エピソード035 私、一時の休息を堪能します
のんびり回です。
※感想で指摘されましたが、改めて読むと確かにルート分岐っぽい笑
完全に無意識だったよ!
ボルカ村に着くと、真っ先に向かったのは自分の家だった。
扉の前に立つと、コンコンコンとノックをしてみる。
いつもはしないけど、何となくお仕事モードだ。
トタトタと中から足音が聞こえる。
この足音はお母さんだ。
「はい、どなたですかー……あら、ルシア? どうしたの?」
「護衛クエスト受けてその途中で寄ってみたんだ。どう? 出来る大人の女っぽいでしょ?」
私は柄にもなく、フンスと鼻息を立て、威張ってみせる。
家族だけに見せる年相応の姿だ。
「あらあら、それを自分で言わなければ大人みたいなんだけどねー。とにかく、おかえりなさい、ルシア」
「ただいま、お母さん!」
私は母ルセアにギュッと抱き着いた。
あぁ、久々の母の香りがして安心する。
そのまましばらく抱きついていると、母の後ろでルインがヨチヨチとこちらに歩いてくるのが見えた。
「ルインー! ただいま! お姉ちゃんが帰ってきましたよー」
私はルインを抱き上げ、ほっぺにキスをする。
あぁー、私の妹は可愛いなー。うりうり。
「るーあ、めー!」
ルインがじたばたしながら私の抱擁から逃れようとするが、そんな事よりもっと大事な事実に、私は大きな声を上げた。
「お母さん! ルインが喋った! 私のこと『ルシア』って呼んだよ!? あぁ、まだ2歳半なのにお喋り出来るなんてルインは天才だなぁ!!」
ルインは私なんかよりもっと凄い子になるよ。
学者さんかな? それとも偉大な魔法使い? 今からでもソフィアに弟子入りさせた方がいいのかな。
とりあえずは私が使った文字を覚える為の教材でお勉強かしら。それなら私が家庭教師をしよう。
お姉ちゃん、ルインの為にも沢山頑張るからね。
「ルシア、そろそろこちらの方々の紹介をして欲しいのだけど」
母の声に振り返ると、ドアから垣間見る3人の女性のニヤニヤ顔がはっきりと見えた。
「ぴゃあー?!」
私の喉から発したことの無い音が漏れた。
普段は自分の精神年齢が高いからか、割と落ち着いた態度で接しているはずなのに、こんな子供っぽいところを見られた。
い、いつからか。それが問題だ。
「いつから……」
「「ルシア(ルッシー)が、母親に抱き付く所から」」
最初からじゃないか!!
声くらいかけてくれてもいいじゃない。
「いやー、ルシアも年相応な所あるじゃない。安心したわ」
「『急所キラー』が可愛いなんて反則だと思う」
「伺った年齢の割には大人びた印象のルシアさんも、家族にはまだまだ甘えん坊なんですね。私もこの子が産まれる瞬間が一層楽しみになりました」
シャロとローラがニヤニヤと、アグネスが自分のお腹を愛おしそうに撫でり、しみじみとのたまう。
どうでも良いけど、私に変な二つ名つけないでほしい。
私は久しぶりでタガが外れた自分の醜態に赤面しながら、母に皆を紹介した。
「えっと、この2人が私の冒険者仲間のシャロとローラだよ」
「あらあら。可愛らしい子達ね。いつもルシアがお世話になっています」
「シャロットです。こちらこそルシアがパーティに加わってからとても楽になって助かってます」
「ローレライ。ローラで良いよ。私達がルッシーにおんぶに抱っこだから」
シャロはよそ行きのキリッとしたリーダー然とした姿勢で、ローラはいつも通りの自然体で母に挨拶をした。
「この方が今回の護衛クエストの依頼人の奥方のアグネスさん。それと……あれ? ニンショウさんは?」
「馬車で待ってる。早く交渉してあげたら?」
ローラが後ろを指すと、外ではニンショウと父ゴードンが何か話をしている。
父がいないと思ったら外にいたのか。
ちょうど帰ってきたところかな?
