エピソード間話 アーシア、行きます!
本筋から離れたサブストーリーって結構好きです。
私は下位農耕神アーシア。
まだまだ未熟だけど、(自称)将来有望な上位神候補よ。昨日まで神界の偉い所で死後の魂の来世にいざなう面接官をやっていたわ。
でも、体調不良で早退しようとしていたところを課長に引き留められたことで大きく人生、いや神生が変わってしまった。
なんでも私が5年前に担当した人の子にトラブルが発生したみたい。その名は水地武くん。
いくら優秀な私でも担当した子らをすべて覚えていられるわけないけど、彼は少し特殊だったからしっかり覚えているわ。
彼の人柄が良いのは面接している間にすぐわかったわ。あの頃、睡眠不足が続いて心がささくれ立っていたから、ずいぶんと気持ちが安らいだものよ。
これだけでも私の印象にはよく残っていたけれど、彼に関してはもう一つ特別に記憶に残りやすかった理由があるわ。
彼は、自分が死んだことに関して全く理解できていなかった。まぁ、それはよくあることなので特別不思議ではないけれど、人の子が死んだ歳に発行される死亡証明書には珍しく死亡理由が書かれていなかったの。
私はここで疑問に思って上司に報告したらよかったのだけれど、下の者のミスだと判断して、空欄を埋めてしまったのよ。
これに関しては完全に私の落ち度だわ。
昨日の課長の言では、偶然が重なって生きたまま死後の世界に来てしまったらしい。
そんなの想定できるわけないじゃない!
さらに、彼にはその後色々とトラブルが重なった結果、本来は『地球』の『日本』に『前世の記憶を消去した状態』で転生されるはずだったのに、なぜか『異世界』の『片田舎』に『前世の記憶を残した状態』で『女の子』として転生したらしい。
そんなの想定できたら下っ端神なんかやっていないわよ!!
とりあえず、課長の計らいで何とか私の神格の剥奪(これをされると私は神様ではなくなってしまう)は免除になったが、残念ながら左遷は免れないらしい。
とても落ち込んだけれど、左遷先は彼が転生した世界でルシアちゃん(彼の転生した姿)を手助けするって内容だった。
任せて!ルシアちゃん!
こんな偶然に翻弄される貴女を私はすべてを賭して救いたい!
なんだったら、異世界で偉業を成して神格を得て神様になったらいいのよ!
そう思い立ち、課長の言葉を最後まで聞かずに飛び出してしまったわ。でも、重要なことは聞き終えていたし問題ないでしょう。
あの時、何か後ろから叫び声が聞こえてきたけど、たぶん気のせいよね。
「見えたわ!あれがルシアちゃんが待つ世界ね!!」
世界と世界の境目には外界からの異物を阻む壁があり、そこを越える際には行く先の世界の神々に連絡を取るのが本来の手順。
だがしかし!!
「私は急いでルシアちゃんのもとに行かなければいけないのよ!私の行く手を遮る邪魔な壁なんてぇ、ぶち壊すッ!!」
アーシアは、神の力の源である神気の大半を右拳に収束させ、全力で壁を殴りつけた。
すると、甲高い軋むような音がしたかと思うと世界の壁の一部があっさりと砕けちった。
なんだ、結構簡単じゃない。
「アーシア、行きます!」
その勢いのまま、私は全身に神気を纏い、まるで流星のようにルシアちゃんの待つ世界に降りて行った。
世界の壁の近くで焦った誰かの声が聞こえた気がするけど、まぁ気のせいよ!
お疲れ様でした。
楽しんでもらえたらなら幸いです。