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エピソード間話 私とソフィア、インフラを整備する

実は今後本編に影響する、地味に重要なお話だったりします。


唐突だが、インフラ、という言葉をご存知だろうか。

私も詳しくは知らないけど、要は日々の生活を支える基盤のことだ。

たとえば、水道やガス、電気、通信など、それがないと生活が成り立たないもの、を指す。


これは厳密には前世の日本での話で、実際異世界ではインフラなんて無いに等しいけど生活は成り立っている。


上下水道とか本当は欲しいけど、王都ならいざ知らず村でそんなの作れるはずがない。


作る手段という意味ならば私の武具を使えば可能かもしれないけど、何年ぶっ続けで作業しないといけないのって話。

上下水道を掘ってる暇があったら畑を耕すほうが随分生産的だと私は思う。


しかし今、私とソフィアはインフラの1つである『通信』を整備しようとしていた。

厳密には国家レベルでは通信設備は既に存在するが、有線で固定式のため、使い勝手がイマイチの代物らしい。


私達が目指すのは、無線で携帯できるレベルにまで小型化した端末だ。


作る理由は簡単。

緊急時の連絡手段の確保と、単純な探究心だ。


私達は王都に向かう馬車の中で色々考えた、携帯型通信魔道具、および通信距離を稼ぐための中継施設の作成を始めた。


「携帯型通信魔道具に関しては実はほぼ完成してるのじゃ」


数日村からいなくなったソフィアは、2つの小さな箱を持って村にとんぼ返りしていた。

ソフィアから渡された魔道具のサンプルは、トランシーバーのような見た目をしていた。

具体的には小さな箱にスピーカー用の穴があいており、アンテナ代わりのものがくっついている。


プッシュボタンや通信帯域を切り替えるためのツマミの類はなく、オンオフスイッチが付いているシンプルなものだ。

その割りには重たい。

片手で持っていたら少し疲れるくらいだ。


少し離れて試してみると、たしかに私の知ってるトランシーバーよりは音声の再現性は低いが、ちゃんと言ってることは理解できる。

携帯型通信魔道具に関してはとりあえずはこれでいいと思う。

見た目の無骨さに関しては、今後何とかしよう。


それ以前に決めておくことがある。


「師匠、この魔道具にもっと簡単な名前つけません? 毎回、『携帯型通信魔道具』って呼ぶのはちょっと長いです」

「そうじゃのう……」

「縮めて『ケータイ』ってどうですか?」


私の前世でそう呼ばれていた携帯電話と似たような機能だからね。

最も、既に『スマホ』っていう呼び名に変わってたけど。


「『ケータイ』……変な略し方じゃが意外としっくりくるのじゃ。それでいくかの」

「はい! 」


よし。これでこの異世界にケータイ(もどき)が誕生したよ。

私も異世界転生者らしい役目果たせたんじゃない? 最も、勇者グレンがスマホ持ってたから2番煎じなんだけど。

あれって今でも電話としての機能は使えるのかな?


「それにしても、どうやってケーブルなしに通信用の魔素の拡散を防止しているんですか?」

「詳しくは秘密じゃが、ケータイの中に信号圧縮して射出する機構を搭載して、指向性を高めておるのじゃ」


秘密と言っていたのにソフィアは誰かに聞いてほしかったのか、私にケータイの通信技術について長々と講釈を垂れ流し始めた。


途中難しくてよくわからなかったが、要は音声を魔素内で再現できる信号に変換した後、それを無圧縮で魔素中で伝播させるのではなく、送り先の魔石をビーコンにしてその方向に圧縮した信号を不可視のビーム状にして発射している。

この方法なら、遮蔽物がなければ数キロ先までは可読性は失われないらしい。


師匠はこの技術を『魔素ビーム』と呼んでいた。技術は凄いと思うけど途端にチープさが漂うものになった気がする。


デメリットとしては、魔素ビームには透過性がないので、端末と端末を繋ぐ直線状に壁などの遮蔽物があると、拡散して先には届かないことだ。


これを防止するためにアンテナを造り受信強度を高め、さらに壁に遮られないように使用者の十数メートル上空を起点として魔素ビームを射出する、というシステムにしたらしい。

