エピソード036 私、護衛中にローラ・タマとお喋りしました
恋バナはガールズ・トークの定番ですよね。そして終盤、新たなクエストの発生です。
護衛クエストを受けてから3日目。
初日に峠を越してしまったのか、昨日は驚くほど平穏な行程だった。
モブリンを中心とした魔物は何匹か現れたけど、張り切っているタマの手にかかって文字通り鎧袖一触で薙ぎ払われていた。
事実、昨日は私どころか『フォー・リーフ』の全員が一度も戦闘してない。
「暇だね」
「タマー、強すぎるよぉ」
「え、えぇ……」
馬車の護衛をしながらもすっかりダレきっている私とローラに、困惑気味のタマ。
ちなみに今日のアグネス担当はアーシアとシャロだ。
大した戦闘も起きないので、馬車の中で穏やかな時間を過ごしている。
2年前のウォーウルフの集団との実戦を経て、タマはとても強くなっていた。
隠れて鍛錬をコツコツと積んでいたようで、当時よりも更に槍捌きに磨きがかかっている。
誰にも教わっていないのに我流の技を編み出していることも分かった。流派は『タマチ流短槍術』らしい。
前世の思春期で発病した私の古傷がうずくが、タマの場合は実力が伴っているので結構様になっていた。
パンドラム国王陛下に『農民でいるのは惜しい人材だ』と言われた私だけど、武芸の資質だけで見ればタマの方が遥かに本職農民とは思えない程の逸材だ。
王国騎士団に人材が足りていないのなら、タマを推薦しておこうか?きっとすぐに副隊長クラスくらいには付けそう。
あ、でも、タマは苦労性だから胃に穴あきそうだなぁ……やっぱやめとこ。
「そう言えばタマ。ミーちゃんやポチはどうしてた?」
私はヒマな時間を潰すためにタマに話しかけた。
聞くのを忘れていたけど、タマがついてくるという話になったのなら、あの2人も一緒について来てくれても良かったのにな、とか思うの。……別に寂しいわけじゃないよ?
「あ、あの時は僕もルシアが村に帰ってるって聞いてすぐに飛び出しちゃったから……。ミケはわからないけど、ポチは無理だったと思うよ。『ブルのおやっさんがこき使うせいで狩りが忙しい』ってずっと言ってたから」
私はボルカ村の狩猟班の首領である、ブルを思い浮かべた。
『ブルのおやっさん』と皆に呼ばれていて頼りになる人だけど、私はちょっと苦手意識を持っている。
風貌から前世の『や』のつく職業イメージがどうしても付きまとうからだ。いや、その職業の人に実際に面識があった訳ではないからあくまでイメージなんだけど。
とりあえず、ポチが散々こき使われてへばっている姿が簡単に想像できる。
「それじゃ仕方ないね。ミーちゃんも夏のお祭りに向けて機織りが忙しいだろうしなぁ」
「こ、声をかけた方が良かったかな……?」
タマは恐縮そうに私に問いかけた。
「ううん。タマがついてきてくれただけでとっても心強いよ。それに実際に助かってるし。ありがと、タマ」
「う、うん……」
タマは戦闘をしている時の勇ましい姿はなりを潜め、照れながらも困ったような顔でニヨリと笑うという、説明するのが難しい表情をしていた。
「ルッシーは罪作りな女だねぇ」
「え? なんで?」
普段は眠そうな表情をしているローラが、ムフフと意味深な笑いを浮かべ私にこっそりと囁いてくる。
私がいつ罪を作ったんだろう。
勇者侮辱罪とかあったら確実に罪を重ね続けてるけど。
あ、環境破壊とか違法建築とかもしてるね……気づかない間に他にも結構罪を作ってそう。
それにしても何故ローラにそれらの事がバレたんだろう。私は何も言ってないのに、不思議だ。
「シャロは割と一目惚れてたよ。タマチーカッコいいし、仕方ないね」
「うーん、タマにはミーちゃんっていう想い人がいるんだけど……」
「……え?」
私はローラの呆けた顔をしているが、これが事実なんだよ。
ミケには村にいる間に会えなかったら知らないのも仕方ないよね。
それにしても……なんと、シャロはタマの事が好きなのか。
まだ出会ったばかりだけど、一目惚れってそういうものだよね。
タマは私が知る中でも有数の人格者だし、容姿もイケメン。それに強い。
冒険者をしているシャロにとって惚れるのは当然と言えるのかもしれない。
だけど……、タマはミケに一途だからなぁ。
「ちょ、ちょっとまって? タマチーはその……ルッシーが好きなんじゃないの?」
ブフォッ!? とタマが後ろで噴き出している。
なるほど、勘違いするな! って反応ね。
大丈夫、ちゃんと私が訂正しておくから!
