エピソード014 私、魔物と戦います2
今回こそルシア、戦います。
「ルシアちゃん!」
「ルシア!」
母、ルイン、私が村の西側の避難場所に着くと、既に到着していたミケとポチがこちらに気づいて声を上げた。
「お母さん、ルインと一緒に倉庫の中にいて。私はミーちゃんやポチと一緒に入口付近で警戒しておくから」
「ルシア……無理はしないでね」
「もちろん」
ニコッと笑ってルシアとルインが建物の中に入るのを見送ると、すぐに私はミケとポチの傍に駆け寄った。
「ミーちゃん、ポチ。無事?」
「なんとも無いぜ!」
ポチは周囲を警戒しながら答えた。
ポチの手には刃渡り50cmほどのショートソードが握られており、時折握りを確かめるように動かしている。
「ポチ、その剣どうしたの?」
「これか? 狩りの止め刺し用の予備だ。倉庫にあった。ここにいる奴で一番魔物に慣れているのは普段狩りに参加している俺だからな」
「弓じゃなくていいの?」
ポチは冒険者ごっこのときも剣――という名の木の枝――を主体にしていて扱いのイメージは出来ているとは思う。
でも、狩りに使用するのは基本的に弓だ。
狩りに一緒に行っている大人達に聞いたことがあるが、ポチは意外と弓の扱いが上手いらしい。
「弓は東門に行くブルさん達に渡したんだ。倉庫にあったのは弦が張ってなかったし。それに、仮に持っていたとしてもこれだけ暗いと俺では狙いがつけられないぜ」
次に私はミケに向かい合い、現状を確認することにした。
ミケは昔から商人などの村の外の人達との付き合いが多く妙に情報通だったが、この5年の間にソフィアから本を借りる機会が増え、それをソフィアが面白がっていろんな本を与え続けた結果、知識量と指揮レベルだけなら私なんて比べ物にならないレベルになっていた。
「ミーちゃん、今持ってる情報を教えてくれない?」
「わかったニャ。約10分前に鐘が鳴った時点で魔物が村に到達するのが数分の距離だって言ってたから、もう交戦してるはずニャ」
「逃げる時に東の方で狼のような遠吠えを聞いたニャ。おそらくウォーウルフの群れだと思うニャ。なら、数は確実に5匹以上、多いと20~30匹くらいニャ」
ミケは過去に読んだ本の知識や短い間に起こった情報を組み合わせ、時には推測も踏まえながら現状を予測する。
「うーん……それは不味いよね。確かウォーウルフってCランクの冒険者が戦うような魔物じゃなかった?」
「数が少ない場合はDランク程度だニャ。魔物単体としての強さは大したことないけど、群れになると対処が厄介になるらしいニャ」
「そうだな。ウォーウルフ単体と戦うなら俺も狩りの時にはぐれの個体を倒したことがあるぜ」
ポチは当時の状況を思い出し、自分一人で弓とナイフを使って倒した経験を語った。
「ただ、今は暗くて視界が悪いのがニャー……。東門の大人達が無事だと良いんだけどニャ」
という事は漏れてこちらに流れてくる個体もいるかも知れない。
私はそっとベルトに付けている小袋を確認しようとした途端、アーシアが少々焦った声で語りかけてきた。
「(ルシアちゃん、東から4足歩行の魔物が2匹、こっちに来てる! 2人ほどこっちに向かって走ってくる人がいるけど、間に合わないよ!!)」
確かにそう遠くない距離で土を蹴り上げる音が近づいてくるのがわかった。
「ミーちゃん!ポチ!魔物がこっち来てる!」
「!? 何匹だ!」
「おそらく2」
「戦闘隊列ニャ!ポチは前衛、ルシアちゃんは中衛でサポート、私は後衛ニャ!」
私達は小さい頃から慣れているポジションにつき、これから対峙する魔物との戦いに備えた。
私はステータスを表示して、自分のMPがどれだけ残っているかを確認した。
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HP: 100/100 MP: 065/250
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こちらに来るのが2匹だけとは限らないので、あまり無駄遣いはできなさそうだ。
篝火の近くで待つこと1分。
明らかに唸り声が聞こえたかと思うと、闇の中から篝火に照らされたウォーウルフが2匹、姿を現した。
「グルルルッ!」
獲物を見つけ、涎を垂らしてジリジリとこちらに近づいてくる。
相手は生意気にも前衛と後衛と隊列を組んでいた。
「ルシアちゃん、手前に牽制!」
「合点!えいや!」
私は腰の小袋の1つから普段からコツコツ拾い集めた握りやすい石を1つ掴み、そのままサイドスロー気味に私達に近い方のウォーウルフに投擲した。
