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エピソード003 私、なぜか異世界転生しちゃったらしいよ

名称決めるのホント苦手です……

 

 初めて意識が芽生えたのは、胎内にいた頃だと思う。とは言ってもそれは明確なものではなく、シナプスが形成され、ニューロンの信号が行き来しだしたほんの数瞬のことだった。


 スイッチが一瞬だけ入った感覚。

 全身を温かい何かで包まれていて、トクリ、トクリと鼓動を感じた。それを聞くと何故か安心して、意識はまた闇に溶けていった。


 次に意識が覚醒したのは、たぶん俺が産まれた時だ。

 今まで感じた事のない膨大な感覚がドッと押し寄せ、それが例えようもなく怖くて大泣きした。

 それでもハッキリとは見えないが、俺の誕生を喜んでくれている優しい感覚を側に感じて、それに答えるかのように俺は産声を上げた。


 しばらくは意識が明滅するのを繰り返し、俺がこの世界で完全な自我を掴んだのは3歳になった時だった。


「(私は……私の名前はルシア。そして、俺の前世の名は、水地武だ)」



 なんてこったい。



 前世の記憶残ってるよお姉さぁーん!!!


 しかも今世女の子になっちゃってるよお姉さぁーん!!!


 記憶引き継がないから性別どっちでも良いって言ったのにぃぃ!!!


 解離性同一性障害になっちゃうよぉぉ!!!



「(しかも……周囲の情報を仕入れた感じでは……)」


「ふぇぇーん、ママー。パパがー」

「あらあらルシア。パパは王都にお野菜を売りにいくのよ。良い子でママと一緒にお留守番しましょうね」

「そうだぞルシア。帰りにルシアの好きな果物を買ってきてやるからな。良い子でママのお手伝いしてくれなー」

「うぅ……あい。いいこ。はぁくね、パパ」

「うぉおおおー、ルシアは可愛いなぁ!パパ絶対すぐ帰ってくるから!」

「あなた、急いで怪我しないで下さいね。うちには治癒の魔法なんかかける余裕は無いんですよ」

「ああ、勿論だ!お前たちを置いて俺が死ぬわけには行かん。無事に帰ってくるよ」


「(ここたぶん地球じゃなーい!!!)」



 まず確実に日本じゃない。



 私……俺……あぁややこしい。もう前世の俺は居ないんだから私に統一しよう。私の名前がルシアでしかもファミリーネームがないっぽい。父親が野菜を売りにいく事から、たぶん私の家は農民……平民……百姓? まぁ、そんな感じだ。


 父親は王都に行くって言っていた。他にも会話を聞いていると、私が住んでいる国の名はパンドラムというらしい。知らない国だ。



 極め付けは治癒の魔法……。

 地球に魔法はない。仮に私が知らなかっただけであったとしてもこんな日常会話の中で出てくるようなものじゃない。



 総合すると……。


「(ここ異世界だぁー!!!異世界転生しちゃってるじゃんお姉さんのばかぁー!!!)」


 ルシアはまだ3歳。

 まだ上手に話せない代わりに心の中で叫びまくるのだった。仮に喋れたとしてもこんな内容誰にも話せないけれど。


 -----◆-----◇-----◆-----


 一方、死後の世界転生案内部面接室(仮)では……。


「俺は転生したら女の子の服になりたいでふ。そして俺の愛で女の子を包み込むのでふ、グフフ」

「焼却」

「ぶふぇえええやええー!!」


「俺は……」

「あなたは犯罪歴が山ほど溜まっています。その罪を償うまでは転生できません」

「ぐえええええええー」


 今日も今日とて死後の世界転生案内部面接室の一角ではアーシアがふざけた死後の魂を焼却しているのであった。


「はぁぁぁ、頭痛い。無駄な時間だった。なんで今日は変な人ばっかり当たるかなぁ。絶対厄日だ……。早く帰って神ドリンク飲んで寝よう……」


 いつも以上の惨状にゲンナリしつつ、早退届を出す為に上司のデスクに向かった。


「課長、私気分悪いので今日は早退します。今日の最低ノルマの人数はこなしましたので、もし追加がある場合は空いてる係りの者に回すか明日に日程変更しておいて下さい。それでは……」