「ううん。村では会わなかったけど、タマはミーちゃんっていう私の幼馴染の猫人族の子が好きなんだよ。私、昔タマから恋愛相談受けたからね……あ、これ言わない方が良かった?」
うっかり恋愛相談を受けた事まで喋ってしまった。
タマは項垂れたまま首を横に振っていた。喋っていいってことね。
ローラは私とタマを交互に見て、やがて得心がいったかのように一つ頷き、タマの肩をポンポンと叩いた。
タマの耳元でコソコソと何かを喋り、その途端タマの顔がぱぁっ!と明るくなったかと思うとローラの手を握ってペコペコ頭を下げている。ローラはそれを見てウンウンと頷いている。
私はその状況が理解できずに首を傾げることしか出来なかった。
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同日、陽が沈む少し前。
野宿の場所を決めた私達は、テントの設営に火起こし、料理の準備などで分担を決めて動いていた。
とは言っても、大体役割はいつも同じだ。
シャロは火起こし。生活魔法よりも火力の高い火属性魔法で一気に着火出来るのでシャロにとっては最も簡単な仕事だ。
ローラは料理。ローラが料理できると知った時は本当に驚いた。その料理過程があまりにも適当にしか思えないから最初心配だったんだけどね。
料理歴、というか野外飯の経験が豊富らしく、少ない材料や近くに生えている野草を上手く使って美味しいスープを作るのがまるで魔法みたいだ。
アーシアは大体ローラの傍にいて味見担当になっている。
……まぁ、要らない事をしでかすよりは良しとしよう。
そして私はテント設営だ。タマが来てからは一緒にテント設営を手伝ってくれている。
異世界のテントは前世のワンタッチテント、のようにはいかなくて1人で設営するのは結構重労働だったりする。
テントにテンションをかけるのと地面に固定するために、ペグという杭を打ち込む必要があるんだけど、初めて設営した時はその作業が思いの外難しくて、テンションをかけすぎてテントを崩してしまうことが頻発した。
ペグがちゃんと打ち込めてなくて、テントが転がっていった時もあったかな。あの時はおむすびコロリンの気分だった。
「タマ、終わったらこっちを手伝ってくれない? テントが動いて上手くペグが打てなくて」
「わかったよ」
ペグ打ちのためにしゃがみこんでいた私の隣に移動して腰を下ろしたタマは、テントを押さえて動かないように固定した。
そうそう。これで打ちやすくなった。
サクッと作業を終えて顔を上げると、私の目の前にタマの顔があった。
「ありがと……わっ!?」
「ご、ごめん!」
触れそうな距離にいたタマに驚いてつい大きな声を出してしまった私は、同じく驚いたのかしゃがんだそのままの姿勢で器用に距離を取ったタマがなんだか可笑しくて、ついつい笑ってしまった。
つられてタマも少し照れ笑う。
「……青春だねぇ」
「何のこと?」
訳知り顔のローラに、よく分かってないシャロ。
アーシアはそんな事お構いなしとばかりに味見をおかわりしている。……あまり食べ過ぎるとスープがなくなっちゃうんだけど。
そんな私達を微笑ましく見つめるニンショウとアグネス。
穏やかな時間が過ぎ、辺りが暗くなった頃、それは突然鳴り始めた。
リンリンリンッ リンリンリンッ
これはケータイの着信音ならぬ着信ベルだ。
私はアーシアからケータイを受け取り、皆が注目する中、ケータイの通話用電源をオンにした。
『ルシア! 今何処にいるのじゃ!?』
「今はレーベン村から少し離れた街道で野営中です。明日の午前中には村に到着するはずです」
何やらケータイ先のソフィアは焦っているような声だ。
悪いことでも起こったのだろうか。
『レーベン村の近くの湖で氷竜が目撃されたらしいのじゃ! どうやら暴走しておるらく、もしかしたらその村は危ないかもしれんのじゃ!!』
「え!? ではすぐ助けに行かないと!」
『馬鹿者! 竜種相手に無闇に戦って勝てると思わんことじゃ!! 出来れば近づいて欲しく無いんじゃがどうせ言っても聞きはしまい。わしも明朝、村に向かうからせめて合流するまでじっとしておくのじゃ!!』
ブツッ! と通話が唐突に切れた。
どうやら魔素による通信が乱れたようだ。
私は、這い寄る冷気の幻覚にブルリとッ身震いし、今の様子を聞いていた皆を見回した。
「……その道具が何なのか、聞きたい所ではあるけどそれはまた今度にするわ」
「氷竜がこの辺で目撃されたなんて聞いたこと無いですが……村に危険が迫っているならば、私は生まれ育った村を守りたい。協力……していただけますか?」
ニンショウは私達『フォー・リーフ』のメンバーとタマ・アーシアを見やる。
私達は、各々軽く視線を交わし、首を縦に振った。
「じゃあ、緊急クエスト『氷竜を倒して村を救え!』の発令よ!!」
シャロによって放たれた号令は暗い空に響き、明日の準備のために各自動き出したのだった。
お疲れさまでした。
楽しんでもらえたなら幸いです。




