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エピソード019 私、王都でエンジョイします―お風呂編―

短いですがお風呂回です。テコ入れなんかじゃないよ!これくらいなら未成年でも大丈夫ですよね?


パンドラム王国。


ユークラテス大陸の東方に位置し、広大な平原地帯と豊富な水源によって農業が盛んであり、国内食料自給率は100%以上。

数多の種類の農作物を作成し、他国に輸出する余裕すらある。


王国の西側とはアルス聖皇国、北側とはピュアクローナ連合国と接しているがここ100年は小競り合いはあっても大きな戦争に発展したことはない。

東側には海が広がり、南側にはドラム山脈がそびえ、山脈の更に南に位置する新興オルゴルシア帝国の動きはキナ臭いが自然の防壁として機能しており、侵攻は困難を極める。


そのため、国内は非常に安定しており、王都はその姿を鏡のように見せている。



「おお……。すごいです。これが王都ですか! 人がいっぱいです!」

「そうだろう。王都パンドラは王国で最も発展した都市であり、人口は約50万。今でも増え続けているのだ」


私が素直に感心しているのを見て気を良くしたのか、ケーニッヒが心持自慢気に王都を紹介している。

それにしてもハーフミリオンレベルの都市とは正直驚いた。

私の住んでいるボルカ村を基準に考えていたから、せいぜい多くても10万人くらいの規模だったらすごい、位にしか考えていなかった。


王都は俗に言う城壁都市だったようで、通行許可を取っている間にアッシュに確認した所、王都全周を城壁が囲っており、さらにその中心に位置する、王の居城の周りも壁で囲まれているらしい。

――ちなみにアッシュは私に負けた後、ちゃんと自主的に謝罪をしに来たので既に水に流している。今では随行していた騎士の中では一番気軽に話しかけられる人物だ。


通行許可が出て城壁を通ると、大通りには市がたっており、様々な商品が所狭しと置かれ、人で賑わっていた。

私もつい冷やかしに行こうとフラリと足を進めようとしたが、先にソフィアに腕を掴まれてしまった。


「ルシアや、お主なんで王都に来たか忘れておるのではないか?」


そうでした。

私、王様と謁見するために王都に来たんだった。


「今から我々は王に事情を説明するために来城するが、謁見は流石に今日にとはいかない。王も忙しいお方だからな。君達はまずこの宿屋に行き、部屋を取りなさい。その後、予定が決まればその宿に使いを出そう」


ケーニッヒは王都の地図と手紙を懐から取り出し、私に渡した。

地図にはご丁寧に宿の場所に印が書かれている。


「わかりました。では、ここで失礼します。師匠、早速行きましょう!」

「わかったのじゃ。迷子になってくれるなよ?」


私達は騎士団分隊と一旦別れて、目的の宿屋に向かった。

その道中、私が何度も道端の行商屋台の前で立ち止まろうとするのを見かねて、今はソフィアと手をつないでいる。

端から見ると、母と子……いやソフィアの見た目は若いので、年の離れた姉と妹くらいに思われたかもしれない。

すれ違う多くの人々が私達に視線を向けるので私は少し気恥ずかしいが、ソフィアが何となく嬉しそうなのが印象的だった。



宿の前に着いた私が最初に感じたのは、ここに泊まって良いのだろうか、という疑問だった。

3階建ての赤レンガでセンスよく建てられた外観は清潔で、窓にはなんとガラスが嵌められている。

村は勿論、王都でもその多くは木窓なのに。


所謂高級宿というやつだろうか。

そこまで考えた時、私は重要なことに思い至った。


私、お金ほとんど持ってない。

うちの村は基本自給自足で、お金の概念が希薄だからすっかり忘れてしまっていた。

どうしよう。


「ほら、早く宿を取らんと買い物にもいけんのじゃ」

「あの、師匠。私、お金持ってません……」

「そんなことかの……」


ソフィアは、この宿は国営だから紹介状さえあれば無料で使用できること、自分がお金は持ってるから心配する必要がない、と説明した。


「弟子の面倒くらい、わしが見てやるのじゃ。お主の父にも頼まれたしの」


そう言って、ソフィアは私の手を握ったまま宿の扉を開いて中に入っていった。

宿の中も過度な装飾は無いが、掃除が行き届いていてなんとも好印象だ。


入るとすぐにカウンターがあり、女性が受付をしていた。


「いらっしゃいませ。紹介状はお持ちでしょうか?」

「は、はい。これです」


私はケーニッヒから渡された手紙を受付の女性に渡した。

女性は手紙の中身を確認し、注意深く見ていないと気づかないほど小さな変化ではあるが目を見開き、さり気なくソフィア、私の順に視線を移した。


「確かに承りました。手紙に部屋の指定がありましたので、鍵をお渡しします。3階奥の部屋をご使用ください」


随分と立派な鍵を渡された。

鍵の頭の部分には宝石が取り付けてある。魔石だろうか。


「部屋にはトイレや浴室もございます。使い方の説明は必要でしょうか?」

「いや、わしが知っておるので大丈夫じゃ。この子にも教えるので手間は要らぬよ」

「承知しました。では、食事はここ1階奥に食事処がございますのでご利用くださいませ。もし一時的に宿を出られる場合は、恐れ入りますがカウンターで鍵を預けていただきます。それでは、ごゆっくりおくつろぎくださいませ」


