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エピソード016 私、農民らしく土をいじる

農作業に関わる話を少しだけ載せてみたかったのです。


魔物の襲撃から3日。


あの後、両親や村の住人達から質問攻めに合い苦労したが、今は一旦落ち着き、大人達は復旧作業や魔物除けの結界の確認に奔走していた。


どうやら結界を張る魔道具の一部が損傷していたらしく、結界が薄くなっている部分を破られてこの度の事件が起こったらしい。

今後の村の方針として、結界生成魔道具の修理の依頼と見回りの徹底を新たに決めたという。


修理の依頼はソフィアに依頼したようなので、数日すればまた師匠に会える。

本来、村の結界の魔道具に関しては王都の職人に見てもらうのが普通なのだが、ソフィアはボルカ村に馴染んでおり、魔道具の扱いにも精通している。

よく魔道具で困ったことがあれば連絡しろとも言っていたので、引き受けてくれるだろう。


その時にはぜひ今回の魔物襲撃事件のレポートを見せて褒めてもらい、ご褒美に複合魔法の講義をしてもらおう。


そんなこんなで暇になった私は、ミケ・ポチ・タマと一緒に私が担当している畑にいた。

先日の想定外の出来事とその後始末でバタバタし、おざなりになっていた畑の改良を検討するためだ。


「今日は畑を私色に染め上げようと思う」

「いつもそうしてるニャ。武具のスキルでサクサク農作業はちょっとズルいと思うニャ」

「ぼ、僕は効率的で良いと思うけど。美味しい野菜ができるなら村も豊かになるし」

「俺明日は狩りの当番だから準備が忙しいんだけど!」


三者三様の答えで大変よろしい。

私はポチの意見を無視して話を進めた。


「まぁね。でも武具も私の力の1つだし。正直ここで使わないでいつ使うの?って能力だからね、しょうがないね。そして、今日は更に特別ゲストに来ていただくのです! アーシア先生、どうぞ!」

「私の時代が来たわね!!」


呼ばれるや否や姿を表すアーシア。

何もしていないのに既にドヤ顔なのはどういうことだろうか。


「だ、誰?! というかどこから出てきたの?」

「魔物か?!」


一度姿を見ているミケはそこまで驚いていないが、アーシアを初めて見た2人は大いに驚き慌てていた。


「この子はアーシア、農耕の神様なの。聖環の儀式の時に私と契約して今は守護神をしてもらってる」

「よろしくね、ボーイズ&ガールズ!」

「か、神様……? 初めて見た」

「ズルいぞルシア! 俺にも狩りの神様とか紹介して貰えるようにお願いしてくれ!」

「でも神様って、創世神オルフェノス様一柱のみだったようニャ……?」


やはりミケはよく勉強している。

神学にも精通してるとか、なんで平民やってるのだろう?


「間違ってないわ。私は他世界の神様だからね! オルフェノス様だけでは大変だから、迷える人の子達を導くよう、他世界の神々に神命を受けたってわけ。いわば昇進よ(嘘)」


アーシアが随分と見栄を張っているが、詳しい話をすると説明が面倒なので何も言わずスルーしておく。


「とまぁ、アーシアは神様で、しかも農耕に詳しい神様ってわけ。なので折角なら力を貸してもらうのが筋ってものよ」

「まっかせなさい!」

「神様をこき使おうと考えてる時点で筋も何もあったもんじゃニャい気がするニャ」


ミケが妙に鋭いが、アーシアがやる気だから細かいことは気にしないのです。


「と、とりあえずアーシア様? は農耕に詳しいんだよね。普段の農作業で改善できる事はありませんか?」

「呼び捨てで構わないわよ、タマチ少年、いやタマ少年かな? 勿論あるわ! 日光、水など農耕に重要な要因はたくさんなるけど、中でも最重要は土よ! さらにこの世界では空気中や土の魔素の含有率も考える必要があるわね!」


アーシアは天と地を指し示すポーズで自信満々に言い放った。

どうでもいいけど、そのポーズ、この世界では意味わかんないと思うよ?


