エピソード002 俺、転生するために面接を受ける
とりあえず、書き起こした部分までは随時投稿しますね。
気が付くと俺は知らない場所でパイプ椅子に腰かけて知らない女性と対面していた。
「……は?」
「こんにちは。水地武さんね」
美人のパンツスーツのお姉さんが履歴書みたいなものを持って俺に声をかけてきた。まるで面接に来たみたいだ。
「あ、はい。そうですけど……ここは?」
「記憶が混濁しているかもしれませんが、あなたは死にました」
俺の質問をスルーしてすごく事務的に、俺は俺が死んだことを告げられた。
え?いやいや、俺いつの間に死んだの!?
「え、死んだ、んですか? 俺死ぬような出来事にあった覚えがないんですけど」
「自分の死を理解できない人は結構多いんですよ? えーと、死因は……あら? 死亡理由に記載がないですね。かなり穴抜けの部分が多いですし。全く、手抜き仕事で困ります」
はぁ、とため息をつき、目頭を押さえてお姉さんは少し苛立ったようなご様子です。俺悪いことしてないよね?
「ここは死んだ人の子の魂が集う場所です。あなたがここに居るという事が、あなたが死んだ何よりの証拠です。とはいえ、空欄のまま上げると後で大変なので私がカバーしときますか。では、あなたの死亡理由は何ですか?」
そんな面接で志望理由聞くような感じで聞かれても……覚えがなさすぎるんですが。
「だから覚えが……」
「では直前までの記憶から当時の状況を教えて下さい」
「アッハイ。畑仕事をしていて、野菜ジュース飲みながら水を汲もうとしたらジュースが気管に入って咽せて……ピカッとした気がして今ここです」
うん、自分でも何言ってるのかよくわからんな。
「なるほど。では日射病で倒れてジュースを喉に詰まらせて窒息死、という事にしておきましょう」
おい、それ状況証拠からのでっち上げだろ。てかスラスラ書き込んでるけど結構無理あるって気づいてお姉さん!
「いやー……ちょっとそれは無理がある気が……」
「ぶっちゃけ死亡理由はどうでもいいんですよ。ここにあなたが居るのが死んだ証なんですから」
ぶっちゃけられた。お姉さん投げやりすぎませんか。
「というか、そもそもここ何処ですか? まさか死後の世界、とかですかね?」
改めて周囲をよく見ると薄暗い空間の中で俺とお姉さんの座るパイプ椅子、そしてデスクワーク用の長机があるだけの場所だ。何処ぞのオフィスみたいだぞ。
「機密事項です。詳細をあなたが知る必要はありませんが、まぁ、人の子が言うところの死後の世界、というのは近いですね。その認識で良いです」
マジかよ。死後の世界すげえ現代的だな。……と言うことはやっぱり俺死んだのか。なんか納得出来ないけど、ゴネても仕方ないんだろうなぁ。ここに居るとそんな気分になってくるから不思議だ。
「あの、それじゃお姉さんは神様とかなんですか?」
「えー? まぁ、神様と言われればそうかもしれませんがまだ下っ端ですね」
書類を確認しながら答えるお姉さん。神様なんだ……で、下っ端なんだ。神様も役職制なのかね。確かに昔読んだサブカル本でも下級神とか上級神とかあったな……。世知辛い。
「えーと、死亡理由はこれで良くて、享年は……「今19歳です」ありがとうございます。犯罪歴は特になし。善行歴は……細かいのは多いですね。記載漏れの可能性もありますし一応聞いておきますか。あなたは生前、何か特別な善行をお持ちですか?」
いやだからそんな面接の時の特技や資格持ってますか的な感じで聞かれても……。
「えーと……」
特に思いつかない……これ面接ならマイナスポイントじゃない? 何とか絞り出せ俺の善行!
「あ!落とし物を拾ったら絶対交番に届けてました!」
「……たしかに。それは善行ですね。すごいすごい」
うわっ、すっごい棒読みだ。仮にも神様なら褒めてほしい! 昔札束が紙袋に入って道端に落ちてたのをそのまま直で交番に届けたんだぞ。これかなり善行だよね?
