エピソード033 私達、護衛クエストを受けます2
さあ、護衛クエストの開始です!
翌日。
日が昇り始めた早朝の時間にも拘わらず、スタージュの正門前には『フォー・リーフ』の3名+アーシアとニンショウ夫妻が馬車でスタンバイしていた。
「おはようございます、ニンショウさん」
「おはよう、ルシアさん。今日から宜しくお願いします」
私達は挨拶を交わすと、早速配置の確認を行った。
ギルドから馬を2頭借りたので、3名の内2名が馬で追従し、1名+アーシアが馬車内でアグネスの世話係兼話し相手となることになっている。
事前に宿で話し合いをした結果、1日目は私とアーシアが世話係だ。
ホントはお尻が痛くなるので馬車は苦手なのだが、それを言う前に2人に押し込まれてしまった。
……2人共、馬車苦手なんだね?
「それじゃ、ルシア。お役目きっちり果たしなさいよ」
「頑張れルッシー」
「シャロとローラこそ何かあったらちゃんと合図するのよ?」
「私がいるの! 大船に乗った気でいなさい!」
2人ともあからさまにホッとした顔をするんじゃないよ。明日はどっちかと交代なんだからね。
そしてアーシアは今日も元気だ。
とは言え、アーシアの索敵能力は貴重なので、今回はしっかり頼ることにする。
「では出発しましょう」
ニンショウは御者台に座り、馬の手綱を引いた。
依頼人本人が御者をするのかと私は驚いたが、今回は所謂帰省のようなものらしく、行商ならともかく個人的な用事の際には自分が引く事にしているのだ、とニンショウから聞いた。
正門が開くのを待っていた人達は何組かいたが、特に揉めることもなく私達はスタージュの街から出立した。
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スタージュを出発して1時間ほど。
やっぱりお尻が痛くなってきた。
だから馬車は苦手なんだ。こういうことならクッションになりそうなものでも買っておくべきだった。
ちなみにアーシアは、最初は馬車の窓から顔を出してはしゃいでいたが、馬車酔いをしたらしく今は席に丸まってウンウン唸っている。
私は薬袋から自作の酔い止めを取り出し、飲ませておいた。
馬車酔いしやすいなら最初から言っておいて欲しかった。前世の薬みたいに即効性は無いからしばらくしないと効果が現れ始めないのだ。
私はお尻をもぞもぞと動かしつつ、同席しているアグネスの事を見た。
妊娠した女性が王都から一週間以上長旅をして身体に悪影響は無いのだろうか。
私は前世は男だったので、その辺に関しては疎くてよくわからないが、健康な私ですら大変なのだからすでにスタージュの街まで揺られてきたんだ。絶対疲れは溜まってそうだ。
私は同じく薬袋の中身をゴソゴソと漁り、葛○湯もどき――鑑定スキルを使用して乾燥させた葛根や生姜をベースとした薬草を調合したもの――を包んだ薬包を取り出し、アグネスに渡した。
「これは?」
「栄養剤です。厳密には身体の免疫力を引き上げるものなのですが、疲れている時に飲むと身体がポカポカして少し元気になれます。天然成分で鑑定スキルでも確認しましたので、妊婦の身体にも悪影響は少ないと思います」
私は、薬包から少しつまんで口にしてみせ、毒物でないことを示す。
アグネスは少し悩んだようだが、薬包を広げ、薬を口に流し込んだ。
「ちょっと苦いかもしれませんが、いきなり飲み込まず、唾液で少し溶かしてから飲んでみてください。お水もお渡ししますね」
アグネスは苦味に少しだけ顔を歪ませながらも薬を嚥下し、渡された水で口を濯いで飲み込んだ。
「ありがとうございます。本当に少し身体が温かくなって気力が湧いてきました。流石に疲れていたのでとてもありがたいです」
「それは良かったです。多用するのは良くないので明日またお渡ししますね。旅の間くらいの分は余分に所持してますので」
私は薬袋を腰元に戻し、またお尻をもぞもぞと動かす。
何か別の事に集中しないとお尻の痛みの事ばかり考えそうだ。
「あの、ルシアさん。折角の機会なので改めて感謝の言葉を伝えさせてください。2年前、夫の事を助けて貰って本当にありがとうございました」
アグネスが私に頭を下げた。
もう何度感謝されたかわからない。