何やらニンショウがペコペコと頭を下げ、狼狽する父の構図が見える。好きにさせてあげよう。
「とりあえず、この5人でもっと南のレーベン村まで行くの。でも今日は色々あって暗くなっちゃったから、うちに泊まらせてあげたいんだけど……ダメかな?」
「大したお構いは出来ないけれど、それで構いませんなら、歓迎しますよ」
母からの許可が出たので、私は皆を家に招待した。
なんの変哲もない農民の家だけど、少なくとも野宿のように見張りを建てる必要もなく、屋根のあるところでゆっくり眠れる。
その後、シャロとローラは母から私の昔話を根掘り葉掘り聞き出しだり、おねむになるまでルインを可愛がっていた。
ルインも最初は初めて会う2人に少し緊張していたようだが、最後はシャロに甘えて遊んでもらっていた。隣のローラは少し不満そうだった。
意外とシャロは小さな子供の扱いに慣れていて、私は心のなかでは驚いていた。
もしかして姉妹がいるのかもしれない。
そう言えば、シャロもローラも自分の事についてはあまり話そうとしない。
私もわざわざ聞くようなことはしないが、いつか2人の事ももっと知りたいな。
アグネスは母と出産の時の経験や、その後の話を色々していた。
なんでも、アグネスは今回が初めての妊娠で不安になったりすることも多いよう。経験者の母が優しくアドバイスをしたら少し安堵していた。
アグネスの子供には元気に育ってもらいたい。
ニンショウは父とお酒を酌み交わしていた。
男同士何か通じるものがあったのだろうか。私も話に混ざろうとしたが男同士の話だ、と仲間に入れてくれなかった。
むむむ、私、前世では男だったんだけどなぁ。ダメですか? そうですよね。
そんな感じで、護衛クエストの1日目の夜は過ぎていったのだった。
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「よし、皆。出発の準備はできた? 忘れ物があっても取りに帰ってこないからね」
護衛クエスト2日目。
私達は、一晩世話になった私の家に礼を言って、村の門に集まっていた。
父と母、ルインも一緒に見送りに来てくれた。
1ヶ月ぶりに帰ってきたのに名残惜しいが、今は仕事中。
気持ちを切り替えてニンショウ達を目的地に運ばなくては。
「ル、ルシア!」
馬車に荷物を詰め込み出発の準備をしていると、村の方から私を呼ぶ声が聞こえた。
一時的に立ち寄っただけだから、家族と村長以外には帰ってきた事は言ってないんだけど、一体誰だろう。
「え、タマ?」
「ぼ、僕も一緒に連れて行ってくれないか?」
なんと、そこにいたのはタマだった。
しかも私達と一緒に護衛クエストについてきたいらしい。
よく見ると、タマは得意としている短槍をさげ、数日分の荷物も準備しているようだ。ここに来る時点でついてくるつもりだったらしい。
「君は?」
様子を聞きつけ、馬車から今回の依頼人であるニンショウが下りてきて、タマに尋ねた。
「ぼ、僕はタマチです。ルシアのと、友達です。槍の扱いには慣れているので護衛の役に立ちます。報酬も要りません、僕を連れて行ってください!」
「何故ついてくるんだい?」
ニンショウはタマを見定めるように言葉少なく、その理由を尋ねた。
彼としても報酬も要らないのに護衛の仕事をする人間が増えれば得だろう。
普通に考えれば。
しかし、王都からスタージュに来るまでに冒険者が男であったために、トラブルが起こったばかりだ。
少年といっても、男であるタマを連れて行くのには抵抗があるだろう。
私も困惑気味だ。
確かにタマについてきて貰えばこの護衛クエストは戦力的にかなり万全になる。
でも、いつもとは雰囲気の違う鬼気迫るタマに、私は戸惑ってしまう。
少し、胸のあたりがキュウと締めつけられる得体のしれない感覚を感じた。
「友達の為、です」
タマはいつもなら逸しがちな視線をニンショウから一切外さずに言い切った。
ニンショウはタマの様子をじっと見て、そして何かを理解したように微笑んだ。
「いいでしょう。ルシアさんのお手伝いをしてあげてください」
この返答を聞くと、タマは少しホッとして担いでいた荷物を馬車の近くに置き、私に少し微笑むとシャロとローラに自己紹介しにいった。シャロは少し顔が赤くなっている。
タマって結構カッコいいから、仕方ないかな。でも後でからかおう。
「ニンショウさん。良かったんですか?」
「タマチ君に男の覚悟を感じました。それは商売人として、十分信頼できるものだと感じただけですよ」
両親に見送られ、パーティに臨時でタマを追加した私達は、一路ルーベン村へと進むのだった。
お疲れ様でした。
楽しんで貰えたなら幸いです。