ほとんど気休めにしかならないらしいけど。


「では、今からする作業としては中継地点用の施設の設計ですね」

「うむ。お主が考えてくれたスライム活用型が良いと思うのじゃ」


ところで。

異世界のインフラ整備では、心臓部にとある生物を使用することが多い。


スライムだ。


特に下水施設を作る場合にはスライムはとても有用だ。

なぜならスライムは雑食性で、汚物を食べて分解することが可能だからだ。

例えば下水用の水路を掘って、その溜まり場にスライムを放っておけば一人でに汚れを食べて綺麗な水にろ過してくれる。

伊達に世界の自浄作用と呼ばれるわけではない。


そして、スライムにはもう一つ面白い特徴がある。

スライムは魔物に分類されるが、本来魔物が持つ魔石を体内に保持していない。


いや、この言い方は正しくない。

厳密にはスライムの身体自体が魔石なのだ。

つまり、生きる流体魔石と言えばいいだろうか。


本来、魔石の加工は難易度が高く、傷つけると簡単に砕けてしまう。

それに比べてスライムは、例えば箱に押し込むと勝手に形状が変わってくれる。


さらに、魔石は魔力を貯蔵する性質があるが、魔力は使用するとなくなってしまう。充電池のように切れると補充をしないといけないのだ。


これは常備している道具ならば問題ないが、私達が今回作成しようとしている設置型の施設には都合が悪い。

魔石内の魔素が切れたら、充電するために整備するのは面倒だ。


そこで『スライム活用型』の施設案に辿り着いた。

スライムは生きた魔石そのものなので、餌さえ補充しておけば勝手に魔素を取り込み、魔力に変換して補充してくれるのだ。


問題はどうやって餌を自動的に補充する機構を作るかだけど、前世の某ゾンビ物の作品で見たガラガラとゾンビを呼び込む装置を参考に設計してみた。


建物の形は、ケータイの信号を拾うため電波塔をイメージした。

最も、細かい所は全然違っており、塔の先端には全方向から信号を受信できるように全周型のパラボラアンテナを設置し、その下にはスライムを格納する立方体の部屋を設計した。

立方体から地面にかけては筒が繋がっており、その先端は吸気口のようになっている。


塔の周辺にはグラスラットと呼ばれる弱い魔物を誘き寄せるためのフェロモンを撒き散らす装置を作成し、近づいた魔物を『吸引』の効果がある風属性魔法で吸い込み、スライムの餌とする。


風属性魔法はソフィアが自身の魔法を特定の条件下でのみ起動するよう刻印した魔石で対応する。その魔力は勿論、スライム部屋から補充する。


誤って人や大型の魔物が取り込まれたりしないように安全装置も想定済みだ。


餌となる魔物がいなくならない限り使える半永久駆動型の施設だ。

これを考えついた時、私は天才なんじゃないかと小躍りしたほどだ。


唯一の問題点として、スライムの突然変異の可能性があった。


スライム部屋は沢山のスライムを満たすことになるので突然変異が発生する可能性が自然界に生息するスライムよりも高まるとのこと。


とは言え、スライムの変異種は世の中には掃いて捨てるほどいるらしいし、人の生活圏を脅かすほどの変異が起こったことなど皆無に等しいらしい。


なので、私は然程深く考えることなく中継基地の設置をソフィアと共にせっせと進めたのだった。


その後、人類史史上ある意味最悪の『女性キラー』として後世に長く伝えられることになるスライムの産みの親になってしまうことなど、知る由もなく。


お疲れ様でした。

楽しんでもらえたらなら幸いです。


※毎日投稿1ヶ月&第一章完で区切りが良いので、勝手ながら明日は投稿をお休みします。

のんびり他の人の作品を読むんだぁ。

次話は7/5に投稿しますね。

新たに始まるルシアの冒険譚をお楽しみに!


この際に、ここ迄の評価やご感想頂けましたら画面の向こうで喜びます!

とか珍しく宣伝しておきます笑

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