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エピソード012 私、お姉ちゃんですよ

タイトルの割に重め+微グロ。苦手な人は注意です。ここ丸々抜こうか迷ったのん……。


ルシアは家の前までくると頭の中でアーシアに頼み、『聖環』から薬草の束を取り出し扉を開けた。


「あらあら。お帰りなさい、ルシア」


クレアは入ってきた私の姿を見てニコリと微笑んだが、最近少し寝不足なのか顔が疲れている。


「ただいま、お母さん。……ただいま、ルイン」


私は前世でも今世でもずっと一人っ子だった。

しかし、半年前から私は一人っ子を卒業し、お姉ちゃんになったのだ。


母の腕には妹のルインが抱かれており、母の乳房を吸っている最中だった。

ルインは私の声がした方を少しだけ見やり、すぐにお食事に集中した。


「ルインは食いしん坊さんだね」

「あらあら。母さんのお乳に夢中だったのはルシアも同じだったと思うわよー。当時お父さんがいくら話しかけようとしても全く気にも止めなかったんだから」

「うぐぅ」


そうだったのか。

流石に私も3歳未満の頃の記憶は殆ど残っていない。


「うちは女の子ばかりでお父さんも大変だね」


私は恥ずかしくて強引に話をずらした。

でも、その逸らした方向性は失敗だった。


「そうね……。ゴーシュが生きてくれていればよかったのだけれど」


-----◆-----◇-----◆-----


先程、半年前に一人っ子を卒業したと言ったが、厳密にはそれは誤りだ。

約3年前、私は3ヶ月だけお姉ちゃんだったことがある。


私にはゴーシュという弟がいた。

あのときは男の後継ができたと喜んでいた父と、初めてできた弟に浮かれっぱなしだった私だったが、その年に抵抗力の低い子供だけがかかるという病が流行。冬を越せず、弟はあっさり死んでしまった。