あの勇者そんなにヤバい取引を持ちかけてたのだろうか。
「……わかりました。感謝はちゃんと受け取りましたから。これ以上はもうお止めください。私が困ってしまいます」
「はい。ですが、あの時ルシアさん達が仲裁して下さらなかったら、私共はおそらく今でも商人を続けられていたかわかりません。その感謝の気持ちは常に持ち続けていることだけ、分かっていただければと」
「……あれってそんなにヤバい取引だったんですか?」
アグネスは当時のことを語った。
勇者グレンが取引を持ちかけていたのは、パンドラム王国の元公爵の土地の権利に関することだったらしい。
本来、爵位持ちはその爵位を何らかの理由で剥奪された場合は、所有していた土地を国に返還する必要がある。そのため、土地を担保にすることは原則禁止されている。
しかしながら、元公爵は法の隙間を縫ってニンショウに土地を担保に金の工面をさせていた。
いざ元公爵が姿をくらました際に困ったのはニンショウだ。
土地は国に返還しないといけないのにお金は戻ってこない。損切りで土地をタダで返還する手も考えたが、契約魔法の証文により、一定の金額でないと土地の利用権が譲渡できないようになっていた。
困ったニンショウは国と相談してお金を準備してもらい、土地の返還する契約を結んでいた。そこに勝手に乱入してしまったのがグレンだった、というわけだ。
「商人の最も大事な品物は『信用』です。国と契約までしたのに他の者に横から騙し取られるなんて信用はガタ落ちです。もしも勇者様に押し切られていたら『悪徳で契約を守らない商人』として噂が立ち、その後の商売は成り立たなかったでしょう」
「話を聞いた限りでは、ニンショウさんも随分綱渡りな契約を元公爵とやらと結んでいたようですけどね」
「色々事情があったにせよ、そのことに関しては申し開きもありません。夫も深く反省したようで、以降は怪しい取引には手を出していないようです」
まぁ、結果丸く収まったんなら私としてはそれでいいかな。
別に私は法律に詳しいわけじゃないし、あれこれ詮索して裁きを下すような気もない。
普通が一番だよね。
「なら話はこれでおしまいです。もし恩を感じてるなら私が欲しい物があった時にお友達価格で勉強してくれれば嬉しいです。あ、珍しい鉱石とか手に入ったら取っておいて貰えれば私凄く喜びます」
「フフフ。夫に伝えておきますね」
私とアグネスはクスクスと笑い、その後出産の予定や王都の様子、流行についての話で盛り上がった。
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「……ルッシー、楽しそう」
「依頼人の奥方と談笑してるなら良い事じゃない。それよりも仕事中なんだからちゃんと周囲の警戒はしてよね」
シャロとローラは馬車の窓から覗くルシアの楽しそうな様子を横目に馬車の護衛を務めていた。
街道はルシアが言っていたように魔物も少なく、今の所極めて平和だ。
だが、長く冒険者をやっていると虫の知らせと言うか勘のようなものが働くことがある。
その勘はおおよその場合冒険者の命を助けるものだ。
シャロは得体のしれない感覚を街道に出た瞬間からずっと感じており、気を張っていた。
ローラにも索敵を頼んでみたが、特に気になることはないらしい。
あたしの気のしすぎなのだろうか。
シャロは心の中で密かに首をかしげるが、それでも今まで警戒を怠らなかった。
そしてそれが間違いでなかったことはローラと馬車から聞こえてきたアーシアの警告の声で分かった。
「シャロ! 右側から馬に乗った奴らが近づいてくる!」
「シャロちゃん! 進行方向右側から馬の蹄がこちらに近づいてくる! 最低5頭はいる!」
ニンショウは騒ぎを察知し、シャロ達が対応しやすいように馬車を止めた。
シャロとローラは襲撃側に陣形を取り、敵を待ち構える。
馬車の中ではルシアがニンショウを呼び込み、アグネスと2人に防御魔法をかけている所だった。
「距離200!」
アーシアが馬車の中から叫んだ。
敵はもう、目視で確認できる所まで迫っていた。
お疲れ様でした。
楽しんでもらえたらなら幸いです。
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