エピソード032 私達、護衛クエストを受けます1
護衛クエストって定番ですよね。依頼人は久々のあの人が登場です。
え、誰って?名前も出してなかったから仕方ないね。
シャロ、ローラとパーティを組んでから約1ヶ月。
私達はもはや行きつけとなった冒険者ギルド内の酒場で寛いでいた。
テーブルには私達3人の他にアーシアも座っていた。
ローラはアーシアのほっぺを指でぷにぷにしている。触り心地が気に入っているらしい。
アーシアも飲み物が飲めないと嫌がりながらも、満更ではない様子だ。
端から見ると酒場で幼女と戯れる3人の少女の図にしか見えない。凄く場違いだ。
あの後、【聖環・地】の事やアーシアの事を話すと2人共怪しむどころかすぐに納得してくれた。
よく考えれば、オークや勇者との戦闘を経験している私がただDEFが高いだけ、なんて思うわけないか。
私のマイナスの加護が自分のおかげだとアーシア本人が堂々と話している際は、2人共私の方を見て気の毒そうな顔をしていた。そこは憐れに思われちゃうんだ……。
「それにしても、ルシアがパーティに加入してから戦闘が一気に楽になったわね。武具も最初は奇妙で驚いたけど、結構戦闘にも使えるしね」
「魔物の攻撃を必要以上に恐れなくていいのは大きい」
「ルシアちゃんはやれば出来る子だからねっ!」
「えへへ」
私は皆の言葉に頬を緩める。褒められて悪い気はしないよね。
アーシアのは褒めているのかちょっとギリギリのラインだけど。
私の戦闘方法は数年前から全く変わっていない。
自分の身体や盾を使いながら敵の攻撃を完封し、隙を作って仲間に倒してもらう。
魔物との距離があれば【ストーン・バレット改】で攻撃する。最近は前衛で動くことが多いので、思いっきり投げるのではなく、小石を爪弾きして放つ投擲方法を多用している。
仲間が手一杯な時には片手持ち出来る【農耕祭具殿・円匙】で一応攻撃にも参加する。
鎌が戦闘に使えれば良いんだけど、なぜか魔物や人相手だと斬れなくなっちゃうんだよね。微妙にシビアだ。
そして危機的状況には【アース・プロテクト】で仲間の防御を引き上げる。
一人で無双するには能力的に厳しいものがあるが、サポートとしては充分役に立てている……と私は思ってる。
「アーシアも戦闘能力は皆無だけど、索敵能力は一流ね」
「私の索敵能力よりも優秀。ちょっと悔しい」
「ふふん! 私は神様だもの。それくらい当たり前だよ!」
ローラの『探索者』スキルで使える索敵能力は知覚向上に由来するもので、小さな音を聞き取ったり微かな匂いを感じ取ったりして実現するものだ。
しかし、森の中だと木の葉の擦れなどのノイズのせいで上手く機能しなかったり、人数なども探知するのは難しい。
一方で、アーシアの索敵能力は地面から伝わる振動をソナーのように取得するため、対象が地面に接地している限り、かなり正確に探知することが出来る。
そのため、今日受ける予定のクエスト依頼にはアーシアも参加してもらう事にしたんだ。
厳密には、アーシアは冒険者登録をしていないから、あくまで私の連れという形だけど。
待っていると一組の男女が酒場に入ってきた。
どうやら私達を探しているらしい。
その様子を見て、シャロが2人に声をかけ、こちらのテーブルに誘った。
テーブルの近くまで来た男性は私とアーシアの顔を見ると、大きな声を上げた。
「あ、あなた達は!」
「……? 何処かでお会いしましたっけ?」
「ルシアちゃん、昔王都で会った商人さんだよ。ほら、勇者と口論になってた」
「……ああっ!」
「あの節は大変お世話になりました」
男性は、私とアーシアに対して深々と頭を下げた。
別に大した事はしたつもりはないし、むしろ大変だったのはその後の話なんだよね。
ちょっと忘れかかっていたが、ここまで感謝されるとは思ってなくて、こちらが恐縮してしまう。
「あの時も気にしないで、と言ったじゃないですか。それよりもどうぞおかけください」
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「どうやらあたしの仲間とお知り合いみたいですが、一応自己紹介させてください。あたしはシャロット。『フォー・リーフ』のパーティリーダーを努めています。そして、右からローレライ、ルシア、ルシアの連れのアーシアです」
「ご丁寧にありがとう。私はニンショウ、普段は王都で宝飾店を中心に商いをしています。彼女はアグネス、私の妻です」
なるほど。商人の名前はニンショウというのか。約2年ぶりの事実だ。
そして、えらく美人なお嫁さんだなぁ。
ゆったりとしたマタニティドレスのような服を着ている。もしかして妊娠しているのかな。
仲睦まじそうに寄り添い、所作からニンショウはアグネスのことをとても気にかけているのがわかる。
「今回ギルド経由で護衛の依頼と伺いました。詳細は依頼主からと言われましたので、隠し事無しでお願いします」
冒険者ギルドで受けるクエスト受領方法には大きく2種類の方法がある。
誰でも受けることの出来る掲示型と、ギルドから指名される指名型だ。
指名型のクエストの多くは凶暴な魔物の討伐や要人警護など、難易度が高いと相場が決まっているらしい。
今回は女性冒険者が多いパーティ、という条件が付けられたクエストだったので、私達がギルドから指名されたというわけだ。
ただ、依頼主からの条件次第では断る可能性も考慮している。
指名型のクエストは冒険者ギルドも事前にある程度内容を吟味してくれているらしいが、それでも掲示型よりも厄介事に巻き込まれる可能性が高い。