私はソフィアに背を押されるようにカウンターから離れ、3階へ登るための階段へ向かった。

後ろから心なしか視線を感じるような気がするが、気のせいだろう。



3階には部屋が3つしかなかった。

受付の女性は奥の部屋だと言っていたので、たしかに間違えようがない。


「開けますね」


鍵を扉に差し込むと、鍵についていた宝石が一瞬光り、解除された。

おそらく鍵の宝石は魔石で、鍵口の内部にもペアリングされている魔石が仕込んであって自動で解除される、という仕組みだろう。

ちょっと前世の日本のカードキーを思い出した。


扉を開けると、まさかのスイートルームだった。

いや、そんな事は一言も言われていないから違うかもしれないけど、一般庶民の「スイートルームってこんな感じだよね?」を体現したかのような造りの部屋だった。


部屋の立派さに部屋の前で呆然とする私を置いて、ソフィアはさっさと部屋の中に入って持っていた荷物を室内の収納スペースに収めていく。

それに釣られるようにおずおずと、部屋の中に入った。

あ、床がフカフカで気持ちいい。


「そ、ソフィア師匠。私、こんなに立派な部屋に泊まっても大丈夫なんでしょうか?」

「騎士団の奴らが指定したのだから大丈夫じゃろう。そんなことより長旅で疲れたし汚れたじゃろう。風呂に入るのじゃ」


お風呂? 今お風呂って言いましたか?

村ではお風呂なんて上等なものはなかったんだよね。

大体は布で体を拭くか、良くて行水だし。

お湯を沸かすのにこんなに苦労する(手間・金銭的な意味で)とは思わなかった。


「こっちじゃ」


ソフィアは部屋に備え付けてあったタオル(布じゃない。ちゃんとフカフカしてる!)を2人分持つとついてこいとばかりに手招きをして、浴室と思わしき部屋に消えていった。

私は慌ててソフィアの後をついていくと、まさにザ・お風呂がそこにはあった。


「村ではこのような風呂を見ることはないじゃろう。入り方を教えてやるのじゃ」

「お、お願いします」


知ってます、前世の記憶があるので。

とは言えないので、私は素直に頷いておいた。

しかし、お風呂の入り口に暖簾があるんだけどなんで? こういうアイテムって異世界でもセンスは同じなんだろうか。

そんなことを思っていると私達は脱衣所らしき所に着いた。

ちゃんと、服を入れるための籠がある。

なんだか、近所にあった銭湯みたいだ。


「お風呂と聞いて」


うわ、勝手にアーシアが出てきた。

神様もお風呂に飢えていたのだろうか。


「うぉ!? あぁ、アーシアか。お主も入るのかの?」

「勿論よ! 折角のお風呂を逃す手は無いわ!」


まぁアーシアとソフィアは既に面識在るし、一人くらい増えたって特に問題ないか。


「ここで服を脱ぐのじゃ。脱いだのはそこの籠に入れておくといいのじゃ」


そう言うとソフィアとアーシアはさっさと服を脱ぎ始めたので、私も同じく服を手早く脱いだ。

それにしても……と私はソフィアの裸体をマジマジと見つめた。


すごいプロポーションだ。

足はスラリと長く、腰はキュッと引き締まり、余分な贅肉なんてほとんどない。

胸は大きさもそうだが張りが凄く、山のようにスラリと乳首の先までツンと突出している。こういうのを円錐型というんだろうか。


私は、自分の身体を見てペタペタとどことは言わないが軽く触れてみる。

引っ掛かりが……ない。こういうのを絶壁というんだろうか、ってうるさいよ!


冗談はさておき、前世では性別男だったのに意外と順応している自分に驚きを隠せない。

自分の身体はまあぁ……もう流石に見慣れたし、違和感はない。

でも、他の女性――特に美人の――の裸体を見たら流石に不味いことになるのでは、と危惧していたが、そんなことなかったよ!

やはり魂は肉体の影響を強く受ける、ということなのだろうか。


「……なにジロジロ見てるのじゃ。心配せんでもルシアももう数年もすればもっと女性らしい身体つきになるのじゃ」

「べ、別にそんなことを考えていたわけじゃ」

「いいから早く入るのじゃ。裸で長くおると風邪引くのじゃ」

「一番乗りよー!」


アーシアは勝手に一人で乗り込んでいった。

その後に続くようにソフィアは私の手を引いて、脱衣所と風呂の間を仕切る扉を開けた。

そこには前世では散々見慣れたお風呂の光景が広がっていた。

しかも湯船がある! お湯が次々と溢れて出て、まるでというかまんま旅館とかであった個室の温泉みたいだ。


私はソフィアからお風呂に入る時の心構えを聞いた。

お風呂初心者に教えるような内容だったので適当に頷いておいた。

ちなみにアーシアはいきなり風呂に飛び入ろうとしたのでソフィアに殴られていた。


私は最初に身体を洗おうと石鹸を探すと、なんとボトルに詰まった液体のボディソープとシャンプー、リンスがあった。


これ、まさかとは思うけど、この世界に私の他にも転生者や転移者がいるんじゃないだろうか。

一気に文明レベル上がり過ぎな気がするんだけど。


まぁいてもいなくてもありがたく使わせてもらうけどね!

それにしても、リンスはやっぱり自分の家用としてほしいなぁ。

私が内心自慢に思っている銀髪も、手入れが出来ないとどうしてもギシついてしまう。


ツルツルピカピカになった後は、ソフィアとアーシアと一緒に湯船に浸かった。

久々にお湯に浸かったせいかもしれないが、女性にお風呂好きなのはわかった気がする。

この世のものとは思えぬ心地で、多幸感で身体が満たされる。


私はその後、心ゆくまで久々のお風呂を堪能したのだった。

アーシアはしっかり上せて『聖環』の中に無理やり送り返しておいた。

【聖環・地】のため息が聞こえたような気がするが、気の所為ということにしておこう。


ちなみに特記事項として、ソフィアは浮いていた、とだけ記しておく。何が、とは言わないけど。


お疲れ様でした。

楽しんでもらえたらなら幸いです。

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