エピソード018 私、道中は師匠と研究雑談してました
暇つぶし回です。なんちゃって科学雑談なので本気にしないよーに。
騎士団分隊所有の馬車の中で。
私とソフィアはおしゃべりをしながら時間を潰していた。
「師匠、私王都に行ったこと無いんですけど、どれくらい時間がかかるんですか?」
「そうじゃのう。このペースじゃと2~3日くらいなのじゃ」
思ったより時間がかかる……と思ったのは前世の自動車や公共交通機関の知識があるからだろうか。
よく考えれば、父が王都に野菜をおろしに行く時も家を1週間くらいあけるので予想としては妥当な所か。
「結構時間かかるんですね」
「何、行きはこうして騎士団とともに行かねばならぬが、帰りは箒で送ってやるのじゃ。真っ直ぐ飛んだら1日もかからんのじゃ」
「ホントですかっ! 師匠大好き! 楽しみにしてます!!」
帰りは空の旅だ。
以前師匠に乗せてもらった箒から見た景色が私の中ではとても印象深く刻み込まれているので、今から楽しみだ。
それにしても馬車での移動は暇な上にお尻痛い。
サブカル本にも馬車の移動は辛い的な記述を数多く見たが、たしかに辛い。
馬車には簡易的なサスペンションが組み込まれているようだが、サスペンションの精度が悪いのか、はたまた地面が悪いのか。
振動が直に臀部を刺激し、まだ1時間程度しか経ってないのにお尻の感覚が麻痺してきた。
幸い私は酔いには強いようで、車酔いならぬ馬車酔いに悩まされずには済んでいる。
やることもなく暇なので、私は現在のステータスを確認することにした。
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ルシア [一流の農民]
lv: 9
HP: 140/140 MP:50/300 AP: 3/3
STR: 085(-60) DEF: 010(+249)
MAT: 012(-11) MND: 024(-23)
SPD: 018(-17) LUK: 009(-8)
[スキル]
・土いじりlv.3
・投擲 lv.3
・加護 (聖環・地)lv.3
・加護 (アーシア)lv.6
[魔法]
・【ストーン・バレット改】lv.1 RENEW!!
・【アース・プロテクト】lv.3
・【ジオ・グラビティ・バインド】lv.1
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うん。ウォーウルフやオークを倒したのでレベルは前から3も上がっている。
とりあえず、STRの伸びは良い、すごく。
他のステータスは伸び幅が小さいなぁ。
ただ、アーシアの加護までレベル上がっちゃったので、マイナス補正で結局前とほとんど変わらない。
魔法の欄を見ると、見慣れた魔法の横にRENEWのマークがあった。どうやらなにか変化したらしい。
私は喜色満面の笑顔を浮かべてソフィアに報告した。
「師匠! 私の【ストーン・バレット】が進化してました!」
「ほう、ルシアは地属性じゃから『カッター系』は難しいので魔法を打ち出す『シュート系』かの?それとも『ボール系』?一気に変化して地属性特有の『スパイク系』かのう!」
「【ストーン・バレット改】です!」
「えぇ……」
私は魔法の詳細を確認してみた。
【ストーン・バレット改】
・消費魔力5
・バレット系の中級魔法、亜種
・掌で持てるくらいの大きさの石に作用し、打ち出す速度を大きく加速させる
・使用する石によって効果が追加で付与される
・ある程度任意に軌道を設定可能
「師匠! ついに変化球(石)に対応したようです! しかも投げる石によって効果が変わります!」
「ああ……うん。それはすごいのじゃ」
この進化は実はかなりレアだったりする。
本来、【ストーン・バレット】は直線軌道にしか対応していないが、先程のスキルとの併用によって強引にスクリューを投げたことにより、魔法自体に効果が追加されたようだ。
そもそもこの世界に魔法で変化球を投げるなんて概念が皆無なため、このような魔法の進化を生み出す者がいなかったとも言える。
とは言え、この魔法の本質自体は何も変わっていないのだが。
