エピソード020 私、王都でエンジョイします―お買い物編―
ルシアとソフィアのお買い物です。
お風呂を心ゆくまで堪能した後は、1階の食事処で食事を取った。
私はここで驚愕の事実を知る事になる。
食事のメニューに普通にお米があったのだ。
「お米がある!」
「ほう、米を知っておったか。量は少ないがこの国の東部で栽培されている主食じゃな」
私は迷わずご飯がついているセットを注文した。
焼き魚にサラダ、スープ、ご飯と微妙に和食っぽいメニューだ。
流石にお味噌汁は無いっぽい。
しかし、ありがたいことにお箸がついている。
私は懐かしさに若干涙目になりながらもお箸を使用して食事をとった。
「おいひいですー」
このモチモチでほんのり甘い食感、日本で主食のお米と大差ありません!
転生してからお米、というか日本食に焦がれたことは特になかったが、やはり久々に食べると郷愁に似た感情を覚える。
「初めて見たのに木箸を使えるとは器用な奴じゃのう」
ソフィアは扱える者が少ない箸をルシアが普通に使えていることに若干驚きつつも、パンをちぎっては口へ運び、次々と食している。
パンも柔らかそうで、俗に言う白パンというやつだろうか。
この宿の食事はかなりレベルが高い。
それともこれが王都の標準なのだろうか。
「師匠、このお箸というのはご飯やお魚を食べるのに便利ですね。東部では昔から普通に使われているのでしょうか?」
「いや。確かこの国で召喚されたという勇者が広めたそうじゃ。使われる様になったのはここ数年の間なのじゃ」
え、転生や転移以外に勇者召喚もあるのか。
大体の異世界物の本では、勇者召喚が行われる場合、その世界に何らかの危機が迫ってたりするんだけど、私が気づいていないだけでこの世界そんなに危ないのだろうか。
巻き込まれてはたまらないので、一応探りを入れておこう。
「召喚魔法というのは聞いたことありませんでしたが、勇者様を召喚しないといけないほどこの国は危険なのでしょうか……?」
「そんなことは無いのじゃ」
ソフィアは私が危惧した国の危機を否定した。
曰く、召喚魔法は大昔に神が人々に与えた神聖魔法の一種らしく、異世界から勇者の因子を持つ者を許可制で召喚する『例外』に分類される魔法だと言う。
召喚魔法は不思議なことに書物にその方法を記録することが出来ず(無理に残そうとすると燃えてしまうらしい)、口伝でしか後世に伝えることができない。そのため、失伝しないように定期的に使用されている。
召喚魔法は膨大な魔力を消費するらしく、国が保有する魔石に少しずつ貯蔵されている魔力を使って、50年に一度しか実施せず、しかも緊急時でなければ勇者側で召喚を拒否する事も出来る中途半端な代物らしい。
数年前に召喚魔法を実施し、久々に勇者が召喚されたので王都を上げてのお祭りになったらしい。
「へぇー。召喚された勇者様はどんな方なんですか?」
「カァーカッカ! なんじゃお主。一人前に勇者を狙っておるのか?」
「違いますよっ! 単純な興味の問題です!」
「ふむ。わしも直接あったことはないが、噂によると【聖環・火】の所有者となったらしく、勇者の名に違わぬ強力な武具や見たこともない魔道具を使い、火属性魔法の使い手らしいの。ユニークな知識も多く保有しとるらしく王都の生活水準も一気に向上したようじゃ。あと、ククッ……異国情緒漂う黒髪のイケメンらしいのじゃ」
別に最後の情報はいらなかった。
しかし、やはり召喚された勇者は日本人みたいだ。
異世界召喚のテンプレのような現れ方をしてからに。うらやまけしからん。
「王に仕えとるらしいし、もしかしたら謁見の場で出会うかもしれんの」
「その時はお手柔らかにお願いしたいものです」
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食事を終えた私達は宿を出て、市場に繰り出すことにした。
大通りには様々な店が出ており、1つずつゆっくり見て回っていたら到底時間が足りない。
私はあっちへウロウロ、こっちへチョロチョロとせわしなく店を見て回り、興味深い商品をピックアップしていく。
「ルシア。あまりウロチョロすると迷子になるのじゃ」
ソフィアは見かねて私の手を握り、ウロチョロ出来ないようにした。
まるで、リードを繋がれた犬のようだ。
私、王都に来てからずっとソフィアと手をつないでいる気がする。
「何か探してるものがあるのかの?」
「家族へのお土産と考えてたんですが……」
残念ながら、お金がない。
「それくらいならわしが買ってやると言ったのじゃ、心配せんでいい。ルシアが欲しい物はないのかの?」
「石が欲しいです!」
あ、ソフィアが変な顔をした。
まずい、これだと石コレクターと勘違いされてしまう。
私は即座に訂正し、正しく言い直した。
「間違いました。珍しい石が欲しいです!」
あれ、ソフィアの顔がさらに変な顔に。
先程の自分のセリフを思い返すと、むしろ石コレクター感が増していることに気がついた。
「……ルシアや。もうちっと年頃の女の子が欲しがるようなものをじゃな」
「ち、違います! 誤解です! これは私の魔法に必要不可欠なのです!」
私は必死に弁解した。
進化した【ストーン・バレット改】の詳細には、投げる石の種類によって異なる効果が発生すると書いてあった。
なので、特殊な石を手に入れればすごい魔法となるのではないかと思ったのだ。
