第十一歩兵連隊戦闘団
防御に於ける火力発揮には、大別して遠距離逐次と近距離不意急襲の二種がある。
「目標、KZ1への侵入を確認」
「連隊統制射撃、射撃計画A号、指命」
「準備よし」
「発動!」
第十一歩兵連隊戦闘団は、持てる全ての迫撃砲火力と機関銃火力を集中し、近距離不意急襲方式により敵部隊への攻撃を開始した。
幕僚らは、現地に着いた後、まず1コ騎兵小隊を敵方に進出させて警戒させつつ、「敵が通る道」をテクテクと歩いた。
占領地域の近くには農村があって、メウタウが東西に貫通しており、そこに橋が掛かっている。少し騒がしくなるから近付かないように。そんなことを村民に告げる。
本来なら避難させるべきであるが、そんな能力は11iRCTに無い。
そして、占領すべき高地は、道まではみ出していて、R1を通過しようとすると斜面と反斜面を、思ったよりも長く、キツイそれを通過しなければならないことに気付いた。
ここで、方針が幾つか割れる。
高地のてっぺんを占領して、道の上に障害を設置し、それを横から撃つ。(O―1)
道の上、斜面上に陣地を築き、駆け上がる敵を妨害しながら減殺する。(O―2)
道沿いに陣地を築き、北上する敵をボコボコにする。(O―3)
そして、反斜面を活用して不意急襲的に襲撃する。(O―4)
第十一歩兵連隊戦闘団は、他の連隊より1コ多い4コ歩兵中隊を基幹とし、連隊固有のものとして重迫撃砲中隊、各中隊固有のものとして軽迫撃砲小隊の迫撃砲火力を持つ。つまり、連隊が統制して射撃を行った場合32門の砲列が一斉に火力を発揮するのだ。
機関銃は、各中隊固有のものとして重機関銃小隊が迫撃砲と同じく配備されているから、連隊で16丁。
当時採用されていた7ミリ距離単位小銃弾の弾頭重量は、1発辺り10重量単位であるから、全力射撃した場合、1丁辺り一分間に6キロ。これが16丁あるから、連隊で分間96キロ。
軽迫撃砲で主に使用されるりゅう弾が1発4キロ。同じように連隊で全力射撃した場合、分間1920キロ。
重迫撃砲も同じように計算すると、分間3840キロ。
小銃を除いても、第十一歩兵連隊戦闘団は、理論上1分間に5856キロ重量単位の金属片を敵にぶつけることができると試算されていた。これは当時運用されていた一型3トントラックの標準搭載量二両分に大体相当する。
第十一歩兵連隊長は、これに賭けることにした。
砲兵が居ない? 結構。ならウチの固有火器でやってやろうじゃ無いか。
射撃計画を作るために試射をしている間、河の対岸から村民が恐る恐るといった風に見物をしていた。
迫撃砲は、部隊火力の骨幹であり、地域目標に対する多量の砲弾の発揮によって、これを制圧又は撃破する。
あの日連隊長室で泡を吹いて倒れていた彼は、地獄を工面させることにしたのだ。
****
「あー」
ここまで苦労して運んできた砲弾が、景気よくぶっ放されて消費される。
兵站幕僚として、名伏しがたい感情が脳幹から出て体幹を流れ落ち、結果的に肺から空気が漏れて無意味な声を漏らした。幸いなことに、轟音のお陰で自分以外には聞こえていないだろう。
火力発揮のお陰で、行軍形態のまま障害帯とキルゾーンに突っ込んだ敵は、瞬く間にチリと化した。
後続の敵が慌てて間隔を広げ、或いは路外機動を試みて、同じく苦労して敷設した障害に引っかかって、続いて発動された射撃計画C号によって死んだ。
因みに、あと2分程全力射撃をした場合、迫撃砲の残弾数が相当危なくなる。
部隊は戦闘間、弾薬を努めて節用し、その浪費によって任務達成に影響を及ぼしてはならない。
オオッ! と無邪気に大喜びしている他幕僚は、自動車化輜重「中隊」が自動車化輜重「小隊」になっているという事実を認識しているのだろうか。奇跡的に部隊と武器を搬送し、そして当面必要な飯と弾薬を持ってきた後、75%は見事故障して超高級で死ぬほど不便なクソ重い馬車に成り果てていた。
「今晩は馬肉かしらね」
今日が22日。25日までここを占領しなければならない我々は、予備の飯を欠き、更に洗濯は難しいだろうと持ってくる予定だった服は、各人の背嚢に詰めれる分を除いては駐屯地に残置している。
水? ふざけているのか、そこから汲んで殺菌濾過して飲め。
現地調達のアテ? 「鹵獲に努める」としていた敵段列は今さっき粉微塵になった。
し尿処理? 考えたくもない!
