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劣等種の建国録〜銃剣と歯車は、剣と魔法を打倒し得るか?〜  作者: 日本怪文書開発機構


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第一旅団戦闘団

「何故諸君らの武士は来んのだ? もう約束の時期は過ぎておるぞ!」


 9月25日。

 徴収着手時期とされていたその時に、イェンス家の武士(地上部隊)は約束の場所(インフェン平野北部)にも、帝都にも現れなかった。

 いつもは部下に協議を任せていた内務卿が、今度は直々に出てきて伯爵を叱りつけた。

 伯爵は分からなかった。何故、領内で突如武士は姿を消したのか?

 伝令翼竜を駐屯場所に飛ばしたが、もぬけの殻であった。


 魔法は、何かに加護を与え、何かを破壊することはできても、通信には適さない。そもそも「見えない」対象に魔法を使うことは出来ないからだ。

 それなら伝令翼竜を飛ばした方が、通信手段としてはずっと良い。


「目下調査中でありますから、どうかお待ち下さ――「もう待てん!」


 内務卿は、むしろ好都合だと考えた。

 結局、カタリナ氏の「資産」は管理財団を設けて、爵領庁と内務卿に参加兵力分の分配をすることと定められたから。

 管理財団内部での価値設定基準を弄って、適当なもの(劣等種)を爵領庁に押し付けて、我々(内務)はダムと、鉱業設備を徴収する。そして、帝国経済を救う。

 すぐには準備できない航空兵力を除けば、内務卿は将来の支払いを約束して周辺の武家から兵力を供出させ、或いは傭兵を雇ってそれらを集合させることができた。

 一方、爵領庁から遠く離れた伯爵部隊は、その手を打てない。


 この政治的打算により、部隊は行進を開始した。



****


「敵先遣と思わしい目標のR1南下を確認」

「射角387、方向右へ126、装薬黄5、小隊集中、観測射撃始め」


 国家市民軍第一旅団戦闘団(1BCT)は、落ち着き払って、それでいて飽くまで無慈悲であった。現出した臨機目標(一番槍)は、FO(前進観測班)から座標が上げられてそれがFDC(火力調整所)で計算され、適当な諸元が号令に込められて隷下の火力戦闘部隊(砲迫)に下命される。


「効果あり」

「諸元そのまま、瞬発10発、小隊効力射始め!」


 彼ら(1BCT)は、砲列の根拠位置を、弾薬集積と運搬に適する市街地外縁としつつ、部隊(歩兵連隊)を前進させて、かつ重量して配置することによって縦深を確保して遠距離逐次方式による敵兵力の減殺を図ることにした。


「目標、完全に沈黙」


 森の中からグロテスクな花火大会(火力発揮)を見つめているFO(前進観測班)が、無機質な声で戦果を報告する。

 その方式はメチャクチャで、かつ不正規な表現であったが、誰しもが理解することができた。


「新たな目標、一コCo(中隊)規模の軽騎人兵――KZ(キルゾーン)5に侵入」


 COP(第三騎兵中隊)に追いすがるようにしていた敵部隊を排除した後、更に新手が現れる。


「計画射撃発動、5号」


 戦闘予行の通り、サッと機関銃と砲とが適当な方向へ向けられて、地域を目標として火力が発揮される。

 旅団の骨幹火力である155ミリ両用りゅう弾砲は、砲兵大隊が1分間全力射撃した場合、およそ10トンもの弾薬を投射する。およそ現実離れしているように思われる数字であるが、今現在、5キロ先に向けて火力が発揮されているのは全くの現実であって、何の自然法則にも反していない。


 そんな破壊が吹き荒れる陣地前面に向け、中隊の機関銃陣地からは曳光弾がピュン、と飛び出し、飛翔して地面で跳ねた。まるで鋳型に溶湯を流し込む(注湯)ように、火花がパチパチと飛ぶ。

 その実態は音速程度の速さで金属片(弾頭)が無造作に飛び回るというメチャクチャなものであったが、兎も角、掩蓋化陣地から見る分にはキレイであった。


 それでも、騎人兵の機動力は凄まじい。なんとか鉄条網に縋る。

 狙いすら付けていない(三脚架に固定した)機関銃に撃たれ、或いは小銃に狙撃されてやっと、彼らは引き返そうと試みた。


 奴ら、逃げてるぞ! 機関銃手が興奮して叫ぶ。

 すると、わぁ。そんな歓声が上がる。ザマァ見ろ。そんな感じであった。


「敵航空騎兵1、方位040!」


 ふわり、そんな感じで空を旋回しつつ、ソレは12連隊(前方)陣地を超越し、そして13連隊と旅団戦闘団本部上空へとやってきた。

 上空から見た時、単に前方に進出して障害帯に向け破壊を振りまいていた12連隊陣地はよく掩蓋化、隠蔽化されており、『敵』の主戦力は砲列と再補給中の第三騎兵中隊であると、そのように誤解した結果であった。


 ギルベルト・ヨーゼフ・ルイザンは、イェンス家の翼竜騎士である。

 地上に蔓延る内務卿隷下部隊を見下しつつ、劣等種に告げてやる。


「聞け! 劣等種共!」


 その声は、精霊魔法によって増幅されてよく届いた。


「貴様ら叛徒は、今日! この時を以て灰燼と帰す!」


 若干芝居掛かっていたが、彼が本能的に(国家市民軍)を『叛徒』と、クソ大声で呼んだことは、後方に控える主力部隊を緊張させた。

 まさか、カタリナ以外にもエルフが居るのか? そんなことは無いのだが、国家市民軍の練度と能力は、敵をして無意識に「ああ、こいつら叛徒(有力な敵)だ」と言わしめるだけの説得力があったのだ。