だから冒険者は依頼者の話からクエストを受けるか否かを真剣に決める必要があるのだ。
「分かりました。とは言っても別に危険な依頼というわけではありません。ここから南にあるレーベンという村に行きたいのです。あなた方にはその護衛をして欲しいというわけです」
ニンショウは地図を取り出すと、地図上で現在地とレーベン村のそれぞれを指し示した。
よく見ると進路の途中にボルカ村がある。
ボルカ村より更に南かぁ。結構ドラム山脈の近くだね。
「シャロ。私、ボルカ村の出身だから道中の様子は結構分かるよ。ここからだと大体馬車で3~4日くらいかな。盗賊の目撃情報も少ないし、魔物もそこまで多くないよ」
「それは心強いわね……。それよりも、ニンショウさん。今回、なぜ女性冒険者が多いパーティを指名されたのですか? そして、普段王都にいらっしゃるのなら、なぜそちらのギルド支部で募集をかけなかったのですか?」
確かに。ギルド本部はここスタージュの街にあるが、王都にもかなり大きなギルド支部がある。
そこで冒険者を集ったほうが効率的だ。
というか、王都からここまでどうやって来たのだろうか。
「女性冒険者をお願いしたのは、妻が身重で同性の方が安心出来ると私が考えたからです。王都でも募集をかけてここまで護衛してもらったのですが、その、男性冒険者の一人が妻に何度も何度も無理やり言い寄ろうとしたので、ついカッと来てその方を殴ってしまい……」
ああ、それで護衛任務の契約を切られたと。
依頼主の妻に色目使うようなお馬鹿さんを掴んじゃったのはお気の毒だ。
よく見るとニンショウの拳に包帯が巻かれていたが、そういうわけだったのか。
この街では同じ轍を踏むまいと女性冒険者をお願いしたわけか。
「……わかりました。一応話の筋は通っているので信用します。目的地への到着期限はありますか?」
「常識の範囲内で且つ安全に送ってもらえるなら、特に指定はありません」
「私達の道中の仕事内容および報酬に関してはいかがでしょう?」
「目的地までの私達の護衛です。食事は私達の方で準備させていただきます。出来れば1名は妻のもとで世話をしてくれれば有り難いですが、それは余裕がある場合のみで構いません。報酬は冒険者一人当たり小金貨6枚です」
シャロは報酬金額を聞くと首を傾げた。
「相場よりも高いですね?」
「指名料だと思ってください。……あとは恩人のパーティに少し色を付けたいと思った私の我儘です」
シャロは私達を見て、クエストを受けるかの確認を取ってきた。
私はローラに耳打ちをして今回の相場を教えてもらった。
護衛任務の相場は距離や危険度にもよるが、今回の場合だと相場は一人当たりおよそ小金貨2~3枚程度。指名料を加えたとしても小金貨4枚いけば御の字らしい。
道中の危険度も大して高くないはず。
依頼人が知り合いという甘め採点を差し置いたとしても、これは受けておくべきだろう。
私とローラは首を縦に振った。
「わかりました。『フォー・リーフ』がこの護衛クエストを引き受けます。今日はギルドへの報告や必要物資の調達に時間を使いますので、出発は明日の早朝、門が開く時間とします」
「よろしくお願いします」
ニンショウとアグネスは頭を下げて、酒場を出ていった。
「……よし!」
「これは成功させたい」
シャロとローラは依頼人がいなくなった途端、喜びのガッツポーズをとった。
もちろん私も乗り気だ。
護衛クエストは何が起きるかわからないという怖さがあるが、今回の依頼は別に危険な地域に行くわけでもなく、何なら私の地元だ。
ラクそうな仕事に喜ぶな、というのが土台無理な話だよね。
「喜ぶのは良いけど気は抜かないようにね。それじゃ私は必要な物を買い足してくるから」
「オッケー。あたしとローラはギルドに報告してくるわ。後で宿に集合よ!」
私はシャロ達と一旦別れ、アーシアを連れて必要物資の調達に向かった。
とは言っても、食事などはニンショウが準備してくれるらしいので、いざという時の携帯食や薬などを中心に購入しておく。
私は一通り揃ったのを確認すると、人気の少ない高い所に移動してアーシアからケータイを受け取った。
街に入る時に見つかると面倒な事になると思ったので、アーシアに持たせて『聖環』の中で保管してもらったのだ。
私はケータイの電源スイッチをオンにし、ソフィアを呼び出した。
たぶん暇ならば出てくれると思うんだけど。
『おお、ルシア! 元気にしとるかの?』
「はい、師匠。何とかやれてますよ。昔王都で勇者から助けた商人さんの護衛クエストを請ける事になりました。向かう先はレーベン村です」
『ほう。わしの所からも結構近いの。いつ頃到着する予定なのじゃ?』
「おそらく4日後くらいだと思います」
『なるほどの。わしの仕事も一段落したし、少し様子を見に行くとするのじゃ。ついでにレーベンの周辺も軽く確認しておくのじゃ。情報は欲しかろう?』
「ありがとうございます、師匠!」
『うむ。安全には気をつけるのじゃ。何かあったらすぐ連絡するように』
「分かってます! それでは失礼しますね」
ソフィアとの通信を終え、ケータイの電源をオフにするとアーシアにまた預かってもらった。
やっぱりソフィアは私の最高のお師匠様だなぁ。
久々に会えるのが今から楽しみだ。私の新しい友達も早く紹介したいなぁ。
私はアーシアと手をつないでウキウキとスキップしながら宿へと帰るのであった。
お疲れ様でした。
いつも貴重なお時間を頂いて読んでもらい、とても感謝です。
楽しんでもらえるよう、そして何より、私自身が楽しんで書いていきますね。