腹が減っては戦は出来ぬ。
馬鹿野郎。そんなことは分かってんだ。
脳裏に浮上した一節に向け悪態をつく。教範の原則通りに運用できれば苦労はしないのだ。
「連隊長、そろそろ」
「連隊、A号発動やめ、爾後の射撃は中隊要求又は中隊長所定」
大変残念そうな顔をして、連隊長が命じ、通信手が電話に向け叫んだ途端、散発的な小銃射撃と機関銃の音以外はしなくなる。
『残敵と思わしい散兵』の報を受けて双眼鏡を覗くと、3中隊陣地の前面に異様な集団が居た。
「あれは?」
隣で水筒から水を呑んでいる情報幕僚を突っつき、双眼鏡を覗くよう促す。
それは元は白かったであろう、ボロボロで泥まみれになった長丈の服を着て、そして怯えつつも身長ほどの長さの杖を四方へと向けていた。
「えーと……魔法使いじゃねぇか?」
「はぁ!?」
****
「――……――――…………」
唖然とした。
行軍隊列の前方を行進していた騎人達の先頭が、丘を超えた瞬間。暴風が吹き荒れた。
咄嗟に防御魔法を張ったが、もみくちゃにされて、次いでベチャ。という感覚があったので目を開けると、ゴーロスの糞袋が異臭と血、そして脂を私の顔面に塗りつけていた。
多分ギャーとか、ワーとか、そんなことを叫んだように思うが、自分にすらそれは猛烈な耳鳴りで聞こえなかった。ただ、腹筋の緊張と、声帯を空気が通過して震わせる感覚だけがあった。
静かになったかな? と分かったのは、骨を震わせる爆轟が止んだからである。
取り敢えず身振り手振りで生き残りをかき集め、状況を把握すべく丘を登る。
直後、目の前に居たビエルデが突如ふつ、と倒れ、咳と共に血を吐いて死んだ。我々はガクガクと震えながら、それでいて初心魔法使いのように隊列を組み、歩調を揃えて防御魔法を四方八方に張って歩く。
ようやく耳が聞こえるようになってきて、言葉を交わす。
「何があった!?」
「わからん、わからん」
パン、パンという散発的な音が鳴る方向を見て、ようやくあっちの方向から攻撃されたのだということが理解できた。
奇跡的に息があった騎人達を、それらが始末していく。
「攻撃を――「よせ、今防御を緩めると死ぬぞ」
散発的に、否、連続的に一方向から金属片が飛来し、誰かが張った防御魔法が滑り、それを誰かがカバーする。この連携が崩れたら死ぬなという直感があった。魔力は、そろそろ無くなる。
「みんな、伏せろ!」
誰かが気を効かせて、爆発で転がってきた岩の影に伏せるように命ずる。
パパパパ! ピン! という連続した音が響くが、幸いにして岩はそれを遮っているようだ。ようやく、一息つける。
「何なんだよ、アレ」
「誰か何か知らないのか」
誰も知らなかった。
騎人達が病気にならないよう、そして荷車が壊れないよう、隊列最後方から加護魔法を掛けて帝都まで無事に隊列を送り届けるのが我々の仕事だったからだ。
戦い方なんて知らない。
直後、目と気道とを刺激する白煙に辺りが包まれ、暫くして聞き慣れた襲歩が聞こえた。
続いて、最早耳に馴染んだ破裂音が響き、喚声が響く。
騎人のよく通る声。後続の味方に違いない。風が吹き、煙が地面を這う。
恐る恐る岩から顔を出して辺りを見たわす。白銀に輝く騎人達がこちらに駆けているのが見え、そして――
****
「1中隊! 目標、前方の敵散兵! 統制射、用意、撃て!」
本来、逆襲及び側面迂回を阻止する任務を負った彼らは、『謎の敵散兵』の知識を持っていた。
魔法使い。
エルフは空を飛ぶ。だが、全員が全員飛べる訳じゃない。正しくは、空を飛ぶ奴はほんの一握りだ。
だが、殆どのエルフは魔法を使うことが出来る。だからこうして、地上兵力の一部として魔法使いが従軍していることがある。彼らはよく知っていた。
だが、魔法使いを雇おうとすると相当に金が掛かる。ならば、要らないという判断を当時のフランシア家はしたのだ。
「抜刀ぉ――!」
白リン弾が発する濃煙を貫き、銃を負って剣を掲げる騎兵の一群が迫り、直後首が刎ね跳ぶ。中隊長は、自らが障害帯に接近していることに気付いて、慌てて胴を持ち上げて停止した。坂を駆け下りてきたのだ。行き足がつきやすい。
魔法使いには弱点がある。
彼らは、白兵戦に於いて殆ど無力なのだ。
だから、魔法使いに対して攻撃するときは、飛び道具でゴリ押すよりも肉薄してボコボコにした方が良い。そうやって全員を蹂躙し、血祭りに挙げた後、彼らは轟音と丘上からのラッパ(本戦闘中意味:戻れ)を聞いた。
「嘘だろ」
聞かされていた重大E/Cのうちの一つを思い出す。
「我が弾薬を射耗した後、なお優勢な敵が接近する場合――
思わず呟いた後、部下に向け丘の上へ戻れと命ずる。
慌てて丘を登る1コ騎兵中隊の背景には、先程と殆ど同規模の行進梯隊が、今度は戦闘態勢で、それも襲歩を以て前進してくるのが見えた。
R5を北上する1コ大隊以上規模の重騎人兵梯隊あり。
CPで真っ先に悲鳴を上げたのは、兵站幕僚であった。