「へっ、オタクの騎人兵はココの肥料になったが?」


 お調子者で有名な砲班長が、腹肉を揺らしながら叫んだ。


「それはコイツらが無能だからだ。まさかお前ら、私を倒せるとでも思っとるのか!? ワイバーンも無しに! ハハ! めでたい!」


 それは全て本音であった。

 実際、金に物言わせてかき集めた内務卿隷下部隊の士気はそこまで高くなかったし、魔法も使えなかったし、当時の国家市民軍に航空兵力は皆無であった。


 その間、旅団本部のFDC(火力調整所)では、目標の高度と方位を概算して射撃命令が下って、彼が本当に言い返したかった砲班長の元まで号令が下っており、砲班長は『なんか言ってるな』程度にしか、ルイザンの言葉を脳味噌に入れなかった。


 射角433、方向左へ22、時限青4、装薬黄10、中隊集中。


 国家市民軍は、よく訓練されていた。

 続いて「撃て」の号令が下ったとき、155ミリ両用砲は一斉に火を吹いて、次いで一斉にりゅう弾が炸裂した。


 情けない声と、更に失禁音まで、魔法は戦場の隅々まで轟かせた(・・・・)

 機関銃手が握把に顔を伏せ、ク、ㇰククと(鼻から)笑う。それは丁度、士気高揚のためと軍楽隊が企画してくれた新喜劇を初めて見たときの反応と一緒だった。

 運が悪いことに、ルイザンはその嘲笑を聞き取って理解してしまった。冷静を失う。


「貴゛様゛ら゛あ゛あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛」


 知り得る魔法を全て発動しながら、彼は砲列に向け突進した。

 手に余り、あぶれたエネルギーが後光として差した。

 あまりに威圧的なその光景に、兵士は恐怖したが、それでも尚、『馬鹿野郎テメェら戦え!』と喚き散らす先任(軍曹)の方が怖い。死ぬかもしれないが、生きるかもしれない。生きた後、怖いのはどっちか? 脳味噌は超高速でその処理をこなしたのだ。


 対空迅速射、急ぎ撃ち方。

 近接防護用の155ミリ散弾が、薬室に入れられて最大装薬で押し出される。

 砲列がズレる程の勢いで飛び出したソレは、魔法力学的に不安定なルイザンにまともに直撃し、更に「まっすぐ突っ込んで」いた彼には13連隊陣地から放たれた機関銃、小銃弾をも命中した。


 暫くして、段々と発砲音が少なくなり、ドサ、という音が鳴る。


 その日、戦場から浪漫が消えた。

 自然への飽くなき探求と、それを利用してやるという野心、そして、その地上に於いて人類が運用可能な、最も効率的(民主的)暴力組織(国家市民軍)が、戦場から浪漫を消したのである。



****



「旅団は現在まで2割の弾薬を射耗していますが、工廠からの出荷により月末には回復する見込みです」

「了解、人員は?」

「騎兵大隊は5名が戦死、11名が戦闘復帰不能。その他人員異常無し」


 第一旅団戦闘団(1BCT)本部は、街の隅に開設されていた。

 電話線と黒板の巣と化した本部の中央で、アンソン(旅団長)は旅団幕僚長からの報告を受けていた。

 人事幕僚(G1)が入浴と喫食とを調整しているといった非戦闘的事項は、戦闘開始前に報告済みであったから、飽くまで戦闘上の判断に集中できるよう、その内容は厳選されていたし、旅団長自らが判断に必要な情報のみを問い合わせていた。


「敵兵力の現状は?」

「尚集結中です。敵に与えた被害は現在集計中ですが、先ほど撃破した敵は威力偵察ないし先遣部隊と思われます」

「な、る、ほ、ど、……了解」


 敵の慣用戦法すら分からないまま、第一旅団戦闘団(1BCT)は戦闘を行っている。勿論、フランシア家(郵便局)の人間に問い合わせたが、「内務卿なんて聞いたことない」という話が帰ってきて、そして既知の『一般的』な作戦のみが補助資料に載った。

 つまるところ、敵に威力偵察という概念があるのかすら怪しいのだ。じゃあ、あるとして取り扱うしかない。航空攻撃の虞がある。


 そのとき、第十一歩兵連隊戦闘団(11iRCT)から一報があった。

 任務を完了して撤収中との内容だろうと思って、電信伝令からバインダーを受け取って視線を落とす。


――第十一歩兵連隊戦闘団は、難民を収容し現在位置(778高地)の離脱準備中。


 なんてことしやがるんだ。そんな命令は下してないぞ。

 そもそも、11iRCTにそんな資源(飯・医療・燃料)は無いはずだ。二行目を見る。


――我は、本行動が国家の名誉にかけ行われるものと確信する。


 三行目。


――旅団は、我に所要の兵站・整備支援を与えられたい。なお、警察部隊の派遣を要請する。


 旅団長は空を仰ぎ、次いで首相官邸へと繋がる電話を取り上げた。

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