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エピソード011 私、10歳になりました

5年の歳月などあっという間です。ルシアもそうですが、ミケもポチも(出番少ないですタマも)成長しています。野球漫画かよ、ってツッコミはなしで。


聖環の儀式から早5年。


10歳になった私は、あの頃よりも背は大きくなり、顔は愛らしく、スレンダーではあるがくびれが少し出来てより女性らしさを垣間見せる少女に成長していた。


村の人には王都の貴族にも負けないべっぴんさんだとよく褒められる。

ちょっと恥ずかしいけど、満更でもない。


あの頃は暇さえあれば冒険者ごっこをして毎日どろんこになって遊んでいた私達も、男供は大人の畑を借りの手伝いを、女供は家事や裁縫、染織をする時間が長くなった。


前世の日本とは違い、子供も立派な村の労働力なのだ。


そして私は、家事を立派にこなしつつ畑を耕すハイブリッド農民として村の人達に大事にされていた。


既に村長からは、小さいが村の畑の一部を任されていて、一国一城(?)の主として誰でも美味しく食べられる野菜を異世界にもたらすために日夜奮闘している。

この世界の野菜は、苦味が強くて子供には特に嫌われる食べ物なのだ。


日本の農家の先達に負けないよう、私の前世の知識と武具の能力、更に農耕神のアーシアの力を借りて土壌の改良を中心に様々な取り組みを研究している。


美味しい野菜は一日にしてならず、なのです!


もちろん、魔法の練習やスキルの確認は毎日欠かさず行っている。

年に数回は私の魔法の師匠であるソフィアが村に訪れ、私はその間仕事をお休みさせてもらい、課題を提出したり、講義を受けたりしている。

先日提出したレポートは『【農耕祭具殿】の武具スキルを応用した益虫の保護と土壌活性化の考察』だ。

読み書きもちゃんと勉強して、ソフィアに貰ったこの世界では貴重な紙を惜しげもなく使用した。

自信作で、ソフィアも喜々として読んでいた。

ご褒美として、今度高等技法である複合魔法についての講義をしてくれるそうだ。

早く来てくれないかなぁ。


顔なじみになったソフィアは村の住民にも受け入れられ、移住しないかと何度も誘われているらしい。

ちなみに、村の男達はソフィアに何度も求婚をし、そのたびに玉砕している。

ポチも一度、狩りの師匠である親父さんに唆され無事(?)玉砕したらしい。

バカポチめ。


ソフィアがいないときには、隠れて魔法の特訓だ。

村の近くを探検しているときに見つけた小さな洞穴を秘密の特訓場とし、魔法の特訓をするための環境を構築した。

私的には秘密にしているつもりだが、毎日行っているために村の住民には半ば公認となっており、たまに母が差し入れを持ってきたり、ミケ・ポチ・タマが遊び兼戦闘訓練に訪れたりしている。


……秘密っていう建前が大事なんだから!


ともかく、今日も今日とて日課の魔法の特訓をしていた。


「はぁ!【ストーン・バレット】」


私は前世では弱小なれども野球部のピッチャ―だった。

俗に言う女の子投げなんて私が許さない。

偉人の投球方法に憧れて、隠れて色々練習していた経験が異世界で生きるとは思わなかった。


右足を地面と水平に高く蹴り上げてから大きく踏み込み、左腕を勢いよく振り下ろす独特のオーバースロー。

まさかりを振り下ろす姿が幻視されることから、前世では『マサカリ投法』との異名をとっていた偉人の投球フォームを参考に、更に改良して投げる直前に石にジャイロ回転をかけることで私は球速と正確無比の制球力を手に入れた。


え?石でジャイロ回転は無理があるだろって?

ここは異世界だよ?

何年も投げ込みを続けていつの間にか覚えたスキルを研究して理想の弾道を手に入れたのですよ!