日頃の特訓の成果で、石は狙い通りウォーウルフの鼻先にヒットした。
「ウガァ!?」
「今ニャ! ポチ! ルシアちゃん、後ろをポチに近づかせないで!」
ポチは鼻の痛みを散らそうとしているかのように頭を振っているウォーウルフに突撃する。
その間に私は別の小袋から先程よりも小ぶりの石を一掴みし、目標は定めず、広範囲に広がるように投げつけた。
「ギャルルッ?!」
前衛のカバーするために飛び出そうとしていたウォーウルフは、突如襲った小石群がビシビシビシッ、と顔に当たって怯み、動くタイミングを逃した。
「うぉぉおおお!」
ポチはショートソードを刺突気味に構え、駆ける勢いそのまま、姿勢を落としてウォーウルフの心臓部に突き刺し、ぐりっと捻った。
剣はウォーウルフの心臓を貫き、ビクリッと一瞬筋肉が収縮して痙攣した。
それを感じ取ったポチは硬直で刃が抜けなくなる前に急いで刃を引き抜き、そのまま残りのウォーウルフに正眼の構えを取る。
「ギャルル!ガアア!」
「行かせないよ!」
残りのウォーウルフがポチを噛み殺そうと一歩踏み出す瞬間、ルシアは石をウォーウルフの右目を掠るように投擲した。
いきなり右顔面スレスレに飛来した石を警戒するため、ウォーウルフの注意が一瞬だけポチから外れた。
そのチャンスを見逃さずポチは駆け出し、先ほどと同じように心臓部に刃を差し入れ、思い切り捻る。
「死ね!狼野郎!」
耐久性が低かったのか、ポチが力を入れすぎたのか。
ショートソードは刀身の半分くらいで折れてしまったが、ウォーウルフはそのまま足を折って倒れ伏し、魔石に変じた。
「「やったー!!」」
「おっしゃー!」
3人は駆け寄ると抱きつき、思い思いに魔物との戦いの勝利に歓喜した。
「ルシア! お前完璧な投擲コントロールじゃんか! 今度狩りについてこいよ!」
「それは疲れるから嫌。ポチも魔物の急所しっかり捉えられてたじゃない。ちょっと見直したよ」
「へっ、そうかよ」
ポチは照れくさそうに、鼻をこすった。
「うんうん。2人共凄かったニャ。大人顔負け!」
「いやいや、ミーちゃんが冷静に後ろから指示を出してくれたからだよ!ありがとう!」
キャッキャしてる間に青年2人が慌てて駆け込んできた。
「おい!君ら大丈夫ッスか?!」
「ほう……お前らが倒したのか。よくやったな」
青年は、私達が持っていた魔石を見て、その場で起こったことを理解し労った。
ウォーウルフの適切な対処法を知っており、さらにその対処法を実践する。
それは、簡単そうに見えるが難しく、冒険者ギルドでも新米のE~Dランクではなかなか実践できない。
ましてや、それが10歳の少年・少女ならばなおさらだ。
「東門の方はどうなったのかニャ?」
「ウォーウルフの群れの総数は掴めていないが、俺達がコイツらを追いかける時点で10匹以上は討伐していた。流石にそろそろ片がつくはずだ」
「被害はどうですか……?」
「少なくとも離れるまでは死人は出ていない。怪我人は多いが、ほとんどがかすり傷だ」
私はホッと息を吐いた。
どうやらなんとか危機は脱したようだ。
ルシアのLUKの低さ故か、その思考がフラグになってしまったのか。
ズシン、ズシンと村の西門の方から地響きに似た足音が聞こえてきた。
「(ルシアちゃん! これヤバいよ!! 大型の二足歩行の足音。多分オークだ!)」
アーシアの警告は、先程までの勝利の余韻に冷水を浴びせかけられたように感じた。
「な、なんだ?」
「西門警戒!大型二足の足音、おそらくオークです!」
「「「「な、なんだって?!」」」」
青年2人は、即座に持っていた剣鉈を抜き放ち、西門を向いて警戒態勢を取った。
「光源が足りないニャ……。ルシアちゃん! 他の篝火をかき集めて西門付近に投げて! ポチ!すぐに走って東門に救援を!」
私はミケに言われて西門から遠いところに配置してあった篝火を西門付近に配置し直し、青年達の後方にポジションをとった。
「だ、だけどお前らを置いて……」
「お願い! ポチの足ならなんとか間に合うかもしれないニャ! 早く!!」
「頼むッス! ポチくん!」
「戦力が足りない。俺達がここを離れるわけには行かないんだ。頼む」
ポチはミケとルシアを見やり、自分が持っていたショートソードの残骸に目を向け、自分がここでは戦力になれそうに無いことを察した。
「クソッ! 死ぬなよ!」
ポチは剣を投げ捨て、振り返らず全力で東門へと疾駆した。
湧き上がる嫌な予感を振り払うかのように。
お疲れ様でした。
楽しんでもらえたらなら幸いです。