そう、これは魔法の探求のための調査。
決して珍しい石とか綺麗な石が欲しいなぁとか、男の子趣味なことを思ったわけでは断じてないのだ。
「一応理屈は通っとるが……。そんな魔法オタクのような思考をするなんて一体誰に似たのやら」
「師匠。ブーメランです」
だいたいソフィアの影響である。
ソフィア曰く、アクセサリに加工してるものならともかく、石単体を置いている店などここらでは滅多に無いそうなので、私達は宝石店や石の加工をしている店に寄ることにした。
最初に宝石店に寄ってみた。
一応原石も取り扱っていたが、それでもお値段は目玉が飛び出す程に高い。
一農民の私では逆立ちしたって手が出せない。ソフィアですら値札を見て少々苦々しげにしていた。
宝石もたぶん石の一種になる気がするが、流石に高すぎてポンポン気軽に投げる気分になんてなれない。
どこぞの宝石魔術の使い手ではないのだ。
尤も、あの子も随分貧乏性だったような気がするが。
次に石の加工や鍛冶をしている店に寄ってみた。
ここでは原石を売ってはいなかったので(加工が仕事なのだから当たり前だ)、店主にお願いして加工前のものや加工後のクズ石を格安で譲ってもらえないか交渉してみた。
その結果、鉄鉱石(低品質)・銅鉱石(低品質)・黄鉄鉱(屑)・石灰岩・大理石(屑)を手に入れることができた。
石灰岩は畑仕事にも使うことができるけど、流石に量が足りないかな。
加工屋からしたらほとんどゴミレベルのものに値段がついたので喜んでいた。
「ちょっと待ってろ」と店の奥に引っ込んだ店主にソフィアと顔を見合わせていたら、なにやら黒い石を片手で弄びながら店主が戻ってきた。
「これやるよ」
カウンターにゴトリと置かれる黒い石。
触って良いぞ、という仕草をされたので私はそれを持ってみる。
大きさの割に妙に重量感がある。さらに、表面に光沢がありスベスベして握りやすい。
鑑定スキルを使ってみると、どうやら隕石の欠片らしい。
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【隕石の欠片】
外から飛翔した隕石の一部。
この星にはない『メテオライト』と呼ばれる鉱石で構成されている。
厳密な成分構成は不明、加工には不向き。
重力に応じて重量や硬度などのパラメータが変化する。
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「安かったから行商人から面白半分で仕入れてみたんだがな。硬すぎてほとんど加工できないんだ。嬢ちゃん鍛冶師にでもなるのか? まぁ、石を集めてるようだし、珍しいのは確かだから持っていっていいぞ」
「ありがとうございます。遠慮なく貰いますね」
鍛冶師になるつもりは毛頭ないけどね。
私は店を出た後、ソフィアに礼を言った。
レアそうな石含めてこんなに沢山石を手に入れられた。
私はそれらを大切に腰に釣ってある小袋に詰めた。
「うむ。それで、購入した石は使えそうかの?」
「メテオライトに関しては、ちょっと面白そうなのを考えました」
私はソフィアに屈んでもらい、耳元で小さく先ほど考えた案を語ってみた。
ソフィアは訝しげな表情になった後、考え込み、怖い顔をして最終的に呆れたような顔をした。
「よくもまぁ、そんな使い方を考えられるものじゃの」
「まだ試してもないからなんとも言えませんけどね」
もし私の考えがうまくいく場合、いざという時の切り札として使える可能性がある。
「それを実現するには複合魔法の講義をせんとな。今日宿に帰ってから話をするのじゃ。間違っても一人で実践せぬように!」
「はい、師匠。王都からの帰りに一度試してみてもいいですか?」
「人がいないような所を探さんとの」
私は早くも帰りのことを楽しみにしていた。
話を終えたと思ったが、まだ何かあったのかソフィアはもぞもぞと背中の袋を漁った後、私に向き合った。
「あー、ルシアや。その、わしからお主にプレゼントがあるのじゃが……」
「さきほど沢山いただきましたが?」
「いや、それではなく。お主との付き合いを始めてからわしも随分楽しい思いをさせてもらった。せっかくじゃし、これはそのほんのお礼じゃ」
別にお礼を言われたり貰ったりするようなことしていない気がするけど。
むしろ、助けてもらってばかりだから私からプレゼントしないといけない気がする。
ソフィアの気持ちを無碍にするのも悪いので、私はソフィアが取り出した小箱の蓋を開けて中身を見た。
その中には髪留めが入っていた。
「うわぁ、可愛い!」
髪留めは金色で私の銀髪に映える色合い。
隼のような鳥が大きな翼で羽ばたくような意匠が施されており、目の部分には暗褐色の宝石がつけられている。
まさか、宝石店で何かしてたようだが、これを購入してくれていたのだろうか。
「師匠。こんな立派なもの……私」
「良いのじゃ。これは礼じゃ。遠慮せずに貰ってほしい」
私は促されるまま髪留めを装着してみた。
銀の髪に金の隼のコントラスト。
サラサラと流れる髪のおかげで、鳥が空を飛んでいるようにも見える。
「よく似合っておるよ」
「へへっ、師匠! ありがとうございます。大切にしますね!」
輝くような笑顔を受けて、ソフィアは幸せそうに微笑んだ。
お疲れ様でした。
楽しんでもらえたらなら幸いです。