「(ルシアの潜在能力ならばもっと扱いやすくて強力な魔法を覚えても不思議では無いのじゃが…)」
「えへへ。これで私もっと強くなっちゃいましたね!」
ルシアが幸せそうだから良しとするか。
そう思ったソフィアであった。
「そう言えば村からの依頼を見たが、魔物の襲撃があったようじゃの。結界が壊れていたとか? オークを討伐したと聞いたが本当に怪我はしなかったかの?」
ソフィアが心配そうにたずねてきたが、特に怪我もなかったし、オークを倒したのは私じゃなくミケやバックルさんのおかげだ。ザッコス? まぁ彼も一応。
もともとソフィアにはその時の状況をまとめたレポートを渡すつもりだったので、この機会に渡しておいた。
ソフィアはそのレポートを流し読みすると一安心したようだが、今度は別のなにかを考えているようでウンウン唸りだした。
「師匠、なにを悩んでいるのですか?」
「いや、わしは師匠なのに弟子のピンチに傍におらんのはどうかと思ったのじゃ……。本格的に村に移住するか、それとも遠くにいても連絡が取れるような魔道具を作成するか、との」
「通信端末を作れるんですか! そ、それはどういう作りで動くものなんですか?」
私は、ソフィアが言った通信端末の作成の話に飛びついた。
やる気はなかったとはいえ、前世では一応工業系の大学に入学したのだ。
人並み以上にはものづくりには興味がある。
「ほう。ルシアも魔道具作りに興味があるのか。よしよし、今考えておるのはの……」
ソフィアは私に通信用魔道具の構想を語って聞かせた。
なんでも、すでに主要国間には通信用の魔道具は実用化されているらしい。
通信魔道具のコンセプトは前世を知っている私には覚えがあるもので、声をアナログ信号に変換し、それを電気信号の代わりに高濃度の魔素に揺らぎとして変換し、ケーブルを通って伝送する、というものだ。
現在の通信魔道具の問題としては、通信魔道具間は魔素の拡散を防止するために有線接続となり、システム構築するには莫大な金と労力が必要になる。
さらに端末本体が大きすぎるため、固定式にせざるを得ないらしい。
ソフィアの考えているのは携帯型の通信端末で、魔素の揺らぎをケーブル内に留めるのではなく、ペア登録した魔石を媒体に魔法陣を組み、一種の指向性をもたせるものらしい。
通信先を限定すれば、理論上、小型での運用が可能とのこと。
「師匠、その案に少し付け足してみたいです。例えば、通信に中継地点を作って……」
「ほう。確かにそれだと情報欠損の問題は解決するかもしれんのじゃ。しかし、そうすると魔石とのペアリングに難が……」
「なので、中継地点で使用する魔石はペアリングをせず、受信した信号を増幅する装置として組んで……」
ソフィアの案は近距離で且つ遮蔽物がなければ実現することは可能だろう。
しかし、距離が離れるといくら指向性をもたせても少しずつ拡散してしまい、情報の欠損が距離に応じて幾何級数的に増大する。
さらに、魔素は遮蔽物を透過しないので、空間が閉じてなければ問題ないかもしれないが、そうでなければ通信が出来ない。
これらの問題を解決するため、通信用の中継地点を設置する。
中継地点で使用する魔石はペアリングをせず、届いた信号をそのまま増幅する機能のみを付加する。
それでも中継地点を超えた通信は出来ないし、部屋の中では使用することが出来ないことは解決していない。
また、暗号化はされていないので、技術さえあれば盗聴し放題だ。
「ふむ。楽しくなってきたのじゃ。まだいくつかの問題点はあるが、この勢いのまま基本設計をしてしまうのじゃ! ルシア、手伝ってくれるかの?」
「勿論です師匠!」
こうして私達は揺れる馬車の中で私のレポート用紙の裏に携帯型通信魔道具システムの基本設計を夢中で練っていった。
ちなみに、2人の様子を馬車の外から眺めていた騎士団員は、辛い移動中にも拘わらず、難しい話をしながら楽しそうに作業をしているのを見て恐ろしく思ったそうな。
それから3日間、私は退屈せずに旅の道中を有意義に過ごすことができた。
王都に到着した時に、せっかく初めて村の外に出たのに全く風景を見ていなかったのに気づいたのは後の祭りだった。
お疲れ様でした。
楽しんでもらえたらなら幸いです。




