事を言ってた気がしたけど……。
とりあえず私はその質問の前に氷竜の女の子に刺さっていた石を取り出し、自分の武具で取り除いた事をソフィアに報告した。
「これは……見たこともない石なのじゃ。黒曜石……いや、魔石に近いが闇属性の魔法にのみ強い感応性を見せるようじゃの。確かにこれが暴走させた魔法の媒体になっていたのは間違いなさそうなのじゃ」
ソフィアの興味が既に女の子から石に移りそうになっていたので、私は慌てて竜種の人化について聞いてみた。
「……なんじゃルシアよ、それでもワシの弟子かの? ちと勉強不足なのじゃ。 元々『竜種』というのは、元は有翼人種の一種で進化の過程で膨大な魔素を取り込み最適化された姿、と言われておるじゃ。
ベースは変わらんので魔力が抜ければ勝手に人型になるし、竜種によっては自らの意志で人型でいる変わり者もいるのじゃ」
へぇ。この世界の生物は随分と面白い進化の過程を経ているみたい。
私はそういう話苦手だったからよく覚えてないけど。
「あれ、でも竜種ってたしか魔物に分類されていたはずでは? 人型がベースなら猫人族のミーちゃんや犬人族のポチみたいに『竜人族』って呼ばれないんですか?」
「そう呼ぶ研究者もたしかにいるのじゃ。実は竜種には魔力を制御する龍角はあっても魔石はないしの。ただし、竜種は一般的には気性が荒く、言葉を介さない者も多いのでな。事実上魔物のようなもの、として認知されておるのじゃ」
「なるほど……」
「ちなみに会う機会などないとは思うが、ドラム山脈に住む竜種共に『魔物』と呼ぶとブチ切れるので注意するのじゃ」
ソフィアは何かを思い出したかのように身震いをした。
……これは経験談だな。間違いない。
そんな話をしていると、寝かせていた氷竜の女の子が寝ぼけ眼で急に起き上がり欠伸をした。
私達をぼんやりした顔で次々と見やる。
そして自分の角があったであろう部分をペタペタと両手(前足?)で触り、その青緑の瞳にジワリと涙が滲んだ。
「ふぇ……つのがない! ゆめじゃなかったの!!」
暴走していた時はカタコトの話し方だったのに今は普通に話してる。やっぱり何者かに操られていたのかな。
そんな私の思考など知る由もなく、現実を否定しようと半泣きになりながらも何度何度も頭部を確認する女の子。
その様子を見て私は密かに持ち帰っていた2本の角をそっと差し出した。
「……これ?」
「……ベルのつの……とれちゃったの、う、うぅ……うぇぇ……」
ヤバい。本格的に泣き出してしまった。
「ルシアのオーガ!」
「ルッシーのデーモン!」
「ルシアよ、流石にそれは……」
「ルシア、空気は読んだほうが……」
ちょっと待って皆おかしいよ!?
この子にあれだけ暴れられてボコボコにされたのに、なんで私がボロカスに言われてるの?!
オーガ(鬼?)やデーモン(悪魔?)呼ばわりも大概だけど、元日本人なのに『空気読めない』って言われたのは地味に傷つく。
「えっと……ご、ごめんね。あなたが暴れてたから私達も仕方なくやったことで……ね? これあげるから機嫌直して? えっと、あなたの名前は?」
こうなったら餌付け大作戦で何とかするしかない!
そう思った私は小袋に仕舞っていた昨晩の果実の余りを渡した。私は後方で魔法を練っていただけなので中身潰れてなくてよかった。
ついでに名前も尋ねてみた。いつまでも名前がわからないのは不便だ。
「ふぇ、ぐすっ……あむっ。……おいしい。あなた、ベルをたすけてくれたニンゲン?」
「え?」
「石、とってくれたニンゲン?」
女の子は石が刺さっていた場所を差してそう確認した。
それは事実なので私は頷いておいた。
「そっか、ありがと。あたまぐちゃぐちゃになって苦しかったのたすけてくれて。ベルはベルザードっていうの。ベルってよんで?」
「ベルだね、分かった。私はルシアって言うの。よろしくね」
「ルシア、おぼえたの。……ほかのニンゲンは?」
そこでベルは私から視線を外して周囲の皆のことを見やった。
皆は自己紹介をし、その流れでベルの身の上話を聞いた。
何処から来たのか。
なぜ湖にいたのか。
誰に石を埋め込まれたのか。などなどだ。
ベルは一つ一つ、拙い言葉で聞かれたことに説明していった。
要約すると、ベルはドラム山脈に住んでいて、好奇心から人里をコッソリ訪れようと山を1人で下りてきたのだという。
その途中で意識が飛んで、気づいたときには湖で暴れていた。誰にやられたかは記憶にないらしい。
頭の中では暴虐の限りを尽くせ、という命令が何度も流れ、抗う事ができなかった。
それを私達が止めてくれた、ということだった。
彼女の大事な角と引き換えに。
「……つのがないとみんなにバカにされる。それに、つのがないと元のすがたにもどれないの」
「生えてきたりしないの?」
「元どおりになるのはじかんがかかるらしいの……どうしよう」
私達は顔を見合わせた。
ベルは角が生え変わるまでドラム山脈に戻る気は無いらしい。
とは言え、特に行く場所も帰る場所もない。
「ベルたんは魔力がなくなっちゃったの?」
ローラは何か考えがあるのか、ベルに尋ねた。
「ううん。前より少なくなっちゃったけど、あるの。ブレスは出せないけど、手に氷のつめを出したり、かんたんなまほうを使うくらいはできるよ?」
「なら、しばらくの間冒険者になったら? で、私達『フォー・リーフ』のメンバーになって一緒に仕事をしよう!」
「ぼうけんしゃ! よく分からないけどベル、りっぱにおしごとできるよ!」
ベルは嬉しそうに尻尾をフリフリ、翼をパタパタとさせ、ローラの提案を受け入れる姿勢だ。
「ちょ、ちょっと、勝手に決めないで!」
「でもシャロ、よく考えてみて? 弱体化しているとは言え竜種だよ? 絶対即戦力だよ?」
「えっ……? 確かにそうね……」
速攻でシャロが説得されそうになっている。
ここは私がしっかりしないと!
「あのね、ベル。私達は……」
「ルシア。ベルは、ルシアといっしょ? なかま?」
「……そうだよ、ベル! 私達は仲間だよ!」
「やったー!!」
ベルに上目遣いに尋ねられて、瞬殺でした。
私、チョロすぎる。
「……まぁ、身柄を保護しておくのはわしも良いと思うがの」
「ベルの姿は問題にならないんでしょうか……?」
私達の後ろで戸惑うソフィアとタマを他所に、私達はベルのメンバー入りを歓迎した。
「よし! これで4人。ホントの意味で『フォー・リーフ』の始動ね!」
「「「おぉー!」」」
私達の伝説はここから始まるんだよ!
な、なぜか打ち切り感満載の終わり方になりましたが、別に終わりません。
お疲れ様でした。
いつも貴重なお時間を頂いて読んでもらい、とても感謝です。
楽しんでもらえるよう、そして何より、私自身が楽しんで書いていきますね。