「土はわかるけど……魔素ってなんだ?」

「魔素ってのはあらゆる空間に存在するエネルギーの源ニャ。万物共通の栄養源みたいなものと思えばいいニャ」

「ふーん……?」


あ、ポチのこの反応はわかったように見えてわかってないやつです。

私も前世ではよくお世話になりました。

ちなみに魔素は魔力の素でもあり、魔法の素質を持つ者は空気中を漂う魔素を吸収して体内で自分が使える魔力に変換している。


「っていうかちゃんと土に関してはしっかり耕してると思うぜ?」

「甘いわ、ポチちゃん。甘々よ! スイーツより甘いわ!」

「ちゃんづけするんじゃねぇや!」

「ポチ、話進まないからいちいち突っかからないで。アーシア、説明して?」


ポチが不貞腐れて土を弄り始めた。

静かになってくれてやりやすい。


「土ってのは育てるものなの。なぜかと言うと、土には様々な種類や性質があり、それぞれが農耕に向き・不向きがあるのよ。一般的には壌土のように粘土の割合が多めの土が良いとされているわ。ほら、こんな感じ」


アーシアは足元の土を一掬いし、水で湿らせて練り込む。

すると握られていた土が形を崩さず、粘土のように細長く練り込まれていく。


「逆に砂の割合が多くて水を含ませてもまとまらない土はそのままでは農耕には不向きよ」

「さらに良い土に育てるには、排水性・保水性のバランスを保つ、有機物を多く含む、pHを適性に保つ、異物を取り除く、などが挙げられるわ」


排水性が悪いと水が土から抜けず、根腐れの原因になる。

保水性が悪いと水が土に留まらず、水切れを頻繁に引き起こす。

有機物が多いと微生物が活発に活動してくれて、有機物を分解する過程で生まれる腐植が土の排水性と保水性を適切な割合に保ってくれる。

などなど。


アーシアは水を得た魚のように、農耕に関する知識を披露していく。


「有機物を多く含むにはどうすれば良いのニャ?」

「堆肥を使えばいいよ! 栄養堆肥、つまり家畜や人の糞、残飯などを混ぜ込んだり、植物性堆肥、つまり落ち葉などの植物性の腐葉を混ぜ込むの。ちゃんと発酵させるのがベストね。厳密には栄養堆肥と植物性堆肥は少し使い方が違うんだけどね」