あの日、私は苦しんで脂汗を流しながら弱々しく泣いている弟のためになんとか方法を模索した。

だが、私の魔法やスキルは病気にはまったく効果がなかった。

前世の知識も簡単な家庭医学の知識はあっても医者でも看護師でもなかった私にはどうしようもできなかった。


教会の司祭様の知恵や神聖魔法を借りようと駆けずり回り、帰って来たときには弟は既に冷たくなっていた。


私は無理やり連れてきた司祭様に縋り付いて無力な自分の情けなさに号泣し、母は冷たくなったゴーシュを抱きしめ、静かに父と一緒に泣いていた。


この世界では溢れすぎて特別な語り草にもならないような出来事だが、私はその日始めて異世界の現実をしたのかもしれない。

日本とは違う。

もちろん、地球にも紛争や貧困はあるし、世界レベルで見れば同じような出来事は溢れかえっていただろう。

それらはメディアや授業でいくらでも情報を入手できたので、誰でも知っていると思う。


でも、他人事だった。

身近に起こった出来事はなかったから。

その重さを理解していなかった。


異世界の人の命は軽い、特に子供の命は。

魔物に殺されて死ぬ。

盗賊に殺されて死ぬ。

戦争で死ぬ。

飢えや病で死ぬ。


対処なんてできない。

気づいたときにはもう既に手遅れだ。


だから聖環の儀式を子供が受けられることに親は感謝する。

『聖環』は純粋に子供の生存力を引き上げる。

しかし、それ以上に、健康に育ってくれた子供にありがとうと涙する。


弟を埋葬した後に両親から話を聞いた。

実は私には兄と姉がいたらしい。

名前は教えてくれなかった。


兄は弟と同じような病で亡くなり、姉は儀式に向かう最中に運悪く魔物に遭遇し食い殺されたらしい。

現場には大量の血痕と姉がお気に入りにしていたリボンを手首につけた右手だけが見つかったそうだ。

以前聞いた聖環の儀式の最中の街道で襲われた子とは、私の姉のことだった。


私は弟が死んで、両親から二人の兄姉の話を聞いた後、両親に詳細を隠していた聖環の儀式での出来事を伝え、アーシアを紹介した。


私は両親を安心させたかったから告白したが、話を終えた後激しく後悔した。

気味悪がられるかもしれない。

何故あなただけが!と罵られるかもしれない。

それが怖くて目を伏せていると、二人はそっとルシアを抱きしめただけだった。


以降、両親は今までと変わらず、いやそれ以上に私に愛を注いでくれた。


私は家族を守る。その時、そう決意した。


-----◆-----◇-----◆-----


「そうね……。ゴーシュが生きてくれていればよかったのだけれど」

「うん。そうかも」


私は苦笑して、そのまま母とルインを抱きしめた。


「でも、ゴーシュの分も、私はみんなとルインを守るから」


安心して? と、そう目で訴えた。


「ふふ、そうね。ルシアはお姉さんだからたくさん頼っちゃおうかしら」

「任せて!お母さんはもう少し暇を見て休まないといけないよ。ルインの事は私が見ておくから!ルイン、お姉ちゃんにお任せだよ!」


何かを感じてくれたのだろうか、ルインはちゅぽっと口を離して私に手を向けた。


「あらあら。父さんよりも頼もしいわね」


母は、楽しそうに笑った。


-----◆-----◇-----◆-----


その夜、夕食の間に今日の出来事を母が父にバラした。


「ルシア!俺もお前や母さん、ルインのことを全力で守ってみせるからな!」


そう言って父は私に抱きついた。

流石にこの歳で父に抱きつかれるのは少し恥ずかしい。

私は身体を捩って脱出し、母のもとへ寄ると父は何故かショックを受けていた。


「これが父離れか……」

父がなにか小さな声で呟いていたがうまく聞き取れなかった。


夕食も終わって一段落した後、私は二人に断って家を出た。

とはいっても別に家出するわけではない。

目指すは家の庭の隅に立てた小さな掘っ建て小屋だ。


ガタついた扉を開け、近くの蝋燭に火を灯すと、部屋の中が薄暗く照らされる。

動物性の油脂を使って蝋燭を作ったので獣臭いのが玉に瑕だ。

前世で読んだサブカル本に綺麗な蝋燭を作る方法が書かれていたような気がするが、あいにくそんな細かいこと覚えていない。


部屋の中には小さな作業机と椅子、それに自作の道具。そして様々な種類の薬草や山菜。

私は3年前からここで薬草から薬を作る取り組みを続けていた。

【聖環・地】のスキルのうちの1つ、【鑑定 (自然)】は、植物の特性や土地の植生などを調べる事ができた。

残念ながらこのスキルは生物の鑑定を行うことはできなかったが、周囲を自然で囲まれたこの村では非常に有用だった。


私は【鑑定 (自然)】を使って薬の材料になりそうな植物を片っ端から調べ、教会や師匠からで薬について教えてもらったり、村に立ち寄る薬師から買った薬を解析しながら、様々な組み合わせを試していた。


最初の2年間は失敗ばかりだった。

なにせ、前世の私は薬を手に入れるなら薬局に行けばよかったのだ。

自分で作った経験なんか皆無に等しかった。


薬草の選別から始まり、潰したり混ぜたり固めたりするための道具の作成、保存用の容器や袋の作成、薬の薬効や副作用の検証、組み合わせによる効果の比較など、我流だが鑑定スキルのおかげで作業は進められた。


打撲擦過傷に効く薬、化膿防止剤、弱い鎮痛剤、解熱剤などはなんとか作ることができた。

前世の知識も、主に薬の完成形としてのイメージを得るのに少しだけ貢献した。


作った薬はあまり長持ちしないので、村のみんなに配ることが多い。

狩りや畑仕事をしていると、小さな怪我をすることは日常茶飯事なのだ。


あとは薬師に売って小銭を稼いだりもしている。

私の薬は我流で作っているにしては薬効が良いらしく、私の数少ない収入源の一つになっている。


「風邪薬、できれば抗生物質を作りたいところだけど……流石に無理かな。回復薬ができれば楽なんだけど……」


症状を抑える程度の薬ならば鑑定スキルの内容も合わせてやれば何とかなっても、治療薬となればその難易度は遥かに高い。

抗生物質なんてそもそも何から集めればよいのかすら見当がつかない。

前世で抗生物質を作るとかって漫画の話を読んだことを覚えているが、あれが現実にできるなら素直に尊敬する。


私は一応理系だったけど、あんなの本職農家の素人薬師もどきの私には到底不可能だよ!


回復薬は異世界特有のファンタジー的アイテムだ。

聞くところによると、飲めば体力を回復して傷も瞬時に癒やしてくれるらしい。


誰か原理を教えてプリーズ!


回復薬の材料となる植物に関しては見つけることが出来たが、それ単体で使用しても大して意味はなく、組み合わせても回復薬はできないどころか、組み合わせた薬の薬効がほんの僅かに上がるだけだ。


「流石にこれ以上の技術は本職に弟子入りするなりしないと厳しいよねぇ……はぁ」


少し落ち込みつつも、薬の備蓄づくりには余念がない。

2時間ほど作業をしてそろそろ家に戻るかと思った矢先、突然村中に鳴り響く鐘の音にビックリして座っていた椅子からずり落ちてしまった。


「痛ったぁ……、村の鐘……まさかこれって!」


年に1回は必ず両親と念押しをしていた村の決め事について思い出し、私は小屋の入り口に吊るしていたベルト――いくつかの小袋を吊るしており、中身をすぐに取り出せるようになっている――をひったくり、腰に巻き付けながら急いで母屋に駆け戻った。


お疲れ様でした。

楽しんでもらえたらなら幸いです。

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