まぁ、紙袋に赤黒い何かがべったり付着してたから仮にネコババしてたらヤバかったと思うけど。
そう言えば落とし主が見つからない場合は所有権が発生するって聞いた事あるけどそんなの貰ったことないなぁ、別にいいけど。
「……よし。これで良いですね。ではあなたの来世を発表します。輪廻転生コースです。魂となり今の記憶を洗い流した上で次の生命へと移行します。小さいですがちゃんと善行は積んでるようなのでポイントが溜まっています。転生先は同じ国の日本、転生後の種族はそのまま人間にしようと思いますが、要望はありますか?」
善行ってポイント制なのか。なんか嫌な情報聞いちゃったな。
「要望って、人間以外も可能って事ですか?」
「そうですね。過去の例では犬猫、鳥とかは多少前例がありますよ。変わった要望だと女性の下着に生まれ変わりたいと言った方がいたらしいですね。その場で焼却処分されたらしいですが」
そいつ本当に善行積んだのかよ。焼却処分して正解だ。
「性別はどうなるんですか?」
「要望としては可能です。確かに来世は異性になってみたいと言う方は意外と多いですね。でも前世の記憶は原則引き継げませんのであまり意味がないと思いますよ?」
別に女の子に生まれ変わりたい願望はないしどうでも良いか。
「あ、興味本位の質問ですが、例えば今の世界とは違う異世界に転生する、とかって可能だったりします?」
昔異世界転生ものの本にもハマった時期があってちょっと憧れがあったりすんだよなぁ。魔法とか撃ってみたい。
「異世界は存在しますが、異世界転生キャンペーンは現在受け付けておりません。ここだけの話そもそもあまり推奨できませんよ、あなたの生きていた世界はかなり生活水準は高いので異世界に行くと苦労するかと。今でも裏技的な方法はありますがかなりの例外です。申請が面倒であの頃は大変でした」
なんかお姉さんが遠い目をしてる。てか、異世界転生キャンペーンなんかあったんだ。異世界の住人が減って大変だったから補充として、とかかな。そうだとしたらつくづく世知辛いな、死後の世界。
「分かりました。じゃあ転生先は日本、種族はそのまま人間で、性別に関しても特に希望はありません」
「承りました。善行ポイントは引き継げませんので、折角だからあなたの来世にポイントに見合うスキルをランダムでつけておきましょうか? もちろんプラスなものにしますから安心してください」
「今の世界にも特殊な能力とかあったんですか?!」
「ありますよ。……ああ、なるほど。とは言ってもあなたの世界の書物で見られるようなチートな能力はあり得ません。せいぜい髪がサラサラになる、とかお肌の張りが良いとか、運動能力がちょっと高い、程度です」
ですよねー。そんな事だろうと思ってました。
「俗に言う才能、みたいなものですね。小さいものでも満足感はあると思いますよ」
「遠慮しときます。俺は別に普通で良いですから。あ、でも折角だから俺のポイントでお姉さんが少し豪華な食事が出来る、とかなら喜んで使いますよ?」
お姉さん、大変そうだし。折角の美人なのに目の下にうっすら隈できてるし。俺の善行がお姉さんの為に役に立つならその方が気持ちが良い。
「!! ……い、いえ。そのお気持ちだけで結構です。ありがとうございます」
うん、残念。恋愛も結局出来なかったし、折角だから最後にちょっと格好つけてみたかった。
「ではここでの手続きを終了します。これで印鑑を押せばあなたは来世に向けてのフェーズに移行します。……久々ですが少しだけ楽しかったです。仕事中にこんな事を思うのは本来ダメなんですけどね」
「お世話になりました」
「来世ではもう少し長生きできる事を祈っております」
そう言ってお姉さんは書類に印を押した。その瞬間、俺の意識が急速にフェードアウトしていく。
あぁ、これで今世の俺は終わりなんだ。不思議と怖くない。来世ではもう少し、うん、もう少し普通な幸せを掴もうと思う。
「……よし。問題なく完了ね。じゃあ処理済みの人生書は来世部の方に回して、っと。……なんか疲れたわ。最近働き詰だったし有給申請しようかなー」
お姉さんこと下位農耕神アーシアは一仕事終えたかのように肩を回し、首の凝りを解した。そして、先程まで対応していた人の子の事を思い出す。
「……最近面倒な人の子が多かったけど、良い子だったなぁ武くん。来世ではお幸せに」
そうポツリと呟くと、アーシアは次の仕事の為の準備を始めた。
お疲れ様でした。
楽しんでもらえたらなら幸いです。