放たれた石は、魔法のアシストもあって時速200kmを超す速度で、お遊びで岩壁に描いたストライクゾーンの左下端ギリギリに着弾し、ギャリリィッ!と大きな音を出して盛大に抉った後粉々に砕け散った。


もうピッチャーとしてはメジャ―ですらノーヒットノーランできるんじゃないか、と少し自画自賛してみる。

いや、私この世界では野球部でもピッチャーでもないけどね。


1年前に師匠に成果を見せたときには、「それではもう魔法がおまけなのじゃ……」と呆れられたが、後悔はしてない。

それに仕方ないだろう。

ソフィアからは『バレット系』の魔法は、直接投げるよりもスリングショットや短弓と組み合わせて使用する方が良いと言われて試してみたけど、下手くそ過ぎて的に当てられないどころか何故か私では魔法が発動しなかったのだから。


そう言えば、その場に一緒にいたミケは「ルシアちゃん大胆ニャ///」とか言ってたけどどういう意味だったのだろう?

ポチはそっぽを向いて見てすらなかった。ポチのくせに生意気だ。


日課の石投げ……魔法の特訓を終え息をつくと、汗ばんだ額と首元を布でさっと拭う。

少しは色気も出てきただろうか。


私はステータス画面に目を向け、最近の成果を確認した。



=======================================

ルシア [一流の農民]

lv: 5

HP: 80/100 MP:50/250 AP: 1/3

STR: 070(-50) DEF: 006(+229)

MAT: 010 (-9) MND: 020(-19)

SPD: 015(-14) LUK: 008(-7)

[スキル]

・土いじりlv.3

・投擲 lv.2 New!!

・加護 (聖環・地)lv.2

・加護 (アーシア)lv.5

[魔法]

・【ストーン・バレット】lv.4

・【アース・プロテクト】lv.2

・【ジオ・グラビティ・バインド】lv.1

=======================================


【投擲】

・物を投げる際に軌道を安定させ、命中率を高める

・スキルレベルが上がると、命中率の補正が上がる



どうだろうか。


とりあえず、STR(筋力)の基礎ステータスの成長が著しい。

元々適性があった上にほぼ毎日畑仕事をしているのである意味仕方はない。

でも、魔法を毎日撃ってるのに成長しているのは主に肩の強さと投石技術だったようで、MAT(魔法攻撃力)はほとんど成長していなかったのは少し凹んだ。


スキルや魔法は使用する毎にどんどんスキルレベルが上がるらしく、万が一の保険のために最低限の魔力を残し、できる限り使用するように心がけている。


すると、なんということでしょう。

頼んでもないのにアーシアの加護のスキルレベルがどんどん上がり、マイナス補正値もガンガン増え、DEF(防御力)が更に高まったのに他のステータスに関しては、トータルでは以前とほとんど変わっていない。


私は少し恨めしげに、近くの岩にちょこんと座り足をブラブラさせているアーシアを見やった。


「んー?どうしたのルシアちゃん?お腹減ったー?」


アーシアは5年前から見た目が全く変わっていない。

ほとんど幼女だ。

昔はお姉さんと呼んでいたのに、今では並ぶと私のほうが姉な雰囲気だ。


残念な所が多く、頭を抱えるような事を起こすことも多々あるが、なんだかんだ長い付き合いにもなったし、私の守護神として共にいることを辞めないアーシアを私は結構好きだし、信頼している。


「……そうだね、アーシア。遅くなってもお母さんとお父さんが心配するだろうし、帰ろっか」


最近はルシアの母のクレアに忙しい理由があり、中々家事が回っていない。

そんな母の代わりに私は今やうちの家事の半分以上をこなしている。

そのぶん父は私の畑の仕事の負担を減らしてくれており、おかげでペースを落とすことなく毎日の訓練をなんとか続けることが出来ていた。


「ルシアちゃん、忘れ物しないようにちゃんと確認することだよ!」

「そうだね。アーシアも岩の上においてる薬草のことを忘れないでね。一応、それを取りに来るって言い訳でここに来てるんだから」

「あ、当たり前よ!忘れてなんてないよ!」


多分忘れかかっていたのだろう。

ルシアに指摘されたアーシアは薬草の束を掴み、光となってそのまま『聖環』の中に収まった。


最近気づいたことだが、『聖環』に直接的な貯蔵能力はないが、アーシアが持てる程度なら一緒に消えるとそのまま保持しておけるらしい。

アーシアにお願いすれば取り出しも可能だ。


私は指差呼称をしながら忘れ物や片付け忘れが無いのを確認した後、少し駆け足で家へと戻った。


お疲れ様でした。

楽しんでもらえたらなら幸いです。

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