「ちょっと待ちたまえ、アーシアくん。少し話がある。あっちの部屋で話そう」

「えぇ……」


 下っ端神のアーシアに拒否権はない。しかも課長がわざわざ別の部屋を用意するなんてこれは絶対面倒な案件だ。帰れそうにない。

 トボトボと課長の勧めた部屋に入り、べシャリとパイプ椅子に腰を落とした。


「なんでしょうか課長。今日はちょっと精神的に不安定なので厄介ごとは遠慮したいんですが……」


 今にも倒れそうなアーシアにこの後の展開を知る課長は少し気の毒そうな顔をしつつ、手に持った書類の内容をアーシアに伝えた。


「アーシアくん。君、5年前に受け持った人の子の魂を覚えてるかね?」


「課長、神の末端を担っている身としては恥ずかしい限りですが、流石に一人一人覚えてはいませんよ……。年間で何人の魂と対応してると思ってるんですか」


 面接室にはすごく沢山の人の子の魂がやってくるのだ。よほど特徴的な人の子でもない限り、ハッキリと覚えてるわけがない。


「ああー、えっとだな……。私が今から話そうとしてるその人の子の名前は水地武くんといったらしいんだが……」


 武の名前を聞いた途端、アーシアはキョトンとした顔になった。


「ああ! その子なら覚えてますよ! 珍しく死亡理由が空欄だったのと、面接中の対応が良かったので記憶に残ってます! なにか親しみを感じたっていうかですね! ともかく元気に今世を過ごしてるかなぁー」


 今までの疲れた顔をしていたアーシアは武のことを思い出すと懐かしさから顔をほころばせた。

 アーシアの言葉を聞いた課長はタラタラと滲み出す脂汗を神ハンドタオルで拭きつつ、要件の続きを告げる。



「あー、その件の彼なのだがね。無事今世を過ごしてるようで、えー、今世はルシアという女の子になってるらしい」



「あー、たしかに転生する性別は興味なさそうでしたね。女の子になったかー、可愛い子かなー。ルシアなんて私に似て良い響きのなま、え……。え、ルシア? あれ、彼は地球の日本で転生させるはず……あ、あんまり日本ではき、聞かない名前ですねー。ハーフの子、とかかなー……? で、ですよね、課長?」


 ルシアという名を聞いたアーシア、まさかトラブルかと思いつつも、いやいやそんな事はないと急いでかぶりを振る。



「あー……そのルシアくんは、日本で生まれていない。それどころか、地球ですらないようだ。地球とは違う異世界で転生してしまったみたいでな……」



「ヒィッ?!え、いやでも私ちゃんと所定の手続きしましたよ!」

「その手続きした書類を来世部に送る際にトラブルがあったらしくてな。混ざったらしい。あー、君も書留送付の方法を取らなかっただろう」


 アーシアは顔を真っ青にさせつつも反論した。


「書留送付は、凶悪すぎる魂や高潔な魂を持つ人の子に関する書類が、確実に届いているかを上司に報告しないといけない場合などの特殊な場合の対応じゃないですか!彼は普通の子でしたからそれを適用する必要性がありませんでした!」


「あー、うん。それはそうで……。あとな、更に悪い知らせがあって」

「あー、あー、知らない知らない、私は聞こえないんですー!」



「追加調査でな、彼、実は死んでなかったらしい。たまたまいた場所に、たまたま我々が使うような転送陣が描かれて、たまたまここに転送されたらしい。彼のいた所では神隠しにあった、ということになってる」



「ふえええー、最悪だぁー! だから死亡理由が空白だったんだぁー! これ完全に私のせいだー!? どうしましょう課長、うわーん!!」


 一応アーシアの名誉のために補足しておくが、過去にアーシアが言った通り、死後の世界にいる魂は死んでいるものと見なされており、書類の不備も低い確率では起こり得る事である。


「う、うむ。とはいえ、アーシアくんも運が悪かったといえ一応常識的な対応は取っている。なので上からはアーシアくんの神格剥奪は見合わせてもらった。ただし……」

「ただし、なんでしゅかー、ふええー」


 もう武がお姉さんと呼んでいた時の威厳なんて消え去り、ほとんど幼神化しかけのアーシアである。



「左遷だ、アーシアくん。ルシアくんの世界に出向という形で不利益を被らないよう手助けをするんだ」



「さ、左遷……」

「あくまで方便だ。それに、幸いルシアくんは前世で善行ポイントを使っていない。それを無理やり復活させて『神様が進呈されました!』とでも取り繕え。向こうの神への対応だが……」



「左遷……でもルシアちゃんの為なら……。うわーん!! ルシアちゃん待っててすぐ行く、私が貴女を立派な神様にして見せるわ!!」



 瞬時に決意を固めたのか、課長の話を聞かず電光石火で部屋を飛び出していったアーシア。


「待て待て! 何故そうなる! 暴走するな?! 絶対暴走するなよ!! お前が暴走したら今度は私、いや部署全体にまで事が及びかねん……おい! アーシアアア!!」



 この物語は、普通だと勘違いした巻き込まれ体質のルシアと、へっぽこ下っ端農耕神アーシアが紡ぐ、ちょっと不可思議で波乱万丈の冒険奇譚である……たぶん。


お疲れ様でした。

楽しんでもらえたらなら幸いです。

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