エピソード034 私達、護衛クエストを受けます3
戦闘シーンなのに割とアッサリです。いやぁ、怖い……強いですねぇ。勇者との戦闘経験は生きてますよ()
私は馬車内に残すニンショウらに防御魔法をかけた。
「お二人に防御魔法をかけましたが、ここは地面と直に接していないので私の魔法では効果が半減されます。絶対に馬車から出てこないでくださいね」
私は2人にそう言い含めると、アーシアを見張りとしてここに残すことに決めた。
「アーシア、お二人の近くで周囲を警戒しておいて。もし他に馬車に接近しようとしている人がいれば大声を上げて教えてね。防御魔法は必要?」
「私を誰だと思ってるの? 残りのMPはいざという時のために残すものだよ!ここは任されたから、ルシアちゃんも気をつけてね!」
私はアーシアの言に頷くと馬車から飛び降り、急いでシャロ達の陣形に加わった。
正面を見ると敵の姿は目視できる所まで迫っていた。
「【アース・プロテクト】」
呪文を唱えると、シャロ達に見慣れた薄い膜が張られた。
これで物理防御は万全だ。
「人だよね? 誰かわかる?」
「さぁ? でも遠目で見た感じ盗賊っぽくないね。装備が整いすぎてる。たぶん……冒険者」
【探索者】のスキルで強化した視力で状況を確認したローラが即座に彼らの正体を冒険者だと看破した。
それにしても、なんで冒険者が私達が護衛する馬車を襲うんだろう?
「「先に矢・魔法撃っちゃう?」」
「勘違いだったらどうするのよ! 一旦あたしが話しかけてみるからその後に対応お願い」
先走ろうと逸る私達にシャロは一喝し、いちおうの対話姿勢を見せる。
私とローラはリーダーのシャロに対応を一任し、すぐにでも戦闘に移れるよう、ローラは弓に矢をつがえ、私は皆の前に出て盾を右腕に装備した。
「あんた達、この馬車が『フォー・リーフ』の護衛対象と知って近づいてきてるの? それ以上近づく場合は攻撃の意思ありとして戦闘を開始するわ。返答は如何に!」
シャロが大声で襲撃者達に話しかけると、次々に下馬して各々が武器を構えだした。
アーシアが言ったとおり、馬が5頭。乗っていた人数は5人だ。
見た目から前衛4の魔法使い1、かな? 魔法を使う人がいるのは嫌だなあぁ。
「冒険者パーティ『血塗れの髑髏』のリーダー、Cランクのゾゾだ。その馬車に乗っている男女に用がある。大人しく引き渡せばお嬢ちゃん達には手を出さないと誓おうじゃないか」
下卑た面で大剣を肩で担いでいる、ゾゾという男。
手を出さないと言いつつ、私達……というか主にローラの胸をじっと視線を注いで舌なめずりをしている。そんな様子じゃさっきの言葉に何の説得力も感じられない。
それに……ピリリとひりつく殺気を一つも隠していない。私達はゾゾの態度を受けて顔を見合わせた。
「女の敵ね!」
「もっとイケメンなら考えるフリ位はした」
「そもそも護衛対象を売る提案なんて論外です」
私達は満場一致で戦闘に突入する。
まずパーティ内で最も足の速いシャロが駆け出し、ゾゾの後ろにいたニヤケ面だった歯抜けの剣士との距離を瞬時に詰める。
「げっ!? クソッタレ!」
「はぁっ!!」
接近するシャロに慌てた剣士の雑な一撃をひらりと躱し、シャロの裂帛した一閃が剣士の脚の腱をスパッと切り裂く。
力が入らず崩れ落ちた剣士を尻目に、シャロは魔法使いに肉薄するべく大地を蹴る。
「くそっ! 【ファイアー・ボール】」
「【ファイアー・ボール】」
敵の魔法使いの魔法を自分の放つ魔法で相殺させながら、少しも速度を落とさないシャロ。
慌てて2発目を放とうとした魔法使いの眼前には、既にシャロが振り切ったショートソードの腹が迫っていた。
シャロに続くのは私だ。私のSPDは実質1なのでシャロのように速く動くことは出来ない。
しかしながらそれは大した問題にはならない。
今の私のパーティでの役割は壁役および囮だ。
シャロの前に立てないなら、敵を彼女に近寄らせなければいいんだ。
「【ストーン・バレット改 クイック】 X 2」
私達に遅れて『血塗れの髑髏』の面々が動き出そうとしているが遅い。
私はシャロから敵の注意を逸らす為に、厄介そうなゾゾとその横の斧持ちの男に素早く小石を連投する。放たれた石礫は彼らの肩や顔面付近に命中し、わずかにダメージを与えた。
投球速度重視だから威力は高々知れているが、それでも私に注意が向けばそれでいい。
「シュート」
ちゃんと私の意図を悟ったローラが、対処できなかった残りの前衛めがけて矢を放つ。
ヒィンッと風を切る音が聞こえたときには、矢は見事太ももに突き刺さり、男は痛みにもんどり打って倒れ伏した。すぐに立ち上がろうとするが、ローラが鏃に仕込んだ即効性の神経麻痺毒がそれを許さない。
私は彼女達の活躍を横目で見つつ、石を放った2人にさらに口撃を仕掛けた。
「雑魚ですね。あなた達なんて私一人でも充分です。何が『血塗れの髑髏』ですか? もしかして自分達がすぐに骸になりますよ、って言う自虐ネタですか?」
「「クソがッ!殺してやる!」」
安い挑発にしっかり乗ってくれたね。
後はシャロとローラが合流するまで時間稼ぎをするだけだ。
「小娘が! 折角ゾゾ様が優しく可愛がってやろうと思ってたのによぉ!」
「あなた、ゲス勇者とおんなじこと言ってますよ!」
嫌な記憶が思い出されて、私は思わず鳥肌が立った。
さっさと終わらせよう。
私は盾を構え、激昂して攻撃を仕掛けてくる2人を迎え撃った。
斧男が振り下ろした大斧を盾で受け流し、振り抜いて体勢が崩れた足に回し蹴りを放って仰向けに地面に転がした。
男は岩で頭を打ったらしくゴロゴロとのたうち回っている。
次に襲ってきたゾゾの横薙ぎの強烈な大剣の一撃を盾で受け止める。
衝撃で浮きそうになる盾を無理やり押し留めて力を逸らしながら、私は左手に瞬時に顕現させた【農耕祭具殿・円匙】でゾゾの急所を的確に狙い突く。
私の容赦ない急所攻撃に慌てたゾゾは、無理やり身体を反らしながら私と距離を置いた。
離れたゾゾを放っておいて、私は持っていた円匙を地面に転がっている男に無造作に投擲した。
投擲スキルにより軌道が補正された円匙は、私の狙い通り斧男の急所をサクッと潰す。
盛ったオス共を鎮めるにはやっぱり去勢が一番だよね。
男は斧を放り捨て、声にならない悲鳴を上げている。
大丈夫、運が良ければ神聖魔法の使い手が治してくれるよ……たぶん。
私は投擲した円匙を一旦消し、再度自分の手元に顕現させる。
これが私の武具【農耕祭具殿】のオトクな機能。わざわざ取りに行かなくても出し入れが自由なのだ。
「なんて的確でエゲツない攻撃なんだ!? お前ホントに女かよ」
ゾゾが斧男の結末に共感してしまったのか、少し前かがみになって私に吠えてきた。
前世は男でしたが何か?
そこが男の一番の弱点だってことは私が身を持って知っているんだよ。
正直、多少斬られようが怪我しようが頑張れば動けるけど、あの急所はそうはいかない。
少し何かがぶつかるだけでももんどり打ってしばらく戦闘不能になるレベルだよね、知ってるよ?
私はニヤリと笑って、武具を【農耕祭具殿・鋤】に変化させる。
オールのような平鋤を両手で持ち、ゾゾの前で器用にトワリングし、突きの姿勢で構えた。
「安心してください。サクッと潰します」
「何を安心しろって言うんだ!?」
ゾゾは私から距離を取ろうとジリジリと後ずさる。
そんなにのんびりしてて大丈夫なのかな。
私の役目はあなたを引き止めることですよ?
「お、お前ら! 誰かこっちを……!!」
ゾゾは後ろを振り向いて残った仲間がいないかを確認し、その瞬間誰も助けに来ないのを悟った。
なぜならゾゾを囲む私達3人の包囲網がいつの間にか完成していたからだ。
「わ、わかった! 降参だ! 許してくれ!!」
ゾゾは大剣を手放し、土下座スタイルで私達に許しを請うた。
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「ルシアって、可愛い顔してやること結構エグいわね」
「そうかな? 最も効率的な戦闘方法だと思うんだけど……」
私は男達が暴れないようにロープで縛りながらシャロの呟きに答えた。
ゾゾ以外はほとんど使い物にならない状態になっていた。
2人はシャロに脚の腱を切られ、歩く事もままならない。ローラに射抜かれた2人は全身麻痺で動けない。私にやられた1人は内股気味に気絶している。
ゾゾにも暴れられては敵わないので、『劇薬目覚まし玉』を少し千切って鼻の中に押し込んでいる。
過去にオークをも苦しめた逸品だ。ゾゾは全身から色々な汁を垂れ流して気絶した。
目覚まし玉なのに気絶してしまうとはこれ如何に。
「私はルッシーを怒らせないようにしようと心に決めた」
「右に同じね」
なんか、襲ってきたのはゾゾ達なのに私が恐れられている気がするのは何故なんだろう。
とりあえず、ゾゾ達が襲ってきたのはしょうもない理由だった。
コイツらは王都からスタージュまでニンショウを護衛してきたパーティらしい。
つまり、ただの逆恨みだ。
ちなみにアグネスに不埒なマネをしようとしたのは、脚の腱を斬られた剣士のやつらしい。
ついでに急所を潰しておこうかと思ったが、流石にやりすぎだと皆に止められた。
皆優しいなぁ。
「それで、この人達どうします?」
「スタージュの街に一旦戻りましょう。幸い今朝は早く出立しましたから今から行って戻ってきても少しは進むことが出来ると思います」
ニンショウがそういうので私達は一旦スタージュの街へ引き返し、街の守衛に事情を説明してゾゾ達を引き渡した。
馬車に載せるスペースが無かったので、板で簡易的なソリを作り、それに括りつけて引き摺ったから皆ボロ切れの様になっていた。
全く、無駄な時間を使わされた。
今から進むとなると、暗くなる前に野宿するか、もしくは少し無理してボルカ村まで行くかの2択になりそうだ。
移動しながら話し合いをした結果、少し無理をしてボルカ村まで行くことにした。
戦闘もこなしたし、野宿をするよりは安全な村の中で体を休めたい、という意見が採用されたからだ。
何故か往復することになってしまった街道をひた走り、私達がボルカ村に到着したのは夕暮れ時だった。
お疲れ様でした。
いつも貴重なお時間を頂いて読んでもらい、とても感謝です。
楽しんでもらえるよう、そして何より、私自身が楽しんで書いていきますね。