植物性堆肥は、主に土壌の改善に向いている。

栄養堆肥は、その名の通り、作物の栄養源として向いている、というわけだ。

ちなみに事前に発酵させないと、土地の栄養を逆に吸い取ってしまったり、土の酸素欠乏を引き起こしたりして、むしろ悪影響を及ぼす場合もある。


「私の畑では混ぜてるよ、発酵させたウ○コ」

「うわッ!汚ねぇ!」


土を弄ってたポチが私達の話を聞いて飛び退いた。

そんなこと言ったって、糞尿や腐葉土は土地を肥やすのに簡単な方法だし、これで作物の質がかなり変わる。農業は綺麗事じゃ出来ないんだ。諦めるんだ、ポチよ。


「どうやって集めてるのニャ?」

「排泄物を貯めてるの。穴を掘って汲取式の簡易的なトイレを作ってるの。夏は死にそうになるけど」


もちろん外に作っている。

薬作成用の掘っ立て小屋を建てた時に、ついでに武具の【農耕祭具殿・円匙】の特殊スキルで頑張って掘って作った。

家の中では蓋を作ったとしても我慢できる自信がない。


「あ、あの。ぺーはー?ってのはなんのことですか……?」

「間抜けな奴そうだよな、ぺーはー」

「人の名前じゃないからね?」


タマは真面目に質問してるが、ポチは何故か人の名前だと思っているようだ。

さて、アーシアは説明してくれ……あ、そっぽ向いてる。

pHに関しては私が説明しないとダメか。

でも、化学が発達してない世界で説明するの難しすぎる。


「うーん。pHっていうのは要は酸っぱさの度合いを測るための目安、みたいなものかな。皆も酸っぱい食べ物で顔を顰めたことない?」

「ある。レモの実の丸かじりはやべえ」

「そうそう。その凄く酸っぱい状態が続くと植物の元気がなくなったり、土の中にいる生物が嫌がって逃げちゃうの。だから、pHを調べて丁度いい状態にするの」


厳密には酸性の程度を調べる基準だから、酸っぱいレベルだけじゃないんだけどね。

私はアーシアに説明をバトンタッチする。


「農耕に最適なのは中性からちょっとだけ酸性に傾いた土かな。育てる作物によっては例外もあるけど、大体は中性にすれば大きな問題はないわ!」

「ぺーはー、を調べるにはどうすれば良いのニャ?」

「え、えーと。私の神パワーならできるけど……」


あ。アーシアが私の方をチラチラ見てきた。

化学は苦手なのかな?でも、流石にこれくらいなら簡単にできる。

この村では栽培されていないが、材料は見つけたので実現可能だ。


「村では扱ってないけど、薬草探しの時に紫キャベツもどきを見つけたから、それを煮詰めた汁を使うの。pHの程度で色が変わるんだよ、すごいよね」


私は、既に作っていたアントシアニン色素液を見せた。


「他にも紫陽花あじさいっていう花の花びらの色でも大体なら調べられるよ」


これは前世で畑の住人に教えてもらって、画期的だったのでよく覚えている。

紫陽花の花の色が違うのもアントシアニン色素によるもので、酸性によっていると青にアルカリ性によっていると赤っぽくなる。

この方法の難点は、村では咲いていない、ということかな。


「もし土が酸っぱすぎたらどうすりゃいいんだ?」

「それなら答えられるよ! 酸っぱさを抑える薬を撒くのよ! やりすぎると戻すの大変だから調整は慎重にね。簡単なのは草木灰や骨粉かな。でも、この村周辺の土壌はそこそこ安定してるからそこまで心配しなくても大丈夫だとは思うよ!」


自分の畑を整備する時にpHは調べていたが、たしかに最初から中性に近い状態だった。

前世みたいに調整用の試料が簡単に手に入るわけじゃないから助かったのを覚えてる。


「ねぇアーシア。普通の農作業に関しては私も知識があるけど、なんで魔素が農耕に関係するの?」

「魔素を豊富に蓄えた植物は栄養満点で美味しくなるの!」


話を聞いてみると、魔素はこの世界に住む私達にとってなくてはならないもので、酸素を吸うのと同じくらい魔素を日常的に取り込んでおり、それを凝縮して豊富に蓄えた食べ物を私達は美味しいと感じるらしい。

異世界特有の旨味成分、という感じだろうか。


魔素は空気中だけでなく地中にも存在する。

しかし、適切な土作りをしていないと土から魔素が抜け落ちてしまうため、魔素を蓄える土を作るのは美味しい作物を作るのに必須だそうだ。


「それは知らなかった。みんな、今から土に魔素を蓄えるための研究をするよ!」

「お任せだよっ! ここが私の輝く場所よ!!」

「「「えぇ……」」」


結局、日が暮れる直前まで私達は土作りに精を出すことになった。

皆ヘトヘトになっていたが、ソフィアに色々仕込まれたおかげか、私は様々なアイディアが湧いてこれからの計画に余念がない。


楽しくなりそうだ。

私とアーシアはそう確認してこれからの畑改革の未来にニヤリと笑うのだった。


お疲れ様でした。

累計1000PVを達成したようです。

これからも自分の好きなお話を書きつつ、皆様に楽しんでもらえるよう頑張ります。

もし評価やご指摘あれば真摯に受け止めますのでお気軽にどうぞ